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第8話 日本総合研究機構

 翌日、窓から射し込む心地よい朝日によって目が覚めた。


「ん……おはよう」

灼狐(やこ)、おはよう。寝心地はどうだった?」

「……凄く良かったよ」

「それは良かった。朝ごはん出来てるから出来るだけ早く来てね」

「分かった」


 そう言って母さんが寝室から出ていくのを見て、転生前の小学~高校時代を思い出す。

 これから毎日の深夜までの仕事に追われない、忙しくも楽しい生活が始まったと言う事に心踊らせながらリビングへ向かうと、健康に良さそうな日本食

 がテーブルに並べられていた。


「……美味しそう」


 特にその中にあった、鮭をバターか何かで焼いた料理から香る匂いに食欲を刺激され、挨拶も忘れてかぶりついてしまった。


「美味そうに食うよなぁ。それだけじゃなく、料理の腕も良いとか(うらや)ましいぞ」

「いつだか春也(はるや)が夕ごはん作ってくれた時、卵焼きが()げすぎて炭化した何かになってたり、何をどう間違えたのかホットケーキに塩とか……」

「灼狐の前でそれ以上黒歴史をさらさないでくれぇーー!」


 そんな(にぎ)やかな雰囲気の中朝食を取っていると、家にある固定電話が鳴った。俺が電話に近かったので出ようとすると、父さんに止められた。

 何でも、養子として娘を迎えたことをまだ誰にも言っていないので仮に電話の相手が知り合いだった場合、変な誤解とかされそうだからだと言う。

 なので俺は電話の前から退き、父さんが代わりに電話に出た。


「はいもしもし、諏訪野(すわの)ですけど…… ああ、神林(かんばやし)か。昨日は本当にありがとうな」


 電話の相手はどうやら神林警部だったようだ。戸籍とかの問題が解決したには早すぎるので、多分それ以外の用件だと思う。


「俺も優菜(ゆうな)も今日は休みだから予定は空いてるぞ。そんな事聞いてどうした? なるほど、日総研に灼狐を連れてけば良いんだな。分かった」


 その言葉を最後に通話は終了した。


「ねえお父さん、私を日総研って所に連れてくって聞いたけど、何しに行くの?」

「ああ、それはだな……」


 父さんによると、俺の戸籍や国籍を得る為そこにあると言う最新機器での特別検査等が必要だと言う指示を上の方から神林警部が受けたらしく、それをこちらに伝えてきたとの事。

 検査が必要な理由は、人間に酷似(こくじ)しているとは言え、狐耳と尻尾を持っているファンタジー世界で言う所の『獣人』である俺が、身体の構造の違いや未知の細菌やウイルス等によって人間側に不都合を引き起こす可能性が無いとは言えないかららしい。


 まあそれもあるだろうが、恐らくは俺の身体等を調べて人の役に立つ何かを見つける為というのが主な理由だろう。


「その特別検査っていつからやるとか言ってた? あと、どこでやるって?」

「確か東京駅から歩いて15分の所にあるデカい日本総合研究機構って看板のある建物内でやるらしい。時間は特に言われなかったけど、向こうが待っててくれるらしいから早めに行くぞ」

「分かった。けど、ずいぶん急だよね」


 本当なら母さんの作ってくれた和食を堪能したかったが、出発まで時間がないから仕方なく急いで完食した。店で出る和食と遜色(そんしょく)ない美味しさだった。


 そして、俺専用に改造された服に着替えて持っていく荷物を用意してもらったリュックに入れて日本総合研究機構のある東京に車で出発した。

 特別検査と言っていたが一体どんな検査が待っているのだろうか?

 まあ流石に手術レベルまでは行かないと思うが、()()と言う言葉がついている以上、それに準ずる何かをされることは間違いない。


 これからされるであろう事を想像しながらドラ○もんのマンガ本を読んだりして過ごしていると、いつの間にか到着していたみたいで父さんに声を掛けられた。車を降りるとそこには、ネーオンの何倍もの大きさの建物に敷地があった。


「ここが日総研……大きい」

「俺も生で初めて見たけど、本当凄いな」


 建物の大きさと敷地の広さに衝撃を受けながら建物に向かっていると、その入り口で待っていた神林警部に声を掛けられた。その隣にはいかにも研究者と言う格好をした眼鏡を掛けたおじさんが居た。


「急に呼んだにもかかわらず来てくれてありがとう春也と優菜さん、そして灼狐ちゃん。この人が今回の検査に(たずさ)わる村上(むらかみ)さんだ」

「私が日本総合研究機構の幻想科所属で、今回の特別検査を主導する村上陽治(ようじ)だ」

「よろしくお願いします!」

「はい、よろしく。では早速検査をしようと思うが、問題ないかい?」

「はい。問題ないです」


 最初にやったのは、至って普通の身体測定と健康診断だった。身長に体重・レントゲンに尿検査・視力に聴力・心電図という順番でやった。視力と聴力が人間をはるかに超えている事、体温が38.5度と言う事、レントゲンに狐耳に尻尾が映っているなど、やはり普通の人とは大きく違う結果となっている。


 一番最後の採血は、未知のウイルスや細菌・物質等のチェックの為少しだけ余分に取ると言われた。正直採血は苦手なので余分な分は断りたかったが、そういうわけにもいかないので了承する。

 たった数十秒の事なのに何分も待たされているような気がしたので、早く終われと願っていると……


「うおっ! 熱っちい!」


 採血をしてくれている男の人が突然そう叫んだ。


「どうしたの? 大丈夫?」

「ん? ああ、ごめんね。君の血を採った容器を触ったら凄く熱くて、つい」


 そんな事があったものの何とか採血も終え、待合室に案内された。しかし、血を採った容器がそれほどまで熱いとは……改めて人間とは大幅に身体が違う事を痛感した。


 ひとまず一通りの検査は全て終えて、待合室でお父さんからもらったマンガ本を読みながら待っていると、村上さんがやって来た。


「お疲れ様。それにしても、予想してたけどやっぱり人とはかなり違うな」

「はい、そうみたいですね」

「それで話は突然変わるが、折り入って君に頼みがある」


 村上さんがそう切り出してきた。その頼みとは何なのか聞いてみると、俺の尻尾の毛や髪の毛等の提供とのことで、理由の方はもしその提供された物から人に有用な性質が見つかり、これからの生活がより便利になると考えたら研究欲が出て来て抑えられなくなってきたかららしい。


 まあそれ位だったら良いかと思ったので、髪の毛は見た目の問題から1cm切り、尻尾の毛は3本の尻尾から均等に抜いて合計1㎜の束になるように渡す。

 他には3㎜程の皮膚片、唾液等を提供した。


「どうもありがとう。こんなにも頂けるとは感謝しかない」

「いえいえ、私に出来ることだったから大丈夫です。それで、もうおしまいですか?」

「えっと……ああ、もうおしまいだ」


 どうやらこれで終わりのようなので、父さんと母さん・神林警部の待つ場所に行って検査が終わった事を伝え、日総研を後にした。

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