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アナタの

「ルル!」


 濁流に飛び乗り、『川の主の寵愛』によりその上を滑るように移動しようをするアタル。


 しかしルルが暴れるたびに波が発生して足場が不安定となり、思うように進めない。


「大丈夫だ、今そっちに行くからな」


 今までサーフィンの経験などないが、見よう見まねでサーフィンのように移動し、ルルに近づこうとするアタル。


 何とか『川の主の寵愛』の補助で水の上でこけずに移動できているアタルは、ルルの振るう腕をよけながら近づいていく。


 横払いを跳び上がって避け、たたきつけを横に滑って回避する。


 そしてルルの目の前まであと少しというところで、ルルのレインコートの前方部分が開く。


「ぐっ、ルル!!」


 レインコートの中からさらに溢れ出す濁流から身を守ろうと、『雨宿り』を開いて盾にするアタル。


 濁流を受けながらも前に進もうとして、勢いに押されて流されてしまった。


「ぐおっ!? くそっ、どうすれば……」


 結局最初の地点まで戻されてしまったアタルは、肩で息をしながら片膝をつく。


「あれ? なんか……」


 そこでアタルは、ルルの様子がおかしいことに気が付く。


 両手を地面について、肩で息をするように体が上下している。


 さらにレインコートの中から溢れ出る濁流は急激に勢いが弱まり、水量もほとんど大したことがなくなっている。


「ま、まさか弱っているのか!? どうして……」


「どうしてって、ここで終わるためだろう」


「おじさん……」


 気が付けば隣に中年男性がたっていた。周囲を見渡すと、ルルを抑えていた二人が雨をしのげるところに寝かされていた。


 いつの間に救出したのかと驚いていると、男は口を開く。


「あいつ自身も、おそらく気が付いているんだろうな。もう元には戻れないだろうって」


「そんな……」


「だからこそ、これ以上お前に迷惑をかけないように、必死にお前を拒絶して、己のすべてを吐き出して、ここで終わろうとしているんだ」


「あいつの命は風前の灯火だ、もうあと数分も持たないだろう」


「い、嫌だ! 何とかならないんですか!?」


「何とかなるなら、真っ先に教えている」


「そ、そんな……」


 男の無情な宣言に、絶望するアタル。


 そんなアタルに同情の目を向ける男は、アタルの背を叩いた。


「うおっ!?」


「あのままだとあいつは苦しんで死ぬ。ならせめて、最後はお前が苦しませずに楽にしてやれ」


「俺が、ルルを……」


 今まさに苦しみ、藻掻いているルルに視線を向ける。


 この町に来てからずっと一緒にいたルルが、あんなに苦しむのは見ていたくない。


「……行ってきます」


 アタルは雨に濡れながら、開いたままの傘をささずにルルの元へ近づいていく。


 ルルは近くまで来たアタルに、顔を向けることしかできない。


 何も見えないフードの下からは、綺麗な水が流れ出ていた。


「……ルル、ごめんな。お前のこと、助けてやれそうにないんだ」


「ごめんな、俺の不注意のせいでこんなことになっちゃって。あの時もっと早くにあの場所から離れていたら、あいつらに見つからなかったかもしれないのに……」


 ルルの目の前に立ち、震え声で話しかけるアタル。


 その顔は、雨の中でも泣いているのがわかるほどだった。


「もっと一緒にいたかった、ずっと楽しく過ごしたかった。でも、もうだめみたいだ」


「ごめんな、本当にごめん……」


 『雨宿り』を手放し、スーツの袖で涙を必死に拭いながらルルに語り掛ける。


 感情が爆発して、言葉もうまく出てこない。口から出るよりも早く、涙となって流れ落ちてしまう。


 もはやルルの顔すら見ることができず、俯いて泣きじゃくることしかできなかった。


「ごめんよぉ、本当に、ごめん…… えっ?」


 そんなとき、アタルの頭を誰かが撫でた。


 アタルが驚き顔を上げると、アタルの頭を撫でていたのはルルだった。


 全身が震え今にも倒れそうになっているにもかかわらず、必死に体を起こしてアタルの頭を撫でていた。


 まるで、いつもアタルがルルの頭を撫でていた時のように……


「ルル……」


 そして、アタルに降り注ぐ雨が消えた。


 頭を撫で終わったルルが、落ちていた『雨宿り』をアタルに差したのだ。


「……あっ」


 その時、アタルの頭の中である情景が思い起こされる。


 それはあの時、初めてルルと出会った時。


 悲しそうにしていたルルに、傘をさしてあげたあの時の記憶が蘇る。


「……ルルっ!!」


 想いが溢れて、ルルの元へ駆け寄り、その大きくなった体に抱き着く。


 別れを惜しむように、ずっとこの感触を、この瞬間を忘れないように。


 前かがみになっているルルは、まるで自らの身体でアタルを雨から守っているようにも見えた。


「ルル、大好きだ! ずっと、ずっと大好きだ!」


「綺麗な鼻唄も、いつも楽しそうにしているところも、俺の真似をしてくれることも、寝てるときにいつも俺のことを抱き枕にすることも、一緒に遊ぶと全力で楽しんでくれることも……」


「ルルがいたから、俺はこんな恐ろしいところでも、やってこれたんだ。きっとルルがいなかったら、俺はどこかで野垂れ死にしてたと思う」


「だからルル、ありがとう」


「ずっと、大好きだからな……」


『新たな術を習得しました』


 ルルへの想いを告げた後に、無機質な声がアタルの頭の中に響く。


 こんなタイミングで覚えた術に、もしかしたらと奇跡を信じて詳細を確認するアタル。


 ……でも、都合の良い奇跡なんて起こらなかった。


「……そうだよな、奇跡なんて都合よく起きないよな」


「でも、もしかしたらこれで、もう苦しませなくても済むかもしれないな」


 アタルはルルから離れると、目を閉じて深呼吸をする。


 そして覚悟を決めて目を開き、左手に光が集まる。


「ありがとう……」


 やがて光は弓の形になり、七色に輝きだす。


 アタルはそれを上に、自分に覆いかぶさっているルルの胸に向けて弓を引くような体勢を取る。


「そして、さようなら」


 『霊術:雨上がり』


 虹の弓から放たれた光の矢はルルの身体を貫き、その中の悪しきものや呪いをすべて背負って空の彼方へと飛んでいく。


 その勢いは衰えることもなく、何処までもどこまでも、ぐんぐんと伸びていく。


「……ルル」


 元のように小さな姿になったルルをアタルが抱きかかえる。


 とはいえ、もうその体は端の方から徐々に崩れていっていた。


「……あっ」


 そんなとき、まるでスポットライトを浴びたかのようにまぶしい光が二人を包む。


 光の矢が雲を貫き、雨しか降らないこの町に、初めて太陽の光が降り注ぐ。


 丸くあいた穴から青い空と太陽が顔をのぞかせる。


 そして七色の虹が、太陽の周りに円を描くように輝いていた。


「ルル、見てごらん。あれが太陽だ、周りのいろんな色のが虹で、その周りの青いのが空で……」


「……ルル?」


 アタルの腕の中で、黄色いレインコートと結晶だけを残して、ルルは灰となった。


 アタルを照らす光はスポットライトを絞るように狭まっていき、元の曇天へと戻った。


 そして一筋の雨が、アタルの目元に落ちるのであった。






『アナタの心に愛の傘を』






 『雨野 中』


 HP12/18 MP7/13


 術式 『霊術:霊傘』『霊術:雨乞い』『霊術:雨上がり』


 状態 『川の主の寵愛』            


『るるのれいんこーと』


 ずっとひとりでさみしかったけど、あのひからずっとたのしかったよ


 あそんで、ぼうけんして、たたかって、ごはんたべて、いっしょにねて


 もうそれだけで、ありがとうがいっぱいだったよ


 だからなかないで


 ずっといっしょに、いてあげるから

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