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再会

 何事もなく街道を進み、日が傾いて来た頃に馬車を森側に寄せて停める。


「ナズナは一応街道を見張ってて。コーネルとミーティアは森で薪を拾ってきてくれる?私は夕食の用意をする」

「わかりました」

「わかったわエリュ。コーネル行きましょ!」

「食べられそうな物があったらついでに取ってくるよ」

「暗くなる前に戻ってきなさい」

「はーい」

「わかってるよ」


 街道は静かで他の通行人や馬車は近くに見当たらない。

 平原の遠くには牛のようなものの群れが見える。モムーという草食動物で危険はないらしい。牛と違って角が無いのが特徴らしい。

 しかしそのモムーを狙う狼が出ることがあるらしいから気をつけて見張らないと。

 途中上に乗った人の赤いマントを靡かせながら馬が素早く駆けていく。急いでいるんだろうか。

 それともまた馬が怖がってるとかだろうか。ポールとトールを見ると静かにもしゃもしゃと草を食んでいる。さっきは何に怯えていたんだろう。


「戻ったわ!エリュ!これ食べられる?」

「やめとけって、そんな変なピンク色の茸」

「えーかわいいのに」

「食べられるわよ」

「ほら言ったじゃない!もっと取ってこればよかったわ…」

「十個もあれば十分だよ…」

「そのモモタケもスープに入れましょう」


 後ろから楽しげな会話が聞こえる。コーネルさんとお姉さまが戻ってきたみたいだ。

 日が落ちた街道と平原は相変わらずの静けさだ。さっき早馬が駆けていったことも嘘のよう。

 

 ぱちぱちと焚き火のはぜる音がして、いい匂いが漂ってくる。


「ナズナちゃん見張り代わるよ」


 後ろから声をかけられ振り向くとスプーンとボウルを持ってコーネルさんが歩いてくる。


「向こうで二人とご飯を食べておいで」

「ありがとうございますコーネルさん。それじゃあお願いします」


 コーネルさんの厚意に感謝して立ち上がり、焚き火の元へいくと、師匠がボウルとスプーンを渡してくれる。


「いただきます」


 細かな肉と砕かれたナッツとドライフルーツが入っていて少しどろっとスープに半分に切られたモモタケが入ってる。

 香辛料が効いてる感じがして、ちょっと口がペタペタになる。


「変わった味ですね」

「旅の料理は基本こんなものよ。これは干し肉とナッツとドライフルーツに香辛料を合わせたものを油脂を混ぜて固めたバンカンっていう保存食。そのままでも食べられるし、こうしてスープにもできる」

「人とか地域によって入ってるものが変わったりしてて結構味が違うわ。エリュのは美味しいから当たりね。すごいまずいのもあるのよ」

「そうなんですね」


 そんなに浸透してる食べ物なら、何か思い出してもよさそうだけど、何もないのは勇者が食べた味と全然違うからだろうか。


「ごちそうさまでした」


 みんなが食事を終えると師匠が食器を集めて魔法で洗う。

 木製の食器を閉じ込めた大きな水の塊がぐるぐると渦を巻き、食器達が水の中をぐるぐる勢いよく流れる。

 洗い終えると焚き火の側で乾かす。


「ほら、見世物は終わりよ。ナズナはもう馬車の中で寝なさい」

「わかりました」


 子供扱いされている気がするけど、諦めて差し出された毛布を受け取って言われた通りにする。

 馬車に乗り込み、綿を枕にして、座席の上に横になって毛布にくるまる。

 まだ眠たくない。

 魔物図鑑を取り出して開くけど暗くて読めず、諦めて閉じる。

 静かだ。師匠もお姉さまも別々のことをしてるんだろうか。

 狼の遠吠えが聞こえる。ポールとトールは大丈夫だろうか。

 扉が静かに開いて、ゆっくりと師匠が入ってくる。


「まだ起きてたのね。明日も早いわよ」

「遠吠えが聞こえましたけど、ポールとトールは大丈夫でしたか?」

「大丈夫よ。ほら、これを抱いて早く寝なさい」


 謎の生物のぬいぐるみを渡される。

 長方形の胴体に顔があり、短い丸い手足がついている。可愛いけど壁の妖怪みたい。


「あのこれは?」

「安眠グッズよ。騙されたと思ってぎゅってしてみなさい」


 流石に子供扱いが過ぎるのではと思いつつ、ぎゅっと抱き締めるとふかふかで少し甘い香りがして鼻がすーっとする。

 なんだか落ち着くのが少し悔しい。


「いい匂いがします…」

「でしょ?おやすみ」

「おやすみなさい」


 さっきまでが嘘みたいに眠気に襲われて意識が落ちていく。


「ナズナ起きて」


 揺すられてびくっとなって目が覚める。

 ぬいぐるみの効果は凄かったけど、まだ窓の外は真っ暗だ。

 馬の鳴き声が聞こえる。


「どう…しましたか?」

「ちょっと見たことない狼が出た。コーネルに加勢するから逃げないように馬を見ていて」

「わかりました」


 起き上がり、師匠に続いて静かに馬車から降りる。

 ポールとトールは今にも走り出したそうに足をばたつかせ、ぶるると鳴いてそわそわしている。

 頬を撫でて宥めるけどあまり効果はない。


「じゃあお願いね」

「はい」


 師匠が杖を構えて刺激しないようにゆっくり静かにコーネルさんの方へ歩いていく。

 コーネルさんはお姉さまを構えて動かない。

 かなり大きな狼だ。コーネルさんには興味がないのかなんだかきょろきょろしているようにも見える。

 師匠が狼の前にたどり着くと、三角帽子から何かを取り出して狼の方に投げると匂いを嗅いだ後、興味無さげに伏せる。

 その姿にどこか懐かしさを覚える。


「リネ…?」


 狼の耳が動き、スッと起き上がる。

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