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僕の相棒は、ナビのメイドAI アンナちゃん ~車を買ったらメイドがついてきた~  作者: 田波 霞一


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第29話「大学祭と運命の共鳴」

 大学祭当日。


 キャンパスは、ここ数年で一番の賑わいを見せていた。

 模擬店の威勢のいい呼び込み、特設ステージから流れてくる軽音楽サークルの演奏、そして楽しそうに笑いながら行き交う人々。


「……ったく、なんで俺がこんなところで焼きそばを作ってんだが」


 俺は研究室の展示の傍らで、鉄板を前に悪態をついていた。

 理数系の地味な研究室が出す、申し訳程度の模擬店。

 正直、面倒くさいことこの上ない。


 駐車場に停めたA-BOXの中では、アンナがお留守番をしてくれている。

 もちろん、俺とはポケットの中のキーを通じて、いつでも繋がっていた。


《ご主人様♡ 焼きそば、とっても美味しそうですわ! 私も食べたいです!》


 ナビ画面のアンナは、昨日俺が着けてやった、小さなデビルのカチューシャをつけたまま、応援してくれている。


(……離れた駐車場で、一人だけ盛り上がってやがる)

 その健気さが、少しだけ俺のやる気を奮い立たせた。


 * * *


 数時間の格闘の末、ようやく休憩時間をもらえた俺は、人混みの中をあてもなく歩いていた。


「あ、あのー!」


 不意に、背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこにいたのは、ショートカットがよく似合う、快活そうな女の子だった。

 一瞬、誰だか分からなかったが、その太陽みたいな笑顔に見覚えがある。


 俺が何か言うより先に、彼女の方がぱっと顔を輝かせた。


「やっぱり! この前の、銘水の人ですよね!」


 ああ、やっぱりそうか。

 大沢の銘水で出会った、彼女だ。


「奇遇だな。君もここの学生だったのか」

「はい! やっぱりそうだったんですね! 私はミサト、社会・国際学群なんです」


 人懐っこい笑顔で話す彼女に、俺は少しだけタジタジだった。


《……ご主人様、対象個体との再接近を確認。心拍数に不要な上昇が見られます》

 キーを通じて聞こえてくるアンナの声は、どこか不機嫌だ。

 この感じ、またヤキモチか。


 俺がどう返したものか考えていると、ミサトが「あ、そうだ!」と手を叩いた。


「私、友達と来てるんだ! 紹介するね!」


 そう言って、彼女が連れてきたのは、ミサトとは対照的な、少し物静かで、優しそうな雰囲気の女の子だった。


「こちら、親友のレイナ。人文・文化学群なんだ」


「はじめまして、レイナです」

 レイナは、小さく頭を下げた。


「どうも。俺は理工学群の……」


 俺が名乗りながら、レイナと視線を交わした、その瞬間。


《――――ッ!?》


 アンナの息を呑む声が、頭に直接響いた。

 ミサトに対して感じていた、チリチリと焦げるような、分かりやすいヤキモチの感情が、まるで大きな波に飲み込まれるように、すっと消えていく。


 そして、代わりに俺のスマホが、けたたましい警告音と共に激しく振動し始めた。

 画面には、アンナからの、支離滅裂なメッセージが滝のように表示される。


《【CRITICALALERT】ご主人様! 危険です!》

《【至急】A-BOXに戻ってください! 私の回路が……!》

《寂しい……寂しい……寂しい……寂しい……寂しい……》


「うおっ!? な、なんだこれ!?」


 突然のスマホの暴走に、俺は完全にパニックになる。

 ミサトとレイナも「え、大丈夫……?」と心配そうにこちらを見ている。


「ご、ごめん! クルマの調子が……いや、ナビが……! とにかく戻る!」


 俺は訳の分からない言い訳を残し、真っ赤になって、その場から逃げるように走り出した。


 * * *


 大学祭の喧騒を抜け、少し離れた駐車場まで、俺はほとんど小走りだった。

(いったい、なんなんだ!? スマホの誤作動か? それとも、アンナのヤキモチの、新しいパターンか?)


 頭の中は、疑問符でいっぱいだった。

 でも、それ以上に気になったのは、あの支離滅裂なメッセージだ。


《【至急】A-BOXに戻ってください! 私の回路が……!》

 まさか、本当に何かトラブルが起きたんじゃ……。

 そう思うと、自然と足が速まる。


「おい、アンナ! どうしたんだよ一体!?」


 息を切らしてA-BOXに戻り、俺は少し怒ったようにドアを開ける。

 しかし、目に飛び込んできた光景に、俺の怒りは一瞬で消え去った。


 ナビ画面の中のアンナは、小さなデビルのカチューシャをつけたまま、その綺麗な瞳から、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。

 普段は完璧に整えられた表情は崩れ、まるで子供のようにぐちゃぐちゃに泣きじゃくっている。

 そのアバターは、寒さとは違う、内側から込み上げてくる感情の波に耐えるように、小刻みに震えていた。


「……おい、どうしたんだよ? まさか……泣いてる、のか……?」


 俺の戸惑った声に、アンナはしゃくりあげながら、ぐちゃぐちゃに泣き濡れた顔を必死に上げて、俺に訴えかけるように言葉を紡いだ。


《わかりません……ご主人様……っ》

《ただ……あの方を……見てると……胸が、ぽかぽかして……温かいのに……っ》

《でも、とっても……くるしくて……っ、張り裂けそうで……!》

《わたし……どうしちゃったんでしょうか……ご主人様ぁ……っ》


 物語の核心に触れる、大きな謎。

 そして、ナビAIが流す、しょっぱいような涙の味。

 その答えを、俺はまだ、知らなかった。


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