↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/471

強がり

 ナズナが一人で迷宮に入ってからもう十日目の朝が来た。

 もうミーティアとリネの精神状態がかなり危険だ。

 リネは毎日、何度も迷宮の入口を塞ぐ石の壁に突進を繰り返し、私が魔法で強制的に眠らせることしかできなかった。

 ミーティアも毎日コーネルに頼み込んでは石の壁に斬り込み続け、コーネルの両手が血だらけになってやっと冷静さを取り戻したようだけど、毎晩一人で石の壁を壊そうと挑み続けている。

 そんな二人を見ているから私は今冷静でいられるのかもしれない。

 しかし、一日中何か方法はないかと考えても数百年誰も入ることの出来なかった迷宮への侵入方法は簡単には浮かばない。

 もうあのクソ男を呼ぶしかないか。

 そんな時、地響きが起きて迷宮の入口が激しく揺れる。


「エリュさん、これはナズナちゃんが上手くいったってことなんじゃないか…?」

「そうだといいわね…」

「なに!?ナズナは無事なの!?」


 入口を塞いでいた石の壁がひび割れて崩れ、中から魔力流が激しく押し寄せる。

 迷宮の主が倒されてから迷宮が崩壊を始めるまでには数日の猶予がある。

 崩壊が始まった時に迷宮の中にいた人達は不思議な魔法で外に送られる場合もあれば、その場に取り残されて自力で戻る必要がある場合もある。

 元の遺跡や洞窟等の広さと迷宮の広さが大きく変わっている場合は前者の場合がほとんどだ。

 しかしナズナにその魔法が効くかは怪しい。

 もっとちゃんとナズナにいろいろ教えておくんだった。攻略しながらゆっくりいろいろ教えていけばいいと思って油断してた。

 これがエルフの悪いところだ。時間がたっぷりあるばかりに、何でもかんでも後回しにしてしまう。

 障壁を張ってみんなを魔力流から守りながら、ナズナが出てこないか入口を見つめ続ける。

 少なくとも一時間程は魔力流が続いただろうか。

 障壁を消すと、ミーティアが駆け出して行こうとしたところをコーネルに止められる。


「ミーティア、落ち着け。まだ危ないから…」

「でも!中で怪我して取り残されてるかもしれないわ!」

「コーネルの言う通りよ。まずは落ち着きなさい」


 この遺跡は元々は勇者達が隠れ家として一時的に拠点にしていたと聞いている。

 広い大きな部屋が1つと小さな部屋がいくつかあったという噂だ。

 入口の前に立つ。真っ暗で何も見えない。

 何か音が聞こえる。

 ざざ、ざざ、と何かを引きずるような音が聞こえる。

 念のために杖を構えて、いつでも魔法が使えるように魔力を流す。

 ゆっくりと、着実に音が大きくなってくる。

 ざざ、ざざ、ざざ、と暗闇に薄く人影が浮かんで見え始め、すぐに警戒を強くする。

 ナズナじゃない。ナズナよりも背が明らかに高い。


「誰?……あなたはナズナ?」

「いいえ………違う…」


 聞き覚えのある声が返ってくる。

 

「エリンさん?」

「ええ……ナズナが…助けてくれた…」


 入口から出てきたのは肘と膝から先が真っ黒に染まった手足にナズナが着けていた青いケープを羽織った黒髪で黄色い瞳の女性。

 胸の前で右手を左手で握り込みながらゆっくりとおぼつかない足取りで近づいてくる。

 髪の色や瞳の色が変わっているけれど、確かに肖像画と最後に見た時の姿の面影がある。


「ごめんなさい…念のためにあなたの兄弟の名前をお聞きしても?」

「もちろんよ…森の賢者メリエ・エイレリア・ガンドルヴァルガと…族長エアドナード・エイレリア……」

「本当にエリンさんなんですね?」

「ええ…」 


 エリンさんがよろけて後ろへ倒れそうになり、咄嗟に魔法で綿毛を出して受け止める。

 そこにミーティアが駆けてきて、エリンさんの顔を覗き込む。


「ごめんなさいエリュ!でも彼女が気を失う前に聞かないと!」

「ナズナの…ことですよね……」

「そうよ!ナズナはどこにいるのかしら?早く向かいに言ってあげないと!」


 エリンさんが右手を握っていた左手を放し、右手を握ったままミーティアに差し出す。


「これを……」


 ミーティアが両手で受け皿のようにして受け取ると、ミーティアの両手のひらに指輪が一つ落ちて転がった。


「そんな…」

「ごめん……なさい………」

「待って!こんなの嘘だわ!」


 今にも泣き崩れそうなミーティアをコーネルがエリンさんから引き離していき、そのまま川の方へ連れていく。


「エリンさん…ナズナはどこに?」

「私を元に戻すのに…魔力を…使い切って…消えてしまったの……」


 エリンさんの瞳から涙が溢れる。


「ごめんなさい…私も…もう…」

「そうですね…今はゆっくり休んでください。白でメリエが待っていますよ」

「怒られちゃう…なぁ……」


 エリンさんが眠りについたの確認すると、焚き火の側へと運んでそっと寝かせてあげる。

 焚き火の火を見ていると、ふつふつと押さえていたものが沸き上がってくる。

 駄目だ。

 私には怒る資格も泣く資格もない。

 ナズナを道具として扱って、死地へと連れてきたのは他でもない私自身だ。

 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!

 泣くな!怒るな!悲しむな!

 今、私がするべきことはエリンさんを師匠の元へ無事に送り届けることだ。

 まだ仕事は終わっていないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。