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リクエスト  作者: 村良 咲
4/5

ラジオ4

 いい世の中か。


 慎太郎は雅紀が帰ったあと、早速リクエストのメールを打った。本当のことを言うと、やり方を教わってすぐにでも打ちたかったが、雅紀がいる間は気が引けた。一つ雅紀に嘘をついたからだ。


『ジュリエットのために』をリクエストしたのは、『シン』ではなく、『ロミオ』だ。言わずもがなな話だが、シェークスピアのロミオとジュリエットを自分たちに当てはめてのことだった。あの頃は、悲恋の話だとは知らなかったのだ。結局、彼女と結ばれることはなかったのだが。



 ~それでは今夜最後の曲です。まず、メールを読ませていただきます。


随分と昔の話になりますが、ラジオでリクエストした曲を流していただいたことがありました。『ジュリエットのために』という曲で、当時、好きだった人に向けててのものでした。結婚する彼女の幸せを想ってリクエストしました。最近、病を患い、昔のことを思い出すことが増えました。私の幸せだった人生の、唯一の翳りに思いを馳せ、またリクエストさせていただきます。


 翳りときましたか。どんな思い出があるんでしょうか?悲しませたのかな?昔と同じリクエストをしてくるということは、この『ジュリエットのために』で、またその彼女の幸せを願っているのでしょうか。では、ロミオさんの懐かしの一曲です。どうぞ~



 昔のように毎日送ることはできなかったが、幾度となく送ったリクエスト曲がかかったとき、慎太郎は当時と同じように、胸に込み上げてくる感情に心を揺さぶられた。


 それからも、『マッキー』こと雅紀のリクエストがかからないか、夜のラジオを楽しみに待つようになった。携帯を持ってから雅紀は時々メールをくれるようになった。リクエストしてる?とか、『シン』のリクエストがなかなかかからないね。とか。かかるわけはない、『シン』でリクエストしたことなんかないのだから。


 雅紀にはすまいが、さすがに『ロミオ』が自分だったとは言えない。昔、好きだった女性の話などできるわけがない。


 そんなある夜、いつものようにラジオを聴いていると、ラジオパーソナリティに呼びかけられた。なんだろうこのデジャヴ……



 ~えーと、以前『ジュリエットのために』という曲をリクエストしてくれた『ロミオ』さん、ラジオ聴いてくれてますか?こんなリクエストメールが届きましたので、読ませてもらいます。


 ロミオさん、ずっと、あなたを待っています。あなたを想いながら、ずっとここであなたを待っています。


 だそうです。何か行き違いがあったのでしょうか。翳りの理由はここにあるのでしょうか。では『ジュリエットのために』です。どうぞ~



 それを聞いた慎太郎は、激しい胸の鼓動を聴いた。それが自分のものだと気付いたとき、遠のく意識の中で彼女を見た。あの頃のまま、綺麗さを可愛さで覆いつくしたままの彼女が、慎太郎に手を伸ばした。



 夫、慎太郎の葬儀を終え、千秋は一人祭壇の前にいた。


 あれはもう40年以上も前の話か。あなたが女のためにお墓を建てたことを私は知っている。バレてないだろうと、ずっと思っていたに違いないが、バレていたのよ。あなた気付かなかったでしょ。しかもあなたは毎年5月14日には必ず墓参りをしたし、行ける時には14日に墓参りをしていた。それだけやっていたら気付かない方がおかしいでしょ。腹立たしいったらないわ。


 そのお墓のことに気付いた頃、墓碑で名前を見て名を知り、初めて参りに来た風を装って、ご住職に墓の場所を聞き、案内していただいたのよ。お参りのあと、どなたが建てたのかも聞いたわ。建てたのはお身内でもないようですが、どなたですかと。そうしたらあのご住職、「こちらの方、いずれここに入るのです。そういう関係の方だそうです」そう言ったのよ。それを聞いた私がどんな思いをしたか、あなた知りもしないでしょ。今の時代なら、すぐにでも別れてと思ったでしょうが、あの頃、仕事もしていない専業主婦の私は、高校を出て働き始めて、すぐに結婚して家に入った私には、離婚なんてできないと思ったのよ。子供たちにも、両親が必要だと思っていたからね。


 それに……


 そうはいっても、もうあの世にいる人なんだから、私が勝ちよと言い聞かせてね……あなたは優しい人だったし、家族を大事にしてくれたし、一緒に生きていくのに大した不足もなかったしね。昔のことと、いい聞かせてきたのに……


 

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