門番小屋ふたたび
年度代わりのごたごたで更新がおくれ申し訳ありませんでした。
光の奔流が天へとはしる少し前、門番小屋では、太郎がモスバから、ウィンディアの歴史について、説明をうけていた。
『なるほど、そのユーブリックさんも赤ん坊の時にこの世界に流された流れ人だったから、この国は流れ人に親切なんですね』
ウィンディア史の概略を聞いた太郎はゆっくりと頷く。歴史が好きなので、落ち着いたらゆっくり史書でも読んでみたい。
『あぁ、そうだ。しかも、流れ人は、強力な力をもっているのが普通だからな。なるべく厚遇して味方につけたいのさ。むしろタロウみたいに、地味な能力は珍しいぐらいだ』
モスバは説明を続ける。
『流れ人〜♪チートで無双でハーレム〜♪』
ピノは妙な節をつけて歌いまだ踊っていた。
『神の眼とアイテムボックス、二つもあるのに地味なんですか?まぁ地味なほうが安心ですけど』
タロウは自分の能力についてたずねる。
『神の眼っていうのは、真贋を見抜いたり、罠や隠し扉を見つけ、価値や能力も見抜くことができる便利な能力だ。スキルでいえば、高レベルの鑑定、看破、観察、分析が一緒になったのと同じだな。長い修行がいらないのはすごいが、同じことができる人は存在している。流れ人以外にもギフトとして持っているやつもいないわけじゃない。眼に力をこめるイメージでこの魔道具を見てみな』
マクバは先ほどを太郎しらべた水晶玉がのった箱を指差した。
太郎が眼をこらすような感じで魔道具みると、視界に吹き出しがポップアップするように文字が表示される。
「ステータスチェッカー 並 作製者 パナソ工房 量産品 ステータスを調べ表示する。スキルは調べられない。高度な隠蔽は看破できない」
『確かに便利ですね。とはいえ並で量産品にどのぐらいの価値があるのかまったくわかりませんが』
とりあえず、異世界で生活していくには役に立つと思い太郎は板前風の管理者に感謝した。
『値段は時々でかわるからな。なれてきたらおよその価値が解るようになるだろうさ。次はアイテムボックスだな。これは空間魔法にも同じ能力のものがあって、消費する魔力によっていれることのできる量や大きさがきまる。財布や鞄に付与された魔道具もけっこう出回っているよ。ギフト以外のアイテムボックスは維持にも魔力を要するので、今は使う奴はほとんどいない。こちらも神の眼と同じくまれだが流れ人以外ももってる奴がいる。ギフトのアイテムボックスは、自身の魔力によって容量がきまるといわれている。アイテムボックスには、生物はいれられない。入れたものは入れた時のまま保管されて重さを感じることがない。とりあえず目の前に見えない鞄があると思いながら、開けって念じてみな』
マクバにいわれるままに念じてみると、目の前に鞄サイズの黒い穴と吹き出しが表れた。
『その穴に入る大きさのものなら、入れられる。穴の横にあるのが、中身を示すリストで、使用者にしか見えない。その穴に放り込めば使用者以外も物を入れることができるが、出すことは使用者にしかできない。穴の広さからして、鞄サイズ以上みたいだな。魔力Dだから、もしかしたら小部屋ぐらいまでいけるのかもな。俺も鞄を借りて使った事があるが、すげぇ便利だったよ』
神の眼とアイテムボックスがあれば行商人として生きていけそうだな、マクバの説明をうけながら太郎は思った。もっともこの戦争を生き延びれたらの話しだな。まぁ焼け野原の東京でもなんとかなったのだから、ギフトがあるぶん楽なのかもしれない。
太郎がこの世界での生き方を考えているとき、鋭い半鐘の音が響いた。
『帝国軍、渡河を開始!門番は門を封鎖せよ!』
マクバは弾かれたように立ち上がり、棚から八面体の黒い結晶を取り小屋から駆け出した。
太郎は思わず結晶に神の眼を使う。
「魔結晶・黒 最高品質 作製者 フォド工房 限定生産品 魔力を結晶化したもの。品質が高く魔力が多いほど色が濃くなる」
なるほど、魔道具を使う電池みたいなものか。納得しながら、太郎はマクバを追いかけた。
『不滅の城壁起動!門の封鎖せよ!』
マクバは門のよこにある窪みに魔結晶を嵌め込み、不滅の城壁を起動させた。
門が城壁に飲み込まれるように消える。
『矢だ!!気を付けろ!』
太郎が城壁に神の眼を使おうと思った時、見張りの声が響いた。見上げるとおびただしい数の矢がまさに降り注ごうとしていた。
門がなくなると小屋までは身を隠す場所はない。このままでは二人とも全身に矢を浴びることになる。
『アイテムボックス、オープン!最大!』
太郎は咄嗟に飛来する矢に向けてアイテムボックスを開いた。
太郎とマクバを針ネズミのようにするはずだった無数の矢がアイテムボックスの穴に飲み込まれて消え、鉄の矢58本がアイテムボックスに収納された。
『助かったぜ、アイテムボックスの斬新な使い方だな。しかもでかいな。さすが流れ人だぜ』
矢が止んだ隙に小屋に駆け込んだマクバは太郎の肩を叩きながら礼をいった。
『他の人もいれることができると聞いたので、とっさにやってみましたが、上手くいってよかった』
この矢を売ることができれば稼ぎになるな。アイテムボックスを盾替わりにする方法は前世にラノベをよんでいる時に思い付いたものだ。アイテムボックスの容量が持つ間は飛び道具に対する有効な防御になるだろう。『しかし、不味いな、飛び道具を防ぐために「天蓋」って魔道具があるんだが、魔力不足なのか起動してないみたいだ。そのうち連中、火矢や岩を放り込んでくるぞ』
マクバが困った顔をして城壁の上を見上げたとき、恐ろしい雄叫びが城の方から聞こえてきた。
慌てて扉から首をのばし城の方を見ると、金色の巨大なドラゴンが悠然と旋回していた。
お読みいただきありがとうございました。次回も日曜日に投稿予定です。