ラジオ5
夏休みにきた雅紀と何やらやっていると思ったら、携帯を持つと言い出して、雅紀や他の孫たちとやり取りを楽しんでいるのかと思ったら……
あなたがラジオに送ったリクエストを見た時、私は悲しみを通り越して怒りを超えて打ち震えたわ。この歳になっても、こんなに長く一緒に暮らしてきて、あなたの看病、あなたの両親の介護をしてきた私はいったいなんだったの……ふざけんじゃないわよ。
だから、あなたが聴いてると思ったから、あの女の振りしてラジオリクエストを送ってやったのよ。驚けばいい。怖れればいい。死んだ女からのリクエストをね。
さて、どうしましょうか。
あなたの遺骨、どのお墓に入れたらいいかしら。
え?女のお墓に一緒に入りたいんだっけ?あはははは。あなたの遺骨はね、あなたの両親が入るお墓に入れてやるわ。私はそこに入らないけどね。
桜木雅紀は、その夜もラジオを聴いていた。ひと月ほど前に亡くなった祖父、慎太郎のリクエスト曲がかかったらいいなと思いながら。そして自分のラジオネームの『マッキー』でも、慎太郎が初めてリクエストしたのと同じ曲をリクエストしていた。亡くなった祖父との思い出話をメールに書いて。
~それでは今夜のリクエスト曲です。えーと、初めての方ですね。『シン』さんからのメール、読ませていただきます。
千秋のおかげで、幸せな人生でした。もし、生まれ変わりがあるのだとしたら、また千秋と一緒になりたいと思っています。こんな年寄りがするのは恥ずかしいけれど、『アイラブ』お願いします。
とのことです。千秋さんへ届きますように。『アイラブ』どうぞ~
えっ?これ、じいちゃん?ばあちゃんに『アイラブ』?じいちゃん、こんなリクエストしてたんだな。雅紀はニヤケ顔で『アイラブ』を聴き、『シン』というラジオネームを聞いて、もしかしたらとスマホの録音ボタンを押していた。いつかこれをばあちゃんに聴かせようと思ったのだ。そしてその日はすぐに来た。
その日は慎太郎の四十九日の法要だった。
菩提寺での法要が終わり、納骨を済ませたあと、雅紀は墓の前で『アイラブ』を流した。
「じいちゃん、ラジオにリクエスト送ってたんだ。これ、じいちゃんがリクエストした曲、ばあちゃん宛てだよ」
そう言って、雅紀は録音したものを流した。
「お父さんったら、こんなのリクエストしてたのね。ちっとも知らなかったわ。雅紀、教えてくれないんだもん。お父さん、お母さんのことこんなにも愛してたのね」
「そうだな。じいさんとばあさん、仲のいい夫婦だったもんな」
二人の言葉にその場が和み、厳かな中にも笑顔が漏れ、いい四十九日法要ができたと千秋も安堵していた。
それにしても、慎太郎はこんな曲、リクエストしてたかしら?慎太郎の携帯は毎日チェックしていたし、ラジオへのリクエストも毎日確認していた。あの人は『ロミオ』で『ジュリエットのために』しかリクエストしていなかったはずだ。私へ『アイラブ』?そんなわけないでしょ。慎太郎が『シン』?雅紀、誰かと間違えているんだわ。でもまあいいわ。わざわざ言うことでもない。どこかにたまたま『シン』という人がいて『ちあき』という妻がいる人がいるだけのことね。
それにしても、雅紀には悪いが、ラジオの話なんて、するだけで腹立たしい思いが蘇るわ。あの人は……『ロミオ』はいつまでも、何十年経っても『ジュリエット』を想っていたんだもの。腹立たしい。腹立たしい。腹立たしい。
千秋は慎太郎が眠る墓に向かい、心で思った。絶対に一緒になんかしてやらない。……と。
~えーっと、また『ジュリエット』さんからのリクエストですね。いつもありがとうございます。忘れた頃になんて言ったら申し訳ないですけど、月一くらいでリクエストが届きますね。あ、でも気付いたことがありますよ。リクエストは必ず14日なんですね。何かの記念日かな。では読ませていただきます。
『ロミオ』会いに来てくれなくて寂しいです。いつもここで待っています。
とのことです。『ロミオ』さん、聞いてますか?では、リクエストは『ジュリエットのために』です。どうぞ。




