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『君の身体で、君に恋をした。』 ――入れ替わった僕たちが、本当の愛を見つけるまで――  作者: 綾小路如月


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第1話 世界で一番、運の悪い男

2026年4月――東京都。


 午前七時十二分。


「……なんで?」


 黒瀬春馬は、大学の正門前で空を見上げていた。


 空は青い。


 雲ひとつない快晴。


 天気予報だって、今日は一日晴れだと言っていた。


 それなのに。


「なんで俺のところだけ雨なんだよおおおおっ!」


 春馬の頭上だけに、雨が降っていた。


 正確に言えば、大学の正門に設置された壊れかけの散水装置から、大量の水が降り注いでいたのである。


 全身ずぶ濡れ。


 教科書もずぶ濡れ。


 そして、今朝買ったばかりのパンまで、見事に水没していた。


「…………」


 春馬は、手の中にある無惨な姿のパンを見つめた。


「お前だけは……俺を裏切らないと思ってたのに……」


 当然ながら、パンは何も答えてくれなかった。


 いや、答えられたとしても、今の春馬には何を言われても立ち直れそうになかった。


「黒瀬?」


 背後から声がした。


 振り返ると、きれいに整えられた黒髪の青年が立っていた。


 黒神蓮。


 春馬の親友であり、自分の顔面偏差値を疑うことを知らない男である。


 蓮は春馬を見た。


 春馬も蓮を見た。


 三秒間の沈黙。


 そして、蓮は至って真剣な顔で口を開いた。


「お前、大学に泳ぎに来たの?」


「……おはよう、蓮」


「おう。今日も元気そうだな」


「見てわからない?」


「わかるよ。水も滴るいい男ってやつだろ?」


「お前のスマホ、今から池に沈めていい?」


「やめろ。俺のスマホには未来が詰まってる」


「俺のパンには朝食が詰まってたんだよ!」


 蓮は、とうとう堪えきれずに吹き出した。


「はははっ! お前、本当に朝から面白いな!」


「笑うな! 少しくらい心配しろ!」


「いや、だって、お前……ぷっ!」


「もういい! お前なんか、一生彼女ができなければいいんだ!」


「残念だったな。俺はモテる」


「その自信、いったいどこから湧いてくるんだよ……」


 春馬は深いため息をついた。


 すると蓮は、笑いながら春馬の肩に腕を回した。


「まあ、元気出せって。パンなら俺のを半分やるよ」


「……蓮」


「おう?」


「お前、たまにはいいことするんだな」


「だろ? 感動したか?」


「うん。明日、世界が滅びるのかと思った」


「お前、俺に対してだけ辛辣すぎない?」


 二人は笑いながら、大学の建物へと向かった。


 いつもの朝だった。


 少なくとも、春馬にとっては。


 ――黒瀬春馬は、とにかく運が悪い。


 それはもう、笑い話にするしかないほどに。


 高校時代には、体育祭の当日に骨折した。


 アルバイト先では、初めて任された料理の注文だけがキャンセルになった。


 大学受験の日には、試験会場へ向かう電車が止まった。


 ようやく乗り込んだタクシーでは運転手が道を間違え、試験会場に到着したのは開始五分前。


 それでも、春馬はできるだけ笑うようにしていた。


 自分まで不幸そうな顔をしていたら、周りの人まで悲しくなってしまう。


 そう思っていたからだ。


 もっとも、親友の蓮に言わせれば、それは優しさというより、自分の不幸を笑い話に変えなければやっていられないだけらしい。


 春馬は、その指摘を否定できなかった。


「なあ、春馬」


 講義棟へ向かう途中、蓮が何気ない調子で尋ねてきた。


「今日の午後、演劇サークルのオーディションがあるだろ?」


「……そうだけど」


「来るよな?」


「行かない」


「即答かよ!」


「俺、工学部だぞ。なんで演劇なんかやらなきゃいけないんだ」


「人生には無駄なことも必要なんだよ」


「お前、人生を無駄にする才能だけはあるよな」


「褒め言葉として受け取っておく」


 蓮は、まったく気にした様子もなく笑った。


 春馬は肩をすくめる。


 本当は、演技に興味がないわけではなかった。


 むしろ、人の気持ちを表現することには、昔から惹かれていた。


 映画やドラマを見て、登場人物が泣けば胸が痛くなり、笑えば自然と笑顔になった。


 たった一つの台詞が、誰かの心を動かす。


 そんなことができる人間を、春馬は素直にすごいと思っていた。


 ただ、自分が誰かの前に立ち、何かを演じている姿だけは、どうしても想像できなかった。


 春馬は、いつだって誰かの物語の脇役だった。


 誰かを笑わせる友人。


 誰かの相談に乗る相手。


 失恋した誰かの隣で、黙って話を聞く人間。


 それで十分だと思っていた。


 いや。


 ――十分なのだと、自分に言い聞かせていた。


「そういえばさ」


 蓮が、何かを思い出したように口を開いた。


「今日、西園寺が来るらしいぞ」


 春馬の足が止まった。


「……誰?」


「誰って、お前……」


 蓮は、にやりと笑った。


「お前が高校時代、三か月くらい食欲を失うほど好きだった女」


「お前、記憶を消す技術が開発されたら、真っ先に俺の記憶を消してくれ」


「安心しろ。俺の記憶力は抜群だ」


「その能力、世界で一番いらない……」


 西園寺美雪。


 その名前を聞いただけで、胸の奥がちくりと痛んだ。


 もう忘れたつもりだった。


 何とも思っていないつもりだった。


 あの頃の恋なんて、とうの昔に過去のものになったはずだった。


 それなのに。


 たった三文字の名前が、二年前の記憶を鮮明によみがえらせる。


 窓際の席。


 短い黒髪。


 静かな横顔。


 そして、あの日の言葉。


『ごめんなさい。私、黒瀬くんのこと、そういうふうには見られない』


 春馬は、そっと目を伏せた。


「……まだ好きなのか?」


 蓮が尋ねた。


 春馬は、すぐには答えられなかった。


 少しだけ考えてから、ようやく口を開く。


「……わからない」


 それは嘘ではなかった。


 本当に忘れられたのなら、名前を聞いたところで何も感じないはずだ。


 けれど、胸の奥に残った痛みは、まだ消えていなかった。


「まあ、いいや」


 春馬は、いつものように笑った。


「俺には関係ないし」


 蓮は、そんな春馬をしばらく見つめていた。


 けれど、何も言わず、いつもの調子で彼の肩を叩いた。


「……そういうことにしておいてやるよ」


 二人は、再び歩き始めた。


 しかし、春馬の頭の中では、すでに二年前の記憶が動き始めていた。


     *


 二年前――2024年、大阪。


 春馬が高校二年生だった頃。


 家庭の事情で転校した春馬は、新しい学校にうまく馴染めずにいた。


 教室には、すでに仲のいい友人同士の輪がいくつもできていた。


 休み時間になるたび、あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


 その中で、春馬だけが取り残されているような気がした。


 別に、いじめられていたわけではない。


 こちらから話しかければ、みんな普通に返事をしてくれた。


 それでも、誰かの輪の中に入っていく方法がわからなかった。


 自分から話しかけて、迷惑だと思われたらどうしよう。


 会話に入って、空気を悪くしてしまったらどうしよう。


 そんなことばかり考えているうちに、いつも話しかける機会を逃してしまう。


 そんなある日の昼休み。


 春馬は教室を抜け出し、図書室へ向かった。


 静かな場所で、一人になりたかった。


 図書室の扉を開ける。


 窓際の席に、一人の少女が座っていた。


 短い黒髪。


 透き通るような白い肌。


 整った横顔。


 彼女は、一冊の本を静かに読んでいた。


 窓から差し込む午後の日差しが、彼女の髪を柔らかく照らしている。


 まるで、その場所だけ時間がゆっくり流れているようだった。


 春馬は、なぜかその場から動けなくなった。


 少女が顔を上げる。


 目が合った。


「あ……」


 少女は、少し不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの?」


「あ、いや……その……」


 春馬は慌てて視線をそらした。


 何か言わなければ。


 そう思うほど、言葉が出てこなくなる。


「ここ、座ってもいいかな?」


 ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。


「うん。どうぞ」


 彼女は、小さく笑った。


 たった、それだけだった。


 名前を聞いたわけでもない。


 特別な話をしたわけでもない。


 それなのに、その日の帰り道、春馬は何度も彼女の笑顔を思い出していた。


 翌日も、図書室へ行った。


 その次の日も。


 彼女に彼氏がいるのではないか、と思わずにはいられなかった。


 今日はいるだろうか。


 もし、また会えたら。


 何を話そう。


 そんなことを考えている自分に気づくたび、春馬は少しだけ恥ずかしくなった。


 そして、数日後。


 春馬はようやく、彼女の名前を知った。


 西園寺美雪。


 彼女は同じ高校の二年生で、将来は女優になりたいと思っているらしかった。


 ある日の昼休み。


 春馬は、思い切って尋ねた。


「どうして、女優になりたいの?」


 美雪は読んでいた本を閉じた。


「どうしてだろう……」


 少し考えてから、彼女は静かに口を開いた。


「昔、つらいことがあったときに、ある映画を見たの。その映画の主人公がね、私の代わりに泣いてくれた気がしたんだ」


「……代わりに?」


「うん。自分では泣けなかったから」


 美雪は、どこか寂しそうに笑った。


「だから、いつか私も、誰かの気持ちを救えるような演技がしたいの」


 春馬は、その言葉を忘れられなかった。


 誰かの気持ちを救いたい。


 自分も、そう思っていたからだ。


 自分がつらいとき、誰かの優しさに救われることがある。


 何気ない一言に、もう少し頑張ってみようと思えることがある。


 だからこそ、自分も誰かにとって、そんな存在になれたらいい。


 春馬は、そう思っていた。


 それから、春馬は少しずつ美雪と話すようになった。


 好きな食べ物。


 好きな映画。


 苦手な科目。


 将来の夢。


 他愛のない話ばかりだった。


 けれど、春馬にとっては、その一つ一つが大切な時間だった。


 話せば話すほど、彼女のことを知りたくなった。


 彼女が笑えば、うれしかった。


 彼女が悲しそうにしていれば、何かしてあげたくなった。


 昨日まで何とも思っていなかった景色さえ、彼女と話した日は少しだけ明るく見えた。


 気づけば、春馬は恋に落ちていた。


 けれど、その気持ちを伝える勇気はなかった。


 自分には何もないと思っていたからだ。


 裕福な家庭で育ったわけでもない。


 人に誇れるような特別な才能があるわけでもない。


 自分に自信だってなかった。


 彼女の隣に立つ資格など、自分にはない。


 そんなふうに思い込んでいた。


 そして、春馬が高校三年生になった頃。


 彼のクラスに、一人の転校生がやってきた。


 黒神蓮だった。


「黒神蓮です! 趣味は映画と音楽! 好きなものは楽しいこと! よろしく!」


 初日から、蓮はクラス中の生徒と打ち解けていった。


 女子たちが話しかけ、男子たちが笑い、昼休みには、すでに何人もの友達ができていた。


 春馬は、その人懐っこさに感心した。


「お前、すごいな」


「何が?」


「もうクラス全員と友達になりそうじゃん」


「全員は無理だろ。先生もいるし」


「そういう問題?」


 蓮は楽しそうに笑った。


 そして、春馬ともあっという間に親しくなった。


 気づけば、くだらない話をして笑い合う仲になっていた。


 ある日の放課後。


 春馬は教室に残っていた蓮に、美雪のことを話した。


 最初は、ただの雑談のつもりだった。


 しかし、話を聞いていた蓮は、途中で妙な顔をした。


「……お前、西園寺のこと好きなの?」


「えっ!?」


 春馬の顔が、一瞬で赤くなった。


「な、なんでそうなるんだよ!」


「いや、わかりやすすぎるだろ」


「わかりやすくない!」


「今日だけで西園寺の名前を十五回も言ったぞ」


「数えてたのかよ!」


「暇だったから」


「もっとほかにやることあるだろ!」


 蓮は腹を抱えて笑った。


 そして、春馬の肩を力強く叩いた。


「任せろ。俺が何とかしてやる!」


「……何を?」


「恋のキューピッド」


「やめろ」


「大丈夫。俺に任せておけば――」


「絶対に何もするな!」


 しかし、時すでに遅し。


 翌日の放課後。


 蓮は美雪を見つけるなり、本人の前で堂々と言い放った。


「美雪、お前のこと、春馬が好きらしいぞ!」


「…………」


 春馬の顔から、さっと血の気が引いた。


「お、おい……!」


 美雪は驚いたように春馬を見た。


 春馬は何か言おうとした。


 違う、と否定すればよかったのかもしれない。


 冗談だと笑い飛ばせば、何事もなかったように済んだのかもしれない。


 けれど。


 彼女の目を見た瞬間、声が出なくなった。


 数秒間の沈黙。


 やがて、美雪は困ったように微笑んだ。


「ごめんなさい。私、黒瀬くんのこと、そういうふうには見られない」


 その言葉は、驚くほど静かだった。


 怒っていたわけでもない。


 冷たく突き放されたわけでもない。


 ただ、彼女は正直に気持ちを伝えただけだった。


 だからこそ、春馬には何も言い返せなかった。


 胸の奥が、じわりと痛んだ。


 ずっと大切にしてきた気持ちが、行き場を失ってしまったようだった。


「……そっか」


 春馬は笑った。


 いや、笑おうとした。


「ごめん。困らせたよな」


 美雪は、何も言わなかった。


 春馬は、それ以上何も言わず、その場を離れた。


 その日の帰り道。


 春馬は、誰もいない公園のベンチに座っていた。


 夕焼けが、街を赤く染めていた。


 いつもなら、きれいだと思えたはずの景色だった。


 けれど、その日は何も感じられなかった。


 頭の中で、彼女の言葉が何度も繰り返される。


『そういうふうには見られない』


 わかっていた。


 好きになったからといって、相手も自分を好きになってくれるとは限らない。


 そんなことくらい、わかっていたはずだった。


 それでも。


 ほんの少しだけ、期待していたのかもしれない。


 いつか、自分の気持ちが届く日が来るのではないかと。


 彼女も、自分と同じ気持ちになってくれるのではないかと。


 そんな、都合のいい夢を見ていた。


 春馬は、うつむいた。


 そして、誰にも聞こえないように、声を押し殺して泣いた。


 好きだった。


 本当に、好きだった。


 彼女と一緒に帰ることを想像した。


 同じ映画を見て、隣に座って感想を話し合うことを想像した。


 いつか彼女が女優として成功したとき、誰よりも近くで応援する自分を想像した。


 彼女がつらいときには、そばにいたかった。


 彼女が笑っているときには、その笑顔を守りたかった。


 そんな未来を、何度も夢見ていた。


 けれど、その未来は春馬一人の頭の中にしか存在しなかった。


 彼女にとって、自分はただのクラスメートだったのだ。


 それだけのことだった。


 それだけのことなのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。


「……春馬」


 しばらくして、蓮が公園にやってきた。


 春馬は顔を上げなかった。


「悪かった」


 蓮の声は、いつになく真剣だった。


「俺、冗談のつもりだったんだ。お前があんなに本気だとは思わなかった」


「……いいよ」


「よくないだろ」


「もう、いいんだよ」


 春馬は、目元をこすった。


 泣いていたことを知られたくなかった。


 けれど、今さら隠したところで、もう遅かった。


 蓮は何も言わず、隣に座った。


 いつもなら、すぐに冗談を言って笑わせようとするはずなのに。


 そのときばかりは、何も言わなかった。


 その沈黙が、かえってありがたかった。


 やがて、春馬は無理やり笑った。


「なあ、蓮」


「……何?」


「俺、もう二度と女の子を好きにならない」


 蓮は、しばらく春馬を見つめていた。


 そして、小さくため息をついた。


「はいはい。大げさだな、お前」


「本気だよ」


「じゃあ、俺も明日からパンを食べない」


「……なんでだよ」


「お前と同じくらい意味のわからない宣言をしてみた」


 春馬は、思わず笑ってしまった。


 涙が残ったままの顔で。


「……お前、本当に最低だな」


「知ってる」


 蓮も笑った。


 その笑顔に、春馬は少しだけ救われた気がした。


 その日から、春馬は美雪と距離を置くようになった。


 以前のように話しかけることもなくなり、図書室へ行く回数も減っていった。


 それでも、同じ教室にいる彼女を、完全に忘れることはできなかった。


 そして、三か月後。


 美雪に恋人ができた。


 相手は、一学年下の男子生徒だった。


 春馬は、二人が並んで歩いている姿を遠くから見かけた。


 美雪が笑っていた。


 あの日、図書室で初めて見た、あの笑顔で。


 いや。


 あの日よりも、ずっと幸せそうに。


 春馬には見せなかった笑顔だった。


 胸の奥が、また少しだけ痛んだ。


 けれど、今度は泣かなかった。


 ただ、二人の姿を見つめながら、春馬はようやく理解した。


 恋をするということは、必ずしも相手に選ばれるということではない。


 どれだけ好きでも、相手が同じ気持ちになってくれるとは限らない。


 どれだけ願っても、叶わないことはある。


 自分の気持ちだけでは、どうにもならないことだってある。


 それでも。


 彼女が幸せそうに笑っているなら、それでいい。


 そう思おうとした。


 心から、そう思える人間になりたかった。


 けれど、その夜。


 春馬は一人で泣いた。


 誰にも知られないように。


 誰にも心配をかけないように。


 そして、心の中で誓った。


 ――もう二度と、誰かを本気で好きにならない。


     *


 2026年4月――現在。


「……春馬?」


 蓮の声で、春馬は我に返った。


 気づけば、二人は講義棟の前まで来ていた。


「何、ぼーっとしてんだよ」


「いや、別に」


「西園寺のことでも考えてた?」


「考えてない」


「じゃあ、今、俺が何を言ったか当ててみろ」


「……お前が一生、彼女に振られ続けますように」


「お前、絶対に俺の話を聞いてなかっただろ!」


 春馬は笑った。


 蓮も笑った。


 いつものように。


 まるで、何も変わっていないかのように。


 けれど、春馬は知らなかった。


 その日の夜、自分がどれほど大きな声で神様に文句を言うことになるのか。


 そして、翌朝。


 自分の人生が、文字どおりひっくり返ることになるのか。


「なあ、蓮」


「ん?」


「もしさ、神様が本当にいるとしたら、どう思う?」


 蓮は少し考えた。


 そして、迷いのない顔で答えた。


「俺にイケメンの才能を与えてくれたことについて、感謝してる」


「……質問した俺が馬鹿だった」


「おい、最後まで聞けよ。あと、身長ももう少し欲しかった」


「お前、十分高いだろ」


「欲望に限界はない」


「その欲望、少しは人の役に立つことに使えよ」


 蓮は楽しそうに笑った。


 春馬も、つられて笑った。


 そして二人は、講義棟の中へ入っていった。


 春馬にとって、それはいつもと変わらない一日の始まりだった。


 けれど、その日が終わる頃には、彼の人生は大きく変わることになる。


 なぜなら、神様はどうやら――。


 彼の願いを、ほんの少しだけ勘違いしてしまったらしい。


          第1話 完





最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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これからも楽しんでいただける物語をお届けできるよう頑張ります!

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