術者候補の招集
各地への布告から二十日。
帝都に、素質者候補たちが集まり始めた。
最初に到着したのは、帝都近郊の農村から来た少年だった。十六歳。やせっぽちで、日に焼けた顔に不安が浮かんでいる。幼い頃から「畑の元気がない場所が分かる」と言っていたが、誰にも信じてもらえなかったという。父親には「馬鹿なことを言うな」と叱られ、村では変わり者扱いだった。荷物は布袋一つきり。着ている服は継ぎ接ぎだらけの麻袍で、旅の埃にまみれている。
次に、東部の漁村から来た中年の女。海辺の畑で塩害を感じ取る力があり、近隣では「魔女」と呼ばれていた。がっしりした体格で、目が鋭い。「魔女でも何でもいい。この力が何なのか知りたかった」と、低い声で言った。潮焼けした肌に皺が深く刻まれている。長旅の疲れを見せまいとするように、背筋を張って立っていた。
三人目は、西部の山村から来た老人。七十を超えているが、背筋が通っている。山の木が枯れる前に異変を察知する力がある。「わしが死ぬ前に、この力の正体を知りたい」と穏やかに笑った。杖をついてはいるが、歩みに乱れはない。山で鍛えた足腰は、若者にも引けを取らないだろう。
四人目、五人目、六人目——
日を追うごとに、帝都の客館に素質者たちが集まってきた。
二十日で集まったのは二十三名。年齢は最年少が十四歳、最年長が七十二歳。出身も職業もばらばらだ。農家、漁師、商人の娘、元僧侶、鍛冶屋の息子、織物職人、元兵士。
共通点は一つだけ。全員が「何か」を感じる力を持っているが、それが何なのか分からずにいたこと。そして多くが、その力のせいで周囲から疎まれた経験を持っていること。
「先生。すごいですね。こんなにいるんだ」
翠微が集まった人々を見渡して言った。客館の広間に入りきらないほどの人が、落ち着かない様子で座っている。
「二十三名。まだ足りないけれど——出だしとしては十分よ」
麗華は客館の広間に素質者たちを集めた。
不安と希望に揺れる顔が並んでいる。帝都に呼ばれた理由は聞いているが、「地養術」が何なのか、自分に何ができるのか、分からない者がほとんどだ。中には「騙されているのではないか」と警戒している目もある。元兵士の男は腕を組んだまま壁にもたれ、商人の娘は隣の席の女と小声で話し込んでいる。
麗華が広間の正面に立った。深紅の交領袍に、鳳家の紋章を織り込んだ腰帯。髪は銀の簪一本で纏めている。廃妃の質素さと、名門の品格が同居した姿だ。
「皆さん。遠方からお越しいただき、感謝します」
静まり返った広間に、麗華の声が通った。穏やかだが、よく通る声。後宮で鍛えた声の使い方だ。
「私は鳳麗華。鳳凰領の主であり、地養術の継承者です。皆さんをお呼びしたのは、この国を救うためです」
ざわめきが起きた。「国を救う」という言葉に、素質者たちの目が動く。
「皆さんはそれぞれ、『何か』を感じる力を持っています。畑の異変が分かる。木が枯れる前に気配を察する。海の塩を土の中で感じる。——その力は、霊脈を感じる力です」
素質者たちの目が、麗華に集中した。壁にもたれていた元兵士も、腕を組んだまま前のめりになっている。
「霊脈とは、大地の命の流れです。百年前にその流れが断たれ、この国の大半が荒地になりました。その荒地を蘇らせるために——皆さんの力が必要です」
広間が静まった。荒地化。この国の誰もが知っている問題だ。だが「自分に何かできる」と思った者は——これまでいなかった。
翠微が麗華の隣に立った。
「あたしは沈翠微です。三年前まで、鳳凰領のただの農家の娘でした」
翠微の声は素朴だが、はっきりしていた。帝都の宮廷ではなく、畑で鍛えた声だ。
「あたしも皆さんと同じで、畑の元気がない場所が分かる、ってだけでした。村では変わり者扱いでした。——でも先生に出会って、教わって——地養術を使えるようになりました」
素質者たちの間に、安堵の気配が広がった。名門の血筋ではなく、農家の娘が使えているという事実が、希望になっている。あの十六歳の農家の少年の目が、僅かに明るくなった。痩せた顔に、初めて安堵の色が浮かぶ。
「あたしにできたんです。皆さんにも、きっとできます」
翠微が前に立った。かつて自分と同じ目をした者たちの前に。不安と疑いと、そして「ここに来て良かった」と思いたい気持ちが混じった目の前に。
麗華はその姿を見て、胸が熱くなった。
(あの子が——ここに立っている)
三年前、「土がお腹すかせてます」と言った農家の小娘が、今、地養術の指導者として素質者たちの前に立っている。あの頃の翠微は、自分の力に怯えていた。今は——その力を誇りに変え、他者に伝えようとしている。
麗華は全体の方針を示した。
「まず基礎を教えます。霊脈の感じ方、力の流し方、土との対話の仕方。焦らず、一つずつ。——あなたたちは一人ではありません。ここにいる全員が、同じ力を持つ仲間です」
広間にいた二十三名の目が、少しだけ明るくなった。「仲間」という言葉に、何人かが頷いた。今まで「変わり者」と呼ばれてきた人々が——初めて「同じ力の持ち主」に出会ったのだ。
帝都の一角で——地養術の公開伝承が、静かに始まろうとしていた。
翠微が後で麗華に耳打ちした。
「先生。この人たち、きっと腹ペコです。長旅でしたから」
「……そうね」
「先生の腕の見せどころです」
麗華は微笑んだ。
「では——歓迎の食事を準備しましょう。鳳凰領の味で」
厨房に向かいながら、麗華は考えた。
鳳凰領から持ってきた米はまだ十分にある。鶏と冬菜は帝都の市場で買い足した。長旅の疲れを癒すなら、消化の良い粥が一番だ。白粥に薬味を添え、副菜に青菜の煮浸しと干し海老の卵焼きを付ける。二十三人分——手間はかかるが、食卓から始めるのが麗華のやり方だ。
厨房の竈に火を入れる。米を研ぎ、大鍋に水と共に入れて火にかけた。粥は弱火でじっくり炊くのが肝だ。焦らず、丁寧に。米粒が柔らかく崩れ、とろりとした白い液体に変わるまで。その間に青菜を茹で、卵を溶き、干し海老を炒める。厨房に食材の匂いが広がっていく。鶏の出汁の温かい香り、青菜の青い匂い、干し海老の香ばしさ。
(食卓から始める。いつだって、そうだ)
初めて会った人々を繋ぐのは、言葉よりも——食だ。




