イタリア語!
幹部登録が終了した翌日、教室で、私は、げっそりとしていた。
決して、隣の席の人が、みんなに囲まれていてうるさいとかじゃない。ていうか、この際、そんなことどうだっていい。
「ハァ~……」
私は、唯ひたすらに、下校のチャイムを待ち続けた。
待ちに待った下校のチャイムと同時に、教室を出る。風間くんは、ファンのごとく熱心な女子を、見事な笑顔で追い払うと、私に質問を投げかけた。
「どうした? そんな、ため息ばかり」
「いや、昨日、家で……」
家に帰ると、のんちゃんが帰ってきていて、心配されたのだ。
「また図書館?」
「うん、まぁ……」
昨日だけは意味が違ったその曖昧な返事を、いつもの意味でとったらしい。
「やっぱり、学校辛い?」
「え? ……いや……」
顔を背けた私の顔をのぞき込むように、のんちゃんはしゃがんだ。
「1人で背負い過ぎちゃダメだよ? ……私を頼っていいからね」
「……うん」
黙って話を聞いていた風間くんが、首をかしげる。
「いい人だな、という感想しか浮かばないけど」
「そのいい人に、嘘をつき続けるのが辛い」
それを聞いた風間くん、ヴェルデ基地の2階の鍵を開けながら、ため息をついた。
「でも、慣れてくれないと……」
「辛い辛いつらいつらいツライツライ」
『うわぁぁぁ! アロンツォ、来てくれ!』
“リディオ”のイタリア語を聞きながら、声を止める。
『なんですか……なんだリディオか』
『なんだとはなんだ』
3階から、リディオの声を聞いたであろうアロンツォが降りてきて、イタリア語で答えた。
『ボスがおかしくなった!』
『……別に普通だろ?』
アロンツォにため息をつかれたリディオ、私を見て、首をかしげた。
「……ほんとだ。戻ってる……のはいいんですけど、なんでそんなに睨むんですか」
睨んでないです。首を横に振る。
「……では?」
リディオだけではなく、アロンツォも首をかしげた。違うの。睨んでるんじゃなくて、真剣なんです。
「ボス、おかしい……?」
2人は、動きを止める。突っ立ってるリディオはいいものの、階段を降りてくる体勢のまま話をしていたアロンツォは、腰が大変そうだが……大丈夫だろうか。
たっぷり10秒は静止し、代表でリディオが声を出した。
「イタリア語、分かるんですか?」
「いや、だいたいだよ。今も、言っていること自体はよくわからなかったし。今のところ、発音は無理、聞き取るのも自信は無い。“読むことなら少しは……”って位で、書くのはほとんど無理かな」
リディオは、少し驚いた後、私に聞き取れるようにか、省略せずに、一語ずつゆっくりと発音する。
『本当に?』
これは分かる。一語だからね。
「“スィ”」
はい、と答える。少し発音が違うし、文法ガン無視だけど、英会話みたいなノリなら許されるかな?
『一晩で覚えたんですか?』
「え、ちょっと待って、知らない単語が」
「……一晩で覚えたんですか」
「あ、えっと、“スィ”」
正確には、完璧に覚えたわけじゃないから、ハイとは言えないかも知れない。
それでも、リディオとアロンツォは感心してくれた。
「流石、ボス」
「だろ?」
リディオの言葉に反応したのは、扉の開く音と共に聞こえた、陽太の声。
「真希は、人一倍頭の回転も速いし、物覚えもいいんだ。責任感も強いから、ボスにはぴったりだと思うよ」
そして、陽太に続いて入ってくる人影が続ける。
「……そして、それが、真希の弱点。真希が孤立する、最大の理由」
――夏紀だ。
「夏紀!」
「久しぶり、真希。……中学は、大変みたいだね。陽太に聞いたよ」
「陽太、これは……」
あっけにとられるリディオ。でも、予想はできているはずだ。陽太が、夏紀を連れてきたって事は……!
「私もやりましょう、マフィア。あんたらみたいな、真希のことを良く知らない人になんか、任せておけないよ!」
眼鏡になっている彼女は、低い位置で結んだ短い髪を揺らし、リディオに宣戦布告した。
……夏紀、キャラ変わった?
遅くなりました!
テスト明けて、やっとパソコン解禁になりました。