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80. 都市②

 アンネリーゼ達は村の大通りを抜け、領主邸に向かう。

 手を振る民達に笑顔で応えていたアンネリーゼは、道すがらコンラートから村についての詳細な情報を聞き、軽い眩暈に襲われた。

 

 コンラートから聞いた村の規模は直径800メートルを超える円形であり、中規模都市並みの広さだったため防壁の外から見て予想していた規模通りだったのだが、問題は人の数だった。

 通常、平均的な都市の人口は4000人〜5000人程なのだが、現在この村の人口は約9000人…平均的な都市の2倍ほどにまで達していたのだ。

 もちろん人の出入りがあるため多少増減はするが、中規模都市の広さに大規模都市に迫る人がいるとなると色々と問題がある。

 まず一番の問題は居住スペースだが、通常ならば狭い道に2〜3階建ての建物が壁を共有する長屋形式だ。

 現状、まだ木造の共同宿舎が並んでいるだけのこの村に9000人近い人を住まわせる家屋を建てるとなると、その高さが問題になる。

 地震や火事などの天災・人災が起きた場合、倒壊や延焼など被害の規模が拡大するのは勿論だが、何より人的被害が懸念される。

 そして居住スペースによる問題はもう一つ…日照問題による心身への影響と空気の流れが滞ることによる換気、さらには排泄分の処理に関する衛生問題及び健康被害だ。

 帝都や領都であれば衛生面の観点から排泄物を適切に処理しているため臭いは無いが、小規模の街や村ではまだそのような法整備が整っていないため庭先や外に捨てるのが一般的だ…そして、この村もその一つだ。

 今後徹底するとは言え、それが人々に浸透するまでには時間がかかるため、その間に流行病などが蔓延した場合甚大な被害が予想される…恐らく、何割が生き残れるかすら想像出来ない程の被害になるだろう。

 

 小高い丘の上に建つ領主邸に着いたアンネリーゼは、馬車を降りて今しがた通って来た村を見下ろしため息を吐く。


 「コンラート、急ぎお父様に相談し人を送ってもらいなさい…このままでは下手すれば全滅よ」

 

 「はい、仰せのままに…まさかここまで増えるとは思いもせず、自身の認識の甘さを痛感しております」

 

 「人は賢い生き物だもの、仕事にありつけて稼げる可能性があるのならそちらを選ぶわ…それら全てを予測出来る人間なんていないでしょ?今は落ち込むより先を見なさい。

 まずは鉱山関係の人員の整理を優先した方が良いわね…単に人を増やしても生産性は上がらないし非効率だわ。

 人を増やせば細かな連携が増えるし、指示を出すにも責任者が直接伝えられる人数や体制にしておかないと何処かで必ず聞き間違いやミスが起こるもの…それが取り返しの付かない問題だと最悪よ」


 コンラートはメモを取り頷くと、領主邸の使用人に鉱山の責任者を呼びに向かわせる。

 アンネリーゼはコンラートが指示を出すのを待ち話を続ける。


 「コンラート、人員整理で辞めさせる事になった人達にもちゃんと代わりの仕事を与えなさいね…ここまで来るのに苦労しているはずだから」


 「はい、人は資本でございますから無碍にはいたしません…必ず何かしら仕事を与えるよう配慮いたします」


 「なら、その人達には先程提案した新しい村を近くに作らせるのはどうかしら?現状ここは人工過多だし、今のままでは管理は難しいからその人達にはそちらに住んでもらって、農作物や畜産物に携わるように指示すれば良いわ…ここはこれから栄えるし、職にあぶれた人達もその恩恵を受けられると思えば嫌とは言わないはずよ」


 「早急に協議し、予算を組み次第取り掛かります」


 アンネリーゼはコンラートの言葉に頷くと、肩を落とし深くため息を吐いて苦笑した。


 「はぁ…なんだかどっと疲れたわね」


 「面目次第もございません…」


 「ふふっ、でも来て良かったじゃない?私が直接見て感じたからこそお父様達を急かす材料が出来たのだし。

 文の用意が出来たら教えてちょうだいね、私からも早く人を寄越すように一言付け加えるから」


 「ご配慮いただき感謝いたします。

 では、お疲れでしょうし中へご案内いたします」


 「ありがとう、村は明日回らせてもらうわね…ほら、皆んな中に入るわよ!」


 アンネリーゼが後ろを振り向き声を掛けると、レベッカがリーゼロッテに手を引かれて走って来る。

 カミラやエマ達、ガーランド達護衛騎士もリーゼロッテを側で見守っていたらしく、アンネリーゼに呼ばれて慌てた様子で走って来た。


 「何をしていたの?」


 「村?を見てたわ!」


 「疑問系なのね…仕方ないけれど。

 何か面白そうなものは見つかったかしら?」

 

 「お店みたいなのがあったわ!」


 「そう、なら明日行ってみましょうね」


 「はい!」


 リーゼロッテの元気な返事に頷いたアンネリーゼは優しく頭を撫で、ずっと相手をしてくれていたレベッカに微笑んだ。


 「ごめんなさいね、気を遣わせてしまって…少しばかり込み入った話があったものだから」


 「構いませんわ…込み入った話とはこの村の事ですの?」


 「ええ、貴女も見ていたでしょう?数年前にこの地でミスリルの鉱床が見つかったものだから、それ以来仕事を求めて人が集まり過ぎてしまったのよ…贅沢な悩みではあるのだけれど、起こり得る問題を考えれば喜んでもいられないわ。

 ありがたい事に住居の問題、衛生面の問題とか色々と山積みよ…」


 「諸々の問題はありますが、世の中良い人間ばかりではありませんし、人が集まればそれだけ悪い人間も紛れ込みますものね…木を隠すなら森の中とはよく言ったものですわ」


 「ベルタンからも?」


 「それはまた後ほどお話しいたしますわ」


 レベッカはそう言って苦笑すると、アンネリーゼに領主邸を見るように促す。

 アンネリーゼは領主邸を見ると、コンラートが律儀に待っているのに気付き慌てて駆け出し謝罪をして中に入った。

 邸内は新しく建てられたこともあってか使われている木材の匂いで満たされており、アンネリーゼは深呼吸をして満足気に頷いた。


 「やっぱり新築の匂いって良いわね!」


 「不思議と落ち着きますわよね」


 「???」


 2人の言葉の意味が分からず首を傾げるリーゼロッテの頭を撫で、アンネリーゼは苦笑する。


 「貴女にもこの匂いの良さが分かる日が来るかもしれないわね」


 「別に分からなくても困りませんけどね…」


 「そういう野暮なこと言わないでよ」


 レベッカは不機嫌そうに口を尖らせるアンネリーゼを見てくすくすと笑い、案内に従い部屋に向かって歩き出す。

 アンネリーゼはため息を吐いて後を追うと、案内された部屋に入るなりベッドに飛び込んだ。


 「まーたそうやって飛び込む…シワになるから着替えてからにしてくれない?面倒なのよシワ取り」


 「あら、これから数日寝るベッドなのだから真っ先に寝心地を確認するのは何よりも大事なことよ?睡眠の質は高いに越したことは無いわよ」


 小言を言われ起き上がったアンネリーゼがそう答えると、ターニャはアンネリーゼの脇を抱えて立ち上がらせ無理矢理着替えさせる。


 「どうせ立ってても寝られる癖に睡眠の質とか笑わせないでくれる?」


 「あら、流石に立って寝るのは緊急時くらいのものよ?普段は質を大事にしているの…いざという時の為に良く寝てしっかり起きるべきじゃない?」


 「はいはい、寝てる時にも常に警戒して何か気配があればすぐ起きる人が何言ってんの?としか思えないわよそれ」


 「本当に減らず口ばかりね貴女…」


 「はいはい、お互い様お互い様…はい出来た」


 「ふふっ、ありがとう…口は減らないけど仕事はきっちりしているところは可愛いわよね貴女」


 アンネリーゼがくすくすと笑うと、ターニャは見るからに嫌そうな表情を浮かべた。


 「歳上に可愛いとか言わないでよ…」


 「あら、貴女とミレーナは確か今22歳だったわよね?私は17歳で死んで5歳に戻ったのだから、今の精神年齢は貴女達より歳上よ?」


 「じゃあババアという事ね」


 「…身体の年齢は貴女とは比べるべくも無く13歳の美少女なのだけれど?私の身体が今の貴女の年齢になった時が楽しみね…貴女が歯を食いしばり過ぎて奥歯が砕けるくらい悔しがらせてあげるわ」


 「そういうの屁理屈って言うのよ?精神年齢歳上って言ったり身体は歳下って言ったり虚しくならない?」


 「別に?だってこれも私の立派な武器だもの」 


 アンネリーゼがそう断言して胸を張ると、呆れていたターニャが小刻みに肩を震わせくつくつと笑い出した。

 それに釣られてアンネリーゼも笑い、2人はひとしきり笑った後目元に浮かんだ涙を拭った。

 

 「笑い過ぎて涙が出るなんて貴女とじゃなきゃあり得ないわね…ありがとう、疲れが飛んだわ」


 「それは良かったわ」


 「それじゃあレヴィのところに行きましょうか」


 「了解」


 アンネリーゼはベッドに飛び込んで乱れた手早く髪を整えると、先程聞きそびれた件を聞くため、ターニャを連れてレベッカの部屋に向かった。

 

 




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― 新着の感想 ―
私 『コ◯ン君と御呼び致しましょうか?』 アンネリーゼ 『あんな死神小僧と一緒にしないで下さいます?』 公害知識は未だ一般的では無いのかな? 鉱毒問題が発生しないと良いのですが ・・・
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