第02話 ☃
今、校舎の中庭では周囲に突然多くの人々が集まり、見物しているのを感じた。
ミエルが口を開いて話を続けた。
「ごめんなさい、王子が私を好きだなんて。そんなつもりじゃなかったの」
(今、転生者同士の会話って、二人だけの秘密を匂わせてる。
わざわざ私に言ってくるってことは――私がヒロインだと知ってる。転生者だということも。)
「私の退学はそれとは無関係です。」
(とりあえず、無難に返して切り上げる。私は行こう。
この出だし、なんかモブ悪役令嬢がシナリオを変える展開だな。)
だが、ミエルは即座に切り返してくる。
「アスタリアさんが王子殿下やそのご友人たちをお好きなのは知っています。皆様、あなたの『ターゲット』だったのでしょう?」
周囲の好奇の視線が、静かな空気をじわじわと熱くしていくようだった。
(え?私は図書館の件で初めて王子とミエルの関係を知った。彼らは新入生じゃないんだから、周りの人はとっくに知ってたはずだ。誤解させるため、わざと?
そして、周りの人がまた増えてきた? ベリル、ちょっと様子を見てきて。彼女たちはルビーが私の小鳥だと知ってるけど、ベリルも私の小鳥だとは知らない。)
このとき、周囲の人々がざわつき始める。
「彼女、退学したの?」
「アクセル王子を?ミエルさんを困らせたなんて、ちょっと図々しいんじゃない?」
「本当に何かひどいことしたから、ミエルさんがこう言ってるのかも……」
アスタリアはきっぱりと否定した。
「そんなわけない!」
だが、ミエルはすぐさま言葉を重ね、アスタリアに反論の隙を与えない。
「だって、アスタリアさん、王子やその仲間たちがいる場所にわざわざ行ったじゃない。みんな婚約者がいるって知ってたのに。それでも近づこうとしたんでしょ?」
(妹がこのゲームの話をよくしてたから、最初の王子関連の事件現場に行っただけなのに。王子の仲間のところ?何の話。)
「ターゲットを手に入れられなかったから、私を恨んでるのかしら?でも、王子様のご選択は尊重しないとね。どうか、あの方へのお咎めはお控えくださいませ。だって、あの方、ずっと国を守っていらっしゃるんですもの……」
ミエルは一気にまくし立て、アスタリアの言葉を封じる。
「5日前、図書館でわたくしたちの仲睦まじい様子をご覧になって、ようやく諦めて退学されたんでしょう? 本当に未練がないって証明したいなら、いっそこの国を離れて、遠くで新しい生活を始めても、悪くないかもしれません……」
(みんなの前で散々言ってるのは、私に他国に行けってこと?元々出国するつもりだったけど。でも……)
「ミエルさん、勝手に私のことを作り上げないで。
私は入学してからほとんど図書館にいる。司書さんや常連の学生さんなら誰でも証明できる。たまに校内をぶらついただけなのに、それを王子の仲間たちに近づいたなんて決めつけるのはやめて!」
「それと、私は元々退学して他国に行くつもりだったので、証明ならちゃんとできてる。だから、どうか私をあなたたちの恋愛事情に巻き込まないでください。」
「5日前の図書館の件、あなたたちがわざわざ私の前に現れたからでしょ。普段、図書館に来ないことなんて、図書館の常連ならみんな知ってる。
私が退学したのは、あなたたちに目をつけられたからよ。」
「今こんなに人が集まってるの、誰かが『面白いことある』って事前に噂流したからでしょ?下級貴族でずっと一人で行動してきた私に、そんな力があると思う?」
(小鳥ベリルが聞いてきた情報だ。)
ミエルはアスタリアの一言に、瞬時に息を呑んだ。口元が、ひくつく。
辺りが、しん、と静まり返る。次の瞬間、空気が揺れた。ざわめきが押し寄せる。
「あのピンクの髪の子、アスタリアって言うんだよね? 言ってること、なんか筋通ってるよね……」
「でも、ミエルさんを応援した方が無難よね。だって、未来の王妃だもの」
先程からミエルの側にいる淡い赤茶色の髪の少女が、ミエルとアスタリアの言い争いを見ながら、誰にも気づかれないように口元にほのかな笑みを浮かべた。
そして、すぐに表情を整えると、静かに口を開いた。
「アスタリア、退学したら出国するんでしょ? ミエルさんの言う通りにしておけば、これで丸く収まるわよ」
その時、微かに唇を噛んでいたミエルが、再び口を開いた。
「あなた一人ぼっちで寂しいのでしょう? わたくしたちは幸せに暮らすけど」
人ごみの中から、シャンパンゴールドの巻き髪の少女が、折りたたんだ羽根飾りの扇子を胸元に持ったまま、不服げに口を挟んできた。
「本当のところ、認めなさいよ。あなた、王子のこと絶対好きだったでしょ」
彼女もあの日図書館にいた一人で、とある攻略対象の婚約者。ベリルの情報によれば、ドルチェという名の、いかにも気位の高そうな令嬢らしい。




