1、現実、日常研磨
日本の寂れた道場にて、1人の成人男性は剣道着を付けた2人の学生に挟み撃ちにされていた。
学生の方は中学生で手には竹刀が握られている。
成人男性の方は防具すら身につけず竹刀を構えている。
「めぇええん!!」
「どおおお!!」
成人男性の背後を取っていた中学生が成人男性に襲いかかる、それに続いて成人男性の表面にいた中学生の成人男性に襲いかかる、状況がわかってない人からしたら、集団イジメという発想に辿り着きかねない光景だった。
しかしこの道場では日常風景で、中学生達からしたらこれでも絶対に勝てないと既に嫌というほど分かっていたのでなんも躊躇いなく竹刀を振るう。
スカン!! スパン!!! と竹刀と竹刀がぶつかり合う音が2度響く、中学生達の振るった竹刀は成人男性の放った高速の一撃で大きく軌道を逸らされてしまう!
「はい、胴、小手!」
パパン! と再びいい音がなる、成人男性が振るった竹刀が中学生の身につけた剣道着に当たった音であり、小手に竹刀があたった中学生は竹刀を落とすのだった。
「いってー! ちょっとは手加減してくださいよ! 先生、動くの早すぎます!」
「おいおい、これでもかなり勢い弱めてるからな? それにこれ以上弱くしたら剣道の経験にならないだろう」
小手に一撃食らった中学生は不満の声を出すが、先生と呼ばれた成人男性は手加減を却下した。
「まずは森田、やはり小手を打たれた際に竹刀を落とす癖を早く直せ、あと竹刀を振る際にまた力み過ぎているぞ。
近藤はやっぱり踏み込む際に姿勢が前のめりになり過ぎている、人によっては簡単に頭に竹刀叩き込めれる場所になってるからもう少し姿勢を意識して打ち込んでくれ……。
まあ、一旦休憩入れるか、疲れただろ」
先生がそういうと森田と近藤と呼ばれた生徒はノロノロと道場の端っこに移動してから座り込んだ。
「あーもう、相変わらず先生の指導はキツいと言うか無茶苦茶だ、普通1対1でやるものじゃないのか……」
「今更な話するなよ、そもそも先生は防具すらつけてないんだから……普段米農家しているとは思えない化け物ぷりだ」
2人の生徒はそんな事を話しながらも先生の方を見る、先生はいつの間にか竹刀と木刀の二刀流をして素振りをしていた、明らかに剣道の形にじゃない動き、生徒2人はそれが先生の流派の動きだと知っていた。
先生の名前は刀坂七坂先祖代々受け継がれた剣坂流を継承した、剣坂流師範代として、週一位の頻度で、近くの中学剣道部の指導をしていた、今は希望者限定の指導をしている為、道場に居る生徒は2人だけだ。
そんな3人しかいない道場の入り口がガラリと開いて、七坂と同じくらいの外見年齢の男が入ってくる。
「あ! 大地!!」
次の瞬間、道場の真ん中に居た七坂は嬉しそうな声を発して、一歩で、木刀や竹刀が保管されている壁掛けラックの側に移動して、壁に掛けられている木刀を手にして、それを大地と呼んだ男性にぶん投げる。
木刀は縦に回転しつつ、飛翔して、大地……林堂大地にキャッチされる。
「危ないからやめろと言ってるだろ……俺じゃなかったら、どうするつもりだ」
「お前じゃなきゃ木刀投げないから安心だ! それじゃあ今日も一戦殺るぞ?」
「はいはい、2分な、2分終わったらこっちの話を聞いてくれよな」
大地は慣れた足取りで道場の真ん中に立つ、それを見た七坂は獰猛な笑みを浮かべる。
「さて、ここからは何時もの観戦しててくれ、これが終わったらまた打ち込み稽古やるぞ」
七坂は生徒の2人にそう言って、木刀を両手で持って、構える。
「それじゃあ行くぞ! 大地、剣坂流奥義七凪!」
七坂はそういうと大地に向かって斬りかかる、ズゴガゴガ! と木刀同士が破茶滅茶にぶつかり合う音が鳴る。
「初手ブッパやめろ! それ防ぐの大変なんだぞ! 一瞬で七回攻撃する奥義!」
「そう言いながら、俺の奥義を大変で防ぎ切るのはお前だけだぞ! 大地!」
2人の成人男性が剣道の防具も付けず、木刀1本で戦いを繰り広げる、繰り広げると言っても、七坂が攻撃をして、大地が防御に徹するという流れだが、それを観戦する生徒からしたら、何度見ても一歩間違えたら大怪我する肝の冷える戦いぷりだった。
「何度か見るけど、本当に参考にならない戦いだ……というかなんで結構な頻度で戦っているのに2人とも怪我しないんだ?」
「でもこれ見慣れていると、ほかの人の攻撃が遅く感じるんだよな……というか一瞬2人が持ってる木刀が分身して見えるの怖い」
「「やっぱりあの2人生まれる時代間違えてるよね……」」
「戦国時代に生まれてたら2人とも歴史の教科書に載ってそうだよな」
「宮本武蔵とか佐々木小次郎みたいにな!」
中学生の2人が観戦する中、2分後……七坂は攻撃の手を止める。
「はー今日も防ぎ切られたか、本当どうなってるんだ、その防御技術」
「ぜぇ、ぜぇ、お前にほぼ毎日のように超高速の攻撃打ち込まれたら、嫌でも身につくわ!」
大地はそう言いながら息を整える。
「それよりも話があるんだけどいいか?」
「なんだ、緊急性の話か?」
「緊急性のある話だったらお前の趣味に2分も付き合ってないよ」
「ふむ、話を聞こうか、すまないが、2人で打ち込み練習をしていてくれないか?」
「はーーい!」
生徒の中学生2人は少し喜びが混ざった返事をする、七坂はそれがまだ余裕がある声に感じ取った。
「大地との話が終わったら俺と1対1で練習しようか」
「はーい……」
明らかにガッツリキツい稽古があると理解した2人の生徒のテンションは低下した。
生徒と入れ替わるように道場の端っこに移動した七坂と大地、そして大地は七坂に用件を伝えた。
「剣道の特別指導はお昼までで、午後暇だよな? 遊びに誘いたんだが」
「え、まあ暇だな……田植えも終わったしな、というか一応剣道の指導という仕事中なんだが……珍しいなお前が仕事中に誘うなんて」
「別にいいだろ、見た感じ2人はかなり仕上がってる様に見えるし……中学の大会なら十二分の好成績いけるだろう」
「確かにそうだし、お前も太鼓判おすなら、十分仕上がっているだろうが、油断すれば簡単に負けるのが剣道だ、慢心しないようにしっかりしないとな、俺もこの子たちも」
七坂は気合を入れるが、大地から見たらああ、この後中学生2人はキツい修行が待ってるのか……ご愁傷さまとなるのだった。
そして時は流れお昼ごろ、中学生の2人は剣道の部活を終えて帰宅した後、道場には刀坂七坂と林堂大地の2人だけになる。
「よし、これで暇になったぞ、何の遊びをするんだ? 戦いなら喜んでやる……と言いたいが、まだ大地の体力は回復してないよな、スタミナ切れの大地と戦ってもなーー……つまらんからな」
「俺はお前みたいに対人戦ジャンキーじゃないからな? まあ、VRゲームの誘いだ」
大地は定期的に七坂をゲームに誘う、良ゲークソゲー問わず誘うので七坂は何やることになるのか分からず、ちょっとした運ゲー気分だ。
「お前が好きなVRゲームか、ファンタジー系?」
「今ゲームの公式サイトを送る」
大地はそう言ってスマホを操作して、七坂のスマホにデータを送信する。
七坂はスマホが受信したデータ……URLをタップするとフルダイブ型SFゲームの公式サイトがスマホ画面に表示された。
「地球防衛SFゲーム……アースエネミーディフェンス、通称AED? 略称が自動体外式除細動器? 面白いのか?」
「評価は賛否両論」
「何で俺を誘ったし、まあいいよ」
大地の言葉に七坂は怪訝な目を向ける、もしかして日頃戦いを挑んでくる腹いせにクソゲーをやらせたいのだろうか、それならば付き合わねばならんと七坂は頭の中で結論付ける。
七坂にとって大地は替えの利かない親友であり、勝負相手だ、日頃2分だけとはいえ、試合に付き合ってもらう以上、七坂からしたら大地の誘いは余っ程なことじゃない限り断れない……。
「ゲーム代は俺が払うから安心してくれ」
「別にゲームソフト1本くらいなら問題ないぞ?」
「ここは遊びに誘うサイドの礼儀として払わせろ、かわりにソフト送るのと一緒にゲーム内で合流までの手引き送るからそれ読んでくれ」
「ならお言葉に甘えてゲームは奢って貰おうかな、じゃあ次はゲーム内で会おうか」
こうして七坂は道場の戸締まりをして、帰宅するのであった。




