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祝福のエレメント ~故郷を家族を全て失った皇女と侍女の逃亡劇~  作者: ひじり
第三章 ~旅人と砂漠のオアシス~
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7 本性

「やっと本性を現したようですね」

ナサはメルを自分の背後に隠し、背負っていた弓矢に手をかける。

「侍女の方は、なかなか聡いらしい。ずっと警戒を解かねぇから、懐柔させるのに苦労したよ」とルシファは不敵な笑みを浮かべる。

そこには、あの優し気な雰囲気は一切なかった。


その顔に見覚えがある。

人を見下すその顔。相手より優位に立った者の顔。

人を相手を何とも思っていない者の顔。


あの人と同じ顔。


メルとナサは同じ事を思っていた。

いや、全て同じというわけではないかもしれないが。

「お前ら、この世で一番価値のあるもんって何だと思う?」とルシファは戸惑う

二人に問いかける。

メルは困惑しながらも首をかしげ、その問い自体がよく分からないと意思表示を

する。

だがルシファは特に取り立てて気にする事もなく、

「金でも権利でもねぇ。人間だよ。」と自ら答えを提示した。

「この世にあるのはたった二つだけ。虐げる者と虐げられる者だ。人間も物もそれ以外も、他にも腐る程あるっていうのにたった二つだ。

なぁ、何でか知っているか? 虐げる者が全部取っちまうからさ」


それ本来に備わっている感情も意志も機能も何もかも全て、虐げる者を前にすれば引き剝がされ裸同然となる。

そうなった者は最早虐げる者にただ従うだけの従順な犬。

中身のない空っぽな操り人形。

だがそんな人間(にんぎょう)も数を揃えれば力になる。働かせれば金を作り、誉めさせれば

大きな名声を得られる。

どれだけ努力してもどれだけ才能を持っていたとしても、人間(にんぎょう)の数もろくに

揃えられない者に人権などない。

虐げる者に飲み込まれるものと同等、或いはそれ以下。

だからこそ、ほんの一握りしかいない虐げる者(にんげん)虐げられる者(にんげん)を欲する。

より多くの、より使える自分専用の人間(にんぎょう)を。

「俺らはそんな最も価値のある虐げる者(にんげん)様の為に存在するってわけ」

そう話す彼をナサは軽蔑の目で睨みつける。

「人買い……というわけですか。下賤な貴様ごときがこれ以上メル様に近づくのを許すものか!」と決別の言葉を吐き捨てるとナサは弓矢を手に取り、男達に照準を

定める。

しかし、ナサが矢を引くよりルシファの合図の方が早かった。

合図を受けた男達は一斉にナサとメルの方に向かって走り出した。

これもルシファの作戦だった。攻撃性のある人間と対峙するより、その人間の

攻撃性を奪ってしまおう、と。

要するに守るべき者である姫を人質にすれば侍女はやむを得ず、攻撃の手を止めるしかなくなる。

それに、弓は近距離戦には不向き。

照準を合わせている隙に殴りでも食らわせておけば良い。


こいつらの負けは目に見えてんだよ。


一人の男はナサの矢を避ける。

その隙にもう一人の男が、楽々とメルを捕らえる。

メルが捕らえられた事に動じ一瞬躊躇ったナサの背後に、風のような素早さで

ルシファが周り強烈な蹴りを入れ、更に男の一人がナサの腹に一発殴りを入れる。

ナサは激しい痛みに耐えきれず嘔吐し、よろけている間に手を縄で縛りつけられてしまった。

「メル様……っ!」

力を振り絞り出した声は掠れていた。

ナサは自分の無力さで守る筈の姫まで危険に晒した事を悔やんだ。


もっと自分に力があったら……どうしていつも……どうして!


ルシファは二人を眺め回し満足そうな笑みを浮かべる。

「良い眺め。困り果てた者に手を差し伸べて希望を与え、信じ切った所で絶望の淵へと叩き落とす……何度見ても飽きないな。そう思わないか?

これこそこの世で最高に美しいものだろ?」

そう言うとルシファはつかつかとメルの方に向かって歩いてくる。

「傑作だな。本来虐げる者の筆頭の王族のガキがこのあり様。光栄に思え。

そして絶望しろ」

ルシファは乱暴にメルの顎を鷲掴みにすると、自分の方に顔を無理矢理

向けさせた。

これにも彼なりの思惑があった。

と言っても単純にどれ程絶望しているか顔を拝んでやろうとしただけだが。

特に王族の者の。

「お前は今日から俺の人形だ」


だがその顔は。

静かな眼差しで彼を見据えただけだった。


その瞳に光を宿しながら。


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