13. スカルピン盗賊団
スカルピン盗賊団のアジトがある中州は川のちょうど中央に位置していた。
川幅は七十メートル程度。中州の大きさが横幅二十から三十メートル、縦幅が百メートル程度なので、川に浮かぶ小島のような外観だった。
岸から中州を監視している騎士団の報告によれば、盗賊団は中州を一周するように等間隔に見張りを置いているようだ。
これでは船で接近してもすぐに見つかってしまう。
上流から小型船で一気に中州まで行く方法もあるが、盗賊団も上流を中心に監視しているはずだ。
早い段階で気がつかれてしまう可能性が高い。
そこでエトウは川を泳いで中州に向かうことにした。
この川にはブラックタートルという小型の魔物が多く生息し、魚でも人でもとにかく食らいつく。あごの力が強く、人の皮膚などかみちぎってしまう。
ただ、夜は岸に上がる習性があることから、その時間帯であれば川に入るのは問題ないと判断した。
夜半過ぎ、長く伸びた中州の胴体部分に七つの浮き袋が漂着した。撥水性の高いポイズンフロッグの皮で製作した特注品である。
浮き袋には細いひもが結ばれており、それを握っていれば川に潜ったまま浮いていられるのだ。
浮き袋もひもも夜の暗闇にまぎれるように黒で塗られている。
エトウたちの衣服も黒で統一した。
全員にサイレントがかけられており、体からは一切の音がしなかった。
一人先んじて岸に上がったのは、ギルド調査員のニーである。
ヘイストで底上げされた俊足を飛ばして、一番近くにいた見張りを当て身で気絶させた。
するとナルも川から飛び出して反対側に走っていく。ナルは気絶させた見張りを担いですぐにもどってきた。
その頃には、エトウ、アモー、コハク、ソラノ、それからククリナイフの二刀流を使うラトナが岸に上がっていた。
今回は夜の暗闇の中、サイレントで音を消しながら敵を倒していかなければならない。
そのため、一緒に戦ったことがない者では同士討ちになる可能性が高かった。
光を発する魔道具を体のどこかに身に着けて目印にすることも考えたが、川の中州に発光物があれば目立つ。
そこで騎士団から応援を呼ぶことをあきらめ、コハクやソラノと一緒に戦闘訓練を行っているラトナを誘ったのだ。
事情を聞いたラトナはすぐに了承してくれた。
スカルピン盗賊団は三十から五十人の規模で、使う船は小回りのきく小型船のみだという。
その人数から考えると、船は予備も合わせて二十艘ぐらいはありそうだった。
エトウとアモーは船本体かオールを破壊する役割となった。エトウがサイレントをかけて、怪力を誇るアモーが船の破壊を担当すれば効率的だ。
そのためにアモーはいつもの大剣ではなくて、中型のバトルハンマーを持ってきている。
ナルとニーを先頭にして、エトウとアモーは下流の方へ向かった。
コハク、ソラノ、ラトナはその反対に上流側へ向かい、中州を一周するようにして見張りを排除していく。
エトウたちが船溜まりを見つけてから二十分後、アモーが十五艘目の小型船を破壊したところで、中州の中央付近から叫び声があがった。
見張りはすでに九人がエトウの雷魔法で気絶している。
先程までエトウたちと一緒に行動していたナルとニーは、中州の外周を回って今頃はコハクたちと合流している頃合いだ。
エトウは自分とアモーのサイレントを解除した。
「アモー、どうやらあちらは見つかったみたいだぞ」
「そうだな。船はこれで全部だろうか」
「木が生えている中州の中央に隠してるかもしれない。もしそうなら、船を出すのはどこになるかな。最短距離ならば中州の胴体部分だな。最速を目指すなら、下流側のこの辺りだろう。と言ってるそばから、来たようだ」
前方の藪が揺れたと思ったら、小型船を肩に担いだ男たちがエトウの方へ向かってきた。
離れた場所からエンチャント・サンダーソードで気絶させると、すぐさまアモーはバトルハンマーで船の底を打ち抜いた。
「全部で五人か。あれ、この男、もしかして……」
エトウは懐から人相書きを出すと、先頭で倒れている男の顔と見比べた。
「アモー、この男がスカルピン盗賊団のボスじゃないか?」
「よく似ているな。起こしてみるか?」
「そうだな。まずは全員縛り上げてしまおう」
☆☆☆
エトウとナルの前には、四十人を超える男たちが手足を縛られて転がっていた。こちらをにらみつけている者や、悪態をついている者もいる。
人相書きでボスに似ているとエトウが思った人物は、いまだに気絶したままだ。
残りの奇襲メンバーは、中州内を見回って盗賊の残党を探している。
「お前ら、俺たちをスカルピン盗賊団だと知ってるのか! こんなことして、ただで済むと思うなよ!」
その男は両手足を後ろで縛られて、腹ばいに地面に転がっていた。その顔を必死にこちらへ向けてすごんでいる。
「知ってますよ。知らずにこんなことするはずがないでしょ? 俺たちは騎士団と冒険者ギルドの依頼でここにいます。あなた方はこれから裁きを受けることになるでしょう」
エトウがそう言うと、男たちが怒鳴り始めた。
「ふざけるな! てめぇらなんざ、すぐにでもぶっ殺してやる!」
「無理だと思いますよ。その状態では」
「てめぇのツラは覚えたからな。寿命で死ねると思うなよ」
「俺よりもあなたの方が先に死にそうですね。皆さん、一つだけ聞いてください。前領主代理が起こした誘拐事件、知ってますよね? 蛇の道は蛇といいます。皆さんのところにも、自然と情報は入ってきたのではありませんか? 誘拐事件の首謀者は、貴族も、平民も、スラム街の貧民も、全員が死刑になりました。広場での公開処刑です。処刑人が大鉈で首を切り落としましたよ。俺は現場で見ていたのでね。ほんの数ヶ月前までは金も権力も持っていた者たちが、泣き叫んで助けを求める姿を覚えています」
エトウは男たちを見回した。先程まで怒鳴り散らしていた者もおとなしくなっていた。
彼らのような罪人は、処刑の話に身につまされる部分があるのだろうか。
「あなたたちスカルピン盗賊団が襲った者たちの中に、奴隷商人の商隊があったんです。そして、そのうちの四人の奴隷は、前領主代理が誘拐した女性でした。俺が言ってること分かりますか? このままでは、あなたたち全員死刑ですよ。それが嫌ならば、女性たちの行方について知っていることを話してください」
エトウの言葉を聞いた男たちは、互いに目を見合わせてどうするべきか決めあぐねているようだった。
「お、俺、その女たちのこと知ってるかもしれねぇ」
やせ細った男が言った。
「スカジ! てめぇだけ生き残ろうとするな! 旦那、聞くなら俺に聞いてくれ。なんでも答えてやる」
「おいこら! なに勝手に話進めてんだ。てめぇら下っ端に、さらってきた女たちのことなんざ分かるか! その女たちの特徴を言え。俺が答えてやる」
「いや、俺が――――」
「やかましい!」
雷が落ちたような野太いダミ声だった。
エトウが声の主を探すと、人相書きによく似た男が目を覚ましてこちらを見ていた。




