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悪魔王、異世界へ参ります。  作者: まおうるう
第一章

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プロローグ

 ―――何も見えない暗闇の中。


 どこからとも無く、深紅の長髪が舞い上がる。

 同時に、スーツ姿の男か女かもわからない人型が現れた。

 静寂の暗闇の中、その人型から発せられた豪快な笑い声だけが響き渡る。

 やがて照明が灯り、ステージの上にいるのだとわかった。


「フハハハハハハ!愚かな人間どもよ!私の名はベルフェゴール。悪魔たちを統べる王である」


 ひとりでに語り出したベルフェゴールと名乗る悪魔は、どこからかマイクを取り出し、壇上を闊歩し始める。


「諸君。悪魔にはどんなイメージがある?」


 諸君。とはいうが、このステージを観測している者は誰一人としていない。

 そう―――ただ一人を除いては。


「まさか!自分のことではないとでも思っているのか?残念。今まさにこれを見ている貴様のことだ。というか、それしかいないだろうが」


 ベルフェゴールは最初から気づいていたように、じっとこちらを覗き込んでくる。


「悪魔というのは、人に害を与える。なんて思われがちだが実際のところそんなことはしない。むしろ愛でるくらいだ」


 やれやれ、と言葉にはしないものの呆れたように語り始め、ステージ後方のスクリーンには大きく


 ┐(ツ)┌


 と表示されている。


「私たち、悪魔の食事は―――悪感情である。嫉妬、恥辱、悲哀、焦燥、不安………」


 話しているうちに、まるで電池でも切れたのかのように動きが止まった。


「……じゅる」


 ベルフェゴールは「おっと失礼」と軽く謝ると、慌てて胸ポケットからハンカチを取り出し、口元を拭う。


「悪魔は人間とは違って獣ではない。美味な食事を自ら生み出す家畜を、わざわざ己の手で屠殺するわけなかろう。忌まわしき聖職者ですら、私たちの食事なのだからな。フハハハハハハハハハ!」


 遠くからでもわかる不敵な笑みを浮かべ、高笑いをする。

 その笑い声は壇上に響き、やがてそれを越え―――


 …………というのが、私の輝かしき自己紹介である。


 なお、この後。

 私は異世界へ誘拐されることになる。


 ………なぜこうなった。


 そんな話である。


 ◆


 時は遡る。

 私は今日も美味なる悪感情をいただくため、一人の人間の娘に取り憑いていた。

 おっと、取り憑くと言っても悪いことはしていない。

 ただ財布を見つかりにくい場所に隠したり、目覚ましが偶然鳴らなかったり、例を上げればキリがないが、したと言えばそんな程度だ。特に害は与えていないだろう?


「やばいやばいやばい…………!」


 娘が遅刻しそうなようで、大変焦り散らかしている様子。

 朝はやはり焦燥の悪感情に限る。

 胃に優しく、軽食でありながら様々な種類の味を楽しめる。実に美味であるぞ。


 自転車を必死に漕ぎ始めて十分ほどが経過する。

 さながらドリンクバーの如く溢れ出る焦燥の悪感情を食していると、プツリとそれが途切れてしまう。


「…………」


 なにやら光る液晶板を眺めている様子。

 待て、これは―――


 ―――絶望の悪感情!!


 絶望。

 栄養価は非常に高く、美味。どんな人間だろうとこれだけはハズレがない。無論、大好物である。

 それを、こんな朝から!


 贅沢だ。

 私はもう満腹である。


「………れ!?……の………!」


 娘の声が聞こえる。

 なにやら叫んでいる。

 これは………不安の悪感情か……?だめだ。眠気が我慢できん……満腹感で………意識が……………。


 ◆


「ふあぁ…………」


 よく眠っていたようで、大きなあくびが漏れ出る。

 実際、悪魔に呼吸など必要ないのだが……。まあ染み付いた癖みたいなものだ。


 なにやら焦げたような匂いがする。

 どれ、娘の体から外の様子を眺めてみるか――――


「―――《聖なる炎(ホーリーフレア)》!」

「あああああああああ目があああああああああ!?」


 私の実体のないはずの身体が、汚らわしい神の力で焼け焦げる。

 眩しく鬱陶しい光は私の目を潰し、状況の理解を妨害する。

 慌てて娘の肉体から飛び出し、恐れ多くも我が魂の浄化を試みる力から避難する。


「出てきたわね!消えなさい!」

「おい娘!少し話をし―――」

「《聖なる炎(ホーリーフレア)》!」

「うぎゃあああああああああああああああ!目え!目がああああああ!」


 肉体から飛び出し、直接《聖なる炎(ホーリーフレア)》とやらを食らう。

 私はその場で目を抑えながら悶え、地面を転がることしかできなかった。

 やがて汚らわしい炎は鎮火する。

 ………さて、怒る気持ちはあるが、炎も消えたことなので頭を冷やして―――


「待てと言っているだろうが!」


 無理だった。

 なにせ私の肉体はこの娘の手で全身をこんがりと焼かれていたのだから、頭を冷やすどころではなかった。

 相手がこの娘でなければ即座に、惨たらしい拷問の果て後悔と絶望の悪感情を排出し続ける肉人形にしていたところだ。


「な………!効いて………ない!?」


 ………馬鹿なのかこの娘は。

 先ほど「うぎゃああああああ」とか言っていたのが聞こえていなかったのか?

 気づいていないなら好都合。


「ところで娘よ―――」

「《聖なる炎(ホーリーフレア)》!」

「うぎあああああああああああああああああ!」


 ◆


 あれから結局十回ほど焼かれた。


「はあ………はあ………私は悪魔王ベルフェゴール………何度………繰り返しても………生半可な力では傷一つつかぬ………!」

「…………!」


 やっとの思いで出た自己紹介はついに娘の耳にまで届き、娘は攻撃の手を止める。

 まずはこの身体では不便だ。どれ、土くれを固めて………これでいいだろう。


 今のこの姿は言うなら私の魂が剥き出しになっている状態。

 こんな姿でなにも知らぬ小娘と話しても悪魔王としての威厳も損なわれるというもの。

 というか、なぜこの娘は私の姿が見えているのだ……?ええい、細かいことはいい。まずは本題だ。


「娘よ、一体ここはどこだ」


 私が取り憑いていた娘は日本にいたはずだ。

 なのになんだこの部屋は。


 娘の肉体から飛び出した時からずっと気になっていた無駄に高い天井。

 白い石造りの壁には、金細工が施されている。調度品は見るからに一級品のものばかりだ。

 現代の日本ではあまり見ない内装。雰囲気だけで言えば中世ヨーロッパあたりの王城の中のようだ。


 加えて先ほどの妙な術。

 私が取り憑いていることはおろか、こんな術を使っているところなど一切みたことなかった。

 というか、日本では無宗派が一般的ではないのか?

 疑問は山ほどあるが、まずはここがどこなのか知ることが先決だろう。


「異世界よ」

「なるほど異世界………は?」


 こうして私は異世界へ誘拐された。

 ………実に迷惑な話である。


 異世界というのはつまりなんだ、娯楽小説などで流行を見せていた異世界転生だとかそういうやつのことか?

 何故よりにもよってこんな小娘が………。

 娘の身体を観察していると、一つのことに気づいてしまった。


「聞いて驚かないで、私の魔力、桁外れに高いらしいの!」


 誇らしげに怠惰の象徴のような胸を張って見せる。

 この娘の身体には私が取り憑いていた影響か、確かに僅かながら私の魔力を感じる。

 だが………ふむ。


「娘、推察するに聖職者の類か?」

「違うわ、私は勇者よ。ベル」

「ベ………」


 勇者?この娘が?

 こんな聖職者ですよ。と言わんばかりの服装をしているのに?

 それは置いておいてその服で本当にいいのか?怠惰な娘の怠惰な部分が余すことなく露出しているが……。腹が露出していないだけまだマシなのか?

 そんなことを考えていると、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「勇者様、陛下がお呼びです」

「はい、すぐ行きます」

「ふっ」


 思わず鼻で笑ってしまった私に、勇者(笑)が胸ぐらを掴み揺さぶる。

 勇者というのはもっとこう……金ぴかの鎧や兜を付け、剣と魔法を扱う剣士のようなイメージをしていたのだが。

 私の目にこの勇者(笑)は後方で回復を担当する支援職にしか見えないのだが?私の解釈がおかしいのだろうか。


「勇者様、そちらの方は……?」

「ベル。自称悪魔王」

「どうも、悪魔王だ」

「は、はあ………」


 訪ねてきたメイドに軽く自己紹介をしてやると、まるで中二病の患者でも見るかの如く軽蔑の眼差しを向けてくる。

 あまりにも不本意だが、ややこしいことは好まないのでまあいいだろう。


「それで……王様がお呼びなんでしたっけ」

「はい、ご案内いたします」


 さりげなく私もついていこうとすると、メイドにあまりにも嫌そうな顔をされたので断念する―――わけない。

 土くれの体を椅子に座らせ、娘に取り憑く。


「ひゃっ!」

「……?勇者様?どうされましたか」

「い、いや、なんでもない……です」


 顔を赤くし、娘はパタパタと顔を手で煽いでいる。

 羞恥の悪感情。やはりこの娘の悪感情は美味である。


 ◆


 部屋から出て、しばらく歩いていると、ザ・王の間。みたいな広間に着いた。

 中央にある金の装飾のついた赤い椅子には、小太りの中年男が座っていた。

 王に対する礼儀作法をこの世界に来たばかりの女子高生が知るわけもなく、ただそこに立ち尽くしていた。


「よく来た勇者よ」

「いえいえ、とんでもない」


 見た目に反してその無礼な態度になにかを言うわけでもない。

 お、この男。今三回ほど胸を見たな。

 この娘に悪感情が排出されないのを見るに、この男の思惑に気づいていないのだろう。なんともおめでたい頭だ。

 どれ、少し遊んでやるか。


『娘』

「ひっ!?」

「………どうした?勇者よ」

「な!なんでもありません………お構いなく」


 娘の脳内に直接語り掛けると、びっくりとした反応を見せてくれる。

 この娘は感情豊かで実に愉快である。


『なんか入ってきたと思ったらあんただったの!?また魔法で……』

『まあ落ち着け。その服だが……本当に勇者の服だと思って着ているのか?』

『なによ急に。当然そうに決まって―――』

『どうせ、この国では勇者も聖職者のうちの一人だとか。そんなことで言いくるめられたのだろう』

『………』


 羞恥の悪感情。

 図星ということだろう。


『そんなわけなかろう。この男は貴様の体を目で楽しむためにその服を着させている』

『え…………』


 娘の瞳がゆっくりと男の顔へ向く。

 王はにこやかに笑い、なにかを話している。

 しかしその視線だけは首元、露出した胸元、腰から太ももへ忙しなく往復している。


「………」


 気づいたようで、娘は露出している胸元や足を手で隠そうと試みるが、どう見ても隠しきれていない。

 同時に羞恥の悪感情が溢れ出てくる。

 一方、男の方も気づいたようで焦燥の悪感情を感じる。

 思わぬところで食事がとれた。私はもうすでに焼かれた分の食事はさせてもらったので満足である。

 男は誤魔化すように「ゴホン」と咳払いする。


「ゆ、勇者よ!」

「は、はい!」

「我が国を脅かす魔王を討ち、この世界に平和を取り戻してくれ!では行ってまいれ!」


 気まずい空気に耐えられなかったのか、本来あるはずの手順をパパっと済ませる。

 金貨が大量に入った袋、武器、防具が兵から渡され、追い出されるように王城を後にした。

初めましての方は初めまして。

そうでない方はいつもありがとうございます。まおうるうと申します。

気分で書き始めた作品なので、一日に数話投稿されたり、毎日投稿したり、一ヶ月に一話しかなかったりと、更新頻度は気分に大きく左右されます。

普段は書かないギャグ要素が強い作品になる予定なので、拙い部分はありますが最後までお付き合いいただけると幸いです。

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