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夏休みの中盤、病院で学校の演劇クラブによる慰問公演が催された。
私のアドバイスを生かして今回はちゃんと患者さん達の観たい演劇のリクエストを募ったみたいだ。
いつもの談話室は演劇クラブが使っているので、私は今日は中庭で劇を観に行かなかった人達と過ごしていた。
「せっかくの劇を観なくて良かったのですか?演劇クラブの皆さん、すごく練習なさっておいででしたよ?」
練習の理由の半分は、第一王子殿下も観るからと言うのもあると思うけど。
「ハハハ、良いんだよ。プリシラの音楽は怪我の痛みが薄れるからなぁ」
「そうだよ。痛みを堪えてまで観る必要はないだろ?」
「なあ今日もリクエストしていいか?前回のあの曲をもう一度、歌ってくれよ」
中庭に出て来れる患者さんは、軽傷者か退院間近の人ばかりだが、プリシラの音楽の常連さんみたいなものだ。
「じゃあ劇の邪魔にならないように!」
私達は共に中庭でいつものように会話や歌を楽しんでいた。
「その楽器は、初めて見るな?」
私はいつの間にか、隣に座った第一王子殿下に気付いて驚きに目を見張る。
「殿下!」私は慌てて礼をしようと立つ。
「いいよ、やめてくれ。患者達にも気を使わせたくないから」
と殿下はそう仰ったけど、周りの患者さん達は殿下が来たのに気付いていたのだろう。皆、私が驚いた様子を見てニヤニヤしている。
「まだ劇の最中なのでは?抜け出して良かったのですか?」
「君は、あれから…この病院に通ってくれてたんだってな?」
質問の答えになってないぞ!
「ピアノ同好会も辞めて…」
「どれも第一王子殿下には関係ありませんから」
「うん。でも君は直ぐに病院内の皆と打ち解けて、すでに無くてはならない存在になっているって聞いた…」
「奉仕活動は我が家の義務みたいなもんですから」
「それでその楽器は何だ?リュートのようだが、それよりも大きいし音が違うな?」
「これは私がリュートを改造して作ってもらったんです。私の好みで」
「君のオリジナルの楽器なのか?!」
「そんなもんです」前世知識モリモリですけどね。
「私もリュートは習っていた。だから少し弾かせてもらってもいいか?」
「どうぞ」と私はモドキを殿下に渡す。
「おっとリュートよりは少し重いな?だけど…」
殿下は弦をポロロンと鳴らす。
「音が凄く良い!それに音量も大きいな?弦は6本か?どうやって弾く?」
マジか!ギターモドキに興味を持っちゃったの?
ギターはリュートよりも難しいと思う。
それにあなたに教える暇も義理もないから。
「殿下、申し訳ありませんが、私は今日はここに入院患者への奉仕活動の為に来ております」
と本来の目的をきちんと言っておく。
すると殿下はハトが豆鉄砲を喰らったような顔をなさった。
周囲の患者さん達もクスクスと笑っている。全員で不敬罪か?
「そうだった。それは申し訳ない事をした。だが私も共に静かに聴いていていいか?」
殿下は直ぐに開き直って仰った。
「劇に戻れよ!」
それが一番に思ったことだけど、断れるはずがない。
「劇が終わるまでに戻って下さいね?」
それを言うのが精一杯だった。
殿下が立ち去る時、私に仰った。
「ここの患者達の癒しになってくれてありがとう。私は結局、何も出来なかったな…」
私が返事を返す前に、皆が「第一王子殿下が毎回、挫けずに来てくれるだけでも、我々は忘れられてないって励みになりましたよ」と口々にそう言ってくれた。
「そうか。なら良かった…だが…」
殿下は下を向いて何か考えている。
でも直ぐに意を決したように仰った。
「私も次回の魔物の発生時には討伐に出ることになったんだ。だから…だから君達に会っておきたかったんだ」
殿下はそう仰って戻って行かれた。
「第一王子殿下は16歳か〜成人されたから、とうとう討伐に出るんだな」
「確かに最初は自分も怖かったよな〜」
「魔物達は見た目もグロいからな〜」
「バカか!お前達、殿下は上に立つ身分だろう?だから討伐に参加されても前衛には出ないだろう?」
「そうか〜。それでも病院を見舞ってたって事は、覚悟したかったのかなぁ」
「そうかもな」
皆、好き好きに憶測を言い合っているけど、確かに覚悟をしたかったんだろう。自分が怪我をした時と、自分を守って怪我をするかもしれない人達の為に王子としての覚悟を決めたかったんだ。




