表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法薬あります  作者: 坂野真夢
番外編
22/34

Episode4 使い魔さんこんにちは・前編

 今からお話するのは、お師匠様のお父さまが滞在していたときの話です。


 お家増築中、ずっと我が家に滞在していたお父様はとっても気さくで話しやすい方です。お師匠様より口が軽いので、聞いたことは何でも教えてくれます。


 これってチャンスじゃないですか? 

 私はピンとひらめきました。照れ屋なお師匠様のあれやこれやを知るには絶好の機会です。

 大体、お師匠様の家族のことすらちゃんと知らないまま結婚しちゃうなんて、私ったらとんでもなくうっかり者です。


「ところで、お母さまはどんなお方なのですか?」


 お父様が大魔法使い、お兄様が魔法家具の職人と言うのはお伺いしましたが、お母様もやっぱり魔女なのでしょうか。


 お父様はお茶を飲み、ヒゲを丁寧に擦りながら私を見ました。


「イーグの母親ってことかい?」

「はい。一度お会いしたいです。今回一緒に来てくださればよかったですのに」

「ああでも。彼女は夜の魔女だから、昼間の移動は苦手だし。何よりあの街から出たがらないんだよなぁ」

「夜の魔女?」


 聞いたことがあるようなないような。昔読んだ物語では、夜の魔女は悪い魔女の役どころだった気がします。ってことは、お師匠様のお母様は悪い人なのですか?

 

 私が黙ってしまうと、お父さまは少し困った顔をしました。


「母親が夜の魔女だったら、アミちゃんはイーグを嫌いになるのかい?」

「いいえ。お師匠様は優しい魔法使いです。だから、お母様も優しい方なんだろうって思ってました」

「優しい人だよ、彼女は。アミちゃん、夜の魔女ってのは正確にはとある一族のことをさすんだ。イーグの母親は、夜の魔女の家系なのさ。その中には確かに呪いを専門にするような魔女は多い。そのせいで一族全体が迫害されてたこともある。今は和解したんだよ。わしと彼女の結婚によってね」


 お父様が歯を見せて笑います。格好いいです、キメ顔ですね。


「えー! 凄いです」

「元々は敵対する一族だったからねぇ。そりゃあもう大騒ぎだったさ」

「敵対する二人……! すごいです。大恋愛だったのですね?」


 物語でよく読むようなドラマチックなお話です。うわあ素敵です。憧れますー。


「そう。でも彼女の一族を恨んでる人間が多いのも事実なんだ。わしの町では平気だがね。だから彼女……サーシャはあの町からは出ない」

「そうなのですか」


 じゃあ、お会いするには私がお伺いすればいいのですね。

 でも、お腹に赤ちゃんがいる間はお師匠様から遠出を禁じられているのです。生まれてから……すぐはいけないですよねぇ。うう、お会いできるのはまだまだ先になりそうです。


「私、夜の魔女ってよく知らないのです。もうすこし詳しく教えてください」

「ああ、いいよ。夜の魔女は主に夜に活動するんだ。だから使い魔を持ってる。使い魔ってのは主人を守り、一生を捧げるいきものだね。多くは夜目の利く動物であることが多い。サーシャのはフクロウだった。小さいときは可愛かったと言っていたが、今はでかくてちょっと世話に困る」

「へぇ! 使い魔ですか。どうやってお仲間になってもらうんですか?」

「そういう選別魔法があるんだよ。本人と一番波長の合った動物を呼び寄せるんだ。そして、契約を交わせれば、その動物は使い魔になってくれる」

「お父さまは持ってないんですよね?」

「実は一度試してみた。別に使い魔自体は夜の魔女じゃなくたってもてるはずだからな」

「じゃあお父様にもいるんですね?」

「いや、それが。わしが呼び寄せてしまったのはライオンだったんだ」


 一瞬想像してしまいました。ライオンを従えるお父様。とてもお似合いですけれど、肉食ですし大きいですしちょっと怖いですね。


「契約なさったのですか?」

「いや、ライオンを飼ったら餌代もきつそうだからやめた。まあ、わしは使い魔なんぞなくても、別に困らんしな」

「……ですよね」


 確かに、ライオンに使い魔になられても逆に困る事が多い気がします。百獣の王ですから、お父さまにはお似合いと言えばお似合いですけど。


「お師匠様は何も持ってないですよね」

「ああ、アイツはそういうの興味ないだろう。何せ地味だから。それに何かを囲うのは昔から好まなかった」

「あはは」

「アイツの兄貴もそうだ。わしみたいにもっと派手に色々やればいいと思うのだがな。子供なんて親の思う通りには育たんもんだよ」


 あら、お父さま少し寂しそうですね。

 きっと一緒にはしゃいで欲しいんでしょうに。女の子がいたら良かったのかもしれませんね。


「お父さま、私がもし呪文唱えたら使い魔をもてますか?」

「ああ。アミちゃんくらい魔力がありゃ、もてるんじゃないか?」

「試してみてもいいですか?」

「やってみるといい。やばいのが出たら契約しなければいいだけの話だ」

「はい!」


 早速、お父さまに呪文を教えてもらい唱えてみます。


 強く念じるのが大事なんだそうです。私を助けてくれる使い魔ちゃん、どうかどうか出てきてください!


 ぽんと白い煙が湧き上がって、それが消えていくのと同時に黒い影がはっきりしてきました。ああ、この子が私の使い魔さん。


「にゃおん?」

「え? ネコちゃん?」


 煙が晴れて、そこにいたのは小さな黒いネコちゃんです。声が凄くかわいらしい。


 うわあああ。素敵です。子猫の使い魔なんて理想的じゃないですか!


「かわいいー」

「みゃーおん! みゃーおん!」


 黒猫ちゃんはあせったようにきょろきょろしています。ああ、知らないところに突然つれてこられて怒っているのですね?


「お父さま、使い魔さんとお話って出来ないんですか?」

「うーん。サーシャは話してるぞ? 目と目を見合わせて波長を合わせるんだ。呼び出されて来るくらいだから相性は悪くない。上手くすれば話をすることも可能だろう」

「分かりました」


 あせった様子のネコちゃんに目線を合わせます。真っ黒の毛の中で薄いブルーの瞳がとても綺麗。

 美人さんの猫ちゃんですね。


「はじめまして。私はアミです。あなたはお名前はあるのですか?」

「みゃーお」


 黒ネコちゃんは私のほうをジーっとみてます。ああなんて可愛いんでしょう。首についた赤いリボンがとってもお似合い。


 そのとき、チカッと目の奥が光った気がしました。ぱちぱちと瞬きをすると、さっきと同じネコちゃんなのに何かが違う気がします。


「え、えと?」

「ねぇ。ここはどこ? お月様見てただけなのに、どうしてあたしここにいるの? これ夢?」


 わあ。ネコちゃんの声が頭に響いてきます。大成功です!


「私、アミです」

「あたしはモカよ。よろしくね。ああでも、ここはいったいどこなんだろう。やっぱり夢かなぁ」


 ちゃんとお名前もあるんですね。モカちゃんですって。これで呼ぶのにも困りませんね。

 

 先程から興味深げに私達を見ているお父様にも聞いてみます。


「お父さまにも聞こえるんですか?」

「いや? わしにはにゃーにゃーとしか聞こえんぞ?」

「じゃあ私だけなのですね」

「そうだな。アミちゃんと波長が合うのだろう」



 私だけとお話が出来る使い魔さん。……なんて素敵なんでしょう。もし使い魔になってくれたら、毎日一緒お散歩したり肩に乗っけたり出来ますね。形から入るようですけど、それなら立派な魔女に見えますね、きっと。


 想像するだけで楽しくて、私は早速勧誘に入りました。


「ここはカタリ村です。モカちゃん、ようこそ。私の使い魔になってくれませんか?」

「つかいまってなあに? おいしい?」


 あららん。使い魔という言葉を知らないのですね。なんて説明すればいいでしょう。


「えと、食べ物ではないのですよ。私のお手伝いをしてくれませんか? ってことです」

「お手伝い?」


 モカちゃんは小首をかしげます。うもう、すっごく可愛い。


「いいよ。その代わり、お手伝いが終わったらあたしのお手伝いもしてね?」


 商談成立みたいです。でもどうしましょう。使い魔のお仕事はすぐ終わるものではないですし。


「先にモカちゃんのお手伝いをさせてください。終わったら、私のお手伝いでもいいですか」

「いいよう。じゃあね。あたしの話、聞いてくれる?」


 モカちゃんはちらりとお父さまを見ると、プイッとそっぽを向いてしまいました。


「この人ちょっと変だからイヤよう。見えないところに行こう?」


 尻尾をふって、外へと出て行ってしまいます。私が慌てて後を追っかけると背中にはお父さまの言葉が。


「アミちゃん、早速使い魔を使っているのか?」

「あーあはは。違うんです。戻ってきたら契約の仕方教えてくださいねぇ」


 さすがに、お父さまを変な人呼ばわりしていたとは言えません。曖昧に笑ってごまかしましょう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ