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召喚勇者カズマ - この世界は俺の理想郷 -


「カズマさま?」


耳元で呼ばれ我に返るとアリシアが心配そうな顔でこちらを見つめていた。


(夢……だったのか?)


汗ばむ額を拭いながら深呼吸する。


「……んん?」


和馬が重い瞼を開けると、

まず目に飛び込んできたのは砕け散った陶器の破片だった。


床に広がるワインの赤い染み。

壁に叩きつけられた鏡の欠片が鋭利な光を放ち、豪華な絨毯には靴跡が刻まれている。

まるで嵐が過ぎ去ったかのような自室の惨状に彼は一瞬呆然とした。


(ああ……そうか)


昨夜の記憶が断片的に甦る。凱旋式典での民衆の熱狂。

そして「解放者」と「救済者」の名を讃える歓声。


「四天王二体を倒した英雄たち」

という噂話が街中に広まっているのを聞いて酒を煽った末の暴走だった。


「くそっ……」


和馬はベッドから身を起こし乱暴に頭を掻きむしった。

割れたグラスで切ったのか手の甲に血が滲んでいる。痛みすらも今は遠い。


「俺は……四天王ヴェインを倒したんだぞっ!」


怒りとも悔しさともつかぬ感情が胃の底から湧き上がってくる。

あの解放者……アルフォンスさえいなければ、

讃えられるのは自分だけだったはずだ。四天王討伐の英雄。

それこそが勇者として当然与えられるべき地位だと思っていた。


「カズマさまぁ、お目覚めになられましたか……?」


甘く囀る声にハッとして振り返る。

側に立っていたアリシアの事を忘れていた。

彼女の左腕は厚く包帯で覆われていた。ヴェインとの戦いで受けた爆炎による火傷だ。


「おはようございます。昨夜は……少々激しく酔われていましたね」


アリシアは少し困ったような顔で苦笑した。彼女の整った容貌には微かな疲れの色が見える。

和馬には気付かないだろうが、彼女ずっと付き添い介抱していたからだ。


和馬は一瞬バツが悪そうに顔を背けたが、すぐに気を取り直した。


「……そうだな。ちょっと飲みすぎたみたいだ」


冷静を装うと、自分が18歳になっている事実を思い出す。

元の世界では未成年だから酒など飲めるはずがないが、この世界では成人扱いされる。

しかも勇者として特別扱いされているのだから尚更だ。


(アルフォンスより俺の方が絶対上なんだっ!)


ふと思い出して彼は右手を上げた。

精神集中すると青白いウィンドウが空中に浮かび上がる。

勇者システムのステータス表示だ。

そこには昨夜確認したものよりも大幅に上昇した数値が並んでいた。


【称号: 勇者、四天王を斃し英雄】

【レベル: 152】

【経験値: 23,579 / 24,000】

【スキルポイント: 185】


「やっぱヴェインを倒したおかげで経験値もポイントも増えまくりだな」


和馬はニヤリと笑う。これだけあれば新しいスキルや魔法を取得できる。

この世界の人間では到達できない領域に……

自身の優位性を感じて少し気分が良くなってきた。


「アリシア。腕の方はどうなんだ?」


包帯の巻かれた腕を指差すとアリシアは少し憂鬱そうに眉を寄せた。


「まだ痛みがありますけどぉ、城内の治癒士の治療を受ければ今日中には……」


「今日中か…… 急がせて夜までには治しておけよ?」


和馬はまるで女性に寄生するヒモ男のようにアリシアの肩を掴んだ。


「今夜は皇帝主催の祝賀会があるんだぜ?

 四天王ヴェインを倒した英雄、つまり勇者である俺の栄誉を称える会だ」


「素晴らしいですっ! さすがは勇者であるカズマさまですっ!」


「だからな、アリシア。お前も俺の付き添いとして綺麗な姿で参加しないとダメだ。

 皇帝の御前に立つんだ。みっともない格好じゃいけないからな」


「はい……かしこまりました。必ず治してきますね」


「うむ」


満足げに頷くと和馬は窓辺に歩み寄った。

その眼下に広がる城下町の景色、太陽の光を浴びて輝く帝国の街並み……

しかし彼の目には昨夜の記憶が重なって見える。


「解放者」と「救済者」。アルフォンスさえいなければ。

悔しさと苛立ちが再び胸に広がってくる。だが自分の力にも確信を持ち始めていた。

四天王一体を倒した事実は紛れもない真実だ。


(お前は終わったキャラなんだよっアルフォンス!

 これからはずっと俺のターンだっ!)


呟くように小さな声で宣言した瞬間、不意にアリシアが小さく震える声で言った。


「カズマさま……」


振り返ると彼女は不安げな表情でこちらを見つめていた。

火傷の痕が疼くのか、包帯越しに腕を押さえている。


「どうした?」


「いえ……ただ、無茶だけはなさらないでくださいね。

 貴方は帝国にとっても私にとっても大切な……」


そこで言葉を途切れさせたアリシアの顔には明らかな憂いの色が浮かんでいた。

それが単なる魅了による依存なのかは和馬には分からない。


「大丈夫だよ。心配するなって」


和馬は少しだけ優しい声音で答えた。

確かに昨夜は感情に任せて暴れてしまったが今日は違う。

祝賀会では完璧な姿を見せなければならない。

そして何より「解放者」たちに遅れを取ることはないという確信があった。


(それにしても……)


視線をアリシアに戻す。美しく凛とした魔道士。日本だったら絶対に出会えない存在だ。

彼女だけでなく他にも自分が魅了の力で虜にした側近の女も控えている。

そう思うだけで心が満たされていく。


(やっぱ俺は選ばれた人間なんだ)


そう考えると自然と笑みが零れる。元の世界の平凡な自分とは全く違う。

今ここにいるのは勇者としてのカズマだ。


英雄として讃えられ美少女たちに傅かれる華やかで満たされた新たなる世界。

それこそが望んでいた理想郷なのだと改めて実感した。



ヘイトは少ないと思いますが引き続きグタグタ話ですいません。


すいません。また主人公不在の話しが続きます。

次回はアリシアと帝国sideの話しです。

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