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盲目遊戯 1  作者: Svolik
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第一章

彼は自分の人生を失敗だったとは思っていなかった。


そう決めつけるのは、あまりにも都合がよすぎた。あまりにも美しすぎた。疲れをたった一つの言葉で説明して、その層を一つずつ剥がさずに済ませようとする態度に、あまりにも似ていた。


失敗した人生というのは、最初からすべてが歪んでいるものだ。人がまだ規則を理解する前に、もう負けているような人生だ。彼の場合は違った。彼は長く、平坦に、そして正直に言えば、全体としては悪くない人生を生きてきた。働いた。前の仕事が食わせてくれる以上に自分を押し潰すようになれば、仕事を変えた。勝者だと思えるほど稼いではいなかったが、予想外の出費のたびに惨めな思いをしなくて済む程度には稼いでいた。


彼には趣味があった。


たくさんあった。


時々、彼は何かに急に、ほとんど貪るように熱中した。山歩き、工具、射撃場での射撃、古い機械の修理、本、妙な歴史系の動画、料理、結局自由に話せるほどにはならなかった言語。ひと月、ふた月、半年。やがて興味は埃のようにゆっくり沈んでいった。残ったのは物だけだった。リュック。ナイフ。ドライバーのセット。本棚の本。パソコンの中のフォルダ。かつて、今よりも広く生きたいと望んだ人間の痕跡だった。


関係もあった。


いろいろな関係があった。軽いもの、重いもの、笑えるもの、長いもの、短いもの、あからさまに愚かなもの。感謝とともに思い出せる女たちもいた。そもそも思い出さないほうがいい女たちもいた。誰かが隣で眠り、自分の肩に息をかけ、枕に髪を残し、テーブルにカップを置いていく。ただそれだけで、自分が生きていると感じられた瞬間もあった。


その後には家族があった。


理想的ではなかったが、本物だった。普通の大人の喜びと、それと同じくらい普通の大人の苛立ちがある家族だった。二人での買い物。修繕。台所での会話。仕事の後の疲れ。くだらないことでの喧嘩。その瞬間には世界で一番大事に思えるような、くだらないことでの喧嘩。互いの中に根を張ってしまった習慣。きれいな言葉からではなく、頭痛薬がどこにあるか、子供の頃からどうしても受けつけない食べ物が何かを知っている人間が隣にいることから生まれる温かさ。


彼はその頃、それこそが普通の大人の人生なのだと思っていた。


歓喜ではない。永遠の恋愛でもない。映画でもない。


安定。


家。仕事。隣にいる女。夏の予定。老いていく親。買い物。借金。年に一度の休暇。決して終わらない用事のリスト。それでも、なぜか人を形のある状態に保ってくれるもの。


離婚も突然ではなかった。


外から見れば突然に見えたかもしれない。だが実際には、人は荷物をまとめ始めるずっと前から別れ始めている。最初に、聞くのをやめる。次に、説明するのをやめる。それから、言い争うのをやめる。そして喧嘩さえ消えた時、はっきり分かる。もう先には何もない。ただ、誰もまだそれを声に出していないだけだ。


二人は美しい悲劇もなく別れた。家じゅうに響く叫びもなかった。すべての罪を押しつけられるような浮気もなかった。すべてが壊れたと名指せる、都合のいい一日もなかった。


ただ、ある日、もうずっと前から壊れていたのだと分かっただけだった。


離婚の後、彼は崩れ落ちなかった。


酒に溺れなかった。急いで新しい女を探しに走らなかった。突然バイクを買ったわけでもない。自分にも元妻にも「まだまだいける」と証明するためにジムへ通い始めることもなかった。自由だの新しい人生だの、もっともらしい引用を添えて写真を投稿し始めることもなかった。


彼はただ、少しずつ力を入れなくなった。


最初は友人たちと会う回数が減った。会いたくなかったからではない。そのためには約束をし、どこかへ行き、何かを話し、会話を支えなければならなかったからだ。次に趣味を放り出した。リュックは戸棚に残った。工具は引き出しに眠った。本はベッドのそばに積み上がったが、開かれることはどんどん少なくなった。それから、住まいの手入れも雑になった。汚れきったわけではない。ただ、すべてが一応は普通なのに、はっきり分かる状態になった。ここには、自分自身にさえ印象よく見せようとする気力を失った人間が住んでいる、と。


彼は廃人になったわけではなかった。


ただ、ある日から、毎日自分を整った形に保つ理由が分からなくなった人間になっただけだった。


彼は四十五を少し越えていた。背丈は中くらい。痩せて筋張った体で、特に筋肉質ではないが、それでもまだ持久力はあった。かつては重いリュックを背負って長く歩くことができた。寒さも、疲労も、肩の痛みも黙って耐えることができた。今もその持久力は消えていなかった。ただ、怠惰と無関心と寝不足の層の下に、より深く沈んでいただけだった。


濃い栗色の髪には、こめかみのあたりにもう白いものが混じり始めていた。顔は若い頃より硬く、乾いた印象になっていた。目尻には細かな皺があった。目は緑がかっていて、瞳孔の近くに黄色い火花のような色があった。そのせいで、彼の視線は時々、彼自身が望むよりも注意深く、重く見えた。彼は物を見る時、すぐにその強度、値段、弱点、厄介事になる可能性を見積もっているような目をしていた。


その夜、彼は台所で長いことノートパソコンの前に座っていた。


画面には記事が開かれていた。もう四十分ほど読んでいたが、まだ半分にも届いていなかった。隣には、人の顔も知らぬ者たちが自分たちにとってだけ重要な何かについて言い争っているフォーラムが開かれていた。マグカップの茶は冷めていた。窓の外は暗くなっていた。建物は少しずつ静まっていった。最初は扉が閉まる音がした。次にエレベーターが唸った。その後、上の階で椅子を動かす音が止み、最後にはまばらな車の弱い音だけが残った。


彼は時計を見た。


もうすぐ真夜中だった。


冷蔵庫には卵が二つ、半分のレモン、マスタードの瓶、それから本当なら昨日のうちに捨てるべきだったタッパーの残り物があった。パンは朝になくなっていた。まともな食べ物はなかった。


彼は寝ることもできた。


正しい人間なら、そうしただろう。


彼はノートパソコンを閉じ、数秒だけ静けさの中に座ってから立ち上がった。


「行ってくるか」


彼は空っぽの台所に向かって言った。


声は馬鹿げて聞こえた。


誰に話しているのか。部屋にか。習慣にか。夜中にどこへ行くのかと誰かが聞いてくれた、あの生活の残り滓にか。


彼は古いジーンズを穿き、暗い色の上着を羽織って、ポケットを確かめた。鍵、スマホ、カード。機械的に台所を見回した。火、水、窓。家族がいた頃の習慣が残っていた。ひとりで暮らしていても、身体は長い間、家に誰かがいて、その誰かを裏切ってはいけないかのように振る舞う。


階段室には埃と古い塗料と揚げた芋の匂いがした。踊り場の灯りは、まるでそれ自身もうんざりしているかのように瞬いていた。エレベーターは上の階で止まっていたので、彼は階段を使った。身体のためではない。ただ、待つことが腹立たしいほど無意味に思えたからだ。


外は涼しかった。


寒いほどではない。だが、彼が両手をポケットの奥へ押し込むには十分だった。アスファルトは、少し前の雨のせいで、ところどころ光っていた。水たまりの中で街灯の黄色い反射が震えていた。中庭はほとんど空だった。停められた車。暗い窓。柵のそばのごみ箱。濡れた地面に落ちる、まばらな光の染み。


店までは歩いて十分ほどだった。狭い通路、眠そうな店員、湯気の立つまずいブラックコーヒーを出す機械がある、小さな二十四時間営業の店だった。彼はそこへ、そうするべき頻度よりもずっと多く通っていた。特別なものがあったからではない。ただ、そこは決断を必要としない道筋だった。


彼はゆっくり歩いた。


足元を見ていた。縁石のひび、ごみ箱のそばに落ちた誰かの手袋、暖房を入れて誰かが中に座っているらしい古い車の曇った窓。そんな細かなものに気づいていた。角で立ち止まり、まばらな車を先に行かせた。車は濡れた道の上をタイヤでかすかに鳴らしながら通り過ぎ、また静けさが戻った。


その時だった。


彼の目の前の空気が、ぐにゃりと揺れた。


閃光が走ったわけではない。爆発したわけでもない。雷鳴とともに裂けたわけでもない。


ただ、彼から数メートル先の空間が、向こう側から透明な膜を引っ張られたかのように皺を寄せた。その皺の向こうにある街灯が、歪んだ黄色い帯に引き伸ばされた。柵の影が折れ、ありえない形になった。空気の中に圧力のような感覚が生じた。雷雨の前のような圧迫感。ただし、それは一点に集中していた。


彼は立ち止まった。


最初に浮かんだ考えは、奇跡ではなかった。


脳の発作か。


彼は瞬きをした。


歪みは消えなかった。むしろ濃くなった。その中に暗い縦の裂け目が開き、縁が鈍い青い光を帯びた。電気にしてはあまりに均一で、幻にしてはあまりに生きていた。


彼は一歩後ずさった。


裂け目が震え、広がった。


そして、そこから二人が転がり出た。


最初に倒れ込んだのは老人だった。


背が高く、非常に痩せていて、長い暗色のローブをまとっていた。布は厚く重く、縁にはくすんだ銀色の線が走っていた。その線はところどころ弱まり、また火の名残でもあるかのように明滅していた。老人は膝をアスファルトに打ちつけ、片手で身体を支えようとしたが、その手が崩れ、危うく顔から倒れそうになった。


続いて少女が飛び出してきた。


彼女は裂け目の縁につまずき、短く悲鳴を上げて老人のそばに倒れた。若い。見た目は十七、十八、あるいはもう少し上かもしれない。亜麻色の髪は乱れていたが、その乱れの中でも、腰近くまで届く長い三つ編みに結われていることは分かった。彼女は厚手の明るい布地の旅装をまとい、その上に短いマントを羽織っていた。肩のところが裂けていた。顔は青ざめ、疲れ切っていた。灰色の目は恐怖と疲労で大きく見開かれていた。


絵になる恐怖でも、芝居がかった恐怖でも、軽い恐怖でもなかった。


本物の恐怖だった。


人がすでにあまりに多くを見て、あまりに長く逃げ、それでもまだ意識を失う権利さえ持たない時の恐怖だった。


二人の背後で、何かが身をよじった。


裂け目の奥で、一瞬、暗い影が見えた。人間ではない。低すぎる。広すぎる。濡れたように光る曲面があり、それが甲殻なのか皮膚なのか分からなかった。唸り声が響いた。鈍く、湿っていて、飢えた悪意に満ちた声だった。


老人が手を振り上げた。


門の青い縁が閉じた。


音が途切れた。


通りには再び静けさが戻った。


ほとんどは。


老人が咳き込んだ。咳は湿って重かった。アスファルトの上に黒い血が飛び散った。


彼は二人から三歩の場所に立ったまま、動かなかった。


理性が、起きていることを受け入れ可能な形へ組み直そうとしていた。酔っ払いか。撮影か。悪戯か。幻覚か。だが血は血の匂いがした。絵の具ではない。作り物ではない。鉄と、塩と、身体の内側から来る災いの匂いだった。夜は涼しいのに、老人の周囲の空気は熱で震えていた。


少女が何かを言った。


言葉は速く、かすれていて、聞き慣れないものだった。彼が知っているどの言語にも似ていなかった。柔らかな響きと鋭い子音、奇妙な内側のリズムがあった。彼女は彼に話していたのではない。老人に話していた。頼んでいるのか、呼んでいるのか、意識を繋ぎ止めようとしているのか。


彼女の周囲の空気は、正しく振る舞っていなかった。


門ほどはっきりしてはいない。もっと細く、知覚の縁に触れる程度だった。彼女の手のそばのアスファルトに残った水分が、小さく震える波紋に集まった。風はほとんどないのに。乾いた葉の切れ端が浮き上がり、彼女の膝のそばで回り、すぐに落ちた。街灯の光が一瞬だけ強くなり、また鈍った。


彼女はそれに気づいていないようだった。


あるいは、気づかないことに慣れていた。


老人が顔を上げた。


その顔は細く、骨ばっていた。白髪が額に張りついていた。短い顎髭は血で汚れていた。目は色褪せていたが、硬かった。死を受け入れた人間の目ではなかった。身体がもう耐えられないせいで死にかけているだけで、意志のほうはまだ仕事を終えていない者の目だった。


老人は彼へ手を伸ばした。


彼はさらに一歩下がった。


「いや」


彼は言った。


「まず、何が起きているのか説明してくれ」


老人は言葉を理解しなかった。それはすぐに分かった。だが、口調は理解したらしかった。


老人は唇だけで笑った。それから指が震え、奇妙な印を結んだ。二人の間の空気が短く光った。


彼は思った。


まずい。


次の瞬間、額に焼けた釘を打ち込まれたような痛みが走った。


彼が倒れなかったのは、意識より先に身体が反応したからだった。足が広がり、手が冷たい道路標識の金属柱を掴んだ。痛みは皮膚でも骨でもなく、脳を直接貫いた。まるで、普通の言葉が慣れた棚に並んでいる頭の中に、誰かが扉を開け放ち、そこへ異国の文字を投げ込んだようだった。


彼は目を強く閉じた。


さっきまでただの音だった未知の響きが、突然、言葉になった。


「……ハズレット様、お願いです、そんなことはできません、もうあなたは……」


少女は泣いていた。声を上げて泣き崩れているわけではなかったが、声が折れていた。


老人――つまりハズレットが、重く息を吸った。


「できる。まだ少しはできる」


彼は目を開けた。


「俺に何をした?」


自分の声はかすれていた。だが彼は、もう先ほどと同じようには話していなかった。正確には、自分が別の言葉を発していることを理解していた。そして同時に、その言葉を生まれてからずっと使ってきたように自然に理解していた。そのことが、さらに悪かった。


ハズレットは彼を注意深く、値踏みするように見た。


「言葉の理解を与えた。荒いやり方で。すまない。時間がない」


「何の時間が?」


「礼儀正しい方法で説明する時間だ」


老人は立ち上がろうとしたが、力は、柵のコンクリートの土台に背を預けて座るだけで尽きた。少女はすぐに彼へ身を寄せ、肩を支えた。彼女の指は震えていた。手首には青黒い痣があり、頬には細く長い切り傷があった。旅装の裾は泥と埃と、乾いた血のような暗いもので汚れていた。


彼女が異世界の濡れたアスファルトに倒れることに慣れた人間でないのは明らかだった。


彼は老人から彼女へ視線を移した。


「お前たちは誰だ?」


ハズレットはすぐには答えなかった。まず、どれだけ言えるかを量っているようだった。


「私はハズレットという、ヴァルドゥスの魔導士だ。彼女はエリニアーダ。お前には、リニでいい」


少女は短く身を震わせた。縮められた名に反応したのだろう。だが異を唱えなかった。疲れすぎていた。怯えすぎていた。


「ヴァルドゥス」


彼はゆっくり繰り返した。


「街の名前か?」


「王国だ」


彼は少し黙った。


それから尋ねた。


「今から馬鹿な質問をするが、必要な質問だ。俺は正気を失ったのか?」


ハズレットはまた薄く笑い、そのせいで唇から血が流れた。


「違う。もっとも、そのほうがあなたには楽だっただろうが」


「同感だ」


彼は通りを見回した。


誰もいない。


それは良いことでもあり、悪いことでもあった。良いことなのは、偶然の通行人がいれば状況はさらに制御不能になっていたからだ。悪いことなのは、目撃者がいないせいで、これは彼個人の責任になってしまうからだ。決断を群衆や警察や医者や偶然に預けることができなかった。


濡れたアスファルトの上には、死にかけた魔導士と、異国の旅装をまとった少女と、世界観に開いた穴が転がっていた。


「救急車が必要だ」


彼は言った。


「医者だ。病院だ」


「いらない」


「出血している」


「そうだ」


「ならなおさらだ」


ハズレットは首を横に振った。


「医者では助けられない。傷は肉体だけのものではない。それに、仮に助けられたとしても、騒ぎが大きくなりすぎる」


「騒ぎ?」


「痕跡。問い。答えを探し始め、間違ったものを見つける者たち」


彼は歯を食いしばった。


彼は謎めいた返答が好きではなかった。特に、死にかけているせいで他人の時間を好きにしていいと思っているらしい人間の謎めいた返答は。


「はっきり言え」


ハズレットは彼をじっと見た。


「我々は追われていた。私はリニを世界の裂け目から逃がした。出口は本来の場所ではなかった。妨害のせいかもしれない。あるいは、私がもう弱りすぎていたせいかもしれない。私に残された時間は少ない。彼女は故郷へ戻らなければならない。正確には、まず王都へ。そこで彼女の味方が迎えに来られる」


「味方とは誰だ?」


ハズレットは答えなかった。


少女が視線を落とした。


彼はそれに気づいた。


何も言わなかった。


ただ、記憶した。


とても若い少女。傷んでいても高価な旅装。普通の逃亡者よりもずっと見える姿勢。彼女を単なる名ではなく、選んで呼ぶ必要があるかのように呼ぶ老魔導士。必要なのは王都。そこで「味方」に迎えられる。父親は彼女をこのハズレットに、教育か護衛のために預けたのだろう。それは二人の一つ一つの動きから読み取れた。つまり父親は普通の男ではない。まったく普通ではない。問題は、どの程度普通ではないかだった。


「そもそも、なぜ危険な目に遭った?」


彼は尋ねた。


リニがかすかに緊張した。


ハズレットは落ち着いて答えたが、あまりに短かった。


「道が悪くなった」


「道は勝手に悪くなって、世界を飛び越えなければならないほどにはならない」


「時にはなる」


柵の向こうで何かが鳴った。


普通の音だった。風が金属片を揺らしただけかもしれない。だがリニは全身でびくりとした。彼女の周囲の空気が一瞬揺れた。近くの水たまりに細かな輪が広がった。ハズレットの袖の鈍い線が、弱い光でそれに応えた。まるでその高まりに反応しているようだった。


老人は顔を向けずに、低く言った。


「息をしなさい」


「しています」


彼女は囁いた。


「もっとゆっくり」


彼女は目を閉じた。


一秒。二秒。彼女の周囲の空気が静まった。


彼は注意深く見ていた。


ハズレットはその視線に気づいた。


「後だ」


彼は言った。


「何が後だ?」


「今のお前ではどうせ信じられない問いへの答えだ」


「便利だな」


「違う。ただ遅すぎるだけだ」


老人はまた咳き込んだ。今度は血がさらに多く流れた。リニは彼の胸に手を当てようとしたが、ハズレットがその手を掴んだ。


「無駄にするな」


「でも、私は……」


「できない」


その言い方は柔らかかった。だからこそ、なおさら厳しく響いた。


少女はさらに青ざめ、顔を背けた。


彼は疲れたように顔を手でこすった。


「俺に何を望んでいる?」


「彼女をヴァルドゥスへ連れて行ってくれ。山の国境を越え、王都へ。目立たぬように」


「どれくらい歩く?」


「出口の位置を間違えなければ、二週間ほどだ」


「山を越えて」


「峠を越えて」


「目立たぬように」


「ああ」


「明らかに探されている少女と一緒に」


ハズレットは黙った。


「武器も、金も、土地勘も、身分証も、お前たちの法律の知識も、お前たちの世界で生き残る技術もない状態で」


「完全にないわけではない」


彼は目を細めた。


「今の言い方で、もう嫌な予感しかしない」


ハズレットは手を上げた。指はさらに震えていたが、その動きにはまだ正確さが残っていた。力ではない。技だった。高熱の中でも、どこに手を置けばいいか覚えている老外科医や老楽師のようだった。


「私が与えられるものを与える」


「俺は何もできない」


彼は硬く言った。


「分かっているのか? お前が必要としていることに、俺の技能は何一つ役に立たない。水栓を直すこと、配線をいじること、車を運転すること、悪い契約と最悪の契約を見分けること、必要に迫られれば火を起こすことくらいならできる。逃亡中の少女を連れて山を越えることはできない。魔法は使えない。門からお前たちを追って出てこようとしたあれと戦うこともできない」


「できるようになる」


「そんなことはありえない」


「お前の世界では、そうかもしれない。私の世界では、起こらないほうがよい多くのことが起こる」


リニが勢いよく老人の手を掴んだ。


「ハズレット様、だめです。安全に渡せるはずがありません。彼は異邦人です。彼の精神は……」


「彼の精神が耐えるか、耐えないかだ」


「ありがとう」


彼は乾いた声で言った。


「心強いな」


ハズレットは彼の目を見た。


「穏やかにやる時間はない。整える時間もない。知識、技術、才の基礎を渡す。師匠が弟子へ教えるようにではない。穴へ落ちかけた者に、人が縄を投げるようにだ。縄は手を焼くかもしれない。切れるかもしれない。だが、ないよりはましだ」


「実に感動的だ」


「嘘のほうが心地よかっただろう。だが役には立たない」


彼は黙った。


頭の中が、奇妙に澄んでいった。


落ち着いたわけではない。心臓は速く打ち、手は冷え、背中は緊張していた。だが恐慌は後ろへ退いた。その代わりに、混乱を箇条書きに分ける古い習慣が前に出てきた。


事実その一。目の前の二人は彼の世界の人間ではない。悪戯の可能性は消えていいほど低い。物理的な徴候が多すぎる。正しくないものが多すぎる。


事実その二。老人は死にかけている。しかも早い。


事実その三。少女は危険の中にいる。理由は隠されているが、危険は本物だ。


事実その四。彼女の周囲では奇妙なことが起こっている。偶然ではない。完全には制御されていない。ハズレットはそれを見ており、彼が言う以上のことを知っている。


事実その五。彼が拒めば、彼女はおそらく死ぬ。すぐにではないかもしれない。だが、とても近いうちに。


事実その六。彼が承諾すれば、二人とも死ぬかもしれない。


事実その七。ここでの自分の人生は――。


彼はその考えを断ち切った。


それは不愉快だった。


なぜなら、答えがあまりにも早く浮かんだからだ。ここでの彼の人生は空っぽではなかった。部屋には物が残っていた。請求書も、書類も、片づいていない用事もあった。しばらくすれば、たぶん心配し始める人間もいるだろう。二日後かもしれない。一週間後かもしれない。彼が返事をしなくなった時かもしれない。


だが、今この瞬間、彼を引き留めるものはなかった。生きた義務のように彼を縛るものは。


家で彼を待つ者はいなかった。


朝食を必要とする子供もいなかった。


なぜそんなに遅いのかと尋ねる女もいなかった。


猫さえいなかった。


あるのは部屋と、埃をかぶった趣味と、ノートパソコンに残った読みかけの記事だけだった。


彼はその考えを抱いた自分に腹が立った。冷酷さのせいではない。正確さのせいだった。


「俺は英雄じゃない」


彼は言った。


ハズレットは頷いた。


「よい。英雄はたいてい最初に死ぬ。私に必要なのは英雄ではない」


「なら、誰だ?」


「たどり着く人間だ」


その言葉は、なぜか正確に刺さった。


勝つ者ではない。世界を救う者ではない。偉大になる者ではない。


たどり着く者。


彼はリニを見た。彼女は濡れたアスファルトの上で師匠のそばに座り、疲れ切っているにもかかわらず背筋を伸ばしていた。肩は震えていたが、顎は頑固に上げていた。灰色の目は恐怖に満ちていた。しかし、その奥にはもう別のものが現れ始めていた。自分を立て直そうとする意思だ。彼女は若かった。その肩に置かれた重さに対して、あまりにも若かった。だが、壊れやすい人形ではなかった。今はひび割れていても、芯が感じられた。


「俺が失敗するかもしれないことを理解しているか?」


彼は彼女に尋ねた。


リニはまっすぐ見返した。


「理解しています」


声は小さかったが、弱くはなかった。


「それでも、最初に会った男と一緒に行く覚悟があるのか?」


彼女はハズレットの袖を握る指に力を込めた。


「覚悟なんてありません。でも、もう選べる状況ではありません」


それには返す言葉がなかった。


ハズレットがまた咳き込んだ。リニは彼へ身をかがめたが、老人は手振りで止めた。


「決めろ」


彼は男に言った。


「今だ」


彼は向かいの建物の暗い窓を見た。街灯を見た。濡れたアスファルトを見た。冷たい柱をまだ掴んでいる自分の手を見た。


そして突然、決断の一部はもうなされているのだと理解した。


冒険を望んだからではない。運命を信じたからではない。新しい人生への渇望が目覚めたからでもない。


ただ、彼らをここに置き去りにすることはできなかった。


あまりに具体的な災いが、目の前に横たわっていた。


「俺の身体は、この世界でどうなる?」


彼は尋ねた。


ハズレットが瞬いた。


「お前の身体?」


「お前の門を通って俺が行ったら、俺はここから消えるのか? 身体が残るのか? 分身が残るのか? 世界の間で引き裂かれるのか? お前はそもそもそれを知っているのか?」


老人はかすかに微笑んだ。


「よい問いだ」


「評価するな。答えろ」


「お前は丸ごと行く。身体も、魂も、精神も。痕跡は弱く残る。お前たちの世界の人間には読めない」


「素晴らしい。犯罪事件要素つきの神秘体験だな」


「それは重要か?」


彼は考えた。


「もう重要じゃない」


リニが震えた。彼が本当に承諾へ傾いているのだと、今になって理解したようだった。


「あなたは……行くのですか?」


「どこまで行けるかは分からない」


彼は正直に答えた。


「だが門には入る。その先は状況を見て考える」


ハズレットが息を吐いた。


その吐息には深い安堵があった。その一瞬、彼は魔導士でも、師匠でも、異世界の人間でもなくなった。死ぬ前に最後の荷を他人の手へ渡すことに成功した、ただの老人になった。


「なら、近くへ」


彼は柱から手を離した。


一歩一歩が奇妙だった。恐怖のせいでさえなかった。これから踏み越える境界の先では、以前の人生が過去ではなく、他人の夢になってしまうかもしれないのだと理解していたからだ。


彼はハズレットの前で片膝をついた。アスファルトは濡れて冷たかった。リニは少し横へずれたが、師匠の肩を支え続けていた。


近くで見る老人はさらにひどい状態だった。胸のローブは焼け焦げ、その下には黒赤い傷が見えていた。傷の縁は単に血を流しているのではなく、内側から燻っているようだった。血の匂いに、苦く金属的で、この世のものではない匂いが混じっていた。


「痛いのか?」


彼は尋ねた。


「痛い」


「危険か?」


「危険だ」


「死ぬこともあるか?」


「ある」


「お前は慰めの達人だな」


「嘘は時間を奪う」


彼は短く頷いた。


「やれ」


ハズレットは彼の額に手を置いた。


最初の数瞬、何も起きなかった。


それから世界が消えた。


いや、視界は残っていた。老人の顔が見えた。リニが見えた。二人の背後の街灯が見えた。だが、その上から頭の中へ奔流が叩き込まれた。


映像ではなかった。記憶でもなかった。言葉でもなかった。


すべてが同時だった。


異国の文字。動作の図式。見たこともない土地の地図。危険な草と薬草の匂い。貨幣の名前。衛兵、商人、傭兵、僧侶、そしてそもそも話しかけないほうがいい相手への接し方。小刀の握り方。倒れ方。立ち上がり方。崩れやすい斜面を歩く方法。石の街道より南で淀んだ水を飲んではいけない理由。最も簡単な光の結び目を編む方法。血の中を流れる魔力を感じる方法。猪の足跡と角猪の足跡を見分ける方法。銀色の苔が時々嘘をつく理由。骨の簪で簡単な錠を開ける方法。道標を読む方法。ある種の魔物の目を見てはいけない方法。出血の止め方。武器を落とさせるために人間の指を折る方法。青銅蛇の毒で死なない方法。ヴァルドゥスで葬儀の時に唱えられる祈り。魔導士が近くにいる時には決して唱えてはならない祈り。


情報は収まらなかった。


棚を壊し、山のようにこぼれ、頭蓋の壁にぶつかった。


彼は叫んだ。


たぶん。


あるいは、叫んだと思っただけかもしれない。


身体が弓なりに反り、指が濡れたアスファルトに食い込んだ。目の前で記号が閃いた。円、線、結び目、炎の螺旋、透明な立方体、数字はないのに硬い論理を持つ異国の式。どこか深い内側で何かが開いた。器官ではない。感情でもない。世界を知覚する新しい方法だった。


空気が濃くなった。


膝の下の地面は、ただの地面ではなく、重く鈍い塊になった。


自分の血管を流れる血は、温かな川になり、その中に流れがあることを彼は突然知った。


彼はリニを、近くにある光として感じた。いや、光という言葉は粗すぎた。薄い布で覆われた巨大な焚き火、と言うほうが近かった。布は持ちこたえていたが、ところどころ、その下であまりにも明るく燃え上がり、内側の視線を逸らしたくなった。そばのハズレットは別のものだった。消えかけた炉火。自分の中に最後の乾いた薪を投げ込み、他人の松明に火を移そうとしている炉火だった。


そして、すべてが途切れた。


彼は横倒しに倒れた。


数秒間、自分がどこにいるのか分からなかった。口の中には鉄の味があった。鼻は濡れたアスファルト、泥、血、冷たい空気、リニの旅装の布、ハズレットの魔法の苦い匂いを感じていた。多すぎた。鋭すぎた。


誰かが彼の肩を揺すっていた。


「聞こえますか? 私の声が聞こえますか?」


リニだった。


彼はどうにか目を開いた。


「聞こえる」


彼は絞り出した。


「聞こえないほうがよかったが」


彼女は固まり、それからほとんど嗚咽のような息を漏らした。安堵のせいか、悪夢の後で最初に聞いた普通の言葉だったせいか。


ハズレットは柵にもたれて座っていた。さらに青ざめていた。肌はほとんど透けて見えそうだった。だが目は開いていた。


「耐えた」


彼は言った。


「自信はない」


「話せるなら、耐えたということだ」


「それは証拠にならない」


「十分だ」


彼は立ち上がろうとした。世界が揺れた。頭の中では、地震の後の巨大な図書館のように何かが動いていた。棚は崩れ、本は混ざった。だがその混乱の中に、もう細い道が生まれ始めていた。彼は知っているはずのないことを知っていた。望めばすべてを思い出せるわけではなかったが、必要な糸を引けば何かが出てくると感じていた。


それと一緒に痛みが来た。


頭だけではない。胸、骨、筋肉。身体が別のものになるための説明書を受け取ったのに、作り替わる時間は与えられなかったようだった。


「俺に何を渡した?」


彼は尋ねた。


「基礎だ。余計なものも多い。必要なものも多い。渡せる限りの私の経験。才の一部」


「一部?」


「お前には開かれた魔力源がなかった。今はある。小さいが、澄んでいる。残りは自分で身につけろ」


「自分で、か」


「ああ」


彼は悪態をつきたかったが、こらえた。敬意からではない。ただ、力が足りなかった。


ハズレットは空いた空間へ向けて手を上げた。指が空中に細い光の跡を残した。今度、門はゆっくり開いた。最初に青く深い点が生まれた。それが線へ伸び、線が楕円になった。楕円の中には、石の道の上に広がる灰色の空が見えた。門から吹く風は、湿った草と煙と針葉樹の湿り気の匂いを運んできた。


リニが身をこわばらせた。


「遠いのですか?」


ハズレットは目を閉じた。ほかの者には届かないものを聞いているようだった。


「ありえたほどには遠くない。北側だ。間違っていなければ、古い峠道の近く」


「王都までは?」


「二週間。道が空いていれば、もっと短いかもしれない。関所を避けねばならなければ、もっと長いかもしれない」


「関所?」


彼が尋ねた。


ハズレットは彼を見た。


「山の国境だ。静かに行く必要がある。大街道ではなく」


「お前たちが探されているからだな」


「今は、説明より慎重さのほうがよい」


あまりに回りくどい。


だが彼はもう十分理解していた。


ハズレットから渡された記憶の断片によれば、その国は戦争に呑まれてはいなかった。道は機能していた。都市は生きていた。衛兵は持ち場に立っていた。貨幣は鋳造され、税は集められ、商人たちは役人と口論し、農民は陰謀よりも不作を恐れていた。つまり、国家全体の崩壊ではない。


問題は彼らだった。


老人。少女。道で起きたこと。ハズレットが余計な名を呼ばなかったこと。リニが追跡者だけでなく、自分自身、あるいは自分の周囲で起こるものを恐れていたこと。


彼は立ち上がった。身体が揺れた。リニが素早く肩を貸した。彼女自身もやっと立っている状態なのに。


「気をつけてください」


彼女は言った。


「今日、慎重さが流行遅れになったのは分かっている」


彼女は意味が分からないように彼を見た。それから、どうやら意味を掴んだらしく、ごく弱く、本当に弱く微笑んだ。笑みはすぐに消えた。


ハズレットは二人を見ていた。


「聞け」


彼は男に言った。


「大きな道には必要がない限り出るな。彼女の本名を呼ぶな。髪は隠したほうがいい。三つ編みは目立つ。道のそばに白い筋の入った黒い石を見たら、森へ入れ。あの辺りは古い場所だ。魔物は少ないが、人間のほうが悪い。それから……」


彼はまた咳き込んだ。


リニが彼へ飛びつこうとしたが、手振りで止められた。


「だめだ。門へ。今すぐ」


「ハズレット様……」


「リニ」


一語だけだった。


だがそこにはすべてがあった。命令、願い、別れ。


少女はさらに青ざめた。唇が震えたが、彼女は背筋を伸ばした。ゆっくりと頭を下げた。


「私は、たどり着きます」


彼女は言った。


ハズレットは彼を見た。


「その言葉を無駄にしないよう、彼女を助けてくれ」


彼はその視線を受け止めた。


「努力する」


「違う」


老人は厳しく言った。


「努力するな。たどり着け」


彼は鋭く言い返したかった。他人の運命を自分に背負わせられるのは嫌いだ、と。死の間際の約束は汚いやり口だ、と。彼は誓いなど立てていないし、騎士ごっこをするつもりもない、と。


だが、別のことを言った。


「たどり着く」


ハズレットは頷いた。


それから、もう一つのことを思い出した。


「私の身体だ」


彼は言った。


「ここに残れば、大きな騒ぎになる。非常に大きな騒ぎだ。警察、検分、監視カメラ、質問。こんなローブとこんな傷の死体が見つかれば……」


「見つからない」


「なぜだ?」


「私が始末する」


「どういう意味だ?」


ハズレットは疲れた笑みを浮かべた。


「ヴァルドゥスの魔導士は、遅れて来た者に都合のよい答えを残すことは少ない。死ねば身体は散る。灰、塵、少しの光。お前たちの世界にとっては、アスファルトの上の汚れにすぎない」


リニは目を閉じた。頬を涙が一筋流れた。


彼はゆっくり頷いた。


「分かった」


それが本当に良いことかどうかは分からなかった。


ただ、ほかに選択肢はなかった。


門が震えていた。その縁は狭まり始めていた。


ハズレットが鋭く手を上げた。


「行け」


リニは彼へ一歩踏み出した。抱きしめたいように見えたが、止まった。おそらく、痛みを増やすのが怖かったのだろう。おそらく、もう一度触れたら離れられなくなると分かっていたのだろう。


ハズレットは自分から二本の指で彼女の頬に触れた。


「生きなさい、娘よ」


「戻ります」


彼女は囁いた。


「助けを連れてきます、私は……」


「生きなさい」


彼は繰り返した。


「残りはその後だ」


彼女は歯を食いしばり、身を翻して門へ向かった。


彼は半歩遅れて立ち止まった。


ハズレットが彼を見た。


「名を」


老人は言った。


「まだ聞いていなかった」


彼は自分の名を告げた。


老人はその名を、異国の訛りを含みながらも正確に繰り返した。


「大切にしろ。私の世界では、名には重みがある」


「また良い知らせだな」


「慣れる」


「疑わしい」


「それでいい。疑いは命を保つ」


そこで、老人の力は尽きたらしかった。彼は手を下ろした。門が震え、さらに狭くなった。


彼は向き直り、リニに続いて足を踏み入れた。


最後の瞬間、彼は振り返った。


ハズレットは黄色い街灯の下、柵のそばに座っていた。ひどく異質で、それなのにこの夜の通りに奇妙なほどふさわしかった。白髪で、痩せて、血にまみれた老人。ありえないものを通して他人の災厄を引きずり出し、今は墓もない異世界に残って死のうとしている人間。


それでも、その顔に敗北はなかった。


あったのは、運命に追い詰められながらも仕事を最後までやり遂げた者の執念だけだった。


門は冷たい青い光で閉じた。


世界が裏返った。


短い一瞬、彼は二つの人生を同時に見た。


以前の人生。空っぽの住まい、古いノートパソコン、角の店、そして買えなかったパン。


新しい人生。灰色の空、異国の道、隣にいる少女、頭の中の乱雑な知識の塊。


次の瞬間、彼は濡れた草の上に投げ出された。


片膝をつき、地面に手をついて持ちこたえ、最初に息を吸った。


空気が違った。


冷たく。澄んで。深かった。


どこか遠くで、烏に似た鳥が鳴いた。ただし、その声には低い金属の響きが混じっていた。頭上には重い雲が伸びていた。目の前には、ところどころ草に覆われた古い石の道が遠くへ続いていた。両側には森があった。暗く、湿り、高く、幅広い葉と、彼が見たこともない黒い幹を持つ森だった。


リニは隣に立っていた。


マントを風が揺らしていた。亜麻色の三つ編みがフードの下からこぼれていた。灰色の目は道を見ていたが、彼女が今見ているのは道ではなく、向こう側に残った老人なのだと分かった。


彼女の周囲で、ほんの一瞬、草が震えた。


細く、ほとんど気づかないほどに。


見えない波が彼女の足元から広がり、地面へ溶けたようだった。


森のどこかで、短くかすれた鳴き声が返ってきた。


さらに遠くで、もう一つ。


彼はゆっくり顔を向けた。


鳴いたものの姿は見えなかった。だが、まだ慣れていない新しい知識がすでに内側で動き、不愉快な候補を十ほど差し出していた。


リニも聞いていた。


彼女の肩が強張った。


「ごめんなさい」


彼女は小さく言った。


「何に対して?」


彼女は答えなかった。


彼は彼女をより注意深く見た。


疲労を。恐怖を。まだ起きてもいないことについて謝る癖を。


それから立ち上がった。


頭は痛んだ。身体は軋んだ。内側では、新しく、異質で、しかしもう彼自身のものになった何かが、心臓に合わせて静かに脈打っていた。


彼は森を、道を、空を見回した。


それからリニを見た。


「まず、開けた場所から離れる必要がある。その後で水、隠れ場所、傷の確認、それから、誰か、あるいは何かが跡を追ってくる可能性を考える」


リニはゆっくり彼へ顔を向けた。


彼女の視線にはまだ衝撃があった。恐怖があった。疲れ果てた虚ろさがあった。だがそれらのそばに、細い注意の糸が現れた。


「どこへ行けばいいか、分かるのですか?」


彼は道を見た。


頭の中で途切れた地図が閃き、すぐに崩れ、歪んだ形でまた組み上がった。それでも方向を知るには足りた。山。峠。王都は遥か南。普通の道は森の道より危険。森の道は、ただ危険。


「いや」


彼は正直に言った。


「だが、完全な手探りじゃないぶん、少しはましに間違えられそうだ」


彼女は数秒黙っていた。


それから頷いた。


二人は森へ向かって歩き出した。


後ろの世界、黄色い街灯と濡れたアスファルトが残った世界では、老魔導士はおそらく、もう塵へと崩れている頃だった。


そして前方のどこかには、ヴァルドゥスがあった。


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