第二章 嫁入りが決まりました
「はい、これお願いします」
役所に入ると俺は窓口のお姉さんに書類を渡す。
「お預かりします」
お姉さんが書類を受け取った途端、ギギィと役所の大きなドアが開いた。そして重い足音が響く。
「?」
俺はそれらの音に反応し、ドアのほうを見た。
「!?」
骸骨のような、いや骸骨の顔に黒マントで全身を包んだ大男がそこにいた。足元を見ると…マントの下は西洋の鎧だとわかった。
「うわぁ!!」
「あああ!!」
役所の職員達はその男を見て騒ぎ出す。
俺だけはこの男は一体誰だろう…と恐怖より疑問のほうが何故か勝手しまった。
「魔王だ!! 魔王だぞ!!」
職員の一人が男を見て叫んだ。
「魔王!?」
魔王という呼び方を聞いて俺は事の異常さに気付いた。
親父から聞いたことがある。このあたりの大陸を魔王が軍隊を率いて支配しようとしていることを。
魔王はRPGじゃよくいるけど…まさかこの世界にもいるなんて…
「…この街の市長はいるか?」
魔王と呼ばれた骸骨の男は役所の中を見回す。
「は、はい。私です…」
一人の男、市長が恐る恐る前に出る。
「な、なんですか…」
市長は震えながら魔王を見る。
「…我が息子の花嫁を探している」
俺も市長も、その場にいた全員がその言葉を理解するのに数秒かかった。
「花嫁とは?」
市長が話を続ける。
「我が息子の妻になる相手を探している。我が一族を恐れぬ気丈ある妻をだな」
魔王はちらちらと周りを見る。骸骨だから目玉はない分かなり不気味だ。
「…」
魔王が俺を見た。
そして近付いてきた。彼の胴体はかなりでかい。
「…貴様、我を見て怯えておらんな?」
「はい?」
確かに俺は魔王を見た時、何故かあまり恐怖を感じなかった。RPGでよく見るキャラだと思ってしまったからだろうか。
「貴様の名は?」
「ジニーです…」
魔王がちょっと考えたように見える。
「よし、わかった」
次の瞬間、魔王の言葉に耳を疑うことになった。
「ジニーよ。我が息子の花嫁として嫁ぐがいい」
※
『今日の夜九時に湖の前に来るがいい』
魔王はそれだけ言って役所を出てしまった。現在夕方五時。
わけがわからない。
「ジニー!」
魔王が役所を出ると市長は俺に駆け寄る。
「あ、あのさっき魔王が」
俺は状況を整理して親父に相談したかった。しかし、
「とにかく魔王に従え!」
市長は俺に叫ぶ。
「えと…」
「今あの魔王に逆らったらどうなるかわからないんだぞ!!」
「待ってください、とりあえず親父に話だけでもさせてください!」
「アレンは明日の夜まで戻らないだろ」
「あ…」
市長と言い争いになる中、思い出してしまった。親父は服の素材を仕入れるために明日の夜まで帰ってこれないことを。
この世界に電話はあるが固定電話しかないかつ親父が仕入れに行ってる店の番号もわからない。
つまり親父に相談出来ない。
「あの魔王は魔法で一夜で国を滅ぼしたこともある。逆らえば我々も…」
市長は魔王に怯えている。
「そうだ! 魔王のところへ行け!」
「俺まだ死にたくない!」
「我々のために行くんだ!」
そばにいる役員も後から役所に来た野次馬絶ちも騒ぐ。俺の気持ちなんて聞かずに。
第一花嫁ってなんだよ、普通そういうのって国のお姫様じゃないか。なんだよ息子のって、普通自分の嫁探ししないのか?
言いたいことはたくさんあるが今は言えなかった。市長や役員や野次馬がうるさい。
「わかりました、市長…」
今は魔王に従うことにした。わけがわからないが。
「あの、ちょっとお聞きしたいのですが…」
俺はひとつ気になることを市長に訊いた。
「魔王の息子ってどんな人でしょうか?」
俺の夫になるかもしれない相手の人相がイメージ出来ないでいた。まさか魔王のような骸骨頭じゃないよな?
「確か魔王が二ヶ月前に東の国を制圧した時の新聞記事があった。それに写真が…」
市長はがさがさと窓口の引き出しの中を漁る。
「あったこれだ」
市長は新聞を俺に見せる。
『恐怖の魔王 魔法による独裁』
魔王が国を制圧したニュースがびっしりと書かれた新聞記事にある写真の中に魔王の息子を写した写真があった。
「…まさかこの子?」
キリリとした大きな瞳に黒緑の長い髪を束ねた美少年が写っていた。