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逃亡令嬢捕獲される

私は次の町に続く街道を身体強化と風の魔法を使いフワリフワリと黄金色の髪を靡かせ優雅に走っていた。優雅には見えるが、速度はかなり出ている。

馬車に乗った商人を追い抜かす度に驚いた顔を向けられるが、軽く会釈をしさっさと先に進んだ。

後日商人たちの間で、街道に金色の女神が現れたと噂が飛び交ったという。


町を出る前に買い替えた魔法使い向けの青色のローブは袖や裾に白色の紋様が繊細に刺繍され、たっぷりと布が使われているわりに、とても軽くて動くのに邪魔にならない。

ローブの中も動きやすい軽装備を身に着けている。

服とローブだけで銀貨四十枚程掛かってしまったがあのままドレスで旅を続けるわけにはいかないので仕方がない。

食料もアイテムボックス内では時間の経過がない為、すぐに食べることのできる調理済みの物を中心にニ週間分程買い込んだ。

もちろん、あの屋台の肉串もあるだけ全部焼いてもらった。


次の街まで馬車で三日…………このスピードなら明日の昼には次の町に到着するだろう。

街道沿いには行商人や冒険者が野営が出来るよう一定の間隔で魔獣よけの結界が張られた野営地が設けられている。


日が沈み辺りが薄暗くなりかけた頃、誰もいない野営地を見つけたので一先ずそこで休息と夕食を取ることにした。別に野営地でなくとも魔獣避けの結界くらい自分でもすぐに張れるが、目の前に空いた結界があるなら使ったほうが合理的だろう。


念の為結界が正常に稼働していることを確認してアイテムボックスから簡易のテーブルと椅子を出すと、ホカホカと湯気が出ている肉串にミルクシチューやクルミ入りパンを取り出し並べる。


優雅な手付きでテーブルの上の食事を口へと運んでいると街道ではなく、木々の生い茂る森から複数の人間の気配がジワジワと近付いてくるのを感じた。

四人…………息を殺してはいるが、殺気混じりの気配を消すことが出来ていないので。


食事を邪魔されることを若干不快に感じつつ、コトリとカトラリーを置き口元をハンカチで拭う。



「……………何か御用でしょうか?」



森の暗がりに向って、何の感情も込めずに問いかけると、驚いたようにガサリと音がした。



「へ……………へへ、お嬢ちゃん、意外と勘が鋭いようだな。

一人のようだが、迷子なら俺らが案内してやるぞ?」


「うおーすげー上玉だぜ?」


「グヘヘヘ………良いとこに案内してやるぞ」


「ゲヘヘへ」



ゾロゾロと出てきたのはいかにもな格好をした盗賊集団…………この結界は魔物は入れないが人間である盗賊は勿論入ることが出来る。

その為、野営地で待ち伏せする盗賊もいる。



「……………匂いますわね」



盗賊達から漂う匂いに眉を寄せると、左手の指先を軽く振る。



「へ?」


「なんだ?」



盗賊の足元からボコボコと水が溢れ出て、蛇が獲物を締め付ける様に水の帯が盗賊達に巻き付く。

盗賊達は慌てて水を引き離そうと藻掻くが、水を掴むことは出来ずあっという間に繭のように水に包まれた。



「なっ…………グボボ」



盗賊達は水の繭の中で濁流に飲み込まれたかのように揉みくちゃにされ、白目を剥いてぐったりした頃に水からぺっと吐き出された。

ピクリともせず折り重なるように倒れているが、死んではいない……………はず。


どちらにせよ、匂いは消えたとしても盗賊たちと一緒ではリラックスも出来ないので仕方なく別の休息場所へ移動することにした。

テーブルや椅子をアイテムボックスに片付けると、盗賊達を残したままの野営地を出て真っ暗な街道を軽やかに進む。


その後、二ヶ所の野営地で同じように襲撃を受けたが軽く返り討ちにしておいた。

後日、盗賊たちの間でこの街道には金色の魔女が現れると噂が広まり、この街道沿いには盗賊が出ることはなくなったという。



結局野宿をする間もなく、日が昇る頃には次の町の門が見えてきた。



「結局着いちゃったわね……………まぁ、とりあえずこの町のギルドに……………」



何故か朝から直立不動で顔を強張らせた門番に不思議に思いながらも軽く会釈をして門をくぐったところで、思わず目を見開いた。



「やぁ、カテリーナ嬢………遅かったね?待ちくたびれたよ」


「……………エリオス殿下」



スラリと背が高く、しっかりと鍛えられた身体にまっ黒の騎士服を纏い、緩く編まれた艶のある黒髪を肩に垂らしている。

肌は白い陶器のようで、神々を模った彫刻のように美しい顔……………優しく微笑む口元とは逆に緋色の瞳は氷のように冷たく私を見据える。



「まさかあの手紙一つで逃げ出せると思っていたの?」



柔らかい口調なのに、押し潰されるようなプレッシャーで背中に嫌な汗が流れる。



「……………私は殿下に相応しくございません。今までの身勝手な振る舞いもお詫び申し上げます」


「……………………

はぁ……………おかしいと思ったら、やっぱり全ての記憶が戻った訳ではないようだね」



エリオス殿下が額に手を当て深く息を吐く……………え?記憶って……………



「『前』は、あれだけ私を追いかけ回していたのに、まさか愛を誓い合った今世で逃げられるとは思わなかったよ?…………聖女リリアナ・ヴァルカン?」


「なっ……………どうして………………」



黒い闇色の髪…………血のような………瞳…………

ハッと目を見開く…………私は知っている…………この瞳を…………



「…………思い出したかい?」


「……………いつから…………」



フワリとエリオス殿下の腕に包み込まれる。

私はエリオス殿下に抱きしめられたことなんてないのに、しっくりと収まる。



「ん?私は生まれた時から『前』の記憶はあるよ?そのように転生したからね。

君はせっかくなら成人まで普通の令嬢になってみたい〜とか言って、勝手に記憶を封印していたんだよ。

階段から落ちた衝撃で封印に綻びができて一部記憶が戻ったみたいだけどね」


「え…………封印………?」


「そうだよ?解除の条件は私からの口付け…………おかげでどれだけ我慢したか………もう良いよね?」


「え……………?」



殿下に抱きしめられたまま口付けが落とされた。

読んでいただきありがとうございます

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