鎧の剣士
盾を四つに分裂させて、正面、背面、左右、四方向から同時にぶつける。
今まで見たことのない速度で鉄塊が飛んでいき、鎧の剣士に襲いかかる。
正面と左の鉄塊を両手剣で弾き飛ばし、右の鉄塊を右手で掴み、左手で握った両手剣を背中にしまうように背後に回して背面の鉄塊を受け止める。
本気だったのに捌ききられた。飛ばした盾達が弾き飛ばされたのも初めてだ。しかも後ろも見えてるんだろうか。
弾かれた二つを左肩に待機させながら、距離を詰める。刀はギリギリまで出さない。
背中と右手の鉄塊で無防備の胴体に向けて、思いっきり左から右へなぎ払う。
相手が人間だとしてももう躊躇はない。
金属音と同時に身体中が軋み、両腕が痺れる。
腹のプレートに刀傷がついたけどダメージは一切無さそう。関節や隙間から中を狙うしかない。
悪寒が走り、鎧の剣士が右手で掴む鉄塊に視線が集中する。
「オオオオオオ…」
私の近くではいつも空中で静止して微動だにしない鉄塊がぶるぶると震えている。
「オオオオオオオオオッ!」
雄叫びと共に鉄塊が投げ飛ばされ、背中の鉄塊も弾き飛ばされ、そのまま上から両手剣が振り下ろされる。
刀で受け止め、鉄塊で頭を殴りつける。
重い。さっきよりも身体強化してるはずなのに今にも膝が折れそう。
微動だにせず、体重を更にかける鎧の剣士の頭に更に激しく鉄塊達をぶつけ続ける。
額に傷が着いたのを見逃さず、同じところにぶつけ続けるとついに鉄兜が壊れて中身が姿を表す。
緑色の瞳と金色の髪の毛、鉄塊達の動きが止まり、一瞬、力が抜けてしまう。
「ぐあっ!」
右の脇腹に衝撃と激痛が走り、蹴り飛ばされる。
床を転げるけどすぐに立ち上がり、振り下ろされる追撃を右に跳んで避け、そのまま鎧の剣士の左太もものプレートを刀で斬る。胸のプレートよりは薄かったようで二つに割れる。
「オオオオオオッ!」
目は虚ろで焦点があってないように見える。
怒っているのかもわからない。死んでいるのか生きているのかどうかもわからない。
そして兜が壊れ、音のこもりとくぐもった感じが消えた雄叫びは女の声に聞こえる。
距離を取り、刀を構えなおして、盾を出しなおす。
息が苦しくなってきた。手加減できる相手じゃないし、もういつ身体強化が切れてもおかしくない。
「オオオオオオ…」
怒っているのか、攻撃が効いているのかもよくわからない。こちらを向いて唸っているけど、目が合うことはない。
一瞬で距離を詰め、両手剣を振り下ろす。
飛び退いて避ける時、また両手剣の剣先が少し伸びてきて咄嗟に刀で受け止める。
柄の下ギリギリを握り込んでいるようで持つ位置を途中で変えているのかもしれない。
四つの鉄塊で両手剣を囲って押さえ、刀を消して、懐に入り込み、左足の蹴りを避けて居合のように渾身の力で逆袈裟に下から斬り上げる。
胸のプレートが内側の鎖帷子ごと両断され、血の代わりに黒煙が噴き出す。
身体強化が解けて髪が黒に戻っていく。
「オオオオオオオオオオオオッ!!」
右手で払いのけられ、床に倒れる。
息が苦しい、でもまだ気を抜くわけにはいかない。
気力で身体を起こして鎧の剣士を睨む。
剣を捨て叫びながら、胸に深く刻まれた刀傷を掻きむしっている。
刀を霞に構えて裂け目の奥深くに突き立てる。
「オオオオオオオオオオオオッ!」
私を引き剥がそうと両手で払いのけようとしてくるけど向こうももう力はほとんど無いようだ。
「お願い…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、もう…眠って…」
なけなしの力で更に刀を刺し込む。
徐々に漏れ出る黒煙の量が減って、何も出なくなる。
鎧の剣士の両腕がだらんと垂れ下がり、動かなくなる。
刀を消して離れようとしたとき、頭に優しく手が置かれる。
目線を上げると鎧の剣士が穏やかな顔で私を見ていた。
そして煙となって消えていき、主を失った鎧が崩れるように倒れる。
「はぁ、はぁ、はぁ、おやすみ…」
私もその場に倒れる。身体中がヒリヒリするし、脇腹は灼熱、息も苦しくて上手く吸えない。
目がチカチカしてきて、また白く塗りつぶされていく。
また気がついたら花畑一人で座っている。
「誰か…いる?」
返事はない。私、死んじゃったのかな。
「いるよ」
長めの間を置いて返事が返ってくる。
「私死んじゃいました?」
「いや、でも死にたがりなところは俺に似てるよ」
「そう…なのかな。そういえば結局ここはどこなんですか?」
「君があの花畑が好きだからじゃないか?」
答えになってるのかよくわからない返答がくる。
勇者の記憶じゃなくて私の記憶の花畑ということなんだろうか。
「ここにくれば、あなたやみんなと会えますか?」
「自力で来れるのかはわからないけどここまで深く落ちてこられるならきっと会えるよ」
「いつでも一緒に遊べるよ」
「いつでも相談にのる」
「いつもここで待ってるよ」
「またこいよ」
また振り向けないけどみんなが言葉をかけてくれて安心する。
「その……姿は見せてくれたりは…」
「魔力がもっと回復したら君の前に姿を見せられると思うよ」
「そうですか…」
そっと頭を撫でられた気がして頭に手を乗せるけど、誰の手もなく乗っかっているのは自分の手だけだった。




