【間】おとどけものです2
なんだこれ。
荷物が届いた。
いつもの定期配達じゃない。
自分が頼んでいる運送会社と違う、大手が運んできたから、これは余所からのものだとわかった。
届けてくれた運び屋の兄ちゃん、おれがドアを開けたら硬直してたな。
初対面の人間は、大抵そうだ。
このごつくてでかい体格にぼさぼさの髪の毛。
そして顔を覆うもっさりとした髭。
住んでるところがところだし、熊かその親戚かと思われるみたいだ。
失礼な。
むかしはこれでも浮き名をながした…いや、いまはそんなことはどうでもいい。
おれは、目の前にでんと置かれた木箱をまえに腕を組んだ。
受け取った伝票の送り主はドード・リゲル。知らない名だ。
名前と筆跡から女と見当をつける。
開けてよいものか…
危険物とも限らない。
まあ、箱やその中身からおかしな気配は感じないが。
おれは魔法はつかえないがこのくらいなら『みる』ことができる。
例えば、ものに呪いがかかっているとか魔法が封じてあるとか。
上級の魔導師が巧妙に仕掛けた罠ならお手上げだが。
辞めてからもう9年も経つ。
いまさらおれに危害を加えたところでどうにかなるわけでもない。
おれは思いきって箱の封を剥がし、開けた。
「なんだこれ」
つい、声に出してしまう。
中身は予想通り危険物ではなかった。
だが。
年若い女物の服が詰め込まれている。
下着類まで!
ある意味、危険物でありいやがらせである。
あいにく、未成年の少女をどうにかする趣味はない。
下着には触れないように注意しながら、おれは衣類以外になにか入っていないか調べる。
「ん?」
箱と衣類の隙間に封筒が挟んであった。
茶色の味気ないどこにでもあるような事務封筒。
糊付けもされていないようで、この荷物を送りつけてきたドードという女は、よっぽどおおざっぱな性格のようだ。
中には2枚の紙が入っていた。
便箋と…公的な書類。
「!!」
役所から発行された、かなり古い出生証明書。
氏名の欄を見て、おれは言葉を失った。
“ノアザ・カリオン”―――
おれは、この名前を知っている。
忘れられるはずがない。
あいつが…あいつが死ぬまで気にかけていた幼い少女の名前。
10年前、あいつの兄夫婦が事故死したと知って。
あいつの夫であるおれにとっては義兄夫婦である。
おれたちは義兄夫婦の家を目指した。
だが、家のなかはもぬけの殻で。
幼子はおろか、家具や調度品もほとんど残っていなかった。
あいつは、それはもう必死で義兄夫婦の忘れ形見である姪を探した。
体調がおもわしくないからこっちに戻って静養するつもりだったのに。
喩えでもなんでもなく、あいつは、本当に死ぬまでノアザという娘を探し続けた。
両家の親戚どもに手当たり次第に会って行方をきいてまわった結果。
彼らも連絡がとれずにいる人間が一人いた。
義兄の妻の姉。その女はノアザを引き取ったあと行方をくらませた。
女の目当てはノアザの養育と引き換えに得られる保険金。
そこまではなんとか掴んだが、それ以降はなにもわからないままだった。
おれたちがこの国へ来て2年、義兄夫婦が死んでからだと3年が経ち、あいつはノアザと一度も会うことができずに死んでいった。
無念だったと思う。
それが、いまになって…
怒りで震える手で便箋を開けた。
そこには、
送り主のドード・リゲルはノアザ・カリオンの母親の姉であるということ。
同封した出生証明書は本物だということ。
ノアザが来月で義務教育を終え、ロースクールを卒業すること。
卒業後の引き取り手を探したがみつからなかったこと。
ノアザを引き取りたがっている夫婦がいたと親戚からきき、おれを探したこと。
以上のことが書かれていて。
もうあなたしか頼るところはないから、荷物をまとめて送ります。来月そちらに連れていくので待っていてください。
という文章で締めくくられていた。
おれは目が点になった。
なんだこいつ。
礼儀もなにもあったもんじゃない。
いきなり荷物送りつけてくるなぞ、非常識にもほどがある。
ふと、考える。
手紙に書かれていることが本当なら、この常識のない厚顔無恥の女にノアザは育てられたわけだ。
よし、会ってやろうじゃないか。
荷物を送り返すのは、それからでも遅くはない。
ノアザがどんな成長を遂げたのか、あいつのかわりに確かめてやる。
つたない文章でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。
ノアザと叔父の物語はまだ続く予定ですが、次からのお話は別タイトルで投稿したいと思っています。
そちらも覗いていただけると幸いです。




