幻想の国
ああ、つまらない。
ぱたりと草原に背中を預け、青い空を見上げ雲を追った。
天まで届く高い塔。天から降りる逆さの塔。
空を翔るは鷲にペガサス。
大地を駆けるライオンやユニコーンの足音も、地面を通じて響いてくる。
生まれてからずっと変わりはしないこの風景。
つまらないつまらない。
無意識に近くに咲いていた小さな花をむしり取る。
「こら!そんなところでぼうっとしてたら、『天罰』が下るよっ!」
川で洗濯を終えてきたのだろう、かごを背負った母さんにどやされて、私は仕方なく立ち上がった。
どうせ何か理由があって寝そべってたわけでもないし。空なんてみても楽しいはずはないし。
・・・・・・仕事よりはちょっと、楽しいかもしれないけど。
「さあ、洗濯物を干すの手伝っておくれ。これが終わったら父さんたちも帰ってくるだろうから、食事の支度をしないと」
はぁい、と適当に返事をしながらもかごに手を伸ばし、服を一枚叩いてのばして竿にかけた。
・・・・・・ふと思う。
「ねえ母さん」
「ん?」
「こういう仕事をさ、ほいっと一発で終わらせられる方法があったらすごいと思わない?」
母さんの手が止まった。
まるでおかしなものでも見るような訝しげな目をこちらに向けて。
「・・・・・・何かおかしなものでも食べたのかい?そんなことできるのは神様だけに決まってるじゃないか。・・・・・・あんなによくわからないキノコは食べちゃいけないっていったのに・・・・・・」
食べてないよ、と口をとがらせて洗濯物を干す手を再開した。
・・・・・・かみさま、か。
きっと毎日楽しいんだろうな。つまらないなんて思う日は、きっと無いんだろう。
・・・・・・かみさま、ね。
「何か言ったかい?」
「・・・・・・ううん、何でもない」
つまらない、つまらない。
鳥のさえずりで目が覚めた。
「んー・・・・・・」
今日も清々しい天気だ。
でもきっと、今日もつまらないことの連続だ。そりゃ、全く同じ日なんて一日だって無いんだけれど、でも何が起きても、もうおもしろいと思えなくなった。
何でだろ。小さかったときには毎日もうちょっと楽しかった気がするんだけどな。
「起きたんなら早くでてきなさい!」
はーい!と大きく返事をして、部屋の扉を開けたら、
「きゃ・・・・・・っ!」
突然、大量の鳩に襲われた。
目の前が暗くなる一瞬前、金色の瞳を見た気がした。
気がつくと、そこは家じゃなかった。
もっというなら、多分元いた『世界』ですらない。
昼の月の色と夜の月の色に輝く世界。・・・・・・なんだろ、丸いきらきらしたものに四角いきらきらしたものがくっついて、回ってる。
何処が上で何処が下かわからなくて、何処まで続いているかもわからない。
くらくらする。
「ここ・・・・・・どこ?」
「君の世界だよ」
突然の声に振り向くと、見たこともない服を着た老人が鳩にえさをやっていた。
彼は頭にかぶっていた何かを持ち上げて軽くお辞儀をした。
「はじめまして、私は案内人のオルズ。君が世界を作るお手伝いをしてあげよう」
「世界を、作る・・・・・・?」
それは、神様がすることではないのか?
そう、と老人がうなずいた。
「この世界では、君が『神』になれる。・・・・・・想像してごらん」
「え」
戸惑いながら、目をつぶって大きな樹を思い浮かべた。
ずっしりとした幹。大きく広がる枝葉。
「あっ・・・・・・!」
目を開けると、想像したものと全く同じ大樹がそこに在った。
「すごい・・・・・・!」
「さあ、どんどん想像してみたらいい。君はどんな世界を作るのかな?」
ぐるりと周りを見渡した。何にもない。
どうせなら、私が退屈しない世界を作ろう。
目をつぶって、次々と想像した。
大地。大空。
人々が住むのは、私が住んでいたような木の小屋じゃなくて、壊れにくい頑丈な堅い家。
そう、人々は不思議な力を持つんだ。さらりと指を振るだけで何でも思い通りになってしまう力。もうめんどくさい仕事はしなくていいんだよ。
次々と創造していく。
ゆっくりと目を開けた。
「うわあ・・・・・・!」
そこに広がるのは想像通りの世界。
人々の服は、目の前の老人のものをイメージしてみた。
自分でもなかなか満足のいく世界だ。
きっとこの世界では、退屈なんて無縁だろう!
しかし、老人はどこか不満げだ。
「やっぱり君も、所詮『彼』の世界の子供か・・・・・・期待するのなら、この世界からだったようだね」
「?・・・・・・『彼』?」
いや、こっちの話さ。老人はつぶやいて世界を見つめた。
「まぁ、味はあっていいと思うよ」
私も自分の作った世界をもう一度見直してみた。
人々は指を振るだけで洗濯物を干し、料理を作る。
と、小さな子供たちがおやつの取り合いを始めた。
しかしなぜか、近くの大人は止めようともしない。
「君の声は届かないよ。『神様』の限界だ」
「どうしよ・・・・・・」
「善悪の観念が無いのかもしれないね。『天罰』でも下してみたらどうだい?」
「天罰・・・・・・」
母さんの言葉が思い出された。
そして、父さんから聞いた昔の話。
人間で最初に喧嘩をした人たちは、たくさんの雨に打たれ流され死んでしまったという。
それも『天罰』だったそうだ。
「・・・・・・だめだよ、天罰はだめ」
「何故だい?早く止めないと・・・・・・」
「でも天罰は絶対だめ!」
「じゃあどうするのかね?」
いわれて詰まった。
何も考えなんてありはしない。でも私が神様になれるなら天罰なんか下したくない。
私は天罰を下す神様なんて大嫌いだったから。
はっと気づいた。
そう、私は神様。
何だって作れるんだから!
私の代わりになる人間を想像した。
私の思いを全部込めて、私の声を世界のみんなに届けるんだ!
「・・・・・・なるほどね」
『私の代わり』は颯爽と現れて、二人の子供の喧嘩を止めた。おやつを半分に割って、二人にあげたんだ。
「よかった」
君ならもう大丈夫だろう、と老人はいって、軽く頭の布をあげた。
「元の世界に帰りたくなったら私を呼び給え。・・・・・・君の世界がよりよくあらんことを」
「え、」
次の瞬間、老人はまるで最初からいなかったかの用に、何も残さず消え去った。
「・・・・・・誰が帰るもんか」
私の世界の空を、一羽の鳩が飛び去った。




