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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第38話【馬鹿が故】

 季節はすっかり冬になり、寒い日が続くようになった。


 カラオケデートに行ったあの日から、鈴音と美咲はぱったりバイト先に姿を現さなくなった。

 本人に直接確認をとったわけじゃないけど、心配がなくなった、ということだと思う。

 鈴音はともかく、バイト中に家族と会うのは気まずかったので助かった。


「もうすぐ冬休みだねー……あ、そういえば柊君って短期なんだっけ」

「はい、冬休みまでです」

「へー……寂しくなるなぁ」


 古谷さんがそう呟いたのとほぼ同時、俺の後ろで品出しを手伝っていた店長が反応した。


「そうだよ、柊君! やっぱバイト続けるべきだって!」

「勘弁してください……」


 最近、よくこういうことを店長に言われる。

 しかしこの期間でよく分かったが、俺にはバイトと勉強の両立は難しい。一年の今ならともかく、二年になったら上手くいく気がしない。


 作業を終えた店長は、残念そうな顔をしながら裏にあるスタッフルームへと下がって行った。

 とりあえずやることがなくなった俺は、古谷さんがいるレジへと戻る。


「次のバイトとか決まってるの?」

「いえ。しばらくバイトはやめとこうと思ってて……成績落ちる可能性があるので」

「あ、なるほど。……あのさ、柊君が辞めるのって何曜日だっけ?」

「えーと……来週の木曜日です」

「そっか……」


 古谷さんは上を見たり下を見たりと、視線をさ迷わせていた。


 何だろうか。何か言いたそうではあるけど……さっぱり見当がつかない。


 それにしても冬休みといえば、その数日後はクリスマスだ。

 鈴音と付き合って初めてのクリスマス……となると、やっぱりデートとかプレゼントとか色々考えないとな。


「あ、あのさ、柊君!」


 勢いよく名前を呼ばれ、思考を中断してそちらを見る。

 視線をさ迷わせることをやめたらしい古谷さんが、真っ直ぐにこちらを見ていた。


「えっと……私、柊君と話すの結構楽しいなって思ってたんだよね」

「俺もですよ。アイドルの話もアニメの話も出来る人なんてあんまりいませんし」

「そっか……あの、それで、よかったらなんだけど――」


 古谷さんの言葉は、扉が開いた音によってかき消されてしまった。

 お客さんが入って来たからには、レジで立ち話をするわけにもいかない。


 いらっしゃいませ、と声掛けをしながら、隣に立つ古谷さんを見ると、心なしか元気がないように見えた。

 ……よほど大事なことを言おうとしていたんだろうか。


◆ ◆


「柊って確かコンビニでバイトしてるんだったよな?」

「ああ」


 今日ちょうど辞めるんだけどな。

 俺の席の前でしゃがみこんでいる吉田は、やけにニコニコした顔でこちらを見上げてきた。


「そこに可愛い子いる?」

「……同じところで働こうとしてるのか?」

「可愛い子がいるなら!」


 なんて不純な動機なんだ……。


「言いたくない」

「その言い方はいるんだな!?」

「そんな不純な理由で働いて欲しくないだけだ」


 立ち上がった吉田が俺の肩を掴んで揺さぶってきたので、鬱陶しくて手で振り払った。


「いいよなお前は……可愛い彼女もいて、可愛い仕事仲間にも恵まれて……! 俺も二年になるまでには彼女がほしい! んで来年の文化祭は彼女と一緒に回るんだ!!」


 放課後とはいえ、教室のど真ん中でこれを叫べるのは素直にすごいと思った。


 しかし、あのコンビニは万年人手不足だと店長が嘆いていたし、なんだかんだ吉田は真面目なところがあるので紹介するのもアリかもしれない。


 そんなことを思いながら教科書をリュックに片付けていると、授業を終えたらしい怜央がやって来た。


「なんの話してるの?」

「彼女の話だ! 篠塚も彼女ほしいよな!?」

「え……ごめん、話の流れがさっぱり分からないんだけど」


 困った顔でこちらを見る怜央になんて言うか迷っていると、吉田が続けた。


「柊のバイト先に可愛い子がいるらしいんだよ。だから俺も同じとこで働いて彼女作りてーなって話をしてたんだ」

「可愛い子? 啓太がそう言ったの?」

「言ってねえ!」


 うっかり怜央から鈴音に伝わったら大変なので、ここは全力で否定しておかなくては。

 リュック片手に立ち上がった俺を見て、吉田は目を細めた。


「なら、可愛い子いないのか?」

「それは……、そもそも可愛いの基準が人それぞれなんだから、答えようがないだろ」

「真面目か! ならお前の基準でいいから! 篠塚妹より可愛い子はいるのか!?」


 なんでこいつはさっきから肩を揺さぶってくるんだ……頭が揺れて気持ち悪くなるからやめてほしい。

 ――というか、


「いない。俺の基準だと鈴音が一番可愛いから」

「……」

「……何だよ、その変な表情は」

「いや……盛大に惚気られて気分が悪くなってきた……帰るわ」


 聞かれたから答えただけなのに、酷い話だ。

 本当に立ち去ってしまった吉田を見送っていると、怜央が変な笑顔を浮かべて顔を近付けてきた。


「今の、鈴音に伝えておこうか?」

「本気でやめてくれ」


 本当のことだし隠すことでもないけど、ただただ恥ずかしい。


「そういえば啓太、今日でバイト最後だよね」

「ああ。……って、怜央にそのこと言ってたっけ?」

「え。あー……鈴音に聞いた」


 そういえば鈴音には前に言ったし、今朝も何故かメッセージで最終日かどうか確認されたな。


「鈴音って割と何でも怜央に話すよな」

「まあ、隠し事は少ない方かもね」


 仲が良いようで何よりだ……とか思いながら、俺は怜央と共に教室を後にした。


◆   ◆


 何か特別なことが起こることもなく、バイト最終日は思ったより呆気なく終わった。

 外に出ると、辺りは真っ暗になっていた。いつもより暗く感じるのは、季節が冬になった影響だろうか。


「古谷さん、今までありがとうございました。色々迷惑かけちゃってすみません」

「ううん、全然。柊君、覚えも早かったし……そもそも私もバイト始めて長いわけじゃないし、お互い様だよ」


 そんな話をしながらコンビニの前の歩道に出ると、古谷さんは突然立ち止まった。


 彼女は自転車でここに来ているので、いつもならこのまま別れるのだが……もしかして最後だから名残惜しく感じてくれているんだろうか。

 俺としても、数少ない推し仲間ともう会えないかもしれないのは寂しい。


「……柊君。強要したくないから、無理なら無理って言って欲しいんだけど」

「? はい」


 妙な前置きだが、一体なんだろう。

 思わず身構えてしまった俺に対し、古谷さんは自転車のブレーキ部分をグッと握りしめ、言った。


「あのさ……バイトが終わっても、その……連絡してもいい?」


 連絡――だけど、俺は古谷さんに連絡先を教えていない。

 短期だし、体調不良で休むようなこともなかったからバイト先の誰とも連絡先交換はしていなかった。

 つまりこれは、連絡先を交換しようという意味の発言だろうか。


「あ……えっと」


 もちろんと頷こうとして、言葉がつっかえた。


 脳裏に過ったのは、鈴音のこと。

 古谷さんと俺の関係を疑っていた鈴音のことを考えると、バイトが終わった後も彼女と連絡を取り合うのはどうなんだろう。


 ……いや、でも古谷さんは俺に彼女がいることを知っているし、やたら警戒するのも失礼か。


 思い直して首を振っている間に、古谷さんが近付いて来ていた。

 俺が無言で黙ってしまっていたせいか、その表情は切羽詰まっているように見える。


「私、多分分かりやすいと思うからもうバレてそうなんだけど」

「え?」


 バレてる? ……何がだ?


「柊君のこと気になってて……だから、あの、友達からでもいいのでよかったらお願いします!」


 早口で発せられた言葉を受けて、俺の頭の中は混乱した。


 気になってて、友達からでもいいので、お願いします――これは果たして、どういう意味なんだ?

 なんてとぼけることは、流石に出来ない。

 友達から始めた先にある関係性なんて、一つしか思い浮かばないからだ。


「あ、あの……俺」

「こ、これ!」


 俺の言葉を遮るように、古谷さんは何かを押し付けてきた。

 反射的に受け取ったそれは、小さな紙切れだった。辺りが暗すぎて何が書かれているかはよく見えない。


「えっと、返事はまた今度ってことで……じゃ、じゃぁ! 帰ります! 柊君バイトお疲れ様!」

「ちょ、ちょっと古谷さん……、すごいスピードだ……」


 引き止める間もなく、全速力で自転車を漕いで去って行ってしまった。

 ここら辺の道は車の通りが少ないとはいえ、車道をあんなスピードで走って大丈夫だろうか……。


「これ……、……あ、連絡先か」


 スマホを取り出して光で照らして見ると、それは可愛らしいメモで、中央には彼女の番号と思しきものが書かれていた。


 返事はまた今度って言っていたのは、こういうことか……、なんてのんきに考えている場合じゃない。


 今、俺は告白された。

 古谷さんはああ言っていたけど、俺は彼女の気持ちに全く気が付いていなかった。


 ……ああ、なんて馬鹿なんだろうか。

 結局鈴音たちが心配していた通りになってしまった。

 自分のことを好きになるわけがない。そんな決めつけから、距離感を間違えてしまったのかもしれない。


「……ちゃんとしないと」


 もちろん返事は決まっている。問題は、どうやったら極力傷つけずに済むか。馬鹿な俺は必死に考えないといけない。



 そんなことで頭をいっぱいにしていたせいで、俺はその日、どうやって家まで帰ったかをさっぱり覚えていなかった。



続く

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