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回想:真実のアリシア - 聖炎 -

前回から続き回想回です。

またかと思うかもしれませんが読んで頂けれは幸いです。飛びますよ?

※矛盾点発生に伴い『聖女と勇者、それぞれの戦い、魔王は空気』を一部変更しました。

あの日から私の身体は私のものではなくなった。


聖なる儀式の場に立つ私。帝国伯爵家三女の矜持を胸に、

アルフォンス様と共に未来を築く誓いを新たにしていた矢先——


召喚された勇者カズマの下卑な微笑みがすべてを壊した。


アルフォンス様の左腕を切り落とし、

魅了で洗脳した私にその左腕と左目を焼かせた。


そしてアルフォンス様はクズに媚びへつらう貴族たちに、

帝都から出奔しなければならない程に追い詰められた。


帝国の若き英雄として期待されたアルフォンス様を追放し、

クズは召喚勇者として帝国で唯一……いや世界の国々においても

救いの英雄と期待される英雄として持て囃されるようになっていった。


私を魅了の能力で操りアルフォンス様から奪った救いの英雄様は、

アルフォンス様の身体も尊厳もズタズタにした後はしおらしく振舞っていた。


だが、生来の性格なのだろう。


アルフォンス様と違い無私の精神など持たないクズは、

裕福な領地貴族の依頼や褒賞の良いギルドの依頼を優先して行い無辜の民は無視。

依頼で魔王軍を退けては領地貴族やギルドに恩を着せ自尊心を満たしていった。


それでも格段に強くなるのだから異世界勇者の能力はふざけている。


---


アルフォンス様が事実上、帝国から追放された。

その報せは私の心をさらに砕く。帝国の英雄であり、私の全てだったお方が……

なぜあのような理不尽な目に遭わなければならないのか。


そして深山へ消えたという噂……あの方の最期を想像するだけで胸が張り裂けそうだ。

生きる意味を失い、孤独のうちに命を絶つことを選んだのだろう。

私のせいで……私の愚かさがあの方をそこまで追い詰めたのだ。


さらに……エリック副団長が見つけた変わり果てた姿というのは……

考えたくもない。きっと凄惨なものだったに違いない。


それを誰にも知られずに秘密裏に帝国へ……

アルフォンス様は国賊とされながらも最後の情けとして祖国へ還されたのだろうか。


全てを知ったクズが興味無さそうに雑談で漏らした、その知らせを聞いた私は――


クズの前で魅了に染まった私の身体は、残酷な言葉を吐いている。


「あははっ! あんな落ち目の男なんてどうでもいいですわっ!

 身分不相応にカズマ様に挑んだからこうなったんですよっ! 愚かですねー!」


嘲笑しながら媚びへつらい、腰に回したクズの腕に頬を擦り寄せる。


(やめろ……やめろっ……! なんで私が……アルフォンス様を……!)


内心で泣き叫んでいるのに、身体は言うことを聞かない。

クズは私を引き寄せ唇を重ねてくる。穢らわしい……!


この汚れた身体を今すぐ灰にしてしまいたい。

腕だけじゃない……目も、鼻も、髪も……全て燃やして無に返してしまえば……!


(アルフォンス様……アルフォンス様っ……!

 あなたは私の全てだったのに……

 私はもうあなたを裏切る以外の何もできない……!)


クズが私の服を脱がそうと手を伸ばしてくる。


反射的に抵抗したかったのに、

身体は操られてクズの欲望を受け入れようとしている。


「やだぁ……もっと優しくしてくださいませぇ……♡」

甘い声で懇願する自分の声が耳障りだ。


(殺してしまいたい……この身体を……自分の手で……!)


でもできない。なぜなら私は……

アルフォンス様を裏切った時点で死んでいるから。


本当の私はあの時、一緒に焼けてしまった。

残っているのは、クズに操られた抜け殻だけ。


(なら……せめて……)


この世界ごと……アルフォンス様を傷つけた全てを……灰にしてしまえばいい。


帝国も皇帝も貴族たちも……カズマも私自身も……全部まとめて……!


アルフォンス様が守ろうとしたこの国を滅ぼすことは許されないかもしれない。

でも私は止まれない……この腐った国を終わらせて、何もかも灰になれば……


私の身体も魂も全て燃えて灰になれば――私のアルフォンス様の魂は解放される。


私に残されたのは……もうその道しかないんだ。


(だから……待っていてください……アルフォンス様)


(いずれ私の炎であなたの仇を討ち……全てを……灰にしましょう)


(それが……あなたを裏切った私の……最後の償いです……)


生ゴミの身体がクズの腕の中で嬌声を上げる中、私の魂だけが静かに燃え盛っていた。


---


私の心の奥底で……炎が燃えている。


あの日から十年――クズの愛玩人形として息をしている。


アルフォンス様の仇であるカズマにも貴族にも皇帝にも国にも……

私のこの醜い身体にも魂にも人誅を下せず、ただ遠くで見て寂しく微笑んでいる。


なんのために?


カズマに情が湧いたからではない。当然だ。

今も夜伽の最中に身体が自由になるなら、私はカズマの喉笛を噛み切るだろう。


ではなぜ……私は寂しいのか?


十年前のあの日……

アルフォンス様が私の手で焼かれていったあの日から……

私の魂はこの身体と切り離されてしまった。


でも私は今もここにいる。


魅了の鎖に繋がれ、意思とは裏腹にカズマに媚びへつらい……

彼が憎くて憎くて仕方ないのに……この身体は私のものではないのだ。

だからこそ……アルフォンス様への後悔と懺悔で胸が張り裂けそうだ。


私は二十七歳になった。


そしてクズは今や帝国中……いや世界中の最後の希望として縋られている。


昔は魅了の奴隷を私ともう一人しか作らなかったクズは、

その自尊心を最高に満たされ、私以外の若い愛玩人形を多く魅了で作りはじめた。


だから、魅了に染まったこの身体は年齢による衰えを理由に夜伽の数が減った。

それをよりにもよって私の身体は悲しみ……クズに向かって微笑んでいる。


なら私を自由にしてくれればいいのに……私はまだ自由にしてもらえない。

カズマは私を若い娘の夜伽に呼び寄せ……私を「オバサン」と蔑んで悦に浸るのだ。


クズも二十七歳のくせに……


アルフォンス様の仇も討てず……十年も魂の牢獄たる、

この肉塊の身体に閉じ込められ、カズマに良いように使われ続けている。


ああ……早く全てを燃やしたい。燃やしたい。燃やしたい。


このクズも……帝国も……皇帝も……貴族も……全てを焼き尽くして……


何もかもを灰にしたい。


そして……アルフォンス様の魂に捧ぐのだ。それが――


彼を裏切った私の最後の償いなのだ。


---


クズが今や帝国中……いや世界中の最後の希望となった理由。


簡単だ。この10年で帝国のみならず世界の国が魔王軍に侵攻されている。


しかも過去の魔王は領地を広げるのが主たる目的で進行していたが、

今代の魔王は各国を辺境から取り囲むようにして民を皆殺しにして中央へ進んでいる。


10年で多くの人間が殺された。魔王軍に対抗できるのはクズのみ。

だから帝国から世界から持て囁される。

クズを見下していた皇帝すら今はクズを持て囁している。


アルフォンス様を見殺しにしたゴミ皇帝。

所詮は乱世では使えないボンボンだったということらしい。


だが、持て囁されているクズだが、頑なに安全圏で戦い続けている。

この10年で魔王軍の幹部はいくつか墜としたが、

四天王とは戦わず逃げて、一角も墜としていない。


四天王側も理由があるのかクズを追い込んでこないが、

こんなヤツが世界を救えるわけないのだ。


やはりアルフォンス様と他とでは器が違い過ぎるのだ。


この十年で世界は変わり果てた。


魔王軍の侵略が加速し、かつての平和な日常は幻と消えた。


村が焼き払われ、町が蹂躙され、国が滅びていく。


世界中の民衆は希望を失い、ただ怯えながら日々を過ごしている。


それでも人は縋ってしまうのだ。どんなに弱くても……


召喚勇者カズマ――このクズに。


十年前には召喚の儀式で私を洗脳し、アルフォンス様を陥れた。

アルフォンス様の左腕を焼き切り、左目を焼き潰し……

帝国から追放されたアルフォンス様は、やがて消息を断ち亡くなったという。


そのクズが今や世界の最後の希望だという。滑稽にも程がある。


民衆は知らない。召喚勇者がどれほど自己中心的で残忍かを。


自分が傷つくのが嫌だから前線に出ない。それでも魔王軍を何体か倒している。


だから人々は騙されてしまうのだ。「あれほど強いのだから……」


クズは名声を得て満足そうに笑う。自分の実力でも正義感でもない。

ただの幸運と魅了という卑劣なチカラで手に入れた名声に酔い痴れている。


あぁ……こんな男に世界の希望を託すなど……


私なら全人類を魔王より先に滅ぼしてしまうだろう。


---


帝国から、世界の国々から頼られる最後の希望―――

その希望のクズがいつまでも魔王や魔王軍最高幹部から逃げられるわけがない。


なぜなら世界中の人々が確実に減っているのだから。


そして……今までクズが相手をする時は慎重に相対し、

クズが逃げても見逃してきた魔王軍四天王たち全てが……


ついにクズを名指しで戦場に呼びつけたのだ。


もはや後が無い帝国も世界も、クズの言い訳など聞いてはくれない。

クズは……この世の絶望そのもののような顔をしている。


ふざけるな。絶望を感じているのは貴様ではない。貴様などではないのだ。

絶望の淵に突き落とされたのは……アルフォンス様だ。


貴様のような臆病者が……今さら何を恐れる必要がある?

今まで散々逃げ続けてきたではないか。


クズはもはや死人のような顔で……

四天王が待ち受けるという絶望的な戦場へ向かう準備を始めている。


昔なら私は常にクズのとなりに侍らされていたのに、

今は若い娘を多く引き連れてパーティーを組み……真っ暗な顔で出発していく。


願わくば、これが人生最後の乱交パーティーとなればいい。

貴様が最も得意とする遊びで、そのまま灰になってしまえばいいのだ。


そして私の身体は……

相変わらずクズに冷たくされたことを寂しがり、さめざめと涙を流している。


もはや魔導師としての矜持など微塵も感じられない。

10年経った今も取り返せない身体。だが魔力を取り返せた。

この身体が使わないからだ。


あれから十年――私はひたすら魔力を研ぎ澄ませてきた。


最初は無意識だった。この身体が魔導の道を放棄し、

ただ愛欲に溺れる肉人形と成り果て……自然と魔力は私の中に留まった。


だから私は10年……身体の奥底で魔力の糸を編んでいた。


アルフォンス様を想い、彼を虐げたこの世界を想い……

憎しみと後悔と償いの念を込めて……極限まで純度を高めてきたのだ。


今なら分かる。私が本来持っていた以上の魔力が……この奥底にある。


---


最初は戸惑い。次に歓喜。そして憎悪。最後に歓喜。


27歳になった今も、この生ゴミと成り果てた身体を

取り返せないのではと不安に苛まれた。


十年間――毎日、毎刻、その不安を振り払い続けた。


だが……今。私はついにこの忌まわしい身体を取り返した。


最初は戸惑った。帝都宮廷で留守番を命じられ、

魅了に染まった私がクズの勝利を祈り続け……


突然、この裏切者の身体が停止した。


私の身体越しに覗くしかなかった視界が極彩色に染まるように開けた。

無論、その極彩色は――赤く染まった極彩色だ。


クズが……死んだ!


四天王全て、四体の最高幹部たちに殺されたのだ!

だから身体が自由になった。


歓喜が全身を貫く。

奴が死んだ……アルフォンス様の仇が死んだ……!

しかし、すぐに憎悪にとって代わる。


私がヤツを地獄に送れなかった……!


私が奴を殺し、私を殺し、

アルフォンス様に捧げなければならなかったのに……!


だが……再び私の感情は歓喜に染まる。


今こそ……溜め続けた魔力の全てを解き放つ時だ。


この場所で。帝都宮廷で。貴族も皇帝も宰相も騎士も魔導士も治癒師も侍従も……

全て全て燃やし尽くす。灰にする。


そして……私のこの生ゴミの身体も償却して灰に。

魂さえも灰にして――アルフォンス様に捧げるのだ。


どうせ世界は魔王に皆殺しにされる。


おそらくクズは今代の魔王を倒す勇者では無かったのだ。

そう。あの魔王を倒せる勇者は――アルフォンス様しかいない。


アルフォンス様こそが勇者に相応しい。


アルフォンス様を裏切り殺したこの世界が滅ぶのは必然なのだ。


私は宮廷の大広間で静かに魔力を解き放つ。


私の得意な魔法だった『豪炎』……

だが今はかつてのそれとは比較にならない。


そうだ……この魔法は『聖炎』。


聖なるアルフォンス様に捧ぐ炎。多くの魂を送る――大きな火葬の炎だ。


私の魔力は臨界を越え……それでもなお膨れ上がっていく。


そして……その時が来た。


叙事詩に謳われる神の炎――アグネヤストラの如く、


私から放たれた灼炎が宮廷へ……帝都へ……超速度で広がっていく。


まるで死神の吐息が360度に――音速を超えて広がるように。


衝撃波が宮廷を吹き飛ばし、帝都の建物をなぎ倒す。


直後、全てが超高熱で燃やし尽くされる。

帝都とともに全ての人々が……そして私自身も。


世界を燃やし尽くすほどの炎は生み出せなかった。

でも――アルフォンス様を裏切ったこの帝都は滅ぼした。


これで……私も燃え尽きて灰になれる。


そして――灰になったはずの私の前に……白い世界が広がっていた。


色々な反応が予測されますが・・・コメント待ってます!


ep44話に燃え尽きた灰から蘇るものイメージイラスト集UPしてます。

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― 新着の感想 ―
カクヨムと先に気がついた方で続きを読んでいます。 魅了された2人に最後は救いがあればいいなと。
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