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「そう…」

「お姉さまは、怖くないんですか?人を殺すの…」

「最初は怖かったわ…初めは全部私を使ってるコーネルのせいにしてたわ。でもね、それじゃ駄目なの」

「お仕事でね、フムヘーっていう魔族の国で人族の商人さんを護衛をしてた時に、魔族の子供に商人さんを殺されちゃってね。子供が飛び出して来たと思ったらお腹を一刺しなんて完全に私もコーネルも油断してたわ」


 ミーティアさんが私に背を向けたまま語る。


「その商人のグレドさんとは、何度も一緒に旅をした仲でね。私もとても悲しかったわ。コーネルは怒り狂ったわ。迷わずその子供を殺そうとした。コーネルに驚いたのか、自分のしたことに驚いてるのか、子供はナイフを持ったまま震えていたわ。私はその子を殺すこともコーネルが子供を殺すことも絶対にさせたくなかったわ。すぐに勝手に変身を解いて震えて固まる魔族の子供を抱き締めた」


 ミーティアさんの顔は見えないけれど、普段の明るい声ではなく、とても悲しげに感じる。


「それで…コーネルさんはどうしたんですか?」

「どけ!とか離れろ!とか完全に頭に血が上ってた。グレドさんが止めろ、相手は子供だからやめろってコーネルを宥めてやっと少し落ち着いたわ」

「グレドさんは無事だったんですか?」

「いいえ、刺された二日後に亡くなったわ」

「そうですか…」

「コーネルはまた犯人の子供を捕まえたわ。見かねた私がコーネルの代わりになんであんなことをしたのか聞いたら、両親が人族の商人に騙されて殺されたと言っていたわ。そいつと同じピンを着けていたから仲間だと思って刺したと言ってた」

「ピン?」

「渡り鳥商会という商業ギルドの、鳥をあしらった飾り留めよ。信用されなくなった商業ギルドは終わりだからね。魔族に嫌われたらもうフムヘーどころかイー大陸での仕事は出来なくなってしまうわ。噂の元を突き止めるために私達はフムヘーに来ていたの」

「そしたら魔族の子供に襲われてしまった?」

「そうよ。二月程かけて私達は犯人を全員殺した。気分がスッキリしたわ」

「犯人達を殺してですか…?」

「そうよ。ナズナは私がひどい人だと思う?」

「いいえ…」


 ひどい人だとは全然思わない。

 ミーティアさんが私の方に振り返るといつもの笑顔に戻っていた。


「なんて言ってあげようとしてたのか、上手く言葉が纏まらないわ。とにかく…私達は武器でも心がある。できるだけ善人でいようとするたくさんの普通の人達と変わらない心を持ってるつもり。悪い人をやっつけたら嬉しいし、良い人が死んだら悲しい、武器だからってみんなと何も変わらないわ。殺さないに越したことはないのだから、ナズナは優しいナズナのままでいいのよ。だけど一つ覚えておいて」


 ミーティアさんが真剣な表情で私を見つめる。


「もうあなたには、あなたが傷ついた時に怒ったり悲しんだりする人達がいるのよ」


 お姉さまがぎゅっと抱き締めてくれる。

 顔ぐっと熱くなって、涙が溢れる。

 人を殺す覚悟なんてない。でも、もうお姉さまやエリュさんやコーネルさんが悲しむ選択はもうしないと誓える。

 お姉さまの胸でひとしきり泣いた後、ぐーっとお腹が鳴る。


「お昼から何も食べてないでしょ?たくさん食べるといいわ」

「はいお姉さま。いただきます」


 籠には果物や串焼きみたいなものが入っていてわざわざ露店で買ってきてくれたのかもしれない。どれも美味しい。

 お皿には黒っぽいスープに何かごろごろとした具が入っている。独特な味だけどこくや旨味があって美味しい。具は何かのお肉だったようでほどけるほど柔らかくて美味しい。

 コーネルさんがくれた平たいパンのようなものは中に果物のソースが入ってるようで生地はもちもちで美味しい。


「足りた?」

「はい。大丈夫です。ごちそうさまでした」

「じゃあこれを食べて」


 ミーティアさんに油紙で包まれた小さな玉みたいなものを渡される。


「エリュが薬だって言ってたわ。確か口の中でよく舐めて、口の中全体に塗り込んでから飲み込むように。ベタベタだから手に触れないように包み紙で掴んだまま口にいれろって言ってたはずよ」

「わかりました」


 言われた通りに包みを開いて、中の濃い緑色の玉を口の押し込み。口の中で転がす。ベタベタで歯にくっつきそう。

 意外と味も匂いもしない。

 薬と言っていたから痛みに耐えてよく右の頬に押し付けておき、飲み込む。


「さあ!後は寝ましょう!」

「お姉さま、あの食べたばかりですよ?」

「お腹いっぱいになったら眠くならない?」

「なる時もありますね」

「ゆっくり休まないと」

「はい…わかりました」


 笑顔に圧を感じてベッドに横になる。


「寝るまでいてあげるわ」

「えっとありがとうございます?」

「なんか疑問系じゃなかった?」

「気のせいです…」


 やっぱり眠たくない。


「ナズナは夢とかある?」

「夢?」

「私はね、いつか私を作ったお爺さんの故郷に行ってみたい。それがどこなのかもまだあるのかもわからないけど、彼が守りたかったものが知れるんじゃないかって思うの。ナズナは行ってみたい場所とかやってみたいことはある?」

「夢とは違うかもしれないけど、友達に会いたいです。突然こっちに来て別れたきりなので」

「いい夢ね」

「夢なんですかね…でもレイゼリアさんとリネにお姉さまのことも紹介したいです」

「嬉しいわ。私もいつかお爺さんに可愛い妹が出来たって報告しないと」


 その後もいろいろ話をしていたはずだけど、薬の効果なのか私はいつの間にか眠りに落ちていて夢の話の後は何を話したのか覚えていなかった。

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