ミミリさんの診察小屋
「夢の中の友達に怒ってるって言われて…でも何で怒られているのか、わからなくて…」
ミミリさんに正直に悩みを話してみると、すごく困った顔で私を見つめる。
やっぱり言わない方がよかっただろうか。
「えっと…そのお友達はお城に住んでいる人なのかしら?」
「いいえ…」
「じゃあお城の外に?」
「いいえ…」
「…あなたの夢の中だけ?」
「…はい、だから、その…言いづらくて…」
「そう…」
おかしな子だと思われてそうだけど仕方ない。
それに予想外だったのか困惑しているみたいだ。
何か話を変えた方がいいだろうか。
「あの…ミミリさんはお兄さんとよく喧嘩とかしますか?」
「あなたくらいの時はしょっちゅう喧嘩してた。流石に最近はしてないけどね」
「あの失礼ですが、おいくつなんですか?」
「百二十よ。わかる…このお城にいると混乱するものね…」
「まさかあなたも実は年上だったり…?」
「いえ…私は零なので…」
「赤ちゃんじゃない!?」
ミミリさんが突然テーブルを叩いて身を乗り出してくる。
「人工霊はそういうものみたいです…以前お城に来た剣の精霊の方も生まれたときから成長した姿だったそうなので…」
「そうなの…けどそれなら怒られても仕方ない。まだまだこれからいろいろ知っていくんだから」
「でも、仲直りしたいんです…」
「ちゃんとそう思ってるなら大丈夫よ。次に会ったときに正直にごめんなさい、でも言葉にしてくれないとわからないって伝えてみて。相手もあなたと仲直りしたいと思ってくれていたらちゃんと教えてくれるはず」
「もし…教えてくれなかったら?」
「その時はもう戦うしかないわ。ハルメイニアは問題が起きた時、決闘で決着をつけるの。相手の命を奪ってはいけない以外なんでもありの決闘でね」
急に物騒なことを言い出すのは最強の種族の片鱗なんだろうか。
「その…夢の中でなら戦っても大丈夫なんでしょうか?」
「そういえばあなたは何の精霊なのかしら?」
「私も武器の精霊です」
「そう…状態的にはまだ魔力を使うのも激しい運動も控えるべきね」
少しミミリさんが考え込む。
「夢の中でもまだ控えるべきかもしれない。眠っている間に無意識に魔力が活性化してしまうかもしれないからね」
「そうですか…」
仲直りはまだ先になりそうだ。
「そんなに落ち込まないで。この間よりはずっと良くなってるから。そうね、軽い運動くらいなら許可する。森の散歩くらいには行っても大丈夫。走り回ったり、遠くに行きすぎて疲れすぎないように注意してね」
「ありがとうございます」
「最後に何か質問とかはある?」
質問、ずっと気になっていたことを聞いてみよう。
「えっと、身体のこととはちょっと関係無いんんですけど、どんな風に魔力が見えているんですか?」
「そうね、煙みたいな感じかしら。身体の中に漂っている煙が見えるの。森の中もそうよ。様々な煙が漂って流れているように見える」
「煙…」
手のひらを見てみてもさっぱりわからない。
「初めて森でお会いしたときはどんな風に見えていたんですか?」
「そうね…分かりやすく言うと狼煙みたいな感じかしら…身体中から魔力が漏れ出ていたわね」
「そのせいでお兄さんに危ない人だと思われたんでしょうか?」
「一理あるわね。けど単純に知らない魔力の人が入ってきたから警戒していただけよ」
「そうですか…」
「ちなみにこの間は煙はほぼ無く身体はひびだらけだった。今はひびはだいぶ無くなった」
「ひび…」
身体には不思議と傷一つ無かったのにひびとは何だろうか。
「あなたが精霊で身体も魔力で出来ているからかしらね。煙とは別にひびが入っているのが見えてる。魔力を使ったら、恐らくひびの所が痛むと思う」
ミミリさんが椅子から立ち上がり、テーブルを回り込んで私の部屋の横へ来て、私の両手を優しく握る。
「特に両手がひどいから武器も魔力も使っちゃダメよ」
「…はい、わかりました」
なにをしたのか説明していないのに両手がひびだらけと言うということは、本当に見えてるということだと思う。
信じていなかったわけじゃないけどはっきりと実感した気がした。
手を放し、そのままミミリさんが扉を開く。
「診察は終わりよ」
促されるままに小屋から出ると、小屋が縮んで消えてしまう。
「じゃあガンドルヴァルガ。暫くは西の方にいると思うから」
「わかった。荷物はアリシアが用意しておる。何かあればいつでも頼っておくれ」
「ありがとう。族長にもそう言っておく」
私の耳元で仲直り出来るように応援してるからねと囁いて、ミミリさんが謁見の間から去っていく。
「ナズナ、どうだった?」
「まだ、魔力や武器は使わないようにと言われました」
「そうか…」
「けど軽い運動なら大丈夫って…」
「そうかそうか。良くなっているようでよかった。エリンは教えてくれなくてのう…」
「ちゃんと教えたじゃない。ナズナに秘密を教えてもいいんだよ?」
「それは…ただ心配なんじゃ!」
「ありがとう。でも大丈夫、もう魔法も使っていいらしいから」
「そうか…よかった…」
「じゃあまたあとでね。オークとゴブリンの族長が来るって聞いたよ?」
「ああ、月に一度の会議でな。またあとで」
エリンさんに手を引かれながら謁見の間を後にする。
ガンドルヴァルガさんの秘密ってなんだろう。




