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また明日! ~転校生の彼女は私と同じ炎使いでした~  作者: ヅレツレ愚者
第一章:灯された恋の火

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14/33

12月18日、泥濘に沈んだ火

 朝、目が覚めた時、学校に行きたくないと思った。

 久々だった。学校に行きたくないなんて思ったの。昨日のことが頭から離れない。早紀の震える声。彩羽ちゃんの硬い笑顔。詩織さんの沈黙。

 全部、私のせいだ。

 お母さんが部屋に来た時、私は布団にくるまっていた。


「灯花、起きなさい。学校――」

「……ごめん、今日ちょっと体調悪い」


 嘘だった。体は元気だ。でも元気なのは体だけ。


「熱ある?」


 お母さんが心配そうに聞いてきた。


「ちょっと測ってみる」


 お母さんが部屋を出てから体温計を手に取る。

 少しだけ、火を出した。ほんの微かな熱。体温計の先端だけを温める程度の。ピピピ、と音が鳴る。

 37.8度。


「あら、熱あるじゃない。今日は休みなさい」

「……うん」


 そのことを告げるとお母さんは心配そうな顔をしながら、仕事の準備をしていた。私のためだけに休むわけにはいかない。


「お昼はレンジで温めれば食べられるもの置いておくから。何かあったら電話してね」

「うん。ありがとう」


 お母さんが出ていった後、私は天井を見つめた。

 体温計の捏造なんて、簡単だった。脇を強く締める必要もない。布団に擦りつける必要もない。火を出せば、それで終わり。

 ……なんか、どうでもいいよなぁ。

 私も、この火も。

 暖かいだけの火。人を傷つけることもできるし、体温計を誤魔化すこともできる。

 で、それでなに? 

 環さんは言ってくれた。「暖かいのは才能」だって。「自分を許していい」って。あの時は、救われた気がした。

 でも結局、私は何も変わってなかったんじゃないか。

 また人を傷つけた。今度は火じゃなくて、言葉で。

 早紀を。彩羽ちゃんを。詩織さんを。

 小学生の頃と同じだ。私がいると、誰かが傷つく。環さんに話したことを、みんなに話さなかった。それが悪かった。

 いや、違う。環さんに話したこと自体が悪かったのかもしれない。みんなより先に、転校生に心を開いた。それがみんなを傷つけた。

 でも、私は。私は、環さんに話したことを後悔してない。

 環さんに話して、楽になれた。自分の火を、少しだけ好きになれた。それは嘘じゃない。

 でも、それでみんなを傷つけた。どうすればよかったんだろう。

 みんなにも同じタイミングで話せばよかった?

 でも、話せなかった。タイミングがなかったなんて言い訳だ。本当は、怖かったんだ。

 みんなに話したら、引かれるんじゃないかって。

 環さんには話せたのに、みんなには話せなかった。

 それが全部、悪かったんだ。

 ……もう、どうでもいいや。

 私は布団を頭まで被った。暗い。暖かい。何も考えなくていい。このまま、ずっとこうしていたい。

 学校に行きたくない。みんなに会いたくない。

 会ったら、何を言えばいいか分からない。

「ごめん」って言えばいいのかな。でも、何に対してごめんなの。

 環さんに話したこと? それは謝りたくない。

 みんなに話さなかったこと? それは……謝るべきなのかもしれない。でも、謝ったら許してもらえるのかな。

 許してもらえなかったら、どうすればいいんだろう。

 分からない。

 分からないから、今日は休んだ。

 明日も休むかもしれない。明後日も。

 ずっと。

 ……ダメだ。そんなことしたら、もっとみんなに迷惑かける。でも、会う勇気がない。私は最低だ。

 人を傷つけておいて、謝る勇気もない。

 環さんは「自分を許していい」って言ってくれた。

 でも、今回は違う。今回は本当に私が悪い。許しちゃいけない。

 私は――。

 外から、声が聞こえた。


「灯花ーーー!!」


 ……彩羽ちゃんの声だ。え、なんで。学校は。

 窓から外を見る勇気がなくて、私は布団の中で固まっていた。

 しばらくして、スマホが震えた。

 グループチャット。

 彩羽ちゃんから。


『今、灯花の家の前にいる』

『私と詩織ねぇとさきっち』


 心臓がバクバクする。なんで3人で。なんで学校を。


『話したいことがあるの』


 詩織さんからもメッセージが来た。


『会えないかしら』


 そして、早紀から。


『灯花』


 それだけ。私の名前だけ。

 何を言えばいいか分からない。

 会いたくない。怖い。

 でも。

 また、メッセージが来た。

 早紀から。


『私も、言いたいことがある』

『昨日のこと』

『だから、会いたい』


 早紀が、会いたいって言ってる。

 昨日あんなに怒っていた早紀が。


『お願い、灯花』


 彩羽ちゃんからだった。


『出てきて』


 私は震える手でスマホを握った。

 会いたくない。怖い。

 でもみんなが来てくれた。

 学校を早退してまで、私に会いに来てくれた。

 それを無視するのは、ひどいことだ。

 私はゆっくりと布団から出て、階段を降りて、玄関に向かった。


◇◇◇


 玄関のドアを開けた。

 3人が立っていた。

 息が切れている。頬が赤い。走ってきたんだ。この寒い中、駅から。


「灯花……」


 早紀が私を見て、固まった。

 彩羽ちゃんも、詩織さんも、同じような顔をしている。


「え、なに……」


 私は自分の顔に触れた。

 濡れていた。

 あれ、私、泣いてたんだ。布団の中で。気づかなかった。


「ご、ごめん、ちょっと待って――」


 顔を隠そうとした。こんなぐしゃぐしゃの顔、見せたくない。


「灯花」


 早紀が一歩踏み出した。


「……入って、いい?」


 その声が、いつもより小さかった。


「あ、うん……どうぞ」


 私は3人を家に上げた。みんな制服のまま。本当に学校から直接来たんだ。


「リビングでいい? 私の部屋、散らかってるから……」

「うん」


 3人がリビングに入る。私はとりあえず何か出そうと思ってキッチンに向かった。


「お茶、淹れるね。ちょっと待っ――」

「灯花」


 早紀の声に、私は立ち止まった。


「お茶はいい。座って」

「でも――」

「座って」


 早紀の声が、いつもより強かった。

 私は言われるままにソファに座った。3人は向かい側に並んで座る。

 沈黙が落ちた。

 何を言えばいいか分からない。謝ればいいのか。でも、何から謝ればいいのか。


「灯花」


 早紀が口を開いた。


「昨日は、ごめん」


 え。


「私が感情的になって、灯花を責めた。私が悪かった」

「え、ちが――」

「違わない」


 早紀が私の言葉を遮った。


「灯花が誰に何を話すかは、灯花の自由。なのに私は、自分が傷ついたからって、灯花にぶつけた」


 早紀の目が、真っ直ぐに私を見ている。


「灯花がどう感じるか、考えてなかった。灯花が自分を責めるって、分かってたのに」

「早紀……」

「私、ずっと灯花のそばにいたのに。灯花のこと、分かってるつもりだったのに。なのに、灯花を傷つけた」


 早紀の声が、少し震えていた。


「ごめん、灯花」

「私もごめん」


 彩羽ちゃんが続けた。


「チャットで『ショックだった』とか言って。灯花が気にするの、分かってたのに」

「彩羽ちゃん……」

「灯花が私たちのこと嫌いじゃないって、分かってた。でも、自分の気持ちを優先しちゃった」


 彩羽ちゃんが俯いた。


「ごめんね、灯花」

「私も、ごめんなさい」


 詩織さんが静かに言った。


「私は何も言わなかった。でも、それも灯花ちゃんを傷つけたわ」

「詩織さん……」

「灯花ちゃんが謝るメッセージを送った時、私は何も返さなかった。既読だけつけて」


 詩織さんの目が、少し潤んでいた。


「灯花ちゃんがどれだけ不安だったか、分かってたのに。私も、自分の気持ちでいっぱいだった」

「ごめんなさい、灯花ちゃん」


 3人が、頭を下げた。

 私は――何が起きているのか分からなかった。

 私が悪いのに。私がみんなを傷つけたのに。

 なんでみんなが謝ってるの。


「ま、待って」


 私は慌てて言った。


「謝るのは私の方だよ。私が環さんに話して、みんなには話さなくて――」

「それは灯花の自由」


 早紀がきっぱり言った。


「灯花が誰に何を話すかは、灯花が決めること。私たちがどうこう言うことじゃない」

「でも」

「私たちが傷ついたのは、私たちの問題。灯花のせいじゃない」


 早紀の言葉に、彩羽ちゃんと詩織さんも頷いた。


「灯花は悪くないよ」


 彩羽ちゃんが言った。


「私たちが勝手に傷ついて、勝手に灯花にぶつけただけ」

「灯花ちゃんは、正直に話してくれただけよ」


 詩織さんも言った。


「それを私たちが受け止められなかっただけ」

「でも……」


 私の目から、また涙が溢れてきた。


「私、みんなに話せなかった……環さんには話せたのに、みんなには……」

「それでいい」


 早紀が言った。


「今度から灯花が話したい時に、話したい人に話せばいい。私たちは、待ってる」

「なんかあっても、いつか話してくれたら嬉しいけど、無理にとは言わないよ」


 彩羽ちゃんが微笑んだ。いつもの彩羽ちゃんの笑顔だった。


「私たちは灯花ちゃんの友達だから。灯花ちゃんのペースで、いいのよ」


 詩織さんも、柔らかく微笑んだ。


「みんな……」


 涙が止まらなかった。

 嫌われたと思ってた。もうダメだと思ってた。

 なのに、みんなが来てくれた。学校を早退して、走って。

 私に謝りに。


「ごめんね……ごめんね……」


 私は泣きながら、何度も謝った。


「だから、謝らなくていいって」


 早紀が呆れたように言った。でも、その声は優しかった。


「灯花は泣き虫だなぁ」


 彩羽ちゃんが笑った。


「ハンカチ、いる?」


 詩織さんがポケットからハンカチを差し出してくれた。

 私はそれを受け取って、顔を拭いた。

 でも、涙は止まらなかった。

 嬉しくて。安心して。

 みんなが、まだ私の友達でいてくれる。

 それが、たまらなく嬉しかった。


「……ありがとう」


 やっと、それだけ言えた。


「うん」


 早紀が頷いた。


「私たちこそ、ありがとう。許してくれて」

「許すも何も……私の方が」

「はいはい、その話はもういいから」


 彩羽ちゃんが手を振った。


「お互いごめんね、でおしまい! これ以上謝り合ってたらキリないよ」

「そうね。もう終わりにしましょう」


 詩織さんも頷いた。


「……うん」


 私も頷いた。

 まだ目は腫れてるし、顔はぐしゃぐしゃだけど。

 でも、胸の中のもやもやが、晴れた気がした。


「あー、走ったから喉乾いた!」


 彩羽ちゃんが突然言った。


「灯花、さっきお茶淹れるって言ってたよね? 手伝うから淹れよ」

「あ、うん。淹れてくる」

「私も手伝うわ」


 詩織さんが立ち上がった。


「私も行く」


 早紀も立ち上がる。


「4人でお茶淹れるの? 狭くない?」

「いいの。灯花を一人にしたくないから」


 早紀がぶっきらぼうに言った。


「……ありがとう」


 私は笑った。泣きながら。

 4人でキッチンに向かった。


「いや、やっぱ狭いって!」


 うちのキッチン、レストランの厨房じゃないんだからさ!


 でも、暖かかった。

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