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恐怖日和  作者: 黒駒臣
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カラス

 のどかな山々に囲まれた県道沿いに白い建物の工場があった。

 先日その工場前にある道路で初めて赤信号にかかった際、門口の表札でそこが食肉加工場だということがわかった。

 信号に停められるまで表札にまったく気付かなかったし、何の工場か気に留めたこともなかった。

 冷凍車が二台、門から出てきて走り去った。

 帰ってから妻に話すと、自分も知らなかったと驚き、お互い観察眼のなさを笑い合った。


 数日後、再び同じ信号で止められた。

 今までなかったのに一度あったら同じことが何度もあるもんだと苦笑する。

 工場の門から出て来たのは、板を張り巡らせてあおりを高くした軽トラックだった。同じ向きの車線を先に走っていく。

 信号が変わり走りだすとすぐ軽トラの後ろに追いついた。

 この道路は数十メートル先に交差点がある。そこでまた赤信号にかかってしまい思わず舌打ちが出た。多叉路で信号の待ち時間が異常に長いからだ。

 ギアをパーキングにし、サイドギアを掛けてから凝った首を回す。

 カラスが三羽、電線に留まっているのが見えた。すいっと飛んできて目の前の板張りの縁に止まり、中にあるものをついばみ始める。

「うわぁ」

 中の一羽がピンク色の内臓のような切れ端を咥えて悠々と飛び去った。二羽めも白っぽい脂のような欠片を咥えて飛んでいく。

 食肉加工場で廃棄部分を運んでいるトラックだと得心した。

 カラスはそれを知っていて交差点で待っていたのだろうか。廃棄される部分とはいえ新鮮な肉だ。ご馳走に違いない。カラスってやっぱり賢いなと感心し、これは妻に報告せねばと思った。

 残りの一羽はまだ物色を続け、何が気に入らないのか、くちばしに咥えたもの外に放り投げている。

 こんっ。

 カラスの捨てたものがフロントガラスを叩く。

 切断面がまだ新しい人の指だった。次に髪のついた皮膚がびたっと音を立てガラスに張り付く。

 軽トラが前進し、結局何も持たずカラスが飛び立つ。

 信号は青だが発進させることができない。

 何も知らない後続車が激しいクラクションを鳴らしていた。




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