第3話 ⚔
目の前には、幅10メートルほどの川がゆったりと流れる。その川岸には緑が生い茂る。清涼な空気が漂い、せせらぎの音が静かに耳をくすぐる。
アスタリアはオーダーメイドの空色のフード付き衣装を身にまとい、背中に荷物を詰めたリュックを背負い、輝く瞳で前を見据えていた。
足元には『魔法の乗り物』――金色の光を放つ円と六芒星の形が広がり。
地図に従って水路沿いに移動する。大通りを避け、『魔法の乗り物』を使っているところを人に見られないようにするためだ。
水源周辺にはまだ人が出入りする可能性がある。
速く飛べるガーネットに頼み、上空から道に人がいないか確認してもらう。
ガーネットは白金色の羽を持ち、外見はアルバトロスや鷲のような鳥。
『光魔法』は思いのままに「光」を召喚することができる。
職人に依頼して、金属線を巻尺のように巻いたコイルを作らせた。
その金属線に光魔法を注ぐと、光魔法のエネルギーが金属を動かす力に変わり、金属線が動き出す。光の特定周波数が金属内の自由電子と共鳴し、これが金属線を動かす原動力となる。
金属線で円を描き、その中に六芒星の形を描き、水平を保ち、光魔法で作った『魔法の盾』で身を守り、その上に立つ。
進みたい方向を選び、反対側にエネルギーを放つと、魔法で移動できる仕組みになっている。
魔法の乗り物と光の魔法盾を併用すれば、『光盾』で気流を遮断しながら高速移動が可能だ。
ほうき型の魔法の乗り物も作れるが、私はこの丸いスケートボードのような形の魔法の乗り物を気に入っている。
この世界の民間には魔法や精霊に関する情報はほとんどなく、『モンスター』と戦う話など聞いたこともない。
目にするのは、だいたい現実的で論理的に成り立っている世界だ。
光の魔法を使えば、魔法を光らせることも、光らせないこともできる。
普段は光盾を光らせず、魔法の乗り物は人目に付かない時だけ光らせる。今は人目を避けて、魔法を光らせると楽しいから、光らせておこう。
アスタリアは魔法の乗り物で川沿いを進むと、青や黄色の草木、茂み、田畑、平原が風に乗り、絶え間なく風景が流れていく。
2日後、アスタリアは国境近くの小さな町に到着する。
この辺境の小さな町では、石造りの家々が立ち並び、町の中心には広場が広がっている。
広場には日差しを浴びて人々が集う市場が賑わっており、その中には少し珍しいものとして、近くの鉱山で使うための道具も数多く並んでいる。
アスタリアは町で少し食料を買う。
その時、誰かがアスタリアのすぐ横を素早く通り過ぎ、アスタリアは一瞬目を凝らした。すると、後ろから叫び声が聞こえた。
「泥棒!誰か助けてー!」
視線を追った先で、灰色の服を着た痩せた泥棒らしき男が遠くへ走り去っていく。途中で二人にぶつかって倒していった。
アスタリアの胸に挑戦心が芽生え、興奮の笑みを浮かべながら「私が手伝おう」と思った。
その時、白金色の鷲のような鳥が一羽、空を横切りながら、鋭い目で盗賊を追っていた。
振り返ると、焦った様子の少女が目に入る。深い青色の古びた布のスカートを履き、蜂蜜色の髪を二本の短い三つ編みに結び、この辺りの平民の少女らしい装いをしている。
人混みの中から、黒髪で細目の若い筋肉質の男が言った。
「ああ、あの飛び泥棒は常習犯だ。近くの山賊団の一員だよ。」
周囲の人々は彼女を心配していたが、盗賊の逃げ足はあまりにも速く、さらに山賊団の者たちは武器を持ち歩いているため、単なる盗賊とは訳が違う。だから、誰も手を出せなかった。
周りの人々が口々に言っていた。
「山賊団の連中が武器を持っているから、厄介だな。」
道端の木製の屋台で、年配の女性商人が心配そうに尋ねた。
「お嬢さん、大丈夫? 怪我はしてない?持っていかれた包みの中には何が入ってたの?」
少女はやや茫然と答えた。
「あ、大丈夫……包みの中には、母さんの脚のけがを治す薬が入ってて……近くの町でしか手に入らないんです……」
「そんな大事な薬を!あいつら本当に最低ね!」
その時、道端の屋根に淡い桜色とピンク色の小鳥がとまっている。
人混みの中の誰かが、さらに続けた。
「あの山賊共が国境で略奪を働いているせいで、往来する人々がどんどん減ってきてる。今では店の商売も前ほどはよくないんだ。」
どこか苛立った女の声が、不満げに響いた。
「騎士団は国境の治安を守るはずなのに、山賊がそこで略奪を続けて好き放題しているなんて、一体どうなっているんだ?」
「聞いた話じゃ、山賊たちは山中に隠れていて、追い詰めるのが難しいんだ。」
人々はざわざわと話し合っていたが、アスタリアは十分な情報を得ると、心の中で方向を定め、静かに歩き出した。
町外れの袋小路の壁際で、二人の男が今日得た「戦利品」の包みを漁っていた。
一人の若い黒髪細目の男が、盗んだ包みの中身をごそごそと取り出しながら、口を歪めてぼやいた。
「母さんの薬だとか言ってたくせに、中には一銭も入ってねぇじゃねぇか!」
「国境近くは山賊が牛耳ってるし、通行人の方が金を持ってるさ。」
その時、二人の頭上に声が響く。
「つまり、あなたたちは山賊とは別の一味なんだ。さっきは通りすがりを装って、山賊団の一員だって嘘を広めて怖がらせてたってわけね。」
二人の男が驚いて頭を上げると、アスタリアが壁の上に立っており、彼らを見下ろしている。
陽光がアスタリアを包み込んで金色に輝く。ピンク色の長い髪は低く結ばれたポニーテールが、風に揺れている。
目の前に現れたのが若い少女だと分かると、二人は一瞬落ち着きを取り戻し、すぐに凶悪な表情でアスタリアを脅そうとする。
「ガキが来る場所じゃねえぞ。」
だが、アスタリアは動じない。
「これから私がお前たちの首領だ。だから、今日の戦利品は私のものだ。お前たちは鉱山で仕事を探せ。二度と悪いことをするな。」
アスタリアは自信満々の表情で命令を下した。