お父様、私は冒険者になります
私はさっそく殿下へと手紙を書く…………毎週殿下へと送る手紙は少なくても20枚は書き連ねるのだが、今日は1枚だけ……………今までの非礼のお詫びと婚約者候補の辞退を簡潔に記した。
私が殿下の婚約者候補を辞退しても、第二、第三の婚約者候補はいくらでもいるし、キャスタリア公爵家だってお兄様や妹がいるから問題もない。
お兄様も妹もカテリーナと違って、性格も評判もすこぶる良い。
可愛がってくれた両親は悲しむかもしれないけど、これもカテリーナの最後のワガママとして納得してもらうしかないよね。
ベルを鳴らし侍女を呼ぶと、書き上げた手紙を城へ届けるよう頼む。侍女は戸惑った様子でいつもより遥かに薄い手紙を受け取ると急いで城へと向かった。
そんなに急ぐ必要もないのだけど、以前は早馬で届けないとヒステリックに高価な壺や絵画を破壊していたので侍女たちも必死なのだろう……………はぁ……………自分のことながら本当に酷すぎる……………。
「……………あの……お嬢様…………?いつもより随分と短いお手紙なのですね………
あ、余計なことを…………すみませんっ」
別の侍女がペンや紙を片付けながら話しかけてきた。
緊張している様子だけど、私が今までのように怒ったりしないせいか、ふと気になった事を思わず口にしてしまったようだ。
私は紅茶の注がれたカップを揺らし香りを楽しむと、特に気にする風でもなくニッコリ微笑みながら答える。
「えぇ、婚約者候補を辞退することを書いただけですもの」
「なるほど……………………えっ!?辞退ですか!? 婚約者候補を!?」
「そうよ? だって私が将来の王妃なんて向いてないもの。
私より王妃に相応しい令嬢がいくらでもいるわ」
私は肩を竦めると紅茶に優雅に口を付けた。
私の答えに唖然とした表情をしていた侍女は、ハッとすると慌てて部屋を出ていった。
手紙を持った侍女を追いかけたのか、お父様に報告しに行ったのか分からないけど、どちらにしても手遅れだろう。
私はカップを置くとクローゼットを開け、中から少しでもシンプルで動きやすい服を選びさっさと着替える。
そして適当な宝石類を袋に詰めていく。
私は現金を持っていないので街でこの宝石を換金しようと思っている。
他にも着替えや読みかけの魔導書、お気に入りのヌイグルミも次々とアイテムボックスへと放り込んでいく。
前世の記憶のおかげか、魔力量は増えたし、スキルも増えたみたいで手荷物程度しか入らなかったカテリーナのアイテムボックスも馬車一台分くらいの容量になっている。
それでも前世に比べればかなり容量は少ない。魔力量が前世並に戻るかは分からないけど、今の魔力量でも一人で旅に出るには十分だ。
その時、バンッ!!と部屋の扉が勢いよく開けられ、お父様とお母様が慌てた様子で飛び込んできた。
「まぁ、お父様、お母様………ノックも無く………どうされたのですか?」
「あ?………あぁ、すまない……………
……………じゃなくて、一体どういうことだ!?カテリーナ!?
まだ混乱しているのか??お前が心配することなんてないんだぞ??」
「そうよ?婚約者候補を辞退だなんて、どうしてしまったの??
あなたは大好きな殿下との結婚を楽しみにしていたじゃない??どうか落ち着いて頂戴??」
眉尻を下げ、オロオロと両側からしがみついてくる両親の肩にそっと手を乗せる。
「お父様、お母様……………私には王妃の荷は重すぎます。
…………最後のわがままをお許しください」
「カテリーナ…………………」
「私は冒険者として生きていきますわ」
私はニッコリと微笑むと理解できず呆然とする両親の腕からスルリと抜け出し、部屋のバルコニーからふわりと飛び降りた。
ハッと青ざめた両親がバルコニーの手摺に慌てて飛びつき庭を見下ろす中、私は風の魔法を使いフワリと着地した。
「お父様、お母様、御機嫌よう。私のことはご心配なく!!生活が落ち着いたら手紙を出しますね!」
私は笑顔でヒラヒラと両親に手を振る。バルコニーでは飛び降りそうなお母様をお父様が必死に止めつつ、使用人に向かって何か叫んでいる。
お兄様や妹にもお別れをしたかったけど………………あの二人には嫌われていたし、まぁいいか。
屋敷内が騒がしくなるのを後ろに聞きながら、背の倍程の塀をひらりと乗り越えた。
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