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カンロ  作者: ミニト


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13/13

真実と

 淡々とした夢がそこにありました。

 私にはその日、その時の全てが夢にしか感じられなかったのです。

 部屋の中は血まみれで、目の前には表情一つ変えないあやがいます。


  すべてがぼんやりとしていましたが、心の中は得体のしれない清々しさがありました。

  得体のしれない、という表現をしたのは、嘘ではないのです。

  私はあの日に感じた、恍惚とした清々しさを感じた事はありません。

  破滅を得て感じた生。もし例えるならばそのような表現になるのかもしれません。


「……初めて見た。みどり、自分で腕を切ったの?」

 どういう事? と声をだそうとしたのですが、口が、体が動きません。


「腕。すごいことになってるよ」


 私は鉛のような体で自分の腕をみました。腕はぱっくりと割れ、白い脂肪のようなものが見えていました。それが手首から腕にかけて無数にありました。


  今ではそんなものは珍しくもなんともないかもしれませんが、当時は1999年です。


「気持ちがわるい」

「私、腕なんか切っていない」

「気持ちがわるい」


 パニックになりながら立とうとすると、頭が真っ白になりそのまま倒れそうになりました。あやがいなければ、そのまま倒れてしまっていたでしょう。

「あんた、立たない方がいい。多分だけれど酷い貧血になってる。唇が真っ青だよ」


 あやは私をベッドに寝かせると、部屋を見て何かを思案しているようでした。

 そして、笑顔を浮かべました。


「すっごいね。なんかこうなるんだね。部屋が血まみれだよ」


 私の部屋にあったミニコンポは赤く染まり、天井の照明も赤く染まっていました。

 世界はぐるぐると回っています。私はベッドの上にそのまま吐いてしまいました。水が飲みたい。酷い水への飢え。


「水を持ってきてほしい」


「分かった」といい、あやは部屋から出ていこうとしましたが、扉を開ける直前で立ち止まりました。

 彼女は、私が胸からえぐり取って、箱に入れておいた「あの突起物」を指差しました。


「ねえ、みどり。この子、どうするの?」

「……捨てる」

「……ふーん。……あんた、まだアイツのこと、好きなの?」

「……会うかも」


 あやは、私のことではなく、床の「箱」をじっと見つめたまま言いました。

「あいつはろくなやつじゃない。知っているでしょ。……なのに、そっちは捨てるんだ」


 私は何も答えませんでした。ろくなやつじゃない、そんな事は分かっているのです。だけれど、思い出が私を手放してくれないのです。それは前に見た全身が記憶を再生するあの悪夢(執着)ではなく、ただ純粋な彼の記憶でした。


「そうあいつは優しくて素敵。でもそれが何だっていうの。私には関係ない。そう関係ない」


 あやは吐き捨てるようにそう言うと、そのまま外に出ていきました。

 小さな声が聞こえました。


 “もう知っているんでしょ?”

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