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実験室

 扉の中は見たことのない道具や本でいっぱいで棚や床に置かれた木箱にたくさん積まれている。

 奥には机やテーブルが並んでいて、その上や周りも物だらけだ。

 ガンドルヴァルガさんは何やらテーブルで色の違う三つの液体を混ぜている。


「主様、昼食をお持ちしました」

「ちょっと待ってくれよ…」


 紫の液体に白い液体と入れて、黄色い液体を数滴垂らすと紫の液体が真っ黒くなる。


「ふむ、失敗だな。ありがとうアリシア。頂くとしよう」

「ナズナもいたか。身体の痛みは落ち着いたか?」


 ナズナさんから籠を受け取り、机に移って椅子に座り、籠の中のものを食べ始める。サンドイッチのようだ。


「はい。だいぶ良くなりました」

「そうかそうか…おいアリシア。ピルメン入れたな?」

「気づかれてしまいましたか。私もまだまだです」

「あのピルメンって何ですか?」

「苦い悪魔の食べ物だ」

「苦味もありますが甘味もあって栄養のある野菜ですよ」

「そっそうですか」


 何だか気まずくなって部屋を見渡すと半球状の天井には空の絵が描いてあって鳥や竜が飛んでいる。

 その中にリネと似たものを見つける。


「あの、あの上にある翼の生えた狼みたいなのは何ですか?」

「あれか。勇者が見つけた卵から生まれてな。詳しいことはわからんが、狼じゃなくて竜なのかもしれんなぁ。リネとみんなは呼んでおったよ。イー大陸西部のカルムム連峰で似た生物の目撃情報があるようだが、かなり危険な場所で調査は進んどらん」

「そうですか…」

「そういえばそのリネに助けられたと聞いたな」

「はい」

「また会える」

「はい会いたいです」

「きっと会えますよ」

「そうだそうだ。これをやろう」


 どこからともなく杖を取り出して突きだし、アムハムエイムルと言うと木箱の一つがガタガタと揺れ物が溢れて床に落ち、中から手袋が出てきて、私の胸に飛んでくる。

 まずい!触れる!と思い、咄嗟に避ける。

 するとガンドルヴァルガさんの机の上に落ちる。


「ハッハッハッ!すごい顔で避けたな!」


 大声で笑われる。なんか恥ずかしい。


「ナズナさんは自分が触れると危ないと思ってちゃんと避けたんですよ。主様」

「そうかそうか。それはすまなかった。これは魔法道具ではないから安心しなさい。アリシア」

「かしこまりました。ナズナさん着けてみても大丈夫だそうです」

「えっと、じゃあ…」


 見た目は普通の茶色い革手袋だ。ナズナさん渡されたそれを着けてみてるけど、特に何もない。ぶかぶかだけど普通の手袋だ。


「あのこれは?」

「職人が使う手袋だ。作るものに余計な魔力などが入ったり、魔力の高い物に触れても怪我をしないように遮断して守ってくれる。わしも実験に使ったりすることがある」


 つまりどういうことなんだろう。


「ナズナさんがそれを着けていれば、魔法道具に触っても壊れたりしないということです」


 顔に出ていたのかアリシアさんが分かりやすく教えてくれる。


「念のために試しておこうか」


 そう言うとそこらから物を拾って机に二つ並べる。

 緑色の本、銀色の箱だ。


「まずはこの本だ。植物の本で適当に開いて、植物の名前を言うとそのページを開いてくれる。勇者に聞いた話をヒントに作った。手に取ってやってみるといい」


 いきなり貴重な物を触らされそうになっているんじゃないかと不安になる。

 そっと手に取り、本を開く。適当に開いたページは何かの木のようだ。


「じゃあいきます。ナズナ!」


 ゆっくりとページが捲れ、徐々に早くなってパラパラと捲れていき、途中で止まる。

 小さなお花に小さな三角の葉の絵。


「ナズナのページになりました」

「大丈夫そうだな。次はこの箱だ。空けると好きな物の香りがする変な箱だ」


 本を置いて、箱を取る。左の手のひらに乗せて、右手でゆっくりと開いてみる。

 特に匂いはしない。恐る恐る顔を近づけても匂いがしない。


「ごめんなさい。何の匂いもしないです」


 壊してしまったんだろうか。


「アリシア、試してみてくれ」

「かしこまりました」 


 私は蓋を閉じてアリシアさんに渡す。

 アリシアさんが箱を空けると、白い煙が出てくる。


「お父さん、の匂いがします」


 お父さん、何かもやもやする。


「ふむ。わしもやってみよう」


 アリシアさんから箱を受け取り、今度はガンドルヴァルガさんが箱を空ける。今度も白い煙が出てくる。


「ちゃんと動くようだな。この箱は持った奴の魔力を元に匂いを作ってるのかもしれん。魔族が作ったものだから、魔力がないと使えないのかもしれんな」

「壊してなかったなら良かったです」

「ではそろそろ戻りましょうか」

「わかりました。ガンドルヴァルガさん、手袋ありがとうございます。お邪魔しました」

「礼はいらんよ。またくるといい」

「はい」

「では主様。失礼いたします」


 アリシアさんがいつの間にか空の籠を持って、扉を開ける。

 扉の外の長い階段を見て少し憂鬱になる。


「昇るよりはきっと楽ですから。疲れたらまた抱っこして差し上げますからね」

「がんばります」


 また誰かに見られたら恥ずかしいので、気合いを入れてなんとか下まで降りた。

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