第5話 『放課後』
放課後になり、生徒たちが部活へと走っていく。
木曜日の7限授業は週で最大の難所と同時に、明日の次は休日という、希望を持たせるものでもあった。
帰宅部の晶斗は、夕方の少し前という空気を味わいながら、校門へと向かう。
二学期が始まったからといって、何も変わらない日常には、失望と共に、はぁ…という溜息が漏れた。
「…。いや、少し、違うな」
夜月麗奈という少女との出会いは、バニラ色の日常に、僅かな色彩の変化をもたらした。
とはいえ、自身の生活が劇的に変わるということはなく、今日も午後4時20分になる頃には、自宅の玄関へとたどり着いた。
鞄から鍵を取り出し、鍵穴へ差し込もうとしたその時、扉の向こうで、物音がした。
(なっ、泥棒か…?)
通報するか、とも思ったが間違いだった時のことを考えると、まず自分の目で確認するのが良いだろうという結論に至った。
身を守るのに手頃な物も周りにはないので、鞄を盾にしながら、ゆっくりと鍵を差し込み、右に回す。
ガチャリという音をたてて、解錠された。
ドアノブを捻り、少しだけ扉を開く。
その隙間から玄関を覗くが暗くてよく見えない。
心臓が早鐘を打ち、手に汗が滲むのを感じながら、少しずつ隙間を広げる。
外から、傾きかけの太陽の光がスリットのように扉の隙間に入り込み、その内側を照らす。
「うわぁっ!」
突如 、目の前に何かが現れた。
そのまま後ろに下がろうとしたが、足がもつれて尻もちをついてしまう。
「おかえり、お兄ちゃんっ!」
それは女の子だった。
「ーそういう訳で、これから一緒に暮らすことになりましたっ!」
どういう訳なのか、まるで分からない。
「まあ、お兄ちゃんっていうのは冗談だけどね?」
「いや、だからな、どうして麗奈先輩の妹さんが俺と暮らすの?!」
そう、彼女は夜月麗奈の妹の璃奈と名乗っているのだ。
確かにそう言われると、髪型はツインテールで、いくらかの幼さは残るが、美しい黒髪や人形のように整った顔立ちは姉とそっくりだった。
しかし、これらは本当の問題と比べると、大したものではない。
彼女はどう見ても、透けているのだ。
下着が、ではない。
彼女の座っているソファー、本来見えるはずのない背中のもたれている背もたれが見えているのだ。
「ええと、お前は、幽霊なの?」
「んー、まあ、似たようなものかな?」
彼女は首をかしげて微笑むが、どこか悲しそうにも見える。
何となく気まずいので、あー、まあいいよ。と適当に話題を逸らす。
細かいことは明日にでも麗奈先輩に聞こうと思う。
「ところで、本当にここに住むのか?」
既に何度も繰り返した質問をもう一度。
「ダメ、なのかな?でも、私はいつでもこの家に入れるから、拒んでも意味ないと思うけど」
いたずらっぽく彼女は笑う。
その通りだった。
彼女はそもそも壁をすり抜けたのか、ワープでもしたのか、鍵などには一切触れずに侵入していたのだ。
明らかに普通の事態ではないが、どうしようもないので、晶斗が折れることにした。
「あー、もう、好きにすればいいよ。どうぞ、ここでおくつろぎください!」
「ありがとね!そうする!」
こうして、謎の少女?璃奈と晶斗の共同生活は始まるのだった。
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