薊池殺人事件
■ バーベキュー計画
5月中旬、もうすぐ梅雨の時期に入るのであるが週間天気予報ではずっと晴れになっている。そんなある日の放課後、生徒会室には裏クラブのメンバー全員が集まっており、珍しく卒業した白石由希まで来ていた。最近は影郎への依頼もなくまったりしているのだが、たまにはみんなで集まってコミュニケーションをとらないといけないという琴宮梓颯の方針でこの日はメンバーが集まっていた。
白石由希「それにしてもあの葛城まどかさんが裏クラブのメンバーになっているなんて驚きだよ。わたしはOBの白石由希です。まどかさんよろしくね!」
楠円香「はい。よろしくお願いします」
琴宮梓颯「ところで白石先輩、結局大学では麻雀部に入部したのですか?」
白石由希「うん!女子部員もいたし、思ったより綺麗な部室だったからね。それより今日は堀坂君がいないのね?」
琴宮梓颯「今日は免許を取りに行くとのことで早退しました。でも、放課後、ここに立ち寄ると言ってましたのでもうすぐ来ると思います」
白石由希「それにしても懐かしいなあ。わたし、もっと裏クラブで活動したかったよ」
その時、生徒会室のドアからノックする音が聞こえた。如月瑠衣は「はいどうぞ」と言うと、ドアが開いて堀坂向汰が嬉しそうな表情をしながら入ってきた。裏クラブのメンバー全員が揃ったので如月瑠衣はすかさず生徒会室のドアの鍵をかけた。
堀坂向汰「梓颯、やっと普通免許をゲットしたよ。車はまだ買う予定はないけどね」
琴宮梓颯「おめでとう。これからは車でどこかいけるわけね?」
堀坂向汰「あれ、白石先輩だ。お久しぶりです!」
白石由希「堀坂君、お久しぶり!会いたかったよぉー」
堀坂向汰「今夜デートの予定をしている人が他の男性に会いたかったなんて言っていいのですか?」
白石由希「どうして今夜デートするってわかったの?」
堀坂向汰「その服装はどう考えてもデートじゃないですか。白石先輩が普通の飲み会とか友達と会う程度でそんな恰好はしませんからね。それに上杉先輩がいるのに合コンは考えられませんから」
白石由希「琴宮さん、また堀坂君にイジメられたよぉー」
堀坂向汰「ところでみんなに話がある。そろそろ梅雨の時期に入るからその前になんだけど、みんなでバーベキューパーティーでもどう?俺もせっかく車の免許をとったし、今週末に1泊2日で薊池ってところにいかない?」
堀坂向汰の提案を聞いて一瞬生徒会室内がシーンとした。その理由として堀坂向汰がみんなを誘うなんてこれがはじめてのことで驚いているのだ。
琴宮梓颯「わたし今週末の土日なら空いてるから大丈夫だけど、他の人の予定も聞かないとね」
楠円香「今週末はうちも仕事がありませんでOKですよ」
如月瑠衣「わたくしも予定はございません。しかし1泊2日とおっしゃっていますがどこで寝るのでしょうか?」
堀坂向汰「12人用の大型テントがあるから、みんなごろ寝すればいいよ」
夢前亜里沙「なんだか楽しそうですね!あっわたしも週末は空いていますので大丈夫です」
牧瀬悠人「僕もこれといった予定がありませんので参加させていただきます」
堀坂向汰「白石先輩もどうですか?たまには麻雀を忘れて自然に触れ合うのもいいですよ」
白石由希「わたしも参加していいなら行く行く!週末は特に約束もしてないから」
堀坂向汰「じゃあ全員参加で決定ということで、今週の土曜日午後2時に学園前駅集合ってことで!あとみんなに一つだけ用意してほしいものがあって、ホームセンターに売ってるアルミのキャンプ用銀マットだけ買っておいてほしい。テント内といってもさすがに地べたで寝ると痛いからね。700円くらいで売ってるのでよろしく!」
琴宮梓颯「食材はどうするつもりなの?」
堀坂向汰「それは当日、スーパーに立ち寄って買えばいいよ。次の日の朝食と一緒にね」
こうして裏クラブのメンバー全員は週末に薊池という場所でバーベキューパーティーとキャンプを行うことになった。
■ バーベキュー当日の土曜日
午後12時30分、堀坂向汰はレンタカーショップに行き8人乗りの黒のワゴン車を借りた。それから一旦家に戻ってテントやバーベキューコンロ、キャンプ道具を車に積み込んで学園駅前へと車を走らせた。午後1時45分に学園駅前のロータリーに到着すると既に琴宮梓颯と如月瑠衣、夢前亜里沙が待っていた。堀坂向汰はその3人に向かって「おーい、こっち」と大きな声で呼びかけた。
琴宮梓颯「大きな車ね。向汰君、免許取り立てなのに運転は大丈夫なの?」
堀坂向汰「オフロードバイクと同じで小学生の頃からずっと四輪車も運転してたから慣れてはいるんだよ」
如月瑠衣「それでも今回は教習所に通われたんですよね?」
堀坂向汰「うん。さすがに四輪の一発合格は難しいからね」
夢前亜里沙「あっ牧瀬君と楠さんがこられましたよ」
牧瀬悠人「お待たせしました。円香ちゃんの準備で少し遅くなりました。
楠円香「すみません。できるだけ葛城まどかだと気づかれないようにメイクしてきました」
堀坂向汰「でも目の前で見たら円香ちゃんってすぐわかるけどね。とにかくみんな荷物をトランクに積み込んで!」
琴宮梓颯「向汰君が言ったように銀マットしかもってきてないわよ。あと紙コップと紙皿、割り箸だけは持ってきておいたわ」
みんなトランクに荷物を積み込んでいると駅の改札口から白石由希が走ってやって来た。
白石由希「はぁはぁはぁ、なんとか間に合った。みんなお待たせ!」
堀坂向汰「白石先輩、さっさと荷物をトランクに積み込んで助手席に座ってください」
琴宮梓颯「白石先輩が助手席なの?」
堀坂向汰「うん。もし俺に何かあったら運転を代わってもらわないといけないからね」
裏クラブのメンバー全員が揃ったところで、みんなワゴン車に乗り込んだ。山のほうへ車を走らせていると格安スーパーがあったので立ち寄ることにしたが、買い物は堀坂向汰と琴宮梓颯、白石由希の3人がすることになり、他のメンバーは車に残っていた。それから20分程して買い物を済ませた3人は車へ戻ってきた。購入した食材をトランクに積み込むといよいよ薊池に向けて車を走らせた。
白石由希「堀坂君、免許取ったばかりなのにやたらと運転上手じゃない?」
堀坂向汰「小学生の頃、オフロードバイクの他にクロカンの車もよく運転していましたので慣れてるだけですよ。今はそういう場所少ないですけど」
白石由希「小学生の頃から四輪を運転してたなんて、堀坂君は何者なの?」
堀坂向汰「いやちょっとですよ。でも二輪車の運転に慣れていたこともあって四輪は運転しやすいです」
そうして、山道に入って細い林道を通過していった。その林道の途中で右に曲がってダートな道をひたすら走らせた先に広いスペースがあり、その向こう側にコバルトブルーをした薊池が広がっていた。その広いスペースに車を停めると堀坂向汰は「着いたよ。まずみんなで荷物を運んで先にテントを設営しよう」と言った。メンバー達は車を降りるとトランクから荷物をおろした。特にテントの部品に関しては牧瀬悠人と夢前亜里沙、白石由希が分担して持った。池の周りにはあまり人がおらず、ときどき登山者が歩いてくる程度であった。池に向かって左側のほとりをしばらく歩いているとかなり広い場所があったので堀坂向汰は立ち止まって「ここを拠点としよう」と言った。
牧瀬悠人「ではここにテントを設営するのですね?」
堀坂向汰「うん。設営方法だけど・・・」
楠円香「それならうちが設営しますよ」
堀坂向汰「円香ちゃん、わかるの?」
楠円香「うち、ロケであちこちに行ってまして、テントの設営も何度かしましたので大丈夫です」
堀坂向汰「でも、今回は12人用のテントだからかなり大きいし一人は大変だよ?」
楠円香「それやったら悠君と夢前先輩、手伝ってもらえますか?」
夢前亜里沙「わたしは構わないけど・・・」
牧瀬悠人「僕も別にいいけど、3人で大丈夫?」
楠円香「あんま人がおったら逆に邪魔なんで3人で十分です」
堀坂向汰「じゃあテントの設営は円香ちゃん、牧瀬君、夢前さんの3人にお願いするわ。俺は炭の火起こししてるわな」
琴宮梓颯「わたし達は何をすればいいの?」
堀坂向汰「梓颯と白石先輩は調理のほうをお願い、俺と如月さんはコンロの設置と火起こしをするから」
テントは30分程で設営することができた。炭の火起こしもそろそろ終わってバーベキューコンロが熱くなってきた。調理のほうも準備が整ってきたところで、時刻は既に17時前になっていた。バーベキューコンロの網の上に食材を並べて焼きはじめた。準備などで少し体を動かしたせいか、みんなお腹が空いていた。食材が焼きあがるとみんな食べはじめて「美味しい」と言っていた。食材は牛肉の他にトントロ、鶏肉、トウモロコシやニンニク、タマネギ、ピーマンなどであった。さすがに7人で食べると一気にたいらげてしまった。さらに食材をのせて焼いたがみんな食べ終えるのが早かった。結局、午後7時30分には食材がなくなり後片付けをしはじめた。
外が暗くなるとみんなテント内に入ってまったりしていた。寝るにはまだ時間は早いので夢前亜里沙が持ってきたトランプで遊ぶことになったのだが、何をしても堀坂向汰が勝ってしまう。午後9時になったところで、各自寝床を確保した。一番右側から楠円香、その隣に如月瑠衣、夢前亜里沙、白石由希、琴宮梓颯の順に寝床が決まった。琴宮梓颯の隣には堀坂向汰、左端には牧瀬悠人が寝ることになった。
堀坂向汰「ねえ、如月さん、俺と牧瀬君の間で寝ない?」
如月瑠衣「どうしてわたくしが男子生徒の間で寝ないといけないのでしょうか?」
堀坂向汰「如月さんが眠った後に抱きつきたいからだよ。俺か牧瀬君のどちらかが起きていられれば如月さんと一緒に寝ることができる!」
牧瀬悠人「ぷっ・・・」
如月瑠衣「わたくしは別に一緒に寝たいと思いませんし、抱きついたりしましたら発狂しますよ」
堀坂向汰「あははは、如月さんは本当にピュアなんだね。だったら円香ちゃんはどう?」
楠円香「うちですか?わざわざ危険地帯で寝たりしませんよ」
堀坂向汰「危険地帯って・・・ただ円香ちゃんと添い寝するだけだし、牧瀬君は親類だから大丈夫!」
楠円香「堀坂先輩がうちのこと好きなのであればいいですが、もう琴宮先輩がいらっしゃるじゃないですか」
堀坂向汰「それもそうやな。じゃあ白石先輩、一夜限りの想い出の麻雀をしませんか?」
白石由希「堀坂君のえっち!そんな想い出わたしにはいらないよ」
夢前亜里沙「あの、わたしは喜んで堀坂先輩と一緒に寝ますよ」
堀坂向汰「夢前さんは本気そうだから遠路しとくよ」
琴宮梓颯「向汰君、もうやめなさいよ。それよりわたしもまだ眠れないからもう少しトランプでもしない?」
そうしてババ抜きや七並べをしてメンバー全員はトランプで遊んでいた。必死になっているうちに午後23時を過ぎていたので、もう眠ることにした。かなり疲れていたせいか、午前0時過ぎににはみんなぐっすり眠っていた。
■ 首吊り死体
テント内で一番早く目を覚ましたのは夢前亜里沙であった。5時45分頃に目覚めてすぐにトイレに行きたくなったのでテントから外に出て池のほとりを歩いていた。途中で隠れられる草木が見つかったのでそこに入って用を足そうとしたその時、向こうにある木に男の人が首を巻いてぶら下がっていたのだ。それを見た瞬間、夢前亜里沙は「きゃーーー!!!!!」と大きな声で叫んだ。
テント内で眠っていた他のメンバー達は夢前亜里沙の悲鳴を聞いて一発で目を覚ましてテントから外へ出ると、池の向こう側のほとりに震えている夢前亜里沙の姿が見えた。メンバー達は急いでその方向へ走っていくと夢前亜里沙が「あ、あそこに男の人が首を吊って死んでいます」と震えた声で言った。堀坂向汰は「みんなとりあえず落ち着いて、ここから動かないように!牧瀬君行こう!」と言った。堀坂向汰と牧瀬悠人は首吊り死体があるほうへと入っていった。現場には身長170cm程の男性が首を吊っており、赤色のロープで首が巻かれてあった。そしてその真下にキャンプ用の背もたれがある椅子が倒れていた。
牧瀬悠人「脈がありませんので、すでに死亡しています。まだ硬直していないところがあるので死後6時間以内といったところでしょう」
堀坂向汰「普通に考えるとこのキャンプ用の椅子に乗って首吊りをしたと思うんだけど、ただこのキャンプ用の椅子の背もたれ部分が後ろになって倒れているのが気になるところだね」
牧瀬悠人「首吊りをした時に足が後ろの背もたれに当たって倒れたのではないでしょうか」
堀坂向汰「自殺するなら、背もたれを前にしてロープを首に引っ掛けた後に背もたれを蹴とばせば簡単に椅子は倒れると思うんだけどね」
牧瀬悠人「たしかに・・・あと尿失禁もありますね。やはり昨日の夜あたりに死亡したのかもしれません」
堀坂向汰「どうしてこんなところで自殺なんてしたんだろう。そこが引っかかるんだよね」
牧瀬悠人「変な場所ですからね。でも他殺だった場合、犯人はどのように首吊りに見せかけたのか全くわかりません」
堀坂向汰「たとえば睡眠薬を投与して、眠っている間に犯行に及んだとかかな。まあ、今の段階でそこまではわからないんだけどね」
堀坂向汰は首吊りをした木を調べてみた。するとわずかながら枝の隙間に何かが擦れた跡を見つけたが、これが今回の首吊り事件と関係しているのかはわからなかった。また、ロープの先端に少し焦げた跡があった。
堀坂向汰「とにかく、今はこれ以上のことがわからないから警察に連絡しよう」
牧瀬悠人「そうですね。でもここって電波が入りませんよ?」
みんなが待機しているところに戻った堀坂向汰と牧瀬悠人はメンバーに詳しく説明した。
堀坂向汰「まず、白石先輩には車の鍵を渡しますので電波の入るところで警察に連絡してください」
白石由希「わかった」
堀坂向汰「円香ちゃんは、駐車スペースまで行ってこれから来る人達に事情を説明して足止めをお願いしたい」
楠円香「わかりました」
堀坂向汰「如月さんと夢前さんは今ここでキャンプしている人達に事情を説明して待機するように促してほしい」
夢前亜里沙「はい」
如月瑠衣「キャンプしている人達ってわずかですがそれでも待機させるのでしょうか?」
堀坂向汰「そうだよ。あと梓颯と牧瀬君は俺とここで待機ってことでよろしく」
琴宮梓颯「単なる首つり自殺なんでしょ。どうしてそこまでするの?」
堀坂向汰「いや、自殺にしては不可解な点があるんだよ」
琴宮梓颯「まさか殺人ってことはないわよね?」
堀坂向汰「その可能性も否定はできない」
琴宮梓颯「またこの事件を裏クラブの活動にするつもりなの?」
堀坂向汰「それは警察が来てから判断するよ」
メンバーのそれぞれが担当する場所へと走っていった。ここは山の中なので警察が来るまで時間がかかりそうだったが、20分程すると白石由希が戻ってきたと同時にパトカーのサイレンの音が聴こえてきた。しばらくすると大勢の警察官がパトカーから降りてきて白石由希が40代後半の175cm程でオールバックの髪型をして紺色のスーツを着た長瀬亮二という刑事と30代前半の170cm程のセンター分けをして前髪を垂らして濃い灰色のスーツを着た村田勇一という刑事の2人と一緒に現場に戻ってきた。すると裏クラブのメンバーも現場のほうに戻ってきた。
長瀬亮二「おはようございます。私は刑事の長瀬と申します」
村田勇一「みなさんおはようございます。私は刑事の村田と申します」
長瀬亮二「えっと君達は高校生かな?」
琴宮梓颯「生徒会長のわたしが代表で答えます。わたし達は明智学園の生徒で昨日からキャンプをしていました。今朝、目を覚まして外に出たこの夢前亜里沙さんが首吊り死体を見つけました」
長瀬亮二「では夢前さん、今朝遺体を見つけた時の状況を詳しく教えてもらえないかな」
夢前亜里沙「恥ずかしながら、目覚めてトイレに行きたくなったので隠れられそうな場所を探していました。ちょうどそこにある草木の中がいいと思って入ろうとした瞬間、この遺体を発見して思わず叫んでしまいました。それからここにいるみんなが走ってきたというわけです」
長瀬亮二「なるほど、それで警察に連絡したわけだね」
牧瀬悠人「長瀬刑事、村田刑事、お久しぶりです。僕のこと覚えていますか?」
長瀬亮二「おや、牧瀬君ではないか!こんなところで会うなんて奇遇だね。君も一緒にキャンプをしていたのか?」
牧瀬悠人「はい。昨日からみんなとキャンプをしていました」
村田勇一「牧瀬君、おはようございます。君にはいつもお世話になりっぱなしだね」
長瀬亮二「とにかく現場検証を行うので君達はテントの中で待機しておいてもらえるかな。村田は念のためにこの子たちの名前と年齢を聞いておいてくれ」
村田勇一「かしこまりました」
裏クラブのメンバーはそれぞれ村田勇一に名前と年齢を言ってテントへ戻っていった。
■ 現場検証と調査結果
テント内では裏クラブのメンバー全員が待機しておくということで紅茶を飲みながらのんびりとしていた。堀坂向汰と牧瀬悠人は難しい表情をしていた。
琴宮梓颯「ねえ向汰君、さっきの首吊り自殺だけど、まさか殺人だなんて言わないわよね?」
堀坂向汰「うーん・・・自殺にしてはおかしな点があるんだよ。椅子の向きもだけど、木の隙間に擦れた跡があったこと、ロープの先端が若干焦げていたことかな。どうしても納得できないことや謎があると気になるんだよね」
琴宮梓颯「まさかそれを裏クラブの活動にしないわよね?」
牧瀬悠人「琴宮先輩、まだ殺人と決まったわけじゃありませんが、腑に落ちないことはハッキリさせたいとは思います」
白石由希「それにしても昨夜は午前0時前にみんな寝てたよね?夢前さんが起きる5時45分頃までの間に首を吊ったってことになるのかな」
夢前亜里沙「もし、夜中に車でこの薊池に来た人がいれば物音で起きてしまわないでしょうか」
楠円香「うち、夜中に一度目を覚ましたけど物音なんて聞こえなかったですよ」
如月瑠衣「わたくしも一度夜中に目を覚ましましたけどシーンとしていましたわ」
堀坂向汰「今の段階では何もわからないから警察の情報待ちになるね。牧瀬君、あの刑事さん達から調査結果を聞き出してもらっていいかな?」
牧瀬悠人「わかりました。僕が協力するといえばきっと聞き出せます」
琴宮梓颯「向汰君はやはり殺人だと思ってるの?」
堀坂向汰「うん。自殺にしては不可解な点が多すぎるからね」
それから1時間程してテントに現場検証を終えた村田勇一刑事がやってきた。
村田勇一「お待たせして申し訳ないね。おそらく自殺だろうということで捜査することになったので、君達は帰ってもらって構わないよ」
堀坂向汰は琴宮梓颯の耳元で「こいつらバカか。だから警察は嫌いなんだ」と呟いた。
牧瀬悠人「村田刑事、あれほど現場に不可解な点があるのに自殺と断定するのは早いと思います」
村田勇一「深夜に誰も物音など聞いてなかったことからして他殺の可能性は考えられないんだよ」
牧瀬悠人「ご遺体の身元は確認できているのでしょうか?」
村田勇一「ああ、向かい側のキャンプ場でテント泊していた秋山誠という25歳の会社員の男性であることがわかったよ」
牧瀬悠人「そのキャンプをしていた関係者の事情聴取は行うのでしょうか?」
村田勇一「一応、これから現場に来てもらって事情聴取は行うつもりだけど牧瀬君は他殺だと思うの?」
牧瀬悠人「まだ自殺か他殺かわかりませんが、自殺にしては不可解な点があります。その事情聴取に立ち会わせてもらってもいいでしょうか?」
村田勇一「長瀬刑事に確認をとらないといけないけど、牧瀬君だったら構わないと思う」
堀坂向汰「牧瀬君、事情聴取に立ち会うんだったら夢前さんも同行させてほしい」
牧瀬悠人「わかりました。では僕とこちらにいる夢前亜里沙さんの2人で事情聴取に立ち会わせてほしいと長瀬刑事に伝えてください」
村田勇一「わかった。長瀬刑事に確認をとってくるので少し待っていてもらえるかな」
村田勇一は一旦テントから離れて現場のほうへ走っていった。夢前亜里沙は堀坂向汰のほうを見て「またわたしが事情聴取に立ち会うのですか?」と聞くと堀坂向汰は「夢前さんの洞察力に任せるよ。もし他殺だったら、犯人は一緒にキャンプをしていた関係者の中にいるはずだからね」と答えた。
堀坂向汰「如月さん、ボイスレコーダーは持ってきてる?」
如月瑠衣「はい、一応小道具の一つとして持ってきておりますわ」
堀坂向汰「じゃあそれを夢前さんに渡してほしい。夢前さん、事情聴取の様子をしっかり録音しておいてね。あと前と同じく質問があればしておいてほしい」
夢前亜里沙「わかりました」
他の裏クラブのメンバーは何もすることがないのでテント内でトランプをして時間を潰すことになった。それから10分程すると村田勇一がやってきて事情聴取に立ち会ってもいいと言ってきた。牧瀬悠人と夢前亜里沙は村田勇一に着いていくと現場近くに設置されたパイプテントへと入っていった。パイプテントの中は大きなテーブルと6脚の椅子が置かれていて、既に手前側に長瀬亮二が座っていた。その長瀬亮二の隣に牧瀬悠人と夢前亜里沙が座ると向かい側の3つ離れた席に村田勇一が座った。
長瀬亮二「えっと、あなたの素性と昨夜のことについてお聞かせしてもらってよろしいでしょうか?」
飯島健司「私は飯島健司と申しまして、秋山先輩と同じ会社に務める24歳です。昨夜は薊池の向かい側のキャンプ場でバーベキューをしていまして、私はお酒に酔って23時頃にはぐっすり眠ってしまいました。4人用のテントを男女別に2つ設営しまして、私は男子用のテントほうで刑事さん達に起こされるまでずっと眠っていました」
長瀬亮二「夜中に目が覚めるようなことはなかったのでしょうか?」
飯島健司「はい。ずっと眠っていましたのでトイレに行く余裕すらなかったと思います」
長瀬亮二「秋山誠さんに何か変わったことなどありませんでしたか?」
飯島健司「ずっと見ていたわけじゃないですが、秋山先輩はいつも通りでしたよ」
夢前亜里沙「長瀬刑事、一つだけご質問してもよろしいでしょうか?」
長瀬亮二「ん?構わんよ」
夢前亜里沙「飯島さん、昨日はみなさんたくさんのお酒を飲まれていたのでしょうか?」
飯島健司「はい。私は先に眠ってしまいましたが、みんな何時まで飲んでいたのかはわかりません」
夢前亜里沙「ありがとうございます」
眠っていたという飯島健司の証言からは何も得ることがないと思った長瀬刑事は次の人の事情聴取をすることにした。
長瀬亮二「あなたの素性と昨夜のことについてお聞かせしてもらってよろしいでしょうか?」
浦和信義「浦和信義、秋山の同期で同じ会社に働く25歳ですよ。昨日のことって言われても俺もかなり飲んでたから日が変わる前には寝てたよ。朝起きて刑事さん達が起こしにくるまでは爆睡状態だったな」
長瀬亮二「では、夜中に目を覚ますことはなかったわけですね?」
浦和信義「ああーもうぐっすり眠ってからな」
長瀬亮二「昨夜、秋山誠さんに何か変わったことなどありませんでしたか?」
浦和信義「別にいつも通りだったと思うよ」
夢前亜里沙「あの、一つだけご質問なのですが、秋山さんがいつも通りというのは自殺など考えている様子ではなかったということでしょうか?」
浦和信義「そうだな。特に悩んでる様子もなかったしな」
夢前亜里沙「ありがとうございます」
浦和信義の証言も眠っていたというだけで何も得るものはなかった。続いて女性である葛原奈美恵の事情聴取を行うことにした。
長瀬亮二「葛原奈美恵さん、あなたの素性と昨夜のことについてお聞かせしてもらってよろしいでしょうか?」
葛原奈美恵「私は大学時代、秋山の同期で今はアパレル関係の仕事に就いています。昨日は男子用のテントの中でたくさんビールを飲みまして、女子用のテントに戻って眠ったのですが深夜1時頃に一度トイレに行きました。でもその時は私一人で誰もいませんでした」
長瀬亮二「昨夜、秋山誠さんに何か変わったことなどありませんでしたか?」
葛原奈美恵「特に変わった様子はありませんでした。そもそも私はあまり秋山を見ていませんでしたので・・・」
夢前亜里沙「一つだけご質問なのですが、夜中にトイレに行った時間がわかったのはなぜでしょうか?」
葛原奈美恵「目が覚めた時にスマホの時計を確認したからです」
夢前亜里沙「ありがとうございます」
葛原奈美恵の証言からも何も得るものがなかったので、次に堀江聡子の事情聴取がはじまった。
長瀬亮二「堀江聡子さん、あなたの素性と昨夜ことをお聞かせしてもらってよろしいでしょうか?」
堀江聡子「アタシは大学時代、秋山先輩の一つ年下の後輩で24歳です。現在は都内でOL、事務をしています。昨夜はみんなと男子用のテントの中でお酒をたくさん飲みまして、23時過ぎには女子用のテントに戻って眠りました」
長瀬亮二「深夜に目覚めたりもしませんでしたか?」
堀江聡子「はい。朝、刑事さん達に起こされるまで一度も目を覚ましていません」
長瀬亮二「堀江さんから見て、昨夜に秋山誠さん変わった様子はありませんでしたか?」
堀江聡子「うーん、あまり秋山先輩を見ていませんでしたのでよくわかりません」
夢前亜里沙「一つだけご質問なのですが、堀江さんと秋山誠さんは単なる先輩後輩の関係だったのでしょうか?」
堀江聡子「考えてみると単なる先輩後輩の関係にすぎなかったです」
夢前亜里沙「ありがとうございます」
堀江聡子の証言もこれといったものを得ることもできなかったので、最後に笹原佳織の事情聴取がはじまった。
長瀬亮二「笹原佳織さん、あなたの素性および昨夜ことをお聞かせしてもらってよろしいでしょうか?」
笹原佳織「私は笹原佳織、大学時代は堀江聡子さんと同期で秋山先輩の一つ年下の24歳です。現在は化粧品メーカーの営業部に務めています。昨夜は男子用のテント内で少しお酒を飲んで23時過ぎに女子のみんなと女子用テントに戻って朝まで眠っていました」
長瀬亮二「途中で目覚めたりもせずに朝まで眠っていたということでしょうか?」
笹原佳織「ええ。5時30分頃までずっと眠っていましたが、一番早く起きたのは私でした」
長瀬亮二「笹原さんにとって昨夜に秋山誠さん変わった様子はありませんでしたか?」
笹原佳織「ずっと秋山先輩を見ていたわけじゃありませんが、そんな変わった様子は見られませんでした」
夢前亜里沙「一つだけご質問ですが、笹原さんはあまりお酒を飲んでいらっしゃらなかったのでしょうか?」
笹原佳織「そうですね。私、お酒はあまり飲めないので・・・」
夢前亜里沙「ありがとうございます」
これで関係者の事情聴取は終わったのだが、長瀬亮二刑事が牧瀬悠人に耳元で「事情聴取でどこか気になった点はあったかな?」と問いかけた。ところが疑わしい証言もなく、まだ司法解剖の結果も出ていない牧瀬悠人にとってわからないことだらけだったので「今の段階ではわかりません」と答えた。
■ 他殺だという判断
現場近くに設置されたパイプテントは事情聴取が行われたがそのまま特別捜査本部となった。牧瀬悠人は司法解剖の結果を聞くためにそこへ待機したが、夢前亜里沙は録音した事情聴取が入ったボイスレコーダーをすぐさま堀坂向汰や裏クラブのメンバーが待機しているテントへ持っていった。夢前亜里沙は裏クラブのテント内へ戻ると、音量を小さくしてボイスレコーダーを再生した。事情聴取されたメンバーの証言を全て聴いたところで堀坂向汰が口を開いた。
堀坂向汰「葛原奈美恵さんだけ曖昧な発言をしているのが気になるところだけど、もしこれが他殺であれば犯人ではないね」
琴宮梓颯「曖昧な発言ってどういうこと?」
堀坂向汰「トイレに行ったと言ってるけど、そんなことわざわざ言う必要がない。夢前さんの場合は、トイレに行きたくなったと発言してたけど、この人は具体的なトイレの場所は言ってない」
琴宮梓颯「でも直で言うのも恥ずかしいし、他の言い方ってないんじゃないの?」
堀坂向汰「だから他殺であればこの人は犯人じゃないんだよ。普通なら夜中に目が覚めました程度でいいのに、正直にトイレに行ったと答えてるからね」
楠円香「なるほどなるほど。堀坂先輩ってやっぱすごい人なんですね。うち、今の推理を聞いただけでも驚きましたわ!」
如月瑠衣「ところで、牧瀬君は何をしているのでしょう?」
夢前亜里沙「司法解剖の結果を待っているんだよ」
白石由希「でもさあ、今回の事件が本当に殺人だったとして、また裏クラブのメンバーで解決させたらすごいことになりそうだね」
琴宮梓颯「白石先輩は楽しんでいるようですが、警察も自殺の可能性が高いとおっしゃっていたではありませんか」
堀坂向汰「いや、でもね梓颯、やっぱり自殺にしては不可解な点が多すぎるんだよ。どのみち他殺であったとして、犯人は一人に絞れてはいるんだけどね」
琴宮梓颯「え?もう犯人がわかったの?」
堀坂向汰「他殺だった場合、あの犯行を行えるのは事情聴取を受けた中の一人しかいないってことだよ」
それから2時間程して村田勇一刑事が特別捜査本部のテントのほうへ走ってやってきた。その姿をテントの外で見ていた堀坂向汰も同じところに走っていった。そして司法解剖の結果、直接の死因は縊死による窒息死で死亡推定時刻は午前2時前後と推定されるとのことであった。ただ、体内から少量のフルニトラゼパムという強い催眠作用を持つベンゾジアゼピン系睡眠薬の成分が検出された。その結果を聞いた牧瀬悠人は「やはり自殺と他殺の両方で捜査していくべきです」と呟いた。
堀坂向汰「長瀬刑事さんと村田刑事さん、遺体の体内から睡眠薬の成分が検出されたことは秘密にしておくことってできますか?」
長瀬亮二「それは構わないけど、どうしてそんなことを秘密にしておくんだ?」
堀坂向汰「他殺の場合だとこのことが犯人の決め手になりそうだからです。ただし、眠気を及ぼす成分が検出されたということは伝えても構いません」
牧瀬悠人「僕も堀坂先輩の意見に賛成です。あまりこちらの情報を口外するのは捜査の妨害になる可能性があります」
長瀬亮二「わかった。村田も睡眠薬のことは内密にしておくように頼むぞ」
村田勇一「了解いたしました。ところで、自殺と他殺の両方で捜査するということは、まだ関係者には待機してもらわないといけないですね」
長瀬亮二「そうだが、今は午前10時過ぎだからリミットは7時間程になるな」
堀坂向汰「長瀬刑事、俺らは他殺の線で調査しますが7時間で解決させてみせますよ」
長瀬亮二「意気込みはありがたいんだが、危険なことはしないでおくれよ」
裏クラブのメンバーは自分達のテントへ戻って待機していた。みんなテント内に入ると堀坂向汰は確信したように「これは間違いなく他殺だね」と発言した。すると牧瀬悠人も「やはり他殺で間違いないでしょうか」と呟いた。
琴宮梓颯「どうして他殺だとわかるの?」
牧瀬悠人「被害者の体内から睡眠薬が検出されたからです。これから自殺しようと思っている人が睡眠薬なんて服用しません」
堀坂向汰「もう一つは不可解な椅子とロープだね。どのみち犯人はもうわかってるから、あとは証拠を掴むしかない」
牧瀬悠人「もう犯人がわかっているのですか?」
堀坂向汰「牧瀬君、事情聴取の発言とこの犯行が可能な人物を考えれば犯人はすぐわかるよ」
牧瀬悠人「えっと犯行が可能な人・・・あーそれだとあの人しかいません!しかし、証拠も何もありませんね」
琴宮梓颯「向汰君、これからどうするつもりなの?」
堀坂向汰「俺と牧瀬君、夢前さんはこれから釣りをする。釣り具は向かいのキャンプ場で借りれるでしょ。夢前さんは早速釣り道具を3セット借りてきてほしい」
夢前亜里沙「わかりましたが、こんな時に釣りですか?」
堀坂向汰「続いて梓颯と円香ちゃんは向かいのキャンプ場から左右に分かれて池のほとりを首吊りがあった場所まで歩いて、足跡や何か変なものが落ちてないか確認してほしい」
琴宮梓颯「わかったわ」
楠円香「わかりました」
堀坂向汰「それと如月さん、今日はノートパソコンを持ってきてる?」
如月瑠衣「一応持参しておりますが、ここだと電波が入りませんのでネットに接続できませんわ」
堀坂向汰「そのノートパソコンを持って白石先輩と車で電波の入るところまで行ってフルニトラゼパムという薬について簡単に調べて欲しい。戻ってきたら向かいのキャンプ場に行って関係者から聞き込みをしてメールアドレスをゲットしてきてほしい。ただし、全員のメルアドをゲットできなくてもいいのでお願いするよ」
如月瑠衣「えっと薬名はメモしておきますね。わかりました、それぞれ調べておきます」
白石由希「オッケーよ」
堀坂向汰「じゃあ、各自よろしく!」
牧瀬悠人を除く裏クラブのメンバー達は堀坂向汰が何を考えているのかわからなかったが、とりあえず言われた通りに行動するしかなかった。一方、警察のほうでは自殺の可能性が高いという判断をしていた。
■ それぞれの調査結果
夢前亜里沙は向かい側のキャンプ場にある管理棟から釣り道具を3セットレンタルしてきた。この薊池で釣れるのはブラックバスくらいなのだが、結構釣りを楽しんでいる人も多いという。夢前亜里沙はテントに戻ると短パン姿になった堀坂向汰と牧瀬悠人が既に待っていた。
夢前亜里沙「あの、釣り道具はレンタルしてきましたけどお二人ともどうして短パン姿なんでしょう?」
堀坂向汰「夢前さん他の女子と違って少しは背が高いしミニスカートだからそのまま釣りをしよう。池の途中まで入って釣りをするんだよ」
牧瀬悠人「えっと、夢前さんもこの軍手をつけて釣りをしてね。大物が釣れるといいな」
夢前亜里沙「意味がわからないんだけど、説明してもらえますか?」
堀坂向汰「これから俺達が釣るのはブラックバスじゃなくて、池の中に落ちている小さな物なんだよ」
堀坂向汰は夢前亜里沙に池の中から釣りあげるものの詳しい説明をすると3人は首吊り現場へ行って各自が三方向に別れて池に入って釣りを始めた。
堀坂向汰「この池は比較的浅いから15m程沖まで行っても大丈夫」
牧瀬悠人「そうですね。現場から投げ捨てるとしても15m程が限界でしょうか」
夢前亜里沙「わたし、スカートが若干濡れちゃいましたよ。本当に落ちているのでしょうか」
それから3人は15分程動き回りながら釣りをしていたのだが、その時、夢前亜里沙は何か異物を踏んでしまった。そろりそろりとその異物を軍手をつけた手で拾い上げるとオレンジ色の細長く小さいプラスチックと金属の物であった。そこで夢前亜里沙は少し大きな声で「これではないでしょうか」と言った。すると堀坂向汰が「それだよ!それをさっき渡したビニール袋に入れておいてね」と言った。牧瀬悠人は「まさか夢前さんが大物を釣るとは思ってもみなかった」と少しがっかりした表情をしながら呟いた。こうして3人は池からあがって釣りを終えた。
琴宮梓颯と楠円香は池のほとりを地面をよく観察しながら歩いていた。琴宮梓颯は向かいのキャンプ場から向かって右側、楠円香は左側を散策していたが、特に左側はキャンプをしている人が多かったためこれといったものは見つからなかった。右側はキャンプをしている人がほとんどいないのであるが、最初は草地になっており途中からひたすら細い石だらけのガレ場がつづいていた。何をしているのかもわからないが変なものが落ちていないか確認していたのだがこれといったものは見つからない。ところが少しガレ場の段差があるところで周りとは若干違った色をした土が少し石に付着していた。琴宮梓颯は辺りを見回してみたが明らかにこの周辺の土ではないと思った。これが変なものかわからないが、一応少しその土を袋に入れておくことにした。
その頃、白石由希は車を運転しながら山を下りていったが途中にある観光地で電波が入るとのことで、そこに停車して如月瑠衣はパソコンでフルニトラゼパムという薬の詳細を調べてメモ帳にコピーしておいた。それからすぐに薊池に戻って駐車すると、向かいにあるキャンプ場に行って関係者のメールアドレスを聞き出すことにした。しかし、どのようにメールアドレスを聞き出せばいいのか全くわからず如月瑠衣は困惑していた。そこで白石由希が「今日は警察から待機命令を出されていて暇なんだし、如月さんのホームページを見て欲しいとお願いすればいいんじゃない?」と提案した。しかし、ここは山の中であって電波が届かない場所なのだ。そんなことを考えながら向かいのキャンプ場へ入って行くと、管理棟の中にネットワークルーターが置かれているのが見えた。無線Wifi機能があるかないかは不明だが管理棟だけはインターネットに接続されているのだ。すぐさま如月瑠衣は管理棟の管理者を呼び出した。管理者は60歳を越えた男性老人のようでとても電子機器に詳しいとは思えなかった。
如月瑠衣「あの、そこにルーターが設置されていてノートパソコンと繋がっているようですが、無線機能はないのでしょうか?
管理者「あー、これは息子がニュースを見るために設置してくれたものなんだが、機能に関してはよくわからんのだよ」
如月瑠衣「そのルーターはまだ新しいので無線機能はついていると思います。今日は警察から待機命令も出ていますし、暇ですので無線機能を使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
管理者「うーん、勝手に触られて動かなくなってしまうのは困るんだがな」
白石由希「大丈夫です。ここにいる如月さんはこういう機器を扱う天才でもあります」
如月瑠衣「無線が使えればこれから来るお客さんも助かると思いますから無線の設定させてください」
管理者「たしかにそうだな。じゃあお嬢ちゃんを信じて設定してもらうことにするよ」
如月瑠衣は管理棟に入って5分弱でルーターの無線LAN接続の設定をした。その手さばきを見ていた管理者はかなり驚いていた。
如月瑠衣「無線の設定ができました。IDはazamiikeパスワードは121212にしておきましたので、大きな紙に書くなどしてお伝えください」
管理者「これでわしのスマホも接続できるようになるんだな。お嬢ちゃん、ありがとう」
白石由希と如月瑠衣はその後、関係者のところへ行き「ホームページを見て欲しい」という条件でメールアドレスを聞き出そうとした。ところが実際には飯島健司と堀江聡子、笹原佳織の3人のメールアドレスしか教えてもらえなかった。
裏クラブのメンバーは各自の作業を終えるとテントに戻ったのだが、これで何を得られたのか堀坂向汰と牧瀬悠人以外は全くわからなかった。
■ 裏クラブ会議と告白
裏クラブのメンバーはテント内でそれぞれの調査結果と首吊り事件に関する会議を行っていた。
堀坂向汰「そもそも自殺するのに睡眠薬なんて飲まないでしょ。やはりこれは他殺で間違いないね」
牧瀬悠人「僕も堀坂先輩の意見に賛成でこれは他殺です。しかし、警察は自殺の可能性が高いとの判断で捜査しているようです」
如月瑠衣「フルニトラゼパムという薬について調べてみたのですが、長期間服用していると効かなくなるようです。秋山誠さんが普段から服用していたのであれば効かなかったという可能性もあります」
堀坂向汰「牧瀬君、それに関する警察の見解はどうなの?」
牧瀬悠人「秋山誠さんは不眠症で眠れない時にはその薬を服用していたそうです」
堀坂向汰「なるほど。話は変わるけど夢前さん、さっき池から拾ったものは必ず手を触れずに袋から出して乾かしておいてね」
夢前亜里沙「わかりました。陽当たりのいいところに置いておきますが、誰もこれに触れないでください」
琴宮梓颯「ところで、向汰君の指示通りに池のほとりを歩いていたけど変なものなんて見つからなかったわ。ただ、この袋に入った土なんだけど、周りの土の色と違ってたから一応ちょっとだけ採取しておいたわ。池のほとりを右回りしたわたしと左回りをした楠さんの報告はこのくらいね」
堀坂向汰「ちょっとその土よく見せて!」
琴宮梓颯は土を入れた袋を差し出した。すると堀坂向汰が「これは・・・警察でも見落とすような物的証拠だよ!」と少し興奮気味に声を発した。
琴宮梓颯「どういうこと?」
堀坂向汰「牧瀬君、この薄い色の土と同じ土があるところを調べてみてもらえないかな?おそらくペグが刺しやすいところの土だと思う」
牧瀬悠人「わかりました。向かいのキャンプ場にある土で間違いないでしょう」
堀坂向汰「それと如月さんと白石先輩、関係者のメールアドレスはゲットできましたでしょうか?」
白石先輩「できたけど、全員じゃなくて男性1人と女性2人の3人だけだったの」
堀坂向汰「それで十分です。如月さん、その3人のリムチャットを見たいんだけど、もう一度白石先輩と一緒に車で移動してもらえる?」
如月瑠衣「もう管理人と交渉してネットは向かいのキャンプ場でも繋がりますので車を出す必要ありません」
堀坂向汰「さすが瑠衣ちゃん!じゃあ早速管理棟近くでリムチャットのハッキングをお願いするよ」
如月瑠衣「また瑠衣ちゃんだなんて恥ずかしいですわ」
堀坂向汰「あとは犯人の動機なんだけど、それがよくわからないんだよね」
琴宮梓颯「動機がわからないと犯人を追い詰めることはできないの?」
牧瀬悠人「できなくはないですが詰めが甘くなってしまいますし、確実性を持たせることもできませんね」
堀坂向汰「ここは情報収集能力に適した円香ちゃんに任せるしかないね」
楠円香「うちですか?具体的には何をすればええんですか?」
堀坂向汰「直接関係者達に聞き込みをしてほしい。特に秋山誠と密接に関係していた人のことをね。あと、昨夜は誰が食事の準備をしたのかも聞き込みしてもらえると助かる」
楠円香「そないに上手くできるかわかりませんが、やるだけはやってみますわ」
堀坂向汰「梓颯と白石先輩は特別捜査本部があるテントに行って長瀬刑事と村田刑事に他殺で間違いないことを説明してほしい。自殺する人間が睡眠薬なんて飲まないし、現場も不可解な点が多すぎる、間もなく真相を明らかにしますという話をしてくれればいい」
琴宮梓颯「わかったけど信じてもらえるかしら?」
白石由希「それは牧瀬君が言ったほうがいいんんじゃない?」
堀坂向汰「いや、お二人で十分です。さすがの警察もバカじゃないんで自殺にしてはおかしいと気づいていると思います。だからまだここに残って捜査しているわけですからね。それじゃあ各自よろしく」
夢前亜里沙「あの、わたしは何をすればよろしいですか?」
堀坂向汰「夢前さんはどうにも俺に伝えたいことがありそうだからこのテントで待機ね」
夢前亜里沙「は、はい・・・」
会議が終わると各自がテントか出て行ってそれぞれの役割を果しにいった。ところが堀坂向汰と夢前亜里沙の2人はテントの中に残っていた。テント内で落ち着かない夢前亜里沙は座りながら深呼吸をした。シーンと静まり返ったテント内ではじめに話しかけたは堀坂向汰で「俺ね、夢前さんのことは大好きだよ」と言った。その発言を聞いた夢前亜里沙は少し驚いて「それってどういう意味ですか?」と問いかけた。
堀坂向汰「言葉の通りだよ。もし、俺に梓颯がいなければ夢前さんとの未来があったかもね」
夢前亜里沙「そ、そんな言い方ずるいです。わたしはこれほど堀坂先輩のことが好きなのに・・・ってあっ!」
堀坂向汰「夢前さんの気持ちは前から知ってたよ。ただね、俺と夢前さんって似た者同士だから途中で合わなくなる可能性も高いんだよ」
夢前亜里沙「たしかにそうですね。でも、わたしってずっとバスケをしていて恋愛なんて興味がなかったので、堀坂先輩は初恋の人なんです」
堀坂向汰「それは嬉しいんだけど、この先の未来で俺とは逆の性格で愛おしいと思える人に出会えると思う。それに俺は卒業しても夢前さんのいい先輩でいることを約束するよ」
夢前亜里沙「本当ですか?わたし、堀坂先輩に出会ってもう孤独じゃないだって安心していました。でも、いつか離れていくことを考えると淋しい気持ちになって時々涙を流していました」
堀坂向汰「俺が卒業しても、絶対に夢前さんから離れないから安心して!」
夢前亜里沙「ありがとうございます」
堀坂向汰「夢前さん、ちょっとこっちに来て」
夢前亜里沙が目を真っ赤にして涙を流しながら堀坂向汰のほうへ近づくと2人は抱き合った。夢前亜里沙は堀坂向汰の胸元で涙を流していると「こんなことをして琴宮先輩に怒られないですか?」と問いかけた。すると堀坂向汰は「このことは既に梓颯に言ってあるから大丈夫。みんなが戻ってくるまで思い切り泣けばいいよ」と言って夢前亜里沙の頭を撫でた。夢前亜里沙が「わたし、最初にスキーに行った後からずっと堀坂先輩に憧れていました」と言うと堀坂向汰は「知ってたよ。それより心理学部目指してがんばってね」と言った。夢前亜里沙の恋ははかなく散っていったが、これからがんばって心理学の道に進んでいくと決心した瞬間でもあった。
■ 調査結果より他殺を実証
しばらくして最初にテントに戻ってきたのは牧瀬悠人だった。涙目になっている夢前亜里沙を見て何かを察した表情をした。そして牧瀬悠人は「堀坂先輩、この土は向かいのキャンプ場のテントサイトのもので間違いないと思います」と言った。それを聞いた堀坂向汰は「やっぱりね。ありがとう」と呟いた。すると牧瀬悠人は夢前亜里沙のところへ行って「夢前さんはしっかり者だから泉原さんのような純粋な人がお似合いだと思うよ」と言った。その言葉を聞いた夢前亜里沙は目を覚ましたかのように気づいて「そうだ優ちゃんがいた。堀坂先輩に頼るんじゃなくて、わたしがしっかりしないと駄目なんだ」と心の中で思った。
それから間もなくして琴宮梓颯と白石由希がテントに戻ってきた。その結果を聞いてみるとどうにも警察は自殺の線で捜査を進めていて、長瀬刑事と村田刑事も他殺の可能性は低いと判断しているという。睡眠薬の件については長期間の服用で効かなくなっていたが、いつもの癖で昨夜も服用したのだろうとの見解らしい。それを聞いた堀坂向汰と牧瀬悠人は事件解決は急がないといけないと思った。
続いて戻ってきたのは如月瑠衣であったが、実際にリムチャットをしていたのは堀江聡子だけだったようだ。そして堀江聡子と秋山誠のリムチャットを覗いてみると次のようなログが残っていた。
秋山誠『奈美恵は俺とのことを真剣に考えてくれていると思うか?』
堀江聡子『詳しいことはわからないけど考えているんじゃないですか』
秋山誠『でも、俺がプロポーズしてからなんとなく避けられてる気がするんだよ』
堀江聡子『奈美恵先輩もいきなりプロポーズされて対応に困っていると思いますよ』
秋山誠『聡子もやっぱそうなってしまう?』
堀江聡子『そういう状況になってみないとわかりません。ところで佳織のことはいいんですか?』
秋山誠『佳織とは別にそういう関係じゃなし、みんな勘違いしてるよ』
堀江聡子『でも秋山先輩は佳織と二人で旅行に行ったりしてましたよね?』
秋山誠『佳織とはかなり気が合ってたからな』
この文章を読んだ堀坂向汰は「これで犯人の動機はわかった」と呟いた。それに対して牧瀬悠人も「あとは証拠ですね」と言った。そこに楠円香が戻ってきた。
楠円香「先に報告しますが、秋山誠さんは葛原奈美恵にプロポーズしていたようです。しかし秋山誠さんが実際に仲が良かった女性は笹原佳織さんだったようですが、その二人は表向きは交際していなかったとのことです。ただ、裏でどういう関係だったのかはわかりませんでした」
堀坂向汰「食事の準備については聞き込みできなかった?」
楠円香「えっと葛原奈美恵さんと堀江聡子さんは野菜を調理して、笹原佳織さんは主に肉の調理をしていたそうです」
堀坂向汰「それだけの情報があれば十分だよ。円香ちゃんありがとう」
琴宮梓颯「向汰君と牧瀬君、また二人で納得してる。わたし達にもわかるように説明しなさいよ」
牧瀬悠人「犯人はわかっていますし犯行の動機もわかりました。後は証拠だけです」
琴宮梓颯「わたしもなんとなくわかってきたけど証拠がないわよね。向汰君、どうするつもりなの?」
堀坂向汰「証拠は犯人に提出してもらうことにするよ。あと、わからないことは犯人を追い詰めるところでハッキリするよ」
夢前亜里沙「わたしもなんとなくわかってきましたが、本当にその人が犯人なのかわかりません」
如月瑠衣「わたくしは全くわかりません」
白石由希「わたしもよくわかんないけど、犯人を追い詰めることなんてできるの?」
楠円香「証拠を提出してもらうなんてできるのでしょうか?」
牧瀬悠人「僕にも犯人を追い詰める方法はまだわかりませんが、ここは堀坂先輩を信じることにします」
堀坂向汰「みんな、大丈夫だよ。牧瀬君、これから推理ショーをするので長瀬刑事さんと村田刑事さんに向かいのキャンプ場で関係者全員を集めてほしいと伝えてほしい。あと、如月さんはボイスレコーダーの録音を忘れないでほしい」
牧瀬悠人「わかりました。もう時間がありませんので早速伝えに行ってきます」
如月瑠衣「ボイスレコーダーの準備をしておきます」
堀坂向汰は犯人を追い詰めると言っているが、この段階で本当にできるのであろうか。
■ 推理ショーと犯人逮捕
牧瀬悠人が推理ショーをするということで、裏クラブのメンバー全員と長瀬刑事、村田刑事、そして秋山誠の関係者達は向かいのキャンプ場のテント前に集まっていた。
長瀬亮二「今回は自殺の線が濃厚なのでそろそろ引き上げようと思っていたところなんだが、推理ショーってどういうことなんだ?」
村田勇一「鑑識も引き上げましたし、もう今回の事件は自殺で決定なのでは?」
牧瀬悠人「長瀬刑事、村田刑事、僕達もそれなりに今回の件については調べていましたが、あれは自殺でなく間違いなく殺人です」
長瀬亮二「ほう、そう断定できる根拠と証拠は持っているんだろうね?」
牧瀬悠人「まず、キャンプ用の椅子の背もたれが後ろ向きになっているのが不自然でした。自殺したいのであれば背もたれを前にすれば簡単に椅子を蹴とばせるからです。また枝の隙間には何かが擦れた跡が残っていましたが、あれはロープで吊り上げた時に付いたもの。それに最も不自然なのは、どうしてあの場所で首を吊ったかという点です」
村田勇一「たしかに自殺をするには不自然な場所だとは思いますが・・・」
牧瀬悠人「それを踏まえた上での僕の推理ですが、昨夜というか今日の深夜2時頃に秋山誠さんと犯人の二人があの現場近くまで一緒に行って、話がこじれてしまったのか、もはや計画だったのか、犯人はそこで秋山誠さんを眠らせて首吊りと見せかけて殺害したのです。ちなみにこの袋に入った土を見てください。この土はキャンプ場から向かって池のほとりを右側に歩いたところの石に付着していました。この薄い色の土は明らかにこのキャンプ場の土で間違いないでしょう。池のほとりの左側はキャンプをしている人がいましたから、ほぼ人のいない右側を歩いていったのでしょう。ところが石の段差があるところで土が付着してしまったと考えるとつじつまが合います」
牧瀬悠人は推理ショーをしているのだが、自分で発言しながらも決定的な証拠がないことはわかっていた。
長瀬亮二「牧瀬君の推理は理解したが、決定的な証拠が何もない。それにその土もいつ石に付着したものかわからないじゃないか」
村田勇一「その推理には一理ありますが、やはり警察としては証拠がないと動けませんね」
牧瀬悠人「刑事さん達、焦らないでください。まだ推理ショーは終わっていません。ここからは堀坂先輩が続きを話していきます」
牧瀬悠人がそう言うと長瀬刑事と村田刑事は熱い眼差しで堀坂向汰を見た。堀坂向汰はその視線を感じるとやれやれという感じで話はじめた。
堀坂向汰「牧瀬君の推理は概ね当たっているので僕がもっと深い部分で証拠のことも含めて話していきますね」
長瀬亮二「深い部分?」
堀坂向汰「まず今回の事件に関して犯人はまず秋山誠さんを脅すだけのつもりであったともいえます。ところが、犯人とって許しがたいことを言われたのでしょう。結局、秋山誠さんを上手く眠らせた後に殺害は実行されました。ところがその犯人はボロを出していますし、証拠もまだ所持しています。そしてその犯人はあなた達関係者の中にいます!」
それを聞いた秋山誠の関係者はざわめきはじめた。
浦和信義「ちょっと待てよ。俺達の中に犯人がいるって・・・昨日はみんな酒を飲んで寝ていたんぞ!」
飯島健司「そうだ。たしかに眠ってからアリバイはないけどよー俺らはやってねえぞ」
堀江聡子「女性の力で男性を木に吊り上げるのは無理よ」
笹原佳織「堀江先輩の言うとおりよ、たとえ秋山先輩に睡眠薬を飲ませたところで女性には無理よ」
葛原奈美恵「わたしは途中で目を覚ましたけど、秋山の姿は見なかったわ」
少し騒がしくなったところで長瀬刑事が「みなさん、お静かに!堀坂君、続けてくれ」と言った。そう言われた堀坂向汰は気を取り直して推理ショーを続けた。
堀坂向汰「まず、女性の力で男性を吊り下げるのは無理だという質問にお答えしますが、僕達は下から吊り上げたなんて一言も言っていませんよ。ただ、キャンプ用の椅子を使って軽く吊り上げることであれば、木の枝を利用しててこの原理を使えば女性でも簡単です。枝の隙間に残っていた何かが擦れた跡はその時のものです。そしてキャンプ用の椅子を倒せば簡単に首吊りに見せかけることができます。ところがここで犯人にも予想外していなかったことが起こります。それはロープが長すぎたのです。焦った犯人は脅すつもりで持っていた包丁でロープの先端を切ってライターで先端のほつれを固めたのです。首吊りロープの先端が少し焦げていたのはそういうことだったのでしょう。その後、犯人はそのライターを池に投げ込んで証拠隠滅をしましたが、僕らはこの袋の中に入っているオレンジ色のライターを池の中から発見しました。もちろん手袋をして拾いましたので、このライターには犯人の指紋しか残っていないはずです。さて、ここまで話してもまだ自分が犯人と名乗り出てくる人はいませんか?」
ところが堀坂向汰の推理を聞いても名乗り出てくる人はいなかった。しかし、そこも計画通りと言っていい。既に犯人はもう一つボロを出しているからだ。そこに長瀬刑事が「堀坂君の推理も参考になったけど、やはり決定的な証拠がないのと、そのライターに指紋がついていてもいつ池に投げ捨てたのかわからないからな」と言った。その長瀬刑事の言葉を聞いて関係者達はホッとした表情をしていた。
堀坂向汰「長瀬刑事もまだ気づかないようですね。では核心をついていきます。今回、誰も疑問にしなかったのは昨夜、秋山誠さんがどれだけお酒を飲んだってことです。2~3杯は飲んでいたのかもしれませんが、みんなが寝静まった頃には酔いはさめていたでしょう。ところが、たった一人を除いて昨夜はみんなかなりお酒を飲んでいました。そんな状態で殺人は行えませんが、お酒をあまり飲んでいなく深夜に秋山誠さんを呼び出した笹原佳織さんだけは可能だということです。つまり、この事件の犯人は笹原佳織さん、あなたです」
それを聞いた笹原佳織は驚愕した。
笹原佳織「ちょっと待ってよ!それって理論的な解釈でしょ?それにわたしには動機がない」
堀坂向汰「動機はおそらく、ずっと秋山誠さんと体の関係にあったのに、最近になって葛原奈美恵さんにプロポーズしたことでしょうか。二人は深い関係だったことに対する猛烈な嫉妬でしょう」
笹原佳織「たしかにわたしは秋山先輩と深い関係にあった。でも、だからといって嫉妬に狂って殺害したという証拠はないでしょ?」
堀坂向汰「さっき、あなたは『秋山先輩に睡眠薬を飲ませたところで』と発言していましたが、これはどういうことでしょうか?」
笹原佳織「だから秋山先輩は睡眠薬を飲まされて眠っているところを殺害されたって言ってたじゃない?」
堀坂向汰「僕らも警察も秋山誠さんは眠らされて殺害されたといいましたが、睡眠薬とは一言も言ってませんよ。それなのにどうして睡眠薬という単語が出てくるのでしょうか?」
笹原佳織「そ、それはあれよ。あの、言葉のあやというか・・・」
堀坂向汰「それはあなたが秋山誠さんを呼び出した時に持っていた缶ビールの中に睡眠薬を入れたからですよね。それも秋山誠さんの鞄から盗み出したもの。秋山誠さんさんが所持していたフルニトラゼパムはかなり強い睡眠薬で、アルコールと一緒に飲めば数分で眠ってしまうでしょう」
笹原佳織「そ、そんなの憶測でしょ?わたしが殺害したっていう決定的な証拠でもあるの!?」
堀坂向汰「笹原佳織さん、あなたはとてもキュートな人で男性からも人気があるでしょう。それなのに残念ですが、あなたはまだ証拠を隠し持っています。刑事さん、笹原佳織さんのカバンの中を調べてください。首吊り用に使ったロープの残りをまだ所持しているはずです」
それを聞いた長瀬刑事は「村田君、至急調べてみてくれ」と指示を出した。
笹原佳織「わ、わたしは秋山先輩と結婚するつもりだった。だから数年間全てを許した。なのに、今になってどうして!!!」
堀坂向汰「あなたと秋山誠さんは距離が近すぎたんだと思います。それは全てを許したからかもしれません」
笹原佳織「最初は殺すつもりなんてなかった。秋山先輩から納得のいく説明をしてもらえばそれでよかった。なのに『お前はもう用済み』だなんて言われたの!だから許せなかった・・・」
堀江聡子「そこまで言われたらアタシだって許せないかも・・・」
葛原奈美恵「佳織さんごめんね。今回のことは私にも原因があるから」
そこに村田刑事がやってきて「長瀬刑事、笹原佳織のカバンの中からロープが見つかりました」と言った。そして長瀬刑事は「笹原佳織、殺人の容疑で逮捕する」と言って手錠をかけた。笹原佳織は村田刑事とパトカーのほうへと行ったのだが長瀬刑事が「君達、今回はお手柄だよ。是非このことを世間に公表してもいいか?」と問われた。
堀坂向汰「僕らのことを公表するのは辞めて、明智学園の影郎が事件を解決したことにしてください」
長瀬亮二「なんだ影郎って?」
琴宮梓颯「学園のニックネームのようなものです」
こうして数日後には再び影郎のことが明智学園に広がることになった。
■ さあ帰ろう!
事件が解決した後、裏クラブのメンバー全員はテント内でまったりしていた。もう夕方になっているが、みんなかなり疲れていたのか誰も動こうとはしなかった。
牧瀬悠人「それにしても堀坂先輩、僕でも気づかなかったのですが、よく犯人がまだロープを所持していたとわかりましたよね?」
堀坂向汰「ああ、これは俺の賭けでもあったんだけど、ロープを山の中に投げ込んでも警察に気づかれるし、かといって水には沈まないから池に捨てることもできなかった。そうなるともう自分で所持して後で捨てるしかないと思ったんだよ」
琴宮梓颯「もしロープを所持してなかったらどうしてたの?」
堀坂向汰「いや必ず所持していると確信してたからね。所持していなかったら論破するつもりだったよ」
楠円香「それにしても素晴らしい推理ショーでしたよ。うち、目の前で見ていてかなりしびれましたよ」
白石由希「また裏クラブで警察でも謎の問題を解決させたよね。うわーい!いい想い出になったよ」
如月瑠衣「それにしても殺人はいけないと思いますが、笹原佳織さんはある意味お気の毒のような気がしますわ。わたくしでも、あんな言い方されたらどうなるかわかりません」
牧瀬悠人「僕はあんな言い方するような人間じゃないから安心していいよ、如月さん」
琴宮梓颯「たしかに秋山誠さんの言い方はかなり酷すぎるわね。葛原奈美恵さんも結婚しなくてよかったんじゃないかしら」
夢前亜里沙「そうですね。琴宮先輩がおっしゃったことが唯一の救いだったのかもしれません」
堀坂向汰「まあ、そういう人間と見抜けなかった笹原佳織さんにも非があるということにしとこう」
そういう話をしながら外は暗くなりそうだったので、裏クラブのメンバーは重い腰をあげて後片付けをしていった。




