召喚勇者カズマ VS 魔王ガルグリム ※ちょいグロ注意
魔王ガルグリム――真の魔王にして魔の創造神――
かの存在が発した言葉の持つ意味は——
「……っ……」
誰一人として理解できていなかった。
皇帝も和馬もアリシアもミリアも——この場の全員が、
それはつまり……神ということか?
魔物の中の王どころか……本物の神?
人間が触れてはいけない領域の存在……?
思考が追いつかない。
そもそも魔王という存在に出会うこと自体ありえない。
故に眼前の存在を"いつもの"魔王だと思っている彼等には、
魔王ガルグリムの指し示している本当の意味はわからない。
ただの人間でしかない皇帝グレゴリウスもいまだ言葉を発せない。
ただ情けなくも玉座から立ち上がる途中の中腰の姿勢のまま固まっていた。
「……ぅ…うぅ……」
和馬は這いつくばったまま呻いた。
腰が抜けたまま立ち上がれない。漏らさなかったことが唯一の救いだった。
「カ…ズ………マ…さ…ぁ……」
アリシアは美しい顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら必死に彼にしがみつく。
かつてアルフォンスと共に肩を並べた凛々しい魔導師の面影はない。
「ひ……ぇ…あぁ……ぁ…」
ミリアはとうとう堪えきれずに泣き出した。
失禁による液体が絨毯に染み込み湿った匂いが漂い始める。
かつて純粋で清楚な聖職者だった彼女の尊厳は完全に地に堕ちた。
『……ふむ』
そんな惨状を見てガルグリムは微かに笑ったようだった。
いや笑うというより嘲笑に近いだろう。
彼の赤く輝く眼が細められるだけで空間が軋む。
『……私が問うことに答えよ。言葉を許す』
魔王の声が響く。
言葉一つで死の宣告になる——その恐怖が再び会場を支配した。
「……皇帝陛下……! いかがなされますか!」
宰相ラファエルが震える声で問いかける。
「…………」
皇帝は深呼吸をするように息を吸った。そして——
「……何が目的……
『……私が問うことに答える為に言葉を許すと言ったのだ』
ガルグリムの声がさらに冷たく響いた瞬間——
「……っ!?」
皇帝も宰相も騎士も貴族も和馬もアリシアもミリアも——
会場内の全員が一斉に床に叩きつけられるように蹲る。
「ぎゃああ!?」「ぐうっ……!」
「な……なんで急に……!?」
重力魔法などではない。
ただ魔王が“威圧”をわずかに強めただけだった。
それだけで全ての人間が強制的に両膝両手を床につく屈辱の姿勢を取らされている。
言葉を発することだけは許可されたが——誰も声を出すことができない。
ほんの数分前まで華やかな祝宴の場だった広間は、
いまや圧倒的な恐怖と絶望が支配する墓場と化していた。
『……さて』
魔王ガルグリムは静かに宙を滑るように移動し始める。
まるで霧が流れゆくかのごとく——彼の纏う闇の瘴気が周囲を歪ませていく。
「……な…何をしている……早く……あの魔物を討伐せよ……」
己の窮地に瀕して地が出たのか、皇帝が必死に命令を下す。
だが騎士たちも貴族たちも皆同じように跪いたまま動けない。
そもそも彼らが見ているのが本当に"魔物"なのかすら疑わしかった。
(これは……本当に……魔王なのか……?)
誰もが心の中で問い続ける。
これが本当に歴史の中で幾度も現れた魔物の王なのか?
『……ふむ』
魔王の赤い双眸が一瞬細められる。
その視線は床に倒れ込んでいる一人の人間に向けられていた。
『愚鈍なる"召喚者"よ』
黒いローブの影が静かに降り立つ。
その場所は——召喚勇者カズマのすぐ横だった。
「ひ……ぃ…い……!」
和馬はついに正気を取り戻したかのように叫んだ。
だがその姿勢は這いつくばったまま。そして——
「カ……マ…さ……まぁ……」
「た……すけて……くださぁい……」
アリシアとミリアは涙と涎で顔を濡らしながら和馬に抱きついたまま離れない。
『ほう』
ガルグリムの口元がわずかに緩む。笑っているのか嘲笑しているのか。
しかし確実なことは——
この場の、いや世界のだれですらも相手としない存在が、
わざわざ召喚勇者の真横に降り立ったということは——
魔王にとって真に興味があるのは“勇者”なのかもしれない。
と会場にいる全ての人間、皇帝すらも"思って"しまった。
「お……俺が……勇者……だからか……?」
和馬の声は掠れながらも必死に問いかける。
そして魔王はただ静かに見下ろした。
「………………まさか……!」「……そんなことが……」
会場に集う人々の意識がわずかに揺らいだ。
「あの魔王が……勇者の方へ……?」
誰かが小さく呟いた言葉が、
静寂の中で不自然に大きく反響する。
「勇者ならば……魔王と……」
「もしや……あの勇者なら倒せるかもしれない……」
希望とも妄想ともつかぬ思いが、
恐怖に凍りついた人々の胸にぽつりと灯る。
それは皇帝グレゴリウスですら例外ではなかった。
彼はさっきまで和馬のことを"増長したガキ"と断じていた。にも関わらず、
魔王ガルグリムが"わざわざ"勇者カズマのすぐ傍らに降りてきたことで──
(いや……まさか……だが……)
皇帝の内心で計算が始まる。
もし仮にこの危機的状況を打破できる可能性が少しでもあるのなら──
普段の皇帝なら決して考えない安易な願いに縋るほど窮地に陥っていたのか、
それとも――いずれにせよ彼は、ありえない希望に縋ろうとしていた。
一方、和馬はといえば。魔王が自身の側に降り立った事で、
何故か恐怖とは別の、いかにも彼らしい違う種類の感情が混じり始めた。
(やっぱり……コイツも……勇者である俺を恐れてるんだ)
恐怖が裏返るように――妙な万能感が湧いてくる。
彼の頭の中で都合のいい理論が組み上がっていく。
(コイツは……俺を倒す為にわざわざ出てきたんだ……だったら……)
『……』
魔王はただ静かに佇んでいる。黒いローブが微風に揺らぐ。
その奥にある"何か"がじっと和馬を見下ろしている。
『……ほう?』
魔王の唇がわずかに持ち上がり弧を描いた。
それは果たして笑ったのか。あるいは嘲笑なのか。
魔王ガルグリムの嘲笑(だと和馬は思った)に──
(コイツ……俺のこと馬鹿にしてるな……?)
和馬の中に燃え上がったのは恐怖ではなく怒りだった。
なぜなら──彼の視界に浮かぶ半透明のウィンドウが示していたのは、
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【名称】魔王・ガルグリム
【称号】魔の███の依り代
【レベル】120
【状態】正常
【HP】█████████(測定不能)
【MP】█████████(測定不能)
【スキル】暗黒魔法/闇の加護/絶██域/限定██
【備考】「魔の███」の依り代。██由来の██能力██保有
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(なに?レベル120……?ヴェイン戦の俺と同じじゃねえか)
四天王ヴェインを倒した際の経験値で彼の能力である勇者システムがレベルアップし、
その際のスキルポイントで獲得した鑑定で魔王ガルグリムのステータスを確認していたのだ。
この鑑定スキルはヴェイン戦で彼の奥の手で窮地となったことから必要と考えて取得していた。
和馬の表情が一変する。さっきまでの震えが嘘のように自信に満ち溢れ始める。
(確かになんか文字化けしてるところはあるけど……レベルなら俺の方が上だぜ?)
『勇者システム』の表示が再び開かれる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【名称】鈴木・和馬
【称号】勇者/四天王を斃し英雄
【レベル】152
【経験値】23,579 / 24,000
【スキルポイント】3
【HP】9,876
【MP】7,321
【スキル】勇者の剣技/超回復/光速移動/経験値倍増
【特殊スキル】勇者の加護/真偽鑑定/魔王耐性Lv.1
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(そうだよ……ヴェインを倒した時の経験値でこれだけ強くなったんだ)
和馬は心の中で嗤う。
ヴェイン戦で得た莫大な経験値とスキルポイントのおかげで、
彼の"勇者としての力"はもはや四天王レベルを遙かに超越していた。
(魔王とか言ってレベルはヴェインと同じ……俺はのレベルは上だ……
俺を跪かせた能力とかが不明だが……慎重に戦えば……)
『ほう……』
ガルグリムの赤い眼が和馬をじっと見つめる。
その視線に和馬は一瞬怯むが──すぐにそれを怒りへと塗り替える。
(俺がこいつにビビってるなんて……絶対認めない……!)
魔王ガルグリムへの怒りが和馬の内側で膨れ上がるにつれ――
(……待てよ……俺は今……レベル152……アイツはレベル120……)
和馬は気づけば体が軽くなっていることを感じた。
いや正確には"力"が戻ってきたのだ。
その奇妙な感覚は恐怖が消えたことに由来するのか?
あるいは――
「……やってやる……!」
和馬の叫びとともに閃光が走った。
『光速移動』スキルが発動する。
瞬きほどの間に彼は魔王ガルグリムの目前へ移動し――
「これでも食らえぇぇっ!」
歴代の魔王を屠ってきたと伝えられる聖剣が輝きを放つ。
同時に『勇者の剣技』スキルによってその斬撃が強化される。
和馬の動きはもはや人間の枠を超え――
そして――
会場の誰もが視認できない速度の中、一筋の剣光が奔った。
シュパッ!
微かな音だけが静寂を裂く。
そして次の瞬間――
カラン……
床に硬質な金属音が鳴り響く。
誰もがその音源を探るように視線を落とす。
そこに転がっていたのは――和馬が握っていたはずの聖剣。
そして――
和馬の右腕は肘から先が消失していた。
切断面と思われる部分は――闇のように黒く覆われており。
「……へ?」
阿呆みたいな声が漏れる。
目の前に広がる光景を理解できないかのように、
ただ茫然と己の無くなった右腕の肘から先を見つめるしかない。
『当然であろう?』
魔王ガルグリムの声が再び低く響く。
『貴様如き紛い物の勇者が……真なる魔王に……神に触れればこうなるのだ』
黒いローブから闇を漂わせたガルグリムは、
先ほどと同じように唇がわずかに持ち上がり弧を描いた。
それが笑っているのか――あるいは嘲笑なのかわからない。ただ確実なことは――
「う……うそだろ……?」
和馬の視界がぐらりと揺れる。
レベル152――
最強になったはずの自分は……ただの虫けらのようにあっさりと叩き潰された。
『BGM ジャ〇アント・〇ボTHE ANIMATION 謀略の館』
欠損……はまたかって気もするのですが、
ガルちゃんが如何にすごいか分からせつつ和馬を追い込むとなると、
私には思いつく札があまりありませんでした。
次回、19:00の投稿予定ですが、早まるかもしれません。
→変更しました!17:00にUPします!
ガルちゃんの演説、皇帝の無茶ぶり、そして絶望に向かう回です。




