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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部終章:『月に筆を』
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第六十九月:秘都の勇者と野良魔王②

───




「──まるで鼓草の開花だ」

「つづみぐさ? ……ああ、たんぽぽの事か。確かに」


 ザドが言うように、空を突き破る逆さまの塔達の蠢きは、花の開花を思わせる。いかにも、これより何かを始めますよと主張しているみたいだった。

 その直後、空の向こう──外部から噴出していた水が止まると同時に、一筋の雷が落とされた。

 直下の水面を叩いた閃光は、瞬時にどす黒く変色し、寂しかった光景を裂く形で留まった。


「人様の宮地に位置ポインター打つとか、節操が無いね」

「若、冗談を飛ばしおる場面ではないが」


 図々しくも空と水面を繋いだ黒い異物は、続けざまに中央部を太らせて別の形態への変化を見せる。こちらが焦れるよりも早く成ったソレは、金属が引き裂かれるかような鈍い音を轟かせると──徐に開いた。


「……翼?」


 一対、また一対と広がったのは、翼のようにも捉えられる物体。おおよそ飛べるとも思えない黒石のオブジェと言える。そのミテクレに、なんの意図があるのかは知らんが、目を見張るのはその大きさか。

 白い空と水没した街を異様な形をもって繋げたモニュメント。正規の物なら、さぞ観光名所になってくれただろうな。


「──アレは──『暗黒晶』か」

「お。物知りザド君が呟いた」


 という僕様も、もちろん暗黒晶がなんなのかくらい知っている。

 暗都パルジお抱えのNPC雑兵だ。しかしアレは宮地襲撃の後、あの場で没したアカウント達の墓標となっているはず……。


「どうして秘都に……? ──ペルテルか?」

「ペル? まさか所有者を訪ねて来おったと」


 訝しみながら言われ、ふと眼下の赤い人形を見る。あの流神もまた、滝都のアクルア・テルにとって似たようなものであると思うと、


「有り得なくはないよねぇ。彼女がそう設定してあったんなら、或いは……」


 誰かがアプローチして来たか。

 目的がなんであれ、第一に入場の仕方が気に入らない。ペルテルの愛人形だとしたら申し訳ないが、目障りだ。壊しとくか。

 やる気をひり出した僕様は、秘都の勇者らしく力強い音を歩に乗せて側近君を促す。


「皆は先に帰ったけど、我らは残業だ。気張ろうぜ」

「……全く、若が言うなら仕方ない」


 目標物は尚も造形を禍々しく変えるらしい。

 これは周囲の風景も相まって、魔王とのバトルシーンと謳っても遜色ない。

 勇者の片腕が一本足りていないパーティー構成だが、まあ、なんとかなるだろ。


「拘束は、しおらんのか?」

「ああ。……今はゲームで楽しみたい気分だからね」


 僕様はダイスを握り込んだ手で二等辺三角形を描く。展開させた開拓テーブルで生成するは、統主ご用達の『筆ノ亜(ふでのあ)』よ。

 特別に大規模開拓で用いる大筆を振るってやろう。開拓テーブルの機能を有した道具故に、描写範囲の制限が掛からん代物だ。


「──先に行く」


 僕様が筆ノ亜を装備したのを見てか、ザドが特攻を決め込む。対象に警戒行動を起こさせて、主砲役に対応手の選択肢を増やす切り込み隊長役、流石だね。

 奴が脚を着けた水面が、瞬時に硬質化して道となる。謎のゲストとやらの一戦が功を奏したか、追撃専用装備も状況にバッチリ嵌っているようだ。

 これは瞬殺だな──そう思い、僕様は己の身長と大差ない筆ノ亜のペン先に、七色の光粒群を纏わせた。


(……? 暗黒晶の姿が消え……いや、霧か?)


 早速動いたと見よう。目標の周囲に白濁とした霧が立ち込め、大きなシルエットの下半分が背景に溶ける。その手前──霧はザドをも飲み込もうとしていたが、当然奴はそれを嫌うだろう。

 案の定、高く高く飛び上がった姿に、こちらも何を生成すべきかを即座に判断する。


「──映える物を作ってやるよ」


 筆ノ亜で一閃。

 この瞬間、ここから暗黒晶とを繋ぐ橋が象られた。暗黒晶の風貌に合わせたダークゴシック様式の大橋だ。頑張って走るザドの姿が何倍にもカッコ良くなって見えるぞ。


「……お。ふぅん……」


 霧は橋の脚を隠す程度に留まったが、その中から無数の影が現れる。

 ──小数に対して物量戦を仕掛けてくるか。それとも、目標までの過程に過ぎないのか。

 こちらもザドを追いながら、橋下より生え上がる巨大物に警戒する。


(形成が早いな)


 橋を囲うは、化け物と見まごう暗い巨花。濃い霧を纏い数を成す光景は、黒華繚乱と表せられる。


「で、ただ咲いただけではないよな。次はなんだ?」


 ザドの背を追う足をやや速め、僕様を見下ろす花々を睨む。すると、それぞれが閉じていた最上部の花弁を開き始める。……そこにいたのは──。


「ゃ、べ。嘘だろ、魔獣クヴァリエル?!」


 サラセニアの黎明期にいた獰猛なモンスター。弱小開拓者だった頃に、散々辛酸を舐めさせられた存在が──冗談ではない数で現れただと?


「ザド!! 妖精さんが出てきても惑わされるなよ。喰われるぞ!」


 こちらの声が届いたか、奴も長物の武器を生成し、魔獣共の襲撃に備えていた。

 クヴァリエルは巨躯で、頭の無い四つ脚の黒獣であるが──ふと、最も警戒すべき白い模様を眇む。背中の体毛に埋もれたアレは、獣部分への司令塔と成る者。


(当然最初は寝ているが、敵が強者だと気付くと起き上がるんだったか)


 昔からソレを妖精さんと呼んでいた。

 起こせば組織立つ知能を使い出す。あまりにも強力なモンスターだけに、当時のサラセニア運営が出した討伐イベントが、類を見ない死闘になったのを思い出される。


(──なんだ? あの暗黒晶には、当時を模倣するプログラムが組まれてんのか?)


 だとしたら……あれが模倣しているモノは悪魔リ……。思っただけで、一瞬背筋が凍った。

 速めていた脚を一気に加速し、一刻も早くザドとの合流を目指す。しかし、魔獣共は鼻白むこちらの事などお構いなしに橋上へと飛び移って来た。

 大きな橋が、足下がおぼつかなくなるほど揺れやがる。そうして立ちはだかった図体を見上げ……少し笑う。


「ああ……相変わらずデカいな。ザドが子供に見えるじゃん」


 どうするか。やろうと思えば圧勝は出来る。だが、個対個で同格程度にしておかねば、後が面倒だ。


(上手くすり抜けつつ、ある程度の攻撃は受けておこうかな)


 安全策だとすればコレのみだ。

 ならばと決めた勇者・若みどりたる僕様は、剥かれる爪の中を爆走し始めた──!




───

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