発情期の動物は危ない
五人のハルメイニアの人達が私とリネを囲んで、全身をじろじろと睨みつけてくる。
唯一見知った顔のミミリさんだけは困り顔で私と仲間を交互に眺めている。
「みんな、もういいでしょ?相手は子供よ?ハルメイニアの名を落とす気?」
「とっくに地に落ちた名などどうでもいい」
左の頬に傷のある男が私に近づいてきて槍を向けると、今まで我慢をしてくれていただけだったのかリネが即座に身体を元の大きさに戻って唸り声を上げ始める。
「ミミリさん、何か失礼があったのなら謝罪します。まずは説明をいただけないですか?」
「簡単に言うと発情期で気が立っているの…」
「発情期?」
「そう。女は特に何もないけど、男はちょっと凶暴にね」
「私とリネの遊んでいる声がうるさかったとかそういうことですか?」
「そうだ。他人の子などうるさくてかなわん」
槍を肩に背負いながら、つんつん頭が近づいてくる。
発情期の雄熊は子供を殺してその母親を襲うことがあるという。
そんなに大声でもなかったはずなのに相当気が立っているのだろう。
「近くにいらっしゃるとは知らずに騒がしくしてしまい、申し訳ありませんでした」
「詫びになにしてもらおうか…」
今度は長髪を一つ結びにしたやつが近づいてくる。
「これ以上は族長も賢者様も黙ってないよ。もちろん私もね!」
一瞬で私の前に現れたミミリさんが槍を横に振って、男達を牽制する。
「私に勝てるもんなら来なよ」
「いくらお前でも四人を一度に相手は出来ないだろ?」
坊主頭の男が気味の悪い笑みでそう言う。
「は?一人ずつ来なさいよ!」
「四人でお前を縛った後に、四人で戦って順番を決めればいい」
「とんだゲス共ね。そんなだから相手が見つかんないのよ」
「そこのガキも一緒にやってやるから安心しろよ」
「ナズナには指一本触れさせない」
ドーンという轟音と共に男達が弾け飛び、木に叩きつけられて動かなくなる。
「ミミリさんすごい…」
「私じゃない…」
「無事か?三人とも」
「族長…」
「マリドさん?」
「久しぶりの顔合わせがこんなのですまないね」
ミミリさんの前にマリドさんが現れ、さらに女性達が何処からか現れて伸びた男達を縛って引き摺っていく。
「奴らは塞ぎの刑に処す。それで許してくれるか?」
「反省の色無しと判断したら去勢していいなら」
「許可しよう。ナズナもそれでいいかい?」
「え?」
聞かれると思っていなくて言葉が浮かばない。
するとミミリさんが私の方に振り返ってしゃがむ。
「ハルメイニアの決まりなの。長が刑を決めて、被害者がそれでいいか決めるのよ。塞ぎの刑というのはおちんちんを箱にしまってしばらく使えさせなくする刑」
「トイレが出来なくなったら死んでしまうんじゃ?」
「あー…助けて族長」
「え?そうだね…発情期を知っているなら交尾を知っているかな?」
「はい」
「それを今回の発情期の間は絶体に出来なくする刑だ。ナズナを襲おうとしたみたいに他の女性を襲わないようにね。トイレが出来る穴は空いてるから死刑じゃないから安心してくれていい」
「それなら…ん?私は襲われるところだったんですか?」
「そうだよ⁉」
ミミリさんが驚いた様子で私の肩を掴む。
「土下座させられるくらいかと…」
「いい?もしも知らない男がおちんちんを近づけてきたら、迷わずに切り落としなさい。わかった?」
「わかりました…」
「ミミリ、ナズナを城まで送ってガンドルヴァルガに明日の講義にナズナもどうかと聞いて見たらどうだ」
「そうですね…いいかもしれません。私達は人に似ているし参考になるかも。そこら辺も聞いておきます」
「お願いするよ」
なんだか勝手に話しが進んでいき、ミミリさんに手を引かれて城に向かう。
「さっきは本当にごめんね。ハルメイニアの男がみんな酷い奴らではないのよ?」
「わかっています」
「リネ、そこの木。ロロトが生ってる」
ミミリさんが指差した木をリネが前足で揺らすといくつかの緑色の実が落ちてくる。
「師匠が滅多に実がつかないって言ってました」
「その通り、運が良かったわね」
ミミリさんが軽い足取りで落ちてきた実を拾い集め、私に三つくれて、リネにも実を食べさせる。
「皮が固いからナズナはナイフで剥いて食べるといいよ」
そう言いながらミミリさんは平気そうに丸かじりしているけど、私はポケットに実を二つ左右にそれぞれしまっておいて、腰の短刀で皮を剥いてから一口かじると、クリームのようななめらかな食感で甘くて美味しい。冷えていたらアイスクリームのようになりそう。
「どう?」
「お菓子みたいで美味しいです」
「それは良かった」
濃厚で一つで十分満足したので残りはとっておき、皮と種は土に埋めておく。
流石にミミリさんも種は出したみたいだったけど、リネは皮も種も全部食べたみたいだ。
それからも茸や木の実を広げたエプロンにいっぱいになるまで拾い集めながら楽しく城まで歩いて戻り、厨房一度置いておこうと通路を歩いていいると、正面からアリシアさんが歩いてくる。
「おかえりなさいナズナさん」
「アリシアさんただいま」
「お邪魔するよ」
「ミミリさん?何か森で問題でも?」
「ちょっとガンドルヴァルガに相談があってね」
「主様なら実験室にいらっしゃるはずですよ」
「ありがとう。でもまずはこれを」
「お預かりします」
「あらそう?」
アリシアさんがミミリさんが抱えていた木の実を受け取って一緒に厨房まで運んでくれ、とりあえず木の桶に入れておく。
「たくさん拾ってきましたね」
「ミミリさんが見つけるのが上手で気がついたらたくさんになってました」
「うちの若いのが失礼しちゃったからお詫びも兼ねてね」
「とりあえずナズナさんとリネさんは身体を洗ってきた方がよろしいですね」
自分を見たら確かに首から下が土や落ち葉で汚れていた。なんか恥ずかしい。
ミミリさんは不思議と全く汚れていない。
「私もガンドルヴァルガと話をしたらお風呂借りるよ」
「ではお風呂に行ってきます。アリシアさん、大師匠に族長さんが不在だったのでナガリさんに代わりにお渡ししましたと伝えていただいてもいいですか?」
「かしこまりました」
「じゃああとでね」
「はい」
二人と別れて部屋に寄って石鹸と大小のタオルと着替えを持って、お城に合わせていつもの狼大になったリネと脱衣室でメイド服を脱いで洗濯籠に入れて、手袋と腕輪と首にかけた指輪と金色の紐と着替えを籠に入れて、そばにブーツを置いておき、小さいタオルと石鹸を手に持って浴場に入り、いつものようにリネを先に洗ってあげてから自分の身体を洗って湯に浸かる。
のんびりとミミリさんが来るのをリネが泳ぐ姿を眺めながら待っているけど、思っていたより全然来てくれなくてちょっとのぼせてきてしまった気がする。
「ごめんリネ…そろそろ上がろう?」
わふっと吠えてこっちに泳いできたリネと浴槽から上がって、リネの身体を拭いてから自分の身体を拭いていつものシャツとパンツに着替えて手袋はブーツに詰めておいて腕輪をして首に指輪と金色の紐をかけてタオルは洗濯籠に入れておく。
そして厨房でお水を飲んで、リネにも飲ませてあげて中庭の椅子に座って風に当たって涼む。
空は橙色に変わっていて、少し冷えてきた風が火照った身体にはちょうどよくて気持ちいい。
「気持ち良くてちょっと眠たくなってくるね」
膝の上の子犬姿のリネを撫でると、くぅーんとリネも眠たそうに鳴く。
このままじゃほんとに寝落ちしてしまいそうだし、気持ちがいいけど弱い風では髪は乾くまで時間がかかりそうなので、仕方なく立ち上がってリネを椅子に乗せて、金色の紐で髪を軽く一つ結びにしてリネを抱き、拾ってきた収穫物を仕分けるために厨房に向かった。
きてしm




