地下室
お風呂を上がると、アリシアさんが身体を拭いてくれて、白いかぼちゃパンツと白い袖なしの肌着のような服を着せてくれ、少しぶかぶかの茶色いブーツを履かせてくれる。
青いケープを羽織って手袋をすると、初めてちゃんとした格好になったと思う。
アリシアさんにお礼を言ったら、お礼は主様にと言っていたので次に会ったらお礼を言おう。
アリシアさんとフィシェルさんと三人で食堂でアリシアさんが作っておいてくれた青いスープとパンを食べる。
パンは香ばしく、スープは豆の味がして美味しい。
まったりとした朝食の時間を終え、アリシアさんが口を開く。
「今日はこれから主様のところへ行きます。大事なお話があるそうです」
「大事な話…」
「そう身構えなくても大丈夫ですよ。怪我も治ったようなのでこれからのことをお話するだけです」
「わかりました」
「おー。がんばれ。ウチは部屋に戻るぜ」
フィシェルさんと別れ、アリシアさんと通路を歩いていると、通路の途中でアリシアさんが足を止める。
「どうかしましたか?」
「少しお待ちください」
アリシアさんが石壁に触れると、壁に手が埋まる。勇者の墓の石壁を思い出す。
「さあこちらです」
アリシアさんに手を引かれ石壁を通ると階段になっていて、壁に等間隔に灯された炎が下へと続いている。
「暗いので足元にお気をつけ下さい」
「はい」
螺旋状になっているようで、ぐるぐると階段を下りていく。
下には鉄の扉があって、アリシアさんが四つの鍵を開けて扉を開き、中に入っていく。
私が入ったのを確認すると、アリシアさんが扉を閉める。するとガコ、ガチャ、ガコ、ガチャと音がする。
「さあもうすぐですよ」
扉の音に気を取られていると声をかけられ、奥へと進む。
通路の先にはまた鉄の扉があり、アリシアさんが鍵を開ける。今度は一つだけみたいだ。
部屋の中は壁の燭台の炎で照らされていて、ガンドルヴァルガさんが何か中央にある石の台を眺めていた。
「主様、ナズナさんをお連れいたしました」
「うむ、さてどこから話そうか…」
そう言うとガンドルヴァルガさんが上を見上げる。
「主様、まずはこの部屋の説明をするべきかと」
「それもそうだな」
私の不安を感じとってか、顔に出ていたのかアリシアさんが言うと、ガンドルヴァルガさんが語り始める。
「こっちにきなさい」
近づくと石の台の上には小さなベッドがあり、その上に虫の羽のようなものが生えた緑色の髪の小さな少女が眠っている。
「リーシル」
自然と口から彼女の名前が出てくる。
彼女が笑顔で飛び回る姿が脳裏に浮かぶ。
「そう、彼女はリーシル。かつては勇者と共に魔族の軍勢と戦った。そして、魔王軍の幹部だったゲルネイヤという者が命と引き換えにかけた呪いによって眠り続けている。そして眠り続ける彼女からは今も尚、周囲を侵す呪詛が流れ続けている。なので可哀想だが地下室に寝かせ、厳重な結界によって封じている」
そっと優しくガンドルヴァルガさんが指先でリーシルの頭を撫でる。
「私は入って大丈夫だったんですか?」
「ああ、君にはそんなものは効かないし、アリシアはわしが護っている。もちろんわしも伊達に賢者などと呼ばれておらん」
ガンドルヴァルガさんが私の方に向き直す。
「君は勇者の盾に選ばれたのではない」
「どういうことなんですか?」
ガイン!と突然金属音がなる。ギリギリと音を立てて、いつの間にか私の両手に握られた刀が賢者ガンドルヴァルガの杖を受け止め、宙には斧、剣、槍、槌と四つの鉄塊がギギギギとせめぎ合っている。
「え?なんで刀が?」
「それも君の力だからだ」
賢者ガンドルヴァルガが杖を引くと宙に現れた武器も消え、盾が消えて、私の手の刀だけが残る。
「君は勇者の武器の精霊。盾と刀に染み付いた勇者の魔力が元になって生まれたんだろう」
「私は人間じゃない?」
「そうだ」
突然人間じゃないと言われて胸が苦しくなる。
「君が君自身で答えを出すことを待っていてあげたかったがすまない」
息が苦しい。
「君の記憶は勇者の魔力に込められた残滓のようなもの。君の記憶ではないんだ」
私の記憶じゃない?
「じゃ、じゃあ、あの四人の子供はだれなんですか?」
「すまないそれはわしも知らない。ただ勇者は孤児院で世話になっていたことがあると言っていた。そして魔族にみんな殺されたと」
「じゃあ…私はだれなんですか?」
人間だと思い込んでいた。心の何処かで誰が私を待ってるなんて淡い期待を抱いていた
後ろからぎゅっと抱き締められる。右肩からアリシアさんの顔が見える。
「あなたはあなたです。主様がおっしゃいましたよね?夢に惑わされるなと。記憶が無くて当たり前です。不安で当たり前です。あなたは生まれたばかりなのですから。そして私達にはあなたの力が必要です」
「私の、力?」
「彼女を、そしてわしの妹を助けてほしい」
ガンドルヴァルガさんが膝をついて床に手をつき、頭を下げる。
まだわからないことだらけだけど、少しだけ胸が軽くなる。
「わかりました。それが私にしか出来ないことなら」




