受難曲
やっと…
道なき道を歩き続けた。時間などわからない。そもそも、時間を知る術がないのだから仕方ない。
「あれは…」
思わず、声が漏れる。
草むらを抜け、視界が明けると前方には小屋が一戸。
どこか懐かしい、煉瓦の作造り。屋根は赤色で可愛らしい。豪華ではないものの細かいところに工夫が施されているようで設計者のこだわりが感じられる。
木のドアの横には植木鉢が三つあり青い薔薇が生えていた。
ともかく、右も左もわからないこの世界できっかけを見つけたのだ。運がいいとしかいいようがあるまい。
さっそく、この家の主に会ってみなければ!
抑えきれない探求心、もしかしたら恐怖よりも大きいその心が、私の体を動かした。
木のドアに手を掛け、ゆっくりと引いてみる。
……開かない。
「もしかして、引き戸じゃない…とか」
押してみる。開かない。
「ちょっと、なんで!」
「私の家に不審者が現れるとは、世も末だな」
「うわっ」
真後ろから声が聞こえ、驚く。
振り向くと、ニヤリとした笑みを浮かべる女性が立っている。中性的な容姿、白い髪の毛は艶々としていて片目は青色、もう片方の金色の目は太陽のような模様が浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消え、を繰り返していて神秘的だ。
極め付きはその服装、上下一体の白い服、ぴかぴかと光る小さな太陽がふわふわと周りに浮いていた。その姿はまるで天女のようで気を抜けば平伏してしまいそうだ。
「私の姿をそのように表現する人間がいたとは、なかなかに珍しいことだ」
女性は可笑しくて堪らないと言うように笑うと、絶句している私の手を引いた。
「おいで、不審者と言ったのは冗談だ。君の事情は分かっている。説明させてほしいんだ、この世界と君の存在について」
ドアがスッと開く、まさかの全自動式引き戸だった。セキュリティーは完璧なようだ。
中は狭く、ウッド調の内装で大きな本棚が目立っている。
ストライプ柄のテーブル掛けが可愛らしい大きなテーブルと椅子が四つ。
「さあ、座ってくれ」
言う通りに椅子に座ると「君は危機感が無いな」とまた笑われた。
不可思議なことが重なったせいか不思議と彼女に、心を開いてしまっているのは私の危機感が足りないからだろうか。
でも彼女をみると懐かしい感じがするのだ。前世に彼女に似た人間がいたのだろうか。
「君は紅茶は好きかい?」
「いえ…」
「ああ、良かった。そこまではということは、嫌いと断定したわけじゃないんだね」
「えっ、」
紅茶はそこまで好きではないのだが、構わずに紅茶を入れ始める彼女は「私の家には紅茶しかないんだ」と言いながら笑った。
「どうぞ」
「あっ、すみません。ありがとうございます。」
二人分の紅茶を入れ終わった彼女は、私の向かい側に腰かけた。
「じゃあ、話そうか。君が何故ここにいるのか。」
話し出した声はひどく楽しそうで金色に光る眼は、まるで太陽のように輝いていた。
まだ、続く