第3話 外食してたら魔物が来た
「不味い……この状況は不味い」
おっさんからはあの術で逃げ切れたものの、パトカーの横をあの姿で駆け抜けたのは失策だった。
運の悪いことに、何故かカメラを持っていた警官と目が一瞬合い、この姿をバッチリ捉えられた。術を掛けたおっさん2人との関連も場合によって調べられるかも知れない。これから大変な事になるだろう。
家についてからはあの謎の気配は感じなくなり、狐耳と尻尾を収納出来るようになった。
恐らく、俺の身に危険を及ぼそうとする人や出来事に対して不快感と言う形で先に知ることが出来る能力が身に付いているのだろう。
そしてさっきのように実際に危機が迫ってくると、自動的に狐耳と尻尾が展開された戦闘形態になる能力もついていると。
「悪意を持つ気配を感じたらすぐにその場を離れるようにしないとヤバイな。今回は知らない特殊能力に救われたが、次も乗り切れるとは限らないしな」
調子に乗りすぎないように自分を戒めた所でネットニュースやツイッターを見始めた。
自分と同じか似たような経験をした人の事例探し、3日前に出たと言う魔物の情報を収集等、今後の生活指針を決める為に重要だと思ったからだ。
しかし、まだ時間がそれほど経っていない為か真新しい情報は特に見つからない。念のためもう少し深く探って――
「ん? 何だこれ」
探り始めた瞬間、とある数秒の動画つきツイートを見つけたので見てみる。
するとそこには、狐耳と尻尾を展開した俺が荷物を持ちながら全速力で駆け抜けるシーンが写っていた。
本当に油断できない。気づかないところでいつの間にか撮影され、拡散されてしまう可能性を考えると、外出時にはよりいっそう気をつけなければいけないだろう。ツイッターに公開されている時点で遅い気もするが。
そんな事を考えていると、俺のお腹がグゥ~っと音を立てて鳴る。
そう言えば朝食の量がかなり少なかったな。
対策を考えるのはひとまず後にして、まずは昼食を作るために冷蔵庫の中身をチェックするが……
「しまった! 最近コンビニ弁当ばっかりだったからロクな食材なかったんだった!」
仕事から帰るのが遅い日が続いていた為、料理に時間をかけるのが勿体ないと言う理由でコンビニ弁当生活を続けていた。
その為冷凍食品すら買うのを忘れてしまい、この結果となってしまった。
さっき出たときに買えば良かったのだが、あいにく手荷物が大量にあったので断念した。
「どちらにせよ、外出しなければならないのならいっそのこと近所のレストランで食べるか。その後にコンビニで冷凍食品買い込めば良いしな」
よく行く近所のレストラン『うまみ亭』で昼食をとることにした俺は、早速準備を始める。
まずは今着ているブカブカの男物の服を脱ぎ、さっき買ったばかりの女の子用の服と下着を着る。
上着の方は男の時と劇的に変わっている部分はなかったのですんなりいけたものの、下着の方で主に精神的な面で苦労した為、着替えに15分もかかってしまった。
そうして着替え終えた後、財布にお金を3万円程入れて、その他必要なものをリュックに詰め込んで出発する。
その道中、柳森公園近辺を中心にいつもより警察官の姿が多く見えた。
恐らく俺が倒れていた場所にあった血を見て誰かが通報でもしたのだろう。
そう考察しながら20分歩くと、うまみ亭に到着した。
平日の昼間なのにとても人の入りが良くて混んでいたものの、運良く席を見つけて座ることが出来た。
良く考えたら平日の昼間に見た目中学生の俺が外をウロウロしているのは不味いのではないかと思った。
しかし、そんなこと言っていたら外出出来なくなるので気にしないことにして、いつもの600円ハンバーグ定食と355円のサラダを注文した。
そして25分程待ち、注文した料理がテーブルに運ばれてきた。
「お待たせしました。ハンバーグ定食とサラダでございます」
「ありがとうございます!」
料理を運んできた店員と数秒目があったものの、不快感は感じなかった。
俺の姿が珍しいから見ただけだろう。
それはさておき、注文して来た定食とサラダを食べる。
「ん~~! 美味しい!」
定食にしては安めの値段設定だが、メインのハンバーグ含めてどれも高級食材を使っているかのようだ。相変わらず美味しい。
サラダの方は苦味が前よりも増し、全体的に味が変な気がする。
うまみ亭の料理人が食材選びを含めて料理に手を抜く事など考えられない。
恐らく、狐少女に変化したから俺の好みが狐の方に寄ったのだろうと推測した。
と言うかこの身体の小ささの割に食べられる量が転生前と殆んど変わっていない。これも変化のお陰だろうか。
そう考えている間にもう殆んど食べ終えたが、妙に肉系の料理がもっと食べたくなってきた。
なので偶然側を通りかかった店員さんに追加でハンバーグ定食と豚の生姜焼きを頼む。
若干引かれているような気もするが、周りの目を気にするよりも食欲を満たすのと美味しい料理を堪能する方を選んだ。
待つこと30分、追加の料理が到着した。肉の香りが食欲をそそる。
「いただきま~す!」
そして豚の生姜焼きに手をつけようとした時、突然例の不快感が襲ってきた。
咄嗟に床に伏せると、その少し後にガラスを豪快に破壊する音が聞こえた。
「うわぁぁぁーー!」
「ぶ、豚の化け物ぉーーー!!」
「早く逃げろ!」
どうやら店内に豚の化け物とやらが入って来たらしい。そっと起き上がって見てみると……
「コイツら……」
ゲームやラノベ等で良く登場する、豚のようなオークと言う魔物だった。
普通なら逃げる選択をしていただろうが、その前に運ばれてきた料理の惨状を目撃してしまった為動けなかった。
それは、ガラスの破片や泥・謎の物体によって汚染された生姜焼き、衝撃によって床に散乱したハンバーグ定食だった。
「あ……うぅ……」
「おい! 嬢ちゃん早く逃げろ!」
その声の方に向くと、オークが今まさに俺を襲おうと持っていた武器を構えて向かってきていたが、怒りに支配されていた今の俺には逃げると言う選択肢は無かった。
「私のご飯をよくもこんなにしてくれたなぁーー!!」
狐耳と尻尾を解放し、戦闘体制に入る。
まずは武器を持っている方の攻撃を避けた後、その腕を掴んで火を纏った脚でかかと落としを御見舞いした。
折れるまでは行かなかったが相当のダメージを負ったらしく、武器を落として苦しむ。
もう一方のオークには頭に浮かんだとある術を御見舞いする。
「『狐術・炎尾針』」
尻尾に生えている沢山の毛を針のように固く鋭くした後、炎を纏わせて相手に発射する。
沢山の燃える針と化した毛が刺さったオークは、その身を焼かれながら倒れる。
腕を負傷させたもう一方にも同じ術を使い、倒すことに成功した。
こうして戦闘は終了した。
被害は店の一部が壊される・何人かの料理が悲惨なことになる・オークに驚き転倒したお年寄りが軽い怪我を負う等はあったものの、死傷者は居ないようで良かった。
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