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手紙の返事

「…そして彼は北部戦線で魔王軍の軍団長デルファルを殺さずに倒し、保護したことをきっかけに勇者と呼ばれ始めることになったのです」

「先生、デルファルさんは今もまだご存命なのですか?」

「さすがにそこまでは…魔族と言いましても様々な異形種族の総称ですので寿命のことまではわからないですね。ただ彼女は戦後に故郷の地に孤児院を作って、ゆっくり暮らしていたそうですよ。ハクレクヒト人魔共同孤児院と言って、今では観光地にもなっているイー大陸では有名な孤児院だと聞いています。他に質問は?」

「いいえ」

「では、続きは明日にしましょう」

「はい、ありがとうございました先生」


 視察とかに行けないかなと考えていると、家庭教師が扉から出ていくのと入れ替わりにレーシャと近衛兵が一人、部屋に入ってくる。


「失礼します。レイゼリア様、手紙が届いていましたよ」

「ありがとうレーシャ」


 レーシャから受け取った封筒には葉のような印がついている。森の賢者様からだ。

 封を空けて中身を確認する。

 手紙が三枚と魔法陣が書かれた紙が一枚。

 勝手に何かが発動したりすることもないから大丈夫そうだ。


「大丈夫よ。確認ありがとう」

「はっ!では失礼します!」


 近衛兵が部屋を後にし、レーシャと二人きりになる。

 お兄様が帰還がして手紙を送ってからまだおよそ一月経ったくらいだろうか。早い返信だ。

 早速、手紙に目を通す。


 お久しぶりです。レイゼリア姫。

 世間話でも語りたいところですが、森に閉じ籠っている私には無理そうなので、さっさと本題に入りましょう。

 魔物の巨大化につきましてはこちらでも以前から報告を受けています。

 しかし、魔物の変異につきましては噂の域を出ず、調査をしていませんでした。

 至急こちらでも調査を始め、何かわかれば各国、各ギルドへ情報を提供します。

 そしてガンゼツの武器に関しては残念ながら話すことはできません。

 一国のみに肩入れするようなことになります。

 そのようなことは立場上難しいことをご理解下さい。

 最後に可愛い孫弟子へ、公務や勉学で忙しいかもしれないが、たまには南東のヘーンド遺跡や西の包みの森に行って魔法の研鑽を怠らぬように。

 景色も良い所で、歴史の勉強にもなって、息抜きもでき、きっと楽しく過ごせるはずだ。

 そして魔法陣はエリュからで、時間のある時に一人で使ってほしいとのこと。

 では、またいつでも手紙を送っておくれ。


 ヘーンド遺跡も包みの森も、かつて魔族との大きな戦があった場所だ。

 もしかしてガンゼツの武器が出土する可能性があるということだろうか。

 賢者様にお礼の手紙とワインを送らないと。

 そして魔法陣は師匠から、一人で時間のある時にということは、もしかしてナズナかリネ様のことだろうか。


「レーゼ様…にやけてますよ?何か良いことが書いてあったんですか?」

「ええ、師匠から連絡がしたいって。ナズナとリネ様のことなんじゃないかなって」

「それは良かったですね。でも一応気をつけて下さいね」

「わかってるわ。ありがとうレーシャ」

「いえ…お茶をお入れしますね」


 お兄様が帰還してから、どうやら私には監視がつけられているらしい。

 お兄様が私を厄介払いしたいのか、刀の所在に嘘をついていると思われているのか、昔のように本音で話し合えるようになる日がまた訪れることを願ってはいても、お互いの立場を考えるとそんな日はきっとしばらくは訪れない。

 どこかの王家や貴族に嫁いで姫では無くなったとて、私に流れる王家の血が邪魔をするんだろう。

 とりあえず今、城で師匠と連絡を取るのは危険だろう。

 何か手を考えないと。

 ヘーンド遺跡と包みの森、遺跡の方が一人になりやすいだろうか。

 森だと、つけられていても気付きにくいだろう。撒くのは楽かもしれないけれど。

 後はお父様になんて言って許可を貰おうか。


「レイゼリア様、どうぞ」

「ありがとうレーシャ」


 取っ手を摘まんで、カップを口に運ぶ。

 あぁ今日も落ち着く。

 扉を叩く音がする。何かあったんだろうか。


「どうぞ」

「失礼します。レイアルト様がお話がしたいと仰せです」


 兵士が一人伝令にやってくる。

 お兄様は手紙のことを誰かから聞いたのだろうか。


「わかりました。今はどちらに?」

「レイゼリア様のお好きなアルブのお菓子を御用意して、庭園でお待ちです」

「では用意をして伺いますので少しお待ちして頂くよう伝えておいてください」

「承りました。それでは私はこれで失礼します」


 兵士が扉を閉めて離れるのを確認してから、レーシャが口を開く。


「レイゼリア様、こんなことは言いたくはないのですが…」

「わかってるわレーシャ。手紙のことがどこからか漏れたのかもしれないわね。まぁ隠しているわけではないからいいのだけど…ちょっと動きが早すぎる…」

「…念のためにメイド達へ今一度注意を促しておきます」

「ええ、お願いね」


 気乗りはしないけど行くしかないので、用意を済ませて、レーシャと一緒に庭園へと向かう。

 テーブルには城下町で人気のお店アルブのお菓子がたくさん並んでいて、元々今日何か話があったのかなと、少しだけ私の中でお兄様への疑いが晴れた。

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