五章 閃風のフローライト⑤
マイナスな感情ばかりが強く匂うせいで少しだけメンタルが削られそうになるが、そんな時に頼りになるのがグランツだった。
匂いの中に紛れるグランツの匂いだけが癒される。心を落ち着かせてくれる。そんな匂いに感謝をしていると、ユングフラウ家の使用人から飲み物を勧められた。
躊躇いながらもグラスを受け取り一口飲むと、それは果実酒でフルーティーな甘さにすぐに一杯分飲み干してしまった。
やがて宴は進み、メインであるダンスパーティーが始まった。
「お嬢様、一曲如何ですか?」
不意に声をかけられ肩がビクリと跳ねる。声がしたほうを振り返ると歳若い青年が立っていた。
「あ、あの……私は……」
しどろもどろになりながら断りの言葉を言おうか迷っていると、不意にグイと肩を抱き寄せられた。
「悪いがこの女性の先約は私でね」
そう言って男性を追い返した人物――グランツはそっと耳に囁いてきた。
「一人にさせてすまなかったね。あらかた情報は仕入れられたよ」
「そ、それなら良かったです」
あまりの距離の近さにドキドキと心臓が高鳴るのを感じながら、グランツの手を握る。
「せっかくだし踊ろうか? 私がリードするから安心しなさい」
そう言うとグランツは、あっという間に人集りの波の中へ私を連れ込んだ。
「ダンスの経験は?」
「すみません……ほとんど無いんです」
「なら丁度いい」
そういうとイヴにしか聞こえない声量で囁くようにダンスの流れを伝えていく。




