五章 閃風のフローライト③
オブシディアンの手によって執務室に連れてこられたイヴは、仕事で悩みがある様相のグランツと対面した。
執務で扱うメインの机の上には大量の書類。そして中央に設えられた長机にはこれまた大量の封筒が拡がっていた。
「イヴ、休んでいたところすまないね。少し相談があるんだ」
「グランツの相談ならいくらでも乗ります。どんなことですか?」
「その封筒の山の中から“本物”を炙り出して欲しいんだ」
「“本物”の封筒……ですか?」
初めは言っている意味がよく解らなかった。だが事情を伺ったところこういうことらしい。
「……表向きは舞踏会と偽って、秘密の夜会を行っている貴族がいると。そして非合法な品や薬を取り扱っている可能性が高いのですね」
「ああ。その封筒の中から何か判別できないか? 一枚一枚開いていくにしろ目星が立たなければ徒労に終わってしまう。キミにとっては嫌なことかもしれないが、匂いを辿ってみてくれないだろうか」
酷く申し訳なさそうな表情をするグランツ。
だが対象的にイヴは花のように微笑んで見せた。
「グランツ、お任せください。私、貴方のためならなんだって乗り越えられるんですよ?」
そう言うとイヴは長机に拡がる封筒を見下ろした。
気持ちを落ち着けて、スゥと香りを吸い込むと一度にいくつもの情報が脳裏に雪崩込んでくる。花の香り、香水、煙草の臭い、紙とインク、封蝋の香り――そして、見つけた。
「この封筒から、微かに薬臭さを感じます。香水でごまかしていますが、他とは明らかに違う匂いがします」
イヴが指し示した封筒を手に取るオブシディアン。
「これは――」
微かに瞳を見開いて、その封筒をグランツへと渡した。




