癇癪持ちの国
「それあたしの!あたしに頂戴!」
軽く指を振り上げてあたしはその子からお菓子を奪い取ってやった。
「あー!それ俺の!おまえ自分のもってるじゃないか!」
その子も指を振り上げてきたけれど、手のひらの一降りで道の向こうにまで吹き飛ばしてやった。
「へへーんだっ!」
くるくると裾をなびかせて回って見せた。
石畳の上でオリジナルのステップを踏みながらあたしは回る回る。
踊るあたしを見た人々は勝手に道を空けるから、あたしは誰にもぶつからず踊り進む。
あたしより偉い人も強い人もだあれもいない!
あたしが回ってるんじゃないの、あたしの周りが回っているのよ!
赤い石や固めた土で建てられた家の続く道を軽やかにあたしは進む。
鼻歌も思わず漏れ出す。
気持ちよくくるくる回っていたけれど、突然何かにぶつかった。
いったいなぁ!
一気に不機嫌になって見上げると、そこに居たのはとても綺麗なひと。
「何よ何よ、何でそこに立ってるのよ!」
あたしが通れないじゃない!
そのひとはどこか悲しそうな顔をして静かに言った。
君は二つ持っているだろう、あの子に返してやりなさい。
「いやぁよ、これあたしのなんだから!」
舌を出して言ってやっていつもみたいに手のひらで振り払ってやろうと、した。
「あっ!」
でもその手はあっけなく捕まれてしまって、そのひとにお菓子を奪われてしまった。
返してあげようね。
相変わらずどこか悲しそうな声で言った。
・・・・・・何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ、
「何よ何よ!何であたしの思い通りにならないのよっ!」
力ずくで振りほどこうとしてもそのひとは見かけ以上に力が強くて、あたしの力じゃ解けない。あたしの『力』を腕に集中させても駄目だ。
「・・・・・・っ放しなさいよ!放せったら!」
君があの子にこのお菓子を返してあげると約束するまで、放さない。
「嫌だって言ってるじゃないっ!それあたしのなのっ!ぜーんぶ全部、あたしの物なの!」
その人は一層悲しそうな顔をして、小さく首を横に振った。
そんな仕草の一つ一つもむかつくの!
その途端、へなへなっと『力』が抜けていくのがわかった。
「・・・・・・何したのよっ!」
君の『力』はね、そんな風に使うために与えたものではないんだよ。
「だから、何を、」
「ちょっといいかね、『代理人』さん」
あたしが更に噛みつこうとしたとき、落ち着いたおじいさんの声が割り込んできた。
どうかしましたか。
相変わらずどこか悲しげな声でその人は問いかけた。
・・・・・・『代理人』。聞いたことがある。
この世界を造った神様の代理人だ。神様は声を持たないから、『代理人』の声を借りて人々に語りかけるという。
・・・・・・でも神様より、あたしの方がきっと強いわね!
「そのお嬢さんを、私に譲ってはくれないかね?」
この子が謝ってからなら、とその人はいう。
「何よ、あたしは絶対謝らないっていってるでしょ!」
ほんとにほんとにむかつくわ!
もっといってやろうと口を開こうとしたら、おじいさんがあたしの耳元に囁いた。
「形だけでいい。謝ったなら、君をもっといい世界へ連れて行ってあげよう」
思わず、おじいさんの顔をまじまじと見つめた。
「・・・・・・ほんと?」
「ああ、ほんとうさ」
ここより、もっといい世界。
・・・・・・それは、どんなところなんだろう?
見てみたい、あたしが知らないところがあるなんて許せない!
「・・・・・・ごめん、なさい」
その子にお菓子を突き出して、謝罪の言葉を口にした。あくまで口だけ。だってあたしは本当に悪くないもの!
その子はさっとお菓子を受け取ると、あっという間に遠くへ走っていった。
それでいい。
『代理人』は静かにうなずいて、ふわりとどこかに消えてしまった。
「さあ、謝ったわよ!あたしをもっといい世界へ連れて行ってくれるんでしょ?」
くるりと背後のおじいさんを振り返って笑った。
おじいさんも笑い返して、
「じゃあ、行こうか」
そう言ったとたん、ばさばさばさっと羽音が天から降ってきた。
「え・・・・・・?」
あれは・・・・・・鳩?
ぶつかる、と思った瞬間、一気に目の前が真っ暗になった。
意識が飛ぶ一瞬前、おじいさんの瞳が太陽みたいに光った気がした。
気がつくと、そこは路上じゃなかった。
もっというなら、ここはきっと元いた世界でも無いのではないかしら。
太陽の色と月の色に輝く空間。ぐるぐるぐるぐる回ってる。
どちらが上でどちらが下で、どこまで広がっているのかわからない。
ここが『もっといい世界』?だったら落胆するばかり!
「ここは『君の世界』なんだ。これから君自身が『もっといい世界』にしていけばいい」
「どういうこと・・・・・・?」
その前に、とおじいさんは帽子を軽くあげた。
「自己紹介がまだだったね。私は案内人のオルズ。君が世界を作る手助けをしてあげよう」
手助けなんかいらないわ、と笑い飛ばしてやった。
「やり方だけ教えて頂戴。その後はあたしで何でもできるもの!」
「・・・・・・想像するんだよ。それだけでいい」
「なんだ、簡単じゃない!」
夢見るように軽く目をつむって、くるりと回った。
ステップを踏みながら、次々と想像した。
お菓子でできた国なのよ、花があちこちに咲いてるの。
広く踊れる広場があって、きらきらした綺麗なものもたくさんあるんだわ!
あ、でもそうね、『力』はいらないわ。『力』をもつのはあたし一人で十分ね!
くるりくるりと回りながら、次々と創造した。
ぱちりと目を開けた。
「ああ・・・・・・!」
思わず声が漏れた。
なんて素晴らしい世界でしょう!
ここはあたしの理想の国、本当に世界はあたしを中心に回るのね!
隣のおじいさんも満足げだ。
「なかなかいい世界だね」
「そうでしょう?彼らはあたしの召使い!あたしと踊るためにいるのよ!」
そういってまたくるりと回ってみせると、おじいさんはなんだか変な顔をした。
「ああ・・・・・・そのことなんだけど・・・・・・」
なあに?と訪ねると、おじいさんは帽子を脱いで頭をかいた。
「『神様』はね、『世界』に創造以外で介入できないんだよ。だから君は、彼らと踊れない」
だから君の世界には『代理人』がいたんだよ、とおじいさんは言った。
何よ、
何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ、
「何よっ!それじゃあ意味が無いじゃないっ!お菓子の街もかわいい花も広場も綺麗なものも何もかもあたしがいなきゃ意味がないでしょ!」
あたし神様なのよ最強なのよ、
「何で何で何で何で、何であたしの思い通りにならないの!?」
あたしの思い通りにならない世界なんて、
「大っ嫌い!」
叫んで嵐を巻き起こした。お菓子は崩れ花は根こそぎ抜けてゆく。
そんな光景を見てもあいつはおやおやなんて言って薄ら笑いを浮かべてる。
そういうのも全部むかつくのっ!
「それなら君の元居た世界の『神様』のように『代理人』なんてたててみたらどうかね?
君の言うことを人々に届けられるよ」
「あたしあいつ嫌いよ!」
そう叫ぶと雷があたしの世界にほとばしった。
それを見てやれやれ、とあいつは言って、
「・・・・・・まあ、元の世界に戻りたいというのならまた私を呼んでおくれ」
「誰が呼ぶのよ!全部全部あんたのせいじゃない!」
大きくため息をついて、あいつは消えた。
・・・・・・いいわ。あたしはここをもっともっともーっといい世界にして、あいつの鼻をあかしてやるんだから!
あたしはまた、綺麗な世界をそうぞうした。




