第56話 追憶の箱 5
※チョコクラージュの育ての親の苗字は表彰盾に記された苗字と一致させないと整合性が取れないと気づき、名前の部分だけ53話を修正しました。ご容赦下さい。
チョコクラージュからの手紙を読み終えたクララは、静かに目を閉じました。暗闇の中に浮かび上がってきたのは、舞い上がる砂煙や、蒼天に浮かぶ白い雲、弧を描いて宙を飛ぶサッカーボール、陽光に照らされ光り輝きながら飛び散る汗と、「まだ、ここからだ!諦めるな!」と叫ぶチョコクラージュの声でした。とても懐かしく温かい、あの声⋯。
"そうだよな。今この瞬間もチョコクラージュは、わたしのすぐそばにいる。すぐ隣で、わたしの手を、強く握ってくれている"
クララは、涙を流していましたが、それは悲しいだけの涙ではありませんでした。
クララは人生で一度だけ、チョコクラージュに抱き締められたことがありました。それはクララの両親が収容所に連行された日のことで、二人はまだ中学生でした。
クララは「わたしが女だからと言って、甘やかすな!わたしは強くなりたいんだ!」といつも言っているような女の子だったので、チョコクラージュも普段は、優しく慰めるような言動は控えていました。しかし、あの日、肩を震わせて泣いているクララの姿を見たとき、彼は何も考えずに、彼女を抱き締めました。彼女の悲しみがほんの少しでも小さくなるように祈りながら、静かに抱き締め続けました。
"あのとき感じた温かさと、同じだ⋯"
クララは手紙を丁寧に折り畳み、封筒の中に戻しました。そして、本棚に飾ったチョコクラージュの表彰盾の隣に、それを置きました。そして段ボールに入っている物を取り出し、ひとつひとつ確認していく作業に戻りました。
下の方に積み重ねられていた本のようなものは、写真が入れられたアルバムでした。幼稚園や小学校時代の写真から、大学生の頃のものまで、様々な写真が綺麗に整理されて、写真集のようになっていました。サッカーをしているチョコクラージュの写真、クララとチョコクラージュがそれぞれサッカーボールを小脇に抱えている写真、お互いの誕生日パーティーで仲良く寄り添い、笑っている写真⋯。硬い表紙と見返しの遊び紙の間に、チョコクラージュの育ての親であるサジェアタ夫妻の、妻の方が書いたと思われるメッセージカードが挟んでありました。クララは夫妻と会ったことが数え切れないほどあり、自宅に招かれて手料理をご馳走になったことも、何度もありました。夫妻はクララのことも自分の娘のように可愛がってくれる、とても優しい人達でした。
『チョコレツィカへ
チョコアデバルさんと一緒に、チョコクラージュの形見分けをしているよ。私達が持っている写真の中で、これはクララが持っているべきだと思ったものを、送るね。
辛くて、今は誰にも会いたくないという気持ちは、分かるよ。私達だって、同じ気持ちだからね。気持ちが落ち着いたら、遊びに来なさい。いつでも、大歓迎だよ。
悲しみに負けては、いけないよ。チョコクラージュはいつでも、私達の心の中にいるのだから。
アンドレアより
追伸 チョコクラージュが小学生の頃からずっと大切にしていた宝物を、封筒に入れて、アルバムに挟んでおきます。』
"挟んである⋯?このメッセージカードの他には何も挟まれていなかったが⋯"
チョコレツィカはそう思いながらアルバムのページを順番にめくっていきました。さっきは途中までしかめくっていなかったので気づかなかったのですが、背表紙と遊び紙の間に、綺麗な水色の封筒が挟んでありました。封筒を開けると、中に便箋は入っておらず、底の方に何か小さな物が見えました。逆さにして手の平の上で封筒を振ると、手の平の上にそれが落ちてきました。
それは綺麗に復元出来るように丁寧に平たく潰された、小さな折り鶴でした。クララが10歳の誕生日に、チョコクラージュと二人で作って交換した、あの折り鶴でした。
"あのバカ⋯!「ごめん、どっかいっちゃった!」とか言ってたくせに⋯!!その一言のせいで、わたしは30年間も、へこんでいたんだぞっ⋯!!"
クララは勢いよく立ち上がり、その折り鶴を手に持ったまま、本棚に飾ったチョコクラージュの表彰盾の前に行きました。そして表彰盾に向かって大きな声で、こう言いました。
「お前、ほんと乙女心を分かってないな!!⋯バカッ!!」




