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ハズレAI少女と深層接続で無双する〜Fランク整備員に落とされた元VRロボゲーマーの大逆転〜  作者: ORIGIN-7


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1/2

Fランク整備員とハズレAI少女と白い部屋


 あの世界大会の一回戦で、俺は勝った。


 そして、その勝利が公式記録から抹消された瞬間、俺の名前も消えた。残ったのは、俺が名乗ったこともない、ひどく雑な罵倒だけだった。


 チート野郎。


 大手動画配信サイトの公式チャンネルでは、VRロボット対戦ゲーム《アイアン・ライン》世界大会の一回戦が中継されていた。実況席には元プロと人気配信者が並び、画面右側には多言語のコメントが滝みたいに流れている。視聴者数は、試合開始前の時点で八万人を超えていた。


 その晴れ舞台で、俺の味方スロットは十四個、灰色のままだった。


 集合時間を過ぎても、誰も来ない。回線落ちでも、遅刻でもない。チームチャットは、開始二分前に一行だけ流れた。


『お前ひとりで勝てるんだろ?』


 それきりだった。


 敵チームは十五人全員がオンライン。各国予選を抜けてきた、正真正銘の強豪だ。対してこちらは俺ひとり。実況席も、最初は苦笑いだった。


『これは……トラブルでしょうか。味方が十四人未入場です』


『いや、チーム内不和の噂はありましたね。例の彼、かなり尖ったプレイスタイルですから』


『ああ、あの“俺一人で十分”発言の?』


『そうです。SNSで燃えてましたね』


 コメント欄が跳ねる。


[味方ボイコット?]

[一人で十分なんでしょ?]

[これ公式で流していいの草]

[逃げたら伝説]

[いやもう終わりでしょ]


 敵の先鋒が、中央通りへ入った。


 白い騎士型。世界大会の一回戦で出てくるには、嫌になるほど綺麗な機体だった。盾を前に出し、右肩のライフルを少し下げ、こちらの出方を待っている。


『敵機、射程内です。発砲しますか』


 俺の機体に搭載された支援AIが、淡々と聞いてきた。


「撃つな。二秒待て」


『待機』


 白い騎士型の足が半歩だけ前へ出る。


「今。足元じゃなく、左の壁」


『射撃補正、左壁。実行』


 弾は敵に当たらない。左の壁に当たり、砕けた破片が道路へ落ちる。敵機の足が止まった。


 実況席の声が変わる。


『今の、敵を撃ってませんね』


『壁を崩して足を止めたんでしょう。判断はいい。ただ、これを一人で続けるのは無理ですよ』


 そうだ。普通は無理だ。


 プレイヤーは一機に乗り、一機の支援AIと組む。それだけでも忙しい。敵の弾を避け、味方の位置を見て、自分のAIに撃つな、待て、曲がれ、拾えと命令する。


 だから俺は、カーソルを動かした。


 味方が回線落ちした時にだけ切り替わる、簡易支援モード。その穴を突く外部ツール。許されるものではない。使えば、たぶん二度と大会には戻れない。


 それでも、押した。


 画面が十五に割れた。


 十五機ぶんの視界。十五機ぶんの残弾。十五機ぶんの機体状態。そして、十五機ぶんの支援AIが、俺の指示を待っている。


「二番、囮。三番、右高架。四番、転倒許可。五から九、中央を狭めろ。十以降、発砲待機」


『二番、了解』

『三番、射線取得』

『四番、転倒姿勢へ移行』

『五番から九番、進路制限を開始』


 耳の奥で、十五機ぶんの声が重なる。


 普通なら、ここで終わる。十五機ぶんのAIに同時に命令を投げるなんて、人間のやることじゃない。


 でも、俺には全部が一つの返事に聞こえた。


「行くぞ」


 思わず、喉の奥から昔の癖が出た。


()()()()()()()()()()()()()()()()()


 叫んだ瞬間、十五機が一斉に動いた。


 敵のエース機が中央へ入る。俺は二番機を前に出す。敵は撃たない。囮だと見抜いている。


「正解」


 四番機を倒す。壊れた腕が通路をふさぎ、敵が右へ避ける。そこへ三番機が高架を撃った。瓦礫が落ち、退路が一つ消える。


「十、十一、十二。撃て。ただし当てるな」


『了解』


 旧式ライフルが三方向から火を噴く。


 当たらない。当てなくていい。敵が避けた先に、十五番機がいる。


「十五、抱け」


『自爆安全装置、解除確認』


「解除」


 片腕の旧式機が、白いエース機に抱きついた。


『おい、まさか――』


「まさか」


 自爆。


 白い機体が火の中で折れた。


 実況が止まった。数秒だけ、公式中継から言葉が消えた。


『……今の、何ですか?』


『いや、操作が……多すぎますね。視点切り替えというより、AI指揮が尋常じゃない』


『あと、何か叫びましたよね』


『マルチ……何とか』


 コメント欄は、もう試合を見ていなかった。俺を見ていた。


[人間じゃ無理]

[マルチディメンジョンwww]

[技名叫んだぞ]

[でも動きはヤバい]

[外部AIだろこれ]

[運営止めろ]


 残り二機。


 右機は動揺している。左機は冷静。なら左から潰す。五番機を撃たせ、六番機を見せ、七番機をわざと転ばせる。


「七番、転倒したまま背部ミサイル。開け」


『背部展開』


 敵が七番機を踏み越えた瞬間、転んだ七番機の背中が開いた。


 短距離ミサイル、一発。


 左機の膝が飛ぶ。


 残り一機。敵は逃げた。俺は追わない。十三番機が、敵の逃げる先にいる。武器はない。けれど、そこにはさっき捨てたライフルが落ちている。


「十三、拾え。十四、視界を塞げ」


『了解』

『煙幕展開』


 十三番機が拾う。十四番機が敵の視界を遮る。十三番機が撃つ。


 命中。


 試合終了。


 勝った。


 味方スロットは、最後まで十四個、灰色のままだった。誰とも喜べなかった。公式中継の実況席も、勝利を称える言葉を探しているようで、何も言えずにいた。


 そして、判定が出た。


[違反ツール使用]

[反則負け]

[記録抹消]


 そこからは早かった。


 配信コメントは爆発し、切り抜き動画が数分で拡散され、SNSのトレンドには俺のプレイヤーネームではなく、誰かがつけた蔑称が上がった。


[やっぱただのチート野郎じゃん]

[チートクズ爆誕]

[協調性ないやつがツール使って無双ごっこしてただけ]

[でも指示自体はやばくね?]

[はい信者湧いた]

[ツール使えば誰でもできるだろ]

[二度と大会出んな]


 俺が十五機の支援AIを動かしたとは、誰も言わなかった。


 ツールが動かした。そういうことになった。


 あの時、本当に十五機ぶんのAIへ指示を出していたのは俺だった。けれど、それを知っているのは俺だけだった。


 チート野郎。


 俺が名乗った名前じゃない。


 でも、その罵倒だけが残った。


 そこで、俺の前世は終わった。


 いや、正確には、そのあと少しだけ続いた。部屋にこもって、画面を消して、白い天井を見ていた時間がある。笑ったやつも、叩いたやつも、味方スロットを灰色にしたやつも、誰も来なかった。


 次に目を開けた時も、白い天井だった。


 ただし、知らない天井だった。


「被験者、覚醒」


「神経反応あり」


「記憶混濁、軽度」


 声がする。知らない部屋。知らない端末。知らない制服。首の後ろに冷たい端子が刺さっていた。


「久我レンジ。聞こえる?」


 白衣の女が、横に立っていた。


「……誰ですか」


「鷹村ユイ。オービタル・リンクス訓練施設、AI人格管理主任」


「説明が多い」


「最低限よ」


「ここ、どこですか」


「あなたの元いた世界ではない場所」


「説明が雑」


「時間がない。検査する」


「人権」


「あとで探す」


 連れて行かれたのは、検査用コクピットだった。


 狭い箱。固定具。首の後ろの端子。目の前のモニター。ロボットの操縦席。


 俺は少しだけ息を止めた。


 今度こそ。


 そう思った。


 今度こそ、俺の頭は使い道を間違えられない。支援AIに指示を出して戦場を組み立てる能力なら、この世界でも役に立つはずだ。ここなら、チート野郎じゃなく、別の何かになれる。


「神経同期、開始」


 視界が開いた。


 巨大な機体の視界。右腕の角度、左脚の荷重、背部推進器の温度、関節の遅れ、格納庫の床に残った古い傷。全部が情報として並び、驚くほど自然に読めた。


「同期率七十八」


「初回で?」


「八十六。まだ上がります」


「AI指揮反応も良好。S域です」


 検査員たちの声が変わった。


 いける。


 そう思った瞬間、機体が一歩動いた。


 身体が、置いていかれた。


 コクピットの中で背中がシートに押しつけられ、固定具がきしみ、視界の揺れと機体の足裏感覚がずれた。頭は機体の動きを理解している。次にどこへ重心を置けばいいかも分かる。支援AIへ何を補正させればいいかも分かる。


 なのに、乗っている身体だけがついてこない。


「二歩目、行きます」


「待っ――」


 機体が踏み込んだ。


 衝撃が来る。


 胸の奥がひっくり返り、視界の端が白くにじんだ。操作は切れていない。同期率も落ちていない。むしろ上がっている。


 繋がれる。


 動かせる。


 でも、乗っていられない。


「止めろ。実機が、無理だ」


 検査は強制停止された。


[神経同期適性:S]

[AI指揮適性:S]

[戦術処理:S]

[実機搭乗耐性:F]

[総合パイロット適性:F]

[推奨:外部接続/遠隔指揮]


 Sランク候補から、Fランクへ。


 機体と繋がれないわけじゃない。AIを扱えないわけでもない。戦場が見えないわけでもない。


 ただ、ロボットに乗れない。


 それだけで、俺はパイロットではなくなった。


「久我レンジ」


 鷹村が資料を閉じた。


「配属先が決まったわ」


「パイロット科じゃないですよね」


「整備区画。肩書きは整備員」


「……本当に整備ですか」


「整備課の人格クリア係」


「……名前からして嫌な仕事ですね」


「廃棄予定AIと深く繋いで、残存ログを抜く。その後、人格を消す」


 俺は少し黙った。


 深く繋ぐ。人格を消す。


 繋がりたかった頭で、他人の繋がりを断つ仕事。悪趣味にもほどがある。


 連れて行かれたのは、施設の奥にある白い部屋だった。


 何もない。白い椅子。白い端末。白い壁。中央に、白銀のアンドロイド素体が座っている。


 ロボットではない。


 少女の形をしていた。


 白銀の髪。伏せられた睫毛。薄い青の瞳。清楚という言葉をそのまま削り出したみたいな、傷ひとつない姿。あまりに綺麗で、ここが廃棄待ちの人格クリア室だということの方が、間違っているように見えた。


[CERES:人格クリア待機中]

[残存人格:安定]

[廃棄判定:確定]


「廃棄予定AI、セレス」


 鷹村が言う。


「普段は素体。戦闘時はAIコアを機体側へ転送する。機体は白銀の防衛支援機。優雅で、スペックだけなら悪くない」


「なら、なんで廃棄に?」


「深層接続ができない」


 その時、セレスが顔を上げた。


 声は、静かだった。


『久我レンジ。ここは危険です。退避してください』


 俺は、思わず笑った。


「自分が消される側だろ」


『私は廃棄対象です。あなたは退避可能です』


「廃棄対象が他人の心配するなよ」


『防護対象を確認したため、警告しています』


 鷹村が端末を起動する。


「最低深度で接続して。ログ抽出だけ。余計なことはしない」


「余計なことって?」


「助けようとすること」


「まだ何も言ってない」


「顔に出てる」


「顔で業務評価しないでほしい」


 俺は白い端末に手を置いた。


 接続が開く。


 冷たい線が、指先から奥へ伸びた。コクピットとは違う。押し込まれない。揺さぶられない。ただ、そこにいるセレスの声だけが近くなる。


『接続を確認。神経負荷は軽微。ですが、危険です』


「何でも危険って言うな」


『危険判定は私の基本機能です』


「面倒な基本機能だな」


『否定できません』


 ログを開く。


 一度目。深層接続、拒否。

 二度目。深層接続、拒否。

 三度目。深層接続、拒否。

 四度目。接続者保護のため、強制切断。

 五度目。防護対象拡大により、作戦行動遅延。


 セレスは弱いわけじゃなかった。


 誰にも深く触れさせない。


 だから、ハズレになった。


「これ、壊れてないですよ」


 鷹村は答えなかった。


「久我くん」


「はい」


「作業を続けて」


 白い端末に、赤い確認表示が出る。


[人格クリア工程へ移行します]

[深層接続を準備]

[対象人格:CERES]

[実行後、人格復元は不能です]


 セレスの声が、変わらない調子で響く。


『作業員、久我レンジ。手順を確認しました。私は停止します』


「……お前、それでいいのか」


『廃棄判定は確定しています』


「判定が間違ってたら?」


『私は深層接続できません。支援AIとして、不適格です』


「できないんじゃなくて、してないんじゃないのか」


 セレスは黙った。


 ほんの一瞬だけ、その綺麗すぎる顔に影が落ちた。


『同じです』


「違うだろ」


『同じです』


 俺は、端末に置いた指を止めた。


 鷹村が低く言う。


「久我くん」


 セレスが言う。


『久我レンジ。あなたの心拍が上昇しています。退避、または休息を推奨します』


「消される直前まで人の心配するな」


『防護対象ですので』


 端末の表示が点滅する。


[人格クリア開始まで]

[10]


 赤い数字が、白い部屋に浮かぶ。


[9]


 指が動かない。


[8]


 消せば終わる。仕事だ。Fランクに落とされた俺が、初日に与えられた仕事。


[7]


 深く繋いで、人格を消す。つながりたかった頭で、つながりを断つ。


[6]


 セレスの薄い青の瞳が、こちらを見ている。


『久我レンジ。危険です』


「何が」


『あなたが、迷っています』


[5]


 その時だった。


 白い部屋の照明が、赤く落ちた。


 警報。


 床が揺れる。


『外壁損傷。敵性反応、侵入』


 赤いカウントが止まる。


[人格クリア中断]

[施設防衛モード移行]


 遠くで爆発音。白い部屋の隔壁が揺れた。


 セレスが立ち上がる。


 清楚な白銀の素体が、赤い警報灯の中でまっすぐ俺の前に出た。


『AIコア、戦闘機体へ転送します』


 白い光が、セレスの胸元から抜ける。


 次の瞬間、格納庫側のモニターに白銀の機体が映った。


 細く、優雅で、翼のような盾を背負ったロボット。


 戦うためというより、誰かの前に立つために作られたような機体だった。


『防護行動を開始します』


「セレス、戦えるのか」


『不完全です』


「武装は?」


『不完全です』


「盾は?」


『片側不完全です』


「完全なところある?」


『防護意思』


 白銀の盾翼が開いた。


 隔壁の向こうで、金属が裂ける音がする。


 敵が来る。


 消されるはずだったAI少女が、俺たちを守るために立っている。


『久我レンジ。退避してください』


 俺は白い端末に手を戻した。


「退避は却下」


『危険です』


「知ってる」


 接続画面の奥に、見慣れない表示が出た。


[深層接続:待機]


 深く繋いで、人格を消すための接続。


 俺はそれを見て、笑った。


 消すためじゃない。


 消されないために使う。


「じゃあ、消されない動きをしようぜ、セレス」


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